さあ、朝だ。朝食を済ませ、鎮守府内の滑走路に行く。
え?ああ、滑走路は明石が作ったよ。
だからこうして、皆んなでお出迎え、と言う訳なんだけども……。
「はい、もしもし?」
『た、助けてくれ!日本の空域に入った瞬間、化け物が……!!』
なんか、めんどくさいことになってるっぽい。やだなー、嫌な予感するわー。
「落ち着いてくださいよ、パイロットさん。どんな化け物ですか?」
『あ、ああ、グリーンで、巨大で……、機体に絡みついていやがる!何とかやっているが、機体の制御が……』
あー!航空機に取り付く!緑色の!巨大な!!あー、あーあーあーあー!!めんどくさいぞ!めんどくさいぞこれは!!
「な、なあ、提督?あの航空機、緑色の何かが取り付いているんだが……?」
あー!もう!
「はぁ、間違いない。……あれは、衾だ」
「……ふ、衾?」
……さっきから凄い震えてるけど、大丈夫か長門?
「妖怪だよ。……それも、かなりタチの悪い」
あ、長門が立ったまま気絶した……?!
「妖怪って、本当にいたのね……」
「む、信じてなかったのか、陸奥?」
「正直、いつもの冗談だとばかり……。でも、こうして目の前にいる以上、存在するのよね……」
いるよー、めっちゃいるよー。
「で、あの、緑色の大きいやつ……、衾、だったかしら?人を食べたりする妖怪、なのかしら?」
「ああ、いつもははるか上空を飛び、時折「ごそっと」人を喰うために降りて来るんだよ。でも、最近は航空機を狙うことに味をしめたらしいが……」
「間違えて、艦娘二人しか乗っていない航空機を狙った、と……?」
「っぽいねー。……まあ、運が悪かったってことさね」
あー、クソ、何たってうちを狙うんだ?やめてくれよ……(絶望)。
「その、弱点とかは?」
「お歯黒の歯といっぱいの炎」
「……如月ちゃん、どう?」
陸奥は、火炎放射器を標準装備した如月に声をかけるが……、
「ええと、私の火炎放射器は、あれだけの質量を燃やし尽くせる程、攻撃範囲が広くないわ」
無理だ。本当にいっぱいの炎が必要だ。それこそ、戦闘機のミサイルくらいの。
艦娘にもミサイルを装備した子がいるが、攻撃範囲的には燃やしきれるか微妙だし、何より中にはまだ人がいる。
つまり……、
「あー、嫌だねぇ、結局俺が行くのか。……取り敢えず、全員、石油入りドラム缶用意!ミサイルがある子は撃てるようにしておいて!じゃ!!」
「「「「了解!」」」」
×××××××××××××××
『『あわわわわわ……!!』』
何よ、あれ?!妖怪、ですって?!そんな化け物との戦い方、知らないわよ!!
恐怖のあまり背筋が痺れる、身体中が痛む!どうすれば、どうすれば良いの?!
訓練もした、実戦の経験も積んだ!けど!空で妖怪と戦うなんて無理よ!!
『ど、どうすれば……!!』
もう滑走路はすぐそこなのに、このままじゃ着陸出来ない!!
『死ぬならせめて、アメリカの海の上が良かった……』
『サラ!諦めちゃ駄目よ!』
ここで終わるなんて、嫌!!
私はアイオワよ?!こんなところで終われるもんですか!!
……とは言っても、打つ手が……?!
「ダイナミックお邪魔しまーーーす!!!」
「「What?!!」」
「Hallo?」
窓から?!何?!誰?!!
『Mr.ストレンジャーとでも呼んでくれ給え』
ん……?あれ……?この人、どこかで……?そうだ、もらった新しい鎮守府の資料の、提督が……!
『貴方、もしかして……、提督?!』
『そうだよ(肯定)』
提督……!!、……?、え?何でここに?そもそも、どうやって?え?
『そ、その、貴方、どうやってこんなところに?!と言うか、何できたの?!危ないわよ?!!』
『は、はは、あははははは……。わ、私は、サラは夢を見ているのかしら……』
『とにかくエスケープだ!!(集中線)先にパイロットは降ろしておいた、あとは君達だけだから!!さあ!!』
『脱出?!!どうやってするのよ?!!非常口が開かないのよ?!こんな状態じゃパラシュートだって』
『ナッシンレアリィマタァトゥーミー!!!』
『俺には何でこたぁ無い、なんて!!そんな訳』
あ、何よ?!捕まった?!……あら、かなり力が強いのね、私以上かも。……じゃなくて!!ちょっと待ちなさいよ?!
『どの道、風は吹くのさ!!』
『な、何を……?!、ちょ、ちょっと!!飛び降りる気?!外にはあの化け物がいるのよ?!空中で捕まっちゃうわ!!』
『それに、さっきも言いましたけど、非常口が開きま』
……っな?!!非常口を、無理矢理蹴破って……?!!!
ちょ、ちょっと、待ちなさい、そんな、それは……!!
『『あ、お、お、落ちるーーーーー!!!!!』』
………………!!!
………………?
あ、ら?
落ちて、ない?
飛んでる……?
『参考までに聞きたいんだけど……、海にいる艦娘が空を飛ぶって、どんな気持ちだい?』
『悪くないわね……。じゃなくて!一体どうやって?!』
『と、飛んでる?!サ、サラ、飛んじゃってる?!』
『まあまあ、世の中には空飛ぶ人間なんていくらでもいるじゃん!じゃあ、そろそろ下に行こう』
彼……、提督はそう言ってふわりと着地して、その次に、
「全員!!石油入りドラム缶を思いっきりぶん投げろ!!」
と続けた。
日本語の勉強はそれなりにしたつもりだけど、石油入りドラム缶を投げる?何で?
もしかして、あの化け物を焼き殺す気かしら?でも、着火は……?
「菊月ィィィ!!!今だっっっ!!!!」
「ターゲット、確認。排除、開始……!!」
『な?!艦娘に分裂ミサイル?!』
あり得ない、艦娘にあんな現代的な兵器なんて……!!
だけど、目の前で起きた爆発は、幻なんかじゃない、現実……!!
あれだけの石油を爆発したんだ、一瞬、太陽がもう一つ現れたかのような光とともに、化け物が絡みついた航空機を完全に破壊した。
爆炎に包まれた化け物は、かけらも残らずに消滅した……。
あ、あれ?
助かった……?
『サ、サラ!』
『アイオワ!』
『『た、助かったー!!』』
はぁー、正直、死を覚悟していたんだけど……、まさか、生きて日本の土を踏めるなんて!
ありがとう、神様!!
ありがとう、大統領!!
そして……、
「Are you ok ?、怪我はない?」
「「Thank you very much !!」」
ありがとう、えーと、その、提督!!……提督?
「その、ちょっと待って……、貴方、貴方がこの艦隊のAdmiral?」
「……資料で見た通りの顔、ですけど……」
え、冗談でしょう?それじゃあ、最近の提督は飛行機の窓を突き破って現れ、空を飛んで現れるの?……え?
「え?さっきそう答えたような……?まあ、良いや。俺、旅人の新台真央です!副業で黒井鎮守府の提督をやっています!よろしくどーぞ!!」
え、ええー?
アイオワ
転勤。
サラトガ
転勤。
ながもん
オカルトには滅法弱い。
旅人
空を飛ぶことは常識の範囲内だと思っている。