後悔しかしてない。
「建材が切れた」
「…………は、はあ?」
「建材が、切れた」
「な、何ですか?急に?」
「この鎮守府ボロ過ぎィ!!手持ちの建材がなくなっちゃったよもう!まだ廊下とか治せてないし、壁紙もまだ、畳も足りないし、窓も足りない、ガラスもない、電気、ガス、水道も整備が済んでな・い・の!!!」
「そ、そうなんですか?」
「そうだよ(発狂)」
つまり、そういうこと(世界レベル)。これマジ?鎮守府の面積に対して、手持ちの材料が足りな過ぎるだろ?おかしい、こんなことは許されない。最低限、直せるところは直したつもりだが、まだまだ直すべきところが山程ある。
例えば、憲兵の詰所なんて最悪だ。ヤニが床や壁に染み付いて変色し、家具も匂いが移って使い物にならない。トイレや風呂なんかも、誰も掃除してないせいか、カビだらけだった。 ある程度の掃除はしたが、根本的にリフォームしなきゃならんところが多過ぎる。が、建材がない。流石の俺も、材料がなければ何もできやしない。これからの時期、寒くなるのは確定的に明らか。改装は必須…………!!
「……あっ、そうだ(天啓)、大淀ちゃん、鎮守府の裏にある山って、使って良いのかな?」
「あ、あの山ですか?一応、鎮守府の敷地内になってますけど、手付かずで、獣も出ますし、使いようがないと思いますよ?」
「…………一応聞いとくけど、獣って元は人間とか、聖職者は強い獣になるとかそう言うのじゃないよね?」
「?、えっと、獣は、イノシシとか、クマとか、そう言うのですよ?」
「だったら良いさ、良いんだよそれで…………」
いやー、アレはキツかった。何回死にかけたか分からん。正直思い出したくない。そう言えば狩人さんは今どうしてるだろうか?最近は軟体生物になったせいで、勝手が違ってキツイって言ってたっけ。
それはさておき、建材だ。兎に角、木材。木材がない。しかし、安物を買い付けるのは嫌だし、知り合いから取り寄せるのも間に合わない。折角なので、俺自らが伐採する。加えて、今夜あたりは新月。新月ならば、木を切らずにはいられない!と、言う訳で、とある知り合いのメイド長に電話してから、山へ……!!
「……で、何で付いてきたの、榛名ちゃん?」
「はい!榛名はお休みでしたから!」
「あ、そっかあ、ごめんな、姉妹と同タイミングで休み取ってあげられなくて。戦艦には出撃が多い順から休んでもらってるから」
「い、いえいえ!良いんです!お休みがあるだけで充分です!」
優しみある。
と、言う訳で、何故か榛名ちゃんが付いてきた。かわいい。
「でもなー、付いてきてもあんまり面白くないと思うよ?」
「大丈夫です!私が提督をお守りします!」
と、力こぶを作って見せる榛名ちゃん。守るも何も、ただの獣にやられる程弱くは無いんだがなぁ。ま、いいか。デートかなんかだと思えば役得かね。
「そう言えば、榛名ちゃんはこの山について何か知らない?」
「すみません、あんまり……。でも、相当危険だとか」
「へー、クマかい?赤カブト以外ならどうにかなると思うよ」
「(赤カブト?)いえ、クマじゃなくって、何でも、白い獣が出る、らしいです」
「白?狼、じゃねえよな、日本だし。うーん、何だ?まあいいか」
そう言って周囲を見回した。そして、そこで俺が目にしたのは、異様な光景だった。
「オイオイオイ、どう言うことだ?おかしいぞこれ!」
「ど、どうかしましたか?」
「整備されてる!!」
「えっと、つまり?」
「アレはりんごの木、あっちは栗、あと杉、ここら辺はヒノキだな、で、アレは梨、地面にはイチゴ、ベリー、あそこの木には葡萄の蔦が絡みついてる。奥の方からは梅の匂いもするし、柿やミカンの香りもする」
「それは凄いですね!」
「ああ、凄いな、一体誰が管理してるんだろうな…………?」
そう、あり得ないのだ。自然環境の中で、果物が群生する、と言うのはまず無い。虫害だの病気だの温度だの、そういったものから守らなければ、果物は育たない。仮に育っても、山の中なら野生の動物にやられるだろう。
しかし、だとすると、目の前の光景は何だ?粗雑ながらも、剪定や接木などの跡が見られることから、確実に、何者かがここに手を加えていることがわかる。
「まあ、考えたって分からんね、取り敢えず、必要なヒノキだけ頂いていくか」
そういって俺は、しっかりと谷向きにヒノキを切り倒す。
手刀で。
「そぉら、切れろ切れろぉ!!」
切る、切る、切る、切る、切る切る切る切る切る切る切る切る切切切切切切切………………。
「ふぅ、こんなもんかね?」
「あ、相変わらず提督は凄いですね……!」
かなり切ったが、環境保全的には大丈夫な量だろう。さて、知り合いのメイド長を呼んで、葉枯らししたあと、製材して、天然乾燥だ。まあ、普通にやったら、葉枯らしで数ヶ月、天然乾燥は、木材の種類と大きさにもよるが、少なくとも年単位はかかる。いやー、時間を操れる知り合いっていいな!実に便利だ!!
ん?
ちょっと待て、これは…………!!
「榛名、動くな!!!」
「ひゃい?!!」
「おおお!!」
「白い何者か」は、急速に接近し、榛名ちゃんの盾になった俺に激突した。幸い、真っ正面からの体当たりであった為、ブロッキングが成功、威力を殺し、間合いをとった。
「へぇ……お前が、この山の管理者か……。成る程、リンクスだ……」
「もふ」『メインシステム、戦闘モードを起動します』
「白い何者か」の姿は、まさに白い何者かとしか言いようのない、犬とも、猫とも言えない獣だった。
「きゃあ!かわいいです!!」
榛名ちゃんは大喜びだが、残念ながらこの白い獣は、お世辞にもかわいいなどとは言えない、まさしく修羅だ。まるで、億単位の人間を殺しているかの様な眼光、先程見せた超高速移動、さっきからうっすらと見える球状のバリアなど、どれをとっても油断できない。
「榛名ちゃん、退がっててくれ。今回ばかりはヤバイ」
「えっ?あんなにかわいいのに、戦うんですか?!」
「見た目に惑わされちゃ駄目だ、アレはマジでヤバイ。洒落になってない。頼むから!退がってて!!」
「は、はい……?」
そう俺が言った瞬間、獣は、瞬時に間合いを詰めた。
「ッ!!速いなッ!!」
突進。ただそれだけだが、常軌を逸したスピードから放たれるそれは、人体をバラバラにする程の威力があった。
防御して、衝撃を溜め込んだが、余波で腕が痺れる。
その後も、獣は、薄暗くなってきた空に、まるでUFOのように、緑の光で出鱈目な軌道を描きながら、ヒットアンドアウェイを繰り返した。ちょっと速過ぎんよ〜。
「もふもふ」
だが俺はこれを悉く防ぐ。スピードはとんでもないが、威力はどうにか防げる程度だ。そして何より、「単調」…………、恐らく、こいつは今まで、戦闘らしい戦闘をしてこなかったのだろう。ただただ野生的なコンバットパターンは非常に読みやすい。
そして、業を煮やしたのか、獣は、俺の腕を咥えると、そのまま上空に跳んだ、否、「飛んだ」。
勿論、振り解くことは出来た。しかし、振り解いたところで防戦一方になるだけだ。だから、ここは賭けに出る。分の悪い賭けに。
まあ、
「分の悪い賭けは嫌いじゃない!」
そして、空中に放り出された俺は、ニュートンの法則に従って落下する。
その俺の目の前で、獣は、全エネルギーを圧縮し展開、小さな破壊の太陽と化した。
「もふっ!」
「この時を待っていた…………!!」
瞬間、俺は、破壊の太陽に触れると同時に、知り合いの便利屋から習った奥の手の一つを放つ!
「FUCK OFF !!!」
破壊の太陽に、今まで溜め込んだ破壊力を、この身を閃光の鉄鎚とし、叩き込む!!
「もふっ」『BREAK DOWN』
「ロイヤルリリース」…………俺が知る、最強のカウンターだ。
×××××××××××××××
怖い。ただただ怖い。
深海棲艦との戦いとはまるで違う、別の次元の戦いだ。
艦載機がお遊戯に思える程の速さで動く白い獣、その猛攻を戦艦以上の堅牢さで防ぐ提督。
そのどちらにも、私は敵わない。そう感じた。
……軽い気持ちだった。
初めて会った時のように、提督が私を助けてくれたみたいに、とまでは言わない。ただ、大恩ある提督に少しでもお返しをしたかった。
でも、駄目だった。
ここが陸の上であることと、前提督の首輪の呪いがまだ残っていることにより、私達は、海以外では、見た目通りの力しか出せない。
でも、それでも、提督の盾くらいにはなれたのではないか?囮くらいにはなれたのではないか、などと、そう言った考えが頭に浮かんでいた。
逃げたんだ、私は。
艦娘の力が使えないから、臆病にも逃げた、いや、何もできなかった……!
人々を、提督を守らなきゃならないのに……!!
そんな私に、提督はいつも通りの笑顔と、楽しげな声音で話しかけてくる。
「おーい、大丈夫かい?榛名ちゃん?怪我はない?」
「は、榛名、は、私、は…………!」
……今は、それが、どうしようもなく惨めだ。
「…………ああ、何を考えているか、大体分かるよ。マモレナカッタ……ってとこでしょ?」
「な、何で…………?」
ボロボロになった提督は、
「顔に書いてある」
と言って笑った。
そして、提督は続けてこう問いかけてきた。
「艦娘は戦う為に生まれた、だから、戦って、人々を守らなきゃならない?そうかな?(ズアッ)」
「……当たり前です」
「うーん、この。お堅いんだよなぁ。折角の人生なんだ、肩の力抜いて楽しめよ!役割なんぞ気にするな!ポケモンじゃあるまいし」
「(ポケモン?)で、でも、役割を果たせない艦娘なんて!」
「役割なんざ、他人に貰うもんじゃないさ。自分がやりたいのを見つけなきゃ。大体な、俺なんかついこの間まで住所不定無職だったんだぞ?役割無しだぞ?でも、こうして楽しく生きてるだろ?」
「えっと、それは、そうですけど……。」
それとはまた違うような……?
「いーのいーの!考えたって無駄無駄ァ!適当が一番!ラブアンドピース!!終わりっ!閉廷!!あっ、そうだ(更なる天啓)、今度は山じゃなくって街でデート、しよう!」
「ちょ、ちょっと、あっ、てっ、提督!」
あうあう、大っきな犬にするみたいに、わしゃわしゃって撫でられてる……!
「よーしよしよし!ここを撫でるとね、喜ぶんですよ!(動物王国)」
ふわぁ…………!!何でだろう、すっごく気持ちいい…………!!な、なんだか誤魔化された様な気がしますけど、でも…………、
「……そうですね!私の役割は、私自身が探さなきゃ、ですね!」
こんなにボロボロになっても、元気一杯の提督を見ると、私もなんだか元気になれる気がした。
因みに、この後提督は、何処からともなく現れた銀髪のメイドさんに顔をグーで殴られて、「私を呼びつけておいて他の女と逢引なんていい度胸ね」と怒られてたのは、あえて言う必要のない話だろう。
大淀
最近は休みの日に読書をするようになった。
榛名
二次創作物特有のナデポを喰らう。
獣
もふもふ。
人類種の天敵みたいな眼光。
便利屋
魔人化スティンガーが使い勝手いい。
狩人さん
最近、やっと身体の変化に慣れた。
メイド長
時間操作が特技。
PADではない。
旅人
「ナデポ」インストール済み。