旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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白露型の話はバイオレンスってそれ一番言われてるから。

啓蒙が必要な描写に注意して、どうぞ。


135話 狩人の夜

「……で、これ、どうすンだ?」

 

「……どう、って……」

 

「提督、腕が生え始めてるみたいだし……」

 

「聞いて来たよ」

 

「あ、時雨姉貴」

 

「好きにしてオッケー、だそうだよ」

 

好きにしてオッケーったってなぁ……。

 

「本当に、どうすンだ?これ……」

 

斬り落とされて尚、人肌に温かく。滴れる血は乾かず。筋肉の硬直もない。

 

提督の、斬り落とされた右腕……。

 

 

 

 

 

先日、鎮守府に現れた謎の外人が、中庭で提督と死闘を繰り広げたんだ。

 

皆んなで加勢しようとは思ったけど、提督が手を出しちゃ駄目だって言うから、戦いを見守ってたんだけど……。

 

提督、とんでもねぇ無茶をしやがった。

 

剣戟の雨霰の中を突っ切って、あのバケモンの土手っ腹に爆弾ぶち込んで、自分ごと吹っ飛ばしたんだ。

 

思わず笑っちまったよ。

 

この鎮守府の艦娘は皆んなイかれてるし、この江風自身もイかれてる自覚はあるぜ?

 

でも、やっぱり、一番ブッ飛んでんのは、提督なんだよな。

 

……だからこそ、皆んなあの人に着いて行くんだけど。

 

本当、スゲーよ、あの人は。

 

姉貴達が狗になった理由がよく分かる。

 

どんなことだって涼しい顔でこなしちまうんだ。バカやってばっかりだけど頭は良くって、度胸もある。器もデカいし底抜けに優しい。あの人に着いて行けば、深海棲艦も皆殺しに出来るだろうぜ。

 

兎に角、スゲー。スゲーんだ。

 

 

 

……だから、私も狗になることにした。

 

 

 

自分でも、イかれたことを言ってんのは分かってる。

 

だけどよ、思うんだ。

 

「艦娘の幸せ」って何なのか、って。

 

私達は艦娘だ。人間じゃねえ。

 

でも、明石さん達が言ったみたいに、完全な道具って訳でもねえんだ。……出来は悪いけど、一応考える頭は付いてるし、感情ってもんもあるしな。

 

でもやっぱり、人間じゃあねえんだよな。普通の人間ってのはよく分からないけど、戦いが日常で、殺す事殺される事を恐れず、んで、人よりも強え身体で生まれた……。

 

道具でも、人間でもねえ。

 

それが艦娘ってもんだ。

 

道具なら、大切に使われりゃ幸せだろう。

 

人間なら、愛し愛されると幸せなんだろう。

 

でもよ、どっちでもねえ私達はどっちの幸せも得られないんじゃねえのかって思ったんだ。

 

じゃあ、艦娘の幸せってのは何なのか?足りない頭捻ってよーく考えてみた。

 

……で、やっぱり、行き着いた先は姉貴達と同じだ。

 

……「狗」

 

あの人の、提督の狗として生きる。

 

つまり、「道具として」戦って提督の役に立って、「人間の女として」提督に寄り添う……。

 

何てこたぁない。

 

半分道具半分人間。

 

「艦」と「娘」。

 

つまりは狗だ。「艦」の部分で敵を殺して「娘」の部分で考える。「艦」の部分で整備され「娘」の部分で飼われる。そして、「艦」として持ち主を愛して「娘」として男を愛する。

 

ほらな?

 

幸せじゃねえか。

 

道具としても、女としても幸せだ。

 

二つの幸せが得られるんだぜ?1+1は2じゃないぞ!私達は1+1で200だ!10倍だぞ、10倍!!

 

 

 

「あら?どうしたの、江風?」

 

「ん、ああ、何でもねえよ、海風の姉貴。……ただ、幸せだな、って思ってな」

 

「ふふ、そうね、私達は、きっと世界で一番幸せよ……❤︎」

 

 

×××××××××××××××

 

「どうしようか?」

 

「保存しましょう」

 

「どうやって?」

 

「血を抜いて、骨を削り、肉を掻き出し、剥製にしましょう」

 

「血はどうする?」

 

「血は輸血。司令官と同じ血を通わせましょう」

 

「骨はどうする?」

 

「骨は加工。装飾にして身につけましょう」

 

「肉はどうする?」

 

「肉は摂食。愛するあの人に近付きましょう」

 

「ああ、ああ、それは良い。素敵だ、とてもとても素敵だ……」

 

 

 

……決まったみたい。

 

決めたのは、そう、時雨姉と春雨姉。

 

あたしより賢いから、白露型で色々考えて色々決めるのはこの二人だ。

 

海風も賢いけど、まだ少し「足りない」らしいし、江風はそもそもあんまり考えてない。

 

因みに夕立姉は何も考えてない。

 

 

 

「メスはあるかな、春雨」

 

「はい、時雨」

 

「ありがとう」

 

 

 

目の前で、愛しい人の片腕が着々と加工されていく。

 

皮を剥がれ、肉を切られて、神経を引き抜かれていく。

 

けど、不思議と、嫌悪感は無い。

 

 

 

……少し前まではそれがたまらなく嫌だった。

 

自分を人と変わらない、温かさのある生き物だと信じたかったから。

 

流れ出る血を悲しみ、折れた骨を苦しみ、裂ける肉を恐れる。

 

そんな普通でありたかった。

 

人間になりたかった。

 

 

 

今は、違う。

 

違かった。

 

気付いた、とも言えると思う。

 

 

 

結局、どう取り繕っても、あたしは艦娘だった。

 

 

 

背負った艤装は冷たく、そして重くのしかかった。でも、酷く身体に馴染んだ。

 

手にした刃は悍ましく、そして血に塗れていた。でも、これ以上無く頼もしかった。

 

戦場の風は痛ましく、そして憎悪に満ちていた。でも、でも……、そこで戦うことは、驚くほどに自然だった。

 

戦うのは恐いけど、耐えられない訳でもない。

 

怪我すると痛いけど、気を失う程でもない。

 

殺すのは嫌だけど、罪悪感も、そして、苦痛もない。

 

 

 

提督はいつも言う。

 

「振り上げた拳は、殴った相手と同じくらい痛い」、と。

 

言いたいことはよく分かる。あの人は優しい。温かい人だ。

 

でもあたしは、あたしにはそれが分からなかった。どんなに戦っても、どんなに殺しても、私の手は痛くなかった。

 

痛くなかったんだ。

 

 

 

「綿を詰めて……、完成だ」

 

「うん、綺麗。とっても、綺麗」

 

「では、この肉を」

 

「そうだね、肉を」

 

 

 

きっとあたしは人にはなれない。

 

冷たい艦娘のまま生きると思う。

 

辛くはない。むしろおかしいのは今までの人生だ。人じゃないのに、無理に人になろうとしていた、今までの人生。

 

まるで、「自分を人間だと思い込んでいる精神異常者」だ。

 

「あたしは人間だ、誰が何と言おうが人間なんだ」なんて。

 

 

 

「いただこう」

 

「いただきましょう」

 

 

 

それでも。

 

そんなあたしにも、提督は温かさをくれるから。

 

言うなれば熱平衡だ。

 

冷たいあたしに沢山の熱を注いでくれるんだ。

 

だから……。

 

 

 

「あたしはきっと、幸せだ」

 

 

 

×××××××××××××××

 

「……うん、うん。金色の陽だまりの味がするね。それと微かな青空だ。原始の海の茜色と凪いだ白い風が見える。いや、観測していると言った方が正しいかな?兎に角綺麗だ。悍ましく綺麗だ。」

 

そうだね、「見える」と言う表現は違う。観測する?かな?でも、感じ取るとも、入り込んでいるとも言える。……もっと厳密に言えば、それ専用の新しい瞳を内側に創造して、それを以って俯瞰する。そんな感じ。

 

もっとも、感じ取る方法や感覚は個々によって異なると思う。僕は、平たく言えば見ていることになるし、

 

「味は熱で蕩けた流星?匂いは香ばしい月、涼やかな熱帯の樹木で、優しい果実と肉の迷宮?……うーん、提督の「中味」は入り組んでるっぽい。薬と、呪と、気とが混じって、「ヒト」の部分が分からないっぽい?でも、凄く、凄く、素敵な匂い……」

 

夕立は嗅ぐことになるらしい。

 

「猛禽と渡り鳥の鳴き声の間の子みたいな味……❤︎小人の笑い声でもあるけど、同時に狼の歓声みたい❤︎讃えているのは讃美歌かしら?でもこれじゃ狂騒ね❤︎それなのに冬の革靴の静けさと踏みしめられる雪の音だもの、可愛いなぁ❤︎」

 

春雨は聞いているみたいだ。

 

成る程、どうして。

 

言葉は曖昧で陳腐だけれども、皆んなの感じたものは多少の差異はあっても同じだね。

 

「海風、理解出来たかい?」

 

感想を求める。今の所、一番見込みがあるのは海風だ。その調子で賢い犬になって欲しい。

 

「味、味は、人じゃない、獣でもない、ですね。かと言って上位者でもない、ような?でも、強く、確かな生命を感じます」

 

と、肉を嚥下した海風は呟く。

 

「それで?」

 

「……そう、ですね、そして、自然の……、太陽を中心に、遍く自然の要素があるように思えます」

 

……うん、まあ、良いかな。

 

「そうだね、概ね合っているよ。まだもう少し、深く見れるともっと良いよ」

 

「は、はい」

 

太陽は、そう、波紋法、だったか。それに自然は仙術だろう。

 

他にも、変異した細胞や捻じ曲がった遺伝子、妖魔の気配……、特に鬼、吸血鬼、悪魔、邪仙、天狗。でも、神の加護もある。そう言ったところも感じ取るには、まだまだ「足りない」か。

 

だけど、おあいこだよ。僕もまだ、提督の全ては見えていないからね。ふふ、底が知れないね、提督は。

 

提督のお陰で、僕の思考はとてもとても高い次元まで上がったけれど、それでもあの人のことは分からない。でも、知る余地がある、と言うのも素敵なことだよ。

 

 

 

ん?

 

見えるね。歩いてくる。工房の外、ドアの前。

 

鉄を纏う、血に染まった、群青の狼だ。

 

「……工房に、白露型に用かい、三日月?」

 

ドアが開く。

 

「こんにちは、時雨さん。事件だそうです」

 

「事件?」

 

「鎮守府内に謎の化け物が現れました」

 

「……何だって?」

 

すかさず瞳を拡張する。……見え過ぎるのは良くないからね、普段は最小限しか感知しないようにしているんだ。

 

「……これは?!」

 

上位者?!何故?!

 

「時雨、いる、いるよ、奴らだ」

 

顔を顰めた夕立が吐き捨てる。どう言うことなんだ、一体?!

 

「それと、その化け物について、司令官からのメッセージです」

 

小さなテープから音声が流れる。提督の声だ。

 

『今回の話のオチが思いつかなかった……。広げ過ぎた風呂敷は最早畳めん。ぶち破るしか無いのだ!石川賢みたいに!石川賢みたいに!!』

 

『ゲッターロボも虚無ったしな。悲しい。流石の俺も石川賢先生が死んだ時は泣いたよ。でもまだ虚無戦記読んで無いんだよな』

 

「…………成る程」

 

凄い、この僕の啓蒙を以ってしても、微塵も意味が分からない。

 

「その、三日月?提督は、具体的に何をしたんだい?」

 

 

三日月は、重々しく口を開いた。

 

 

 

「……コーラにメンシスを入れました」

 

 

 

「コーラにメンシスだって?!!」

 

「コーラにメンシスっぽい?!!」

 

「コーラにメンシスだなんて……!!」

 

「そんな、コーラにメンシス?!!」

 

「メンシスって何だよ」

 

「何でコーラに?」

 

こ、こうしちゃいられない!

 

「皆んな!狩の時間だ!!!行くよ!!!」

 

白露型の狩を知るがいい!

 

「「「「はい!!!!」」」」

 

 

 

 

 

ああっ、全裸の提督がアメンドーズに振り回され、と、飛んだぁーーー?!!

 




江風
白露型の中で最も啓蒙が低い。

山風
次いで啓蒙が低い。

時雨
最も啓蒙が高い。その直感はほぼ未来予知レベル。しかし、自分よりも啓蒙が高い旅人の動きは読めない。

旅人
人の形を保てないレベルで色々混ざっているが、驚異的な精神力で人の形になっている。半分くらいは仙人なので、血肉は結構美味しいらしい。
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