旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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日記形式をやりたかっただけ。

このssも伸び悩んで来ましたよ?他のss書きたい感。

でも、取り敢えずの完結までは駆け抜けたい。多分、完結しても閑話を不定期更新するような形になるかと。


114話 普通の、少し臆病な提督の日記

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

今日は素晴らしい日だ!

 

私は選ばれたのだから。

 

何をやっても人並み以下だ、などとはもう誰にも言わせない。

 

私には、提督という、最高の才能があったのだから。

 

今はまだ小さな鎮守府だが、艦娘とやらを使って戦い抜き、やがて頂点を目指してやる。

 

もう二度と、誰にも、馬鹿されてたまるもんか。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

今日は、この私が、セントトリステ鎮守府に着任する記念すべき日だ。

 

ここから、私の栄光への道が始まるのだから。

 

……緊張する。

 

昔から、大事な場面ではあがってしまう。面接であれ何であれ、成功した試しがない。

 

……いや、大丈夫、大丈夫だ。

 

私は神に愛されている。

 

何も恐れることは無いはずだ。

 

取り敢えずは、艦娘とやらを見てみよう。一般には情報が公開されていないので詳しくは知らないが、大戦の頃の戦艦を模った人型の兵器らしい。

 

ロボットだろうか?

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

正直、驚きが隠せなかった。

 

リットリオ、という戦艦の艦娘を建造したが、私と殆ど変わらないくらいの女性だったからだ。

 

しかも、その優しげな風貌は、同じ女性として嫉妬しそうになる程美しかった。

 

微笑みながら、「これから一緒に頑張りましょう」と声をかけてくれたその姿は、人と変わらない。

 

むしろ、あがってしまって話せなくなった私のことを考え、気を遣ってくれた分、人よりも良いんじゃないだろうか。

 

確かに、資材と引き換えに、どこからともなく召喚されたことには驚いたが、そう言うものらしいと納得した。

 

資材を使って召喚されたからと言って、人と変わった姿をしている訳ではない。

 

……これからは、このリットリオと協力して、共に歩んでいきたいと思う。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

……何だあれは。

 

深海棲艦、何と恐ろしい存在なのだろうか。

 

化け物が海からやってくることは、ニュースや新聞で、知識として知ってはいたが。

 

全部、自分とは関係のない、どこか遠い世界の話だとばかり思っていた。

 

だが、見せられた深海棲艦の映像は背筋が凍る程に恐ろしかった。

 

あんなものと、私達は戦わなきゃならないのだろうか。勘弁してほしい。早速、提督になったことを後悔しそうだ。

 

リットリオが怯える私を慰めてくれたが、あの恐ろしい深海棲艦と実際に戦うのは彼女なのだ。

 

……大丈夫なのだろうか。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

リットリオは、任務を忠実にこなした。

 

実際に戦う映像を見たが、あの恐ろしい深海棲艦相手に果敢に戦い、見事に討ち滅ぼして見せた。

 

その力は、まさに戦艦そのものと言えるものだった。背中の艤装という、人には到底装備することが叶わないような鉄の塊を以って戦ったのだ。

 

これなら、深海棲艦を全て滅ぼすことも可能かもしれない。

 

……だが同時に、私はまたもや恐ろしく思った。

 

あの深海棲艦に対抗する艦娘の力とは、一体……。

 

如何に、首輪型の制御装置で艦娘の殺生与奪を握っているとはいえ、それでも、私はこのリットリオを恐ろしく思った。あの鋼鉄の砲塔が、いつか私に向けられるんじゃないかと思うと、夜も眠れないのだ。

 

リットリオ自身は、初めて会った時と変わらない優しい微笑みをくれるが、それでも私は、恐ろしい。

 

だから、私はリットリオを閉じ込めることにした。何てことはない、部屋に外から鍵をかけるのだ。そして、憲兵に見回りをさせて、万が一のことを防ぐ。

 

幸い、リットリオもそれに納得してくれた。その上、私とは仲良くしたいと、国の為に戦いたいと、そう口にした。いつものように、優しげな笑みを浮かべて。

 

リットリオのあの笑顔に、嘘がないと信じたい。だけど、保険の一つもかけずにいられる程、馬鹿正直ではないのだ。

 

リットリオは、艦娘は人類の希望だ。そのはずだ。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

アクィラを建造した。空母、と言う艦種らしい。正直、艦種があることすら初めて知ったが、空母と言うのは重要とのこと。

 

事実、出撃してもらったところ、大きな戦果を挙げてみせた。物理法則を完全に無視して放たれる艦載機は、複数の深海棲艦を同時に焼き払ったのだ。

 

……アクィラもまた、リットリオと同じく好感の持てるような人物だが、その力はまともじゃない。

 

また、保険だ。私は、持ったこともない銃を持ち、自室に丈夫な鍵を付けた。こんなことでは、艦娘の力に対抗することは出来ない、それは分かっている。しかし、艦娘が私に襲いかかることはないと言うこともまた、分かっているつもりだ。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

戦況の激化に伴い、また建造だ。

 

召喚されたのはリベッチオ。駆逐艦、という艦種の、小さな、小学生くらいの女の子だ。

 

こんな小さな子も、艦娘なのだろうか。通りで、政府が情報を一般公開しない訳だ。これじゃまるで、中東の少年兵みたいだから。

 

こんな幼い子供が、人類の希望?とてもじゃないが、他人に対して胸を張ることなんて出来ない。

 

……でも、私は、代わってあげられる程強い訳でも、勇気がある訳でもない。

 

無邪気に笑うリベッチオに戦えと命じる自分が、酷く小さな人間に見えたのは、気の所為じゃないはずだ。

 

こんな小さな希望に縋る程に、人類は、私は無力なのだろうか。

 

そうだとすれば、酷く、惨めだ。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

リベッチオが大怪我をした。

 

常人ならば、とっくに死んでいるような大怪我を。

 

アクィラに肩を借りて帰ってきたリベッチオは、片腕が根元から捩じ切れ、顔の半分以上が焼け爛れていた。

 

見たことのない、ヒトの中身。

 

滴る生臭い血液が、零れ落ちる黄色い脂肪が、焼けた喉から聞こえてくる声が、その全てが、悍ましい。

 

私は、みっともなく、胃の中身を全部吐き出した。そして、声をあげて泣いた。リベッチオが、小さな子供の死体が動いているようにしか見えなかったからだ。

 

そんな中、リットリオはこう言った。

 

「早く、ドックへ!」と。

 

つまり、入渠させろと言うのだ。

 

入渠と言うのは、艦娘の怪我や艤装を直す施設のことだ。ここならば、まともに治療したならば、修理したならば、もっと時間がかかるであろう艦娘とその艤装を、数時間程で直す事が可能なのだ。

 

……しかし、このリベッチオは、生きているのが不思議な程の大怪我を負っていると思う。

 

入渠したところで、どうにもならない。なる筈がない。私はそう思いながらも、入渠の許可を出して、自室に逃げ込むかのように帰った。

 

一分一秒でも早く、この場所から、死の臭いがする場所から、離れたかった。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

あり得ない。

 

リベッチオが完治した。

 

昨日の大怪我が、まるで嘘のように消えていた。

 

そんな、そんなはずはない、あってたまるか。あんな怪我、治る訳がない!

 

しかし、またリベッチオは無邪気に笑った。笑ったのだ。失くしたはずの腕も、焼けたはずの身体も、全部元通りで。

 

「提督さん!お陰で助かったよー!ありがとね!」

 

やめてくれ、私はただ、怖がっていただけだ。

 

「提督の判断のお陰で、リベッチオを失わずに済んだわ。本当に、ありがとうございます、提督!」

 

違う、私は何もしてない、そいつが、死人が、リベッチオが、勝手に生き返ったんだ。

 

「あら、リベ、戻ったのね。次は気をつけましょうね?あ、提督も、ありがとね?」

 

黙れ!私は、私は……!

 

 

 

……そうだ、違うんだ。

 

艦娘は、人じゃない。

 

 

 

深海棲艦と同じ、化け物だ。

 

だってそうでしょう?深海棲艦という化け物と同じ力を持ち、殺されても一晩で元通りなんだから。

 

違う、私とは、違う。

 

共に歩むことなんて、出来ない。

 

……封じ込めなくては。

 

倉庫に閉じ込めよう。鎮守府で一番強固なものに。部屋には監視カメラも付けて、叛意がないか常に見張らせよう。直接会わないで良いように、タブレットでコミュニケーションを取ろう。憲兵ももっと増やそう。

 

もう嫌だ、こんな化け物共に関わりたくない。艦娘なんて、人の形をしているだけだ。深海棲艦と何ら変わりはないんだ。

 

私に近寄るな、化け物め。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

不気味だ。

 

倉庫に閉じ込めて一日中監視カメラで監視されていると言うのに、艦娘共は特に嫌がる素振りを見せなかった。

 

「少し恥ずかしいですが、保安の為ですから」

 

「気にはなりますけど、提督には何か考えがあるんでしょう?」

 

「リベ、もっともっと頑張れば、また提督さんに会ってもらえるかな?」

 

もちろん、こんな化け物共には二度と会うつもりはない。何をされるかわからないからだ。出撃の時はタブレットで指示を出して、憲兵に艦娘を海まで連行させる。それ以外は倉庫で厳重に保管だ。それが、艦娘に対する正しい対応だ。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

戦況が悪化している。艦娘を三体、新たに建造した。

 

ローマ、ザラ、ポーラ。

 

新しい化け物が湧いて出た。建造したらすぐに憲兵を使って倉庫に行かせた。だから、顔を見たことはない。リットリオらにも、もう半年は会っていない。このまま、二度と会わずに終わりたいものだ。

 

しかし、その私の意に反するように、艦娘は勘違いをした。

 

必死に頑張れば、また私に会えると、そう思っているらしい。

 

冗談じゃない。誰が、あんな死人に、あんな化け物に会うか。

 

毎日毎日、大怪我をして帰ってくるのだ。時に、肉体の一部を欠損し、時に、臓器が零れ落ち、時に、全身に火傷を負い……。艦娘と言う名の死人が、血を滴らせながらドックへ這いずり、ほんの数時間で元通り。

 

私はもう、嫌だ。提督なんて嫌だ。こんな気持ち悪いものを見るのは嫌なんだ。

 

だけど、今更提督をやめたいだなんて言えない。どうすれば良いんだろうか。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

最近は、地中海の深海棲艦が増加したらしい。故に、地中海沿岸の防衛に集中しろとのこと。

 

防衛に集中しろ、か。政府も酷い連中だ。海から現れた深海棲艦という化け物についても、人類の希望と偽っている艦娘という化け物についても、殆どの情報を公開していない。

 

今、地中海では、深海棲艦と艦娘、化け物同士が殺し合いをしているのだ。血みどろの殺し合いを。

 

できれば、深海棲艦共々、共倒れしてもらいたい。

 

この悍ましい艦娘共には全滅してもらいたいが、そうするともう片方の化け物……、深海棲艦が攻めてくる。

 

なら逆に、奇跡的に艦娘側が勝ったらどうだ?そう、そうだ、私には艦娘制御装置がある。これさえあれば、艦娘を無力化し、解体することだって可能なんだ。

 

早く、早く深海棲艦を殺せ、人型の、死なない化け物共。そうしたら、私が、お前達をこの世界から消してやる。

 

提督なんてもう懲り懲りだ。

 

早く自由になりたい。

 

 

 

◼︎◼︎月◼︎◼︎日

 

使えない。

 

まるで戦況は良くなっていないらしい。深海棲艦は増加の一途を辿り、その質も向上しているとのこと。

 

どうせ死なないと思っていた艦娘も、ポーラとか言うのが一体いなくなったらしい。

 

ザラという艦娘が何か言っているらしいが、無視だ。艦娘の要求なんて聞く必要はない。むしろ、一度聞いたらつけあがってもっと酷いことを言ってくるかもしれない。

 

警戒しなくては。

 

警戒して、警戒して、私の身を守らねば。

 

 

 




リットリオ
優しい。

アクィラ
天然。

リベッチオ
ちゃお。


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