旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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忙しい時期が終わらない。


154話 でっちの暇潰し

潜水艦の部屋。中央の、大きな炬燵を囲む私達。

 

提督が提督になってくれてから、順風満帆な日々を過ごしてきた私達にも、悩みの一つや二つ、あるのだ。

 

 

 

「暇でち」

 

 

 

うん。

 

正直言って、最近暇でち。

 

 

 

「オリョール行くの!」

 

イクが提案。

 

「昨日行ったでち。て言うか、資材は売るほどあるでち」

 

倉庫を見て欲しい。既に、戦争でもおっ始める気なのかってくらい溜め込んでるから。

 

「じゃあ、キス島?」

 

イムヤが提案。

 

「これ以上強くなってどうするでち。それに、しおいはまだ訓練過程中でち」

 

フラグシップの戦艦を一発で沈められるようになった今、これ以上強くなっても意味なくない?

 

「暇ならアハトアハトの整備手伝ってよ」

 

はっちゃんが提案。

 

「めんどくさいからいやでち」

 

何が嬉しくてあのデカい大砲を磨かなきゃならないのか。

 

「訓練は?」

 

しおいが提案。

 

「後でやるでち」

 

しおいの訓練は午後から。

 

「じゃあ、どうするの?」

 

ろーちゃんが質問。

 

あー……、そう、でちねぇ……。

 

「……今日もここで駄弁るでち」

 

……やることないなー。

 

でも、兵器であるゴーヤ達が暇なのは良いことだよね。平和を享受しようそうしよう。

 

「……でっち、だらだらしてると太るよ?」

 

「失礼な。ゴーヤはスリムでち」

 

大体、ほぼ毎日出撃して泳いでるんだから、太る方が難しいでち。

 

「ええー?ほんとにござるかぁ?」

 

「本当でち!」

 

「本当だ、結構筋肉ある」

 

………………?!

 

「でちぃ?!!!」

 

どっから現われたでちか、提督?!!

 

 

 

「びっくりした……、いや本当にびっくりしたでち……」

 

不意を突かれたでち……。勘は鋭い方なんだけど……。

 

「ごめんごめん。ちょっとさっきまで異次元にいてさ。転移に失敗してここに」

 

正規の方法で入室してくだち。何ですぐ次元を超えるでち。

 

「毎度毎度、大丈夫なの?司令官」

 

イムヤの言葉も尤もだけど、基本的に提督に常識は通用しないから……。

 

あっ、なんかナチュラルに炬燵に入ってきた……。

 

「はっはっは、大丈夫大丈夫。にしても、いやー、外は寒いねー」

 

「異次元にいたんじゃ?」

 

「途中シベリアに落っこちた」

 

ははーん、さては不死身でちね?

 

相変わらず丈夫だなぁ、何やったら死ぬんだろう。

 

いや、死んで欲しい訳ではないけれど。明らかに死ぬようなピンチを涼しい顔で切り抜けられると、私達の存在意義が分からなくなる。提督を守るとは何だったのか。

 

私達艦娘なら、頭が壊されたら実質的に死ぬ。あ、いや、頭を吹き飛ばされても死体をドックに放り込めば肉体は再生するけど、それをやると脳が再構成されて、今まで蓄積した記憶が全部無くなる。つまりは、艦娘の脳はセーブデータでち。メモリーカードでち。

 

だから、極めて大量の出血とかでも、脳が駄目になっちゃうから気をつけなきゃならない。

 

でも、提督は……。

 

「いやー、危なかった。南シベリアのバイカル湖付近には行っちゃ駄目だぞ、keterクラスだ」

 

「……提督、左腕が……!あと、お腹に穴も……!!」

 

「ん?ああ、持ってかれた。因みに、炬燵に入ってるから分からないかも知れないけど、右脚も根元から先が千切れたんだよね」

 

……最早インチキでち。ギャグ漫画じゃないんだから、手足を千切られて、内臓の殆どを失えば艦娘でも危ないレベルでち。

 

「……提督」

 

「安心してくれ、出血は止めてある。炬燵を汚したりはしないよ。ただ、血液が足りなくて。ちょっと寒いんだよね」

 

ない方の手で静止してくる提督。

 

いや、そうじゃなくって……。

 

「あ、あああ、ああああああ……!!!」

 

しおいが限界点突破してるでち。

 

「しおい?!大丈夫か?!」

 

「提督ー、死なないで!死なないで!!!しおいを置いてかないでよー!!!えーん!!」

 

「どうしたしおい?何か辛いことでもあったのか?」

 

「提督が死んじゃいますー!!!」

 

 

 

「いやー、すまない。普通は驚くよね」

 

「グスッ、うええん、て、提督が死んじゃうかと……」

 

「大丈夫でち、提督はそのくらいじゃくたばらないでち」

 

冗談抜きで不死身でち。

 

「……本当?」

 

不安そうなしおい。

 

「自爆したり化け物に食われたりしても平気な顔で帰ってくるのがうちの提督でち。何の心配もいらないでち」

 

そんなことより問題は……、

 

「……で、提督。その傷、誰がやったのかな」

 

据わった目で問いかけるはっちゃん。あー、もう、面倒なことになった。

 

「そうよ、答えて司令官。私、司令官に暴力を振るう奴なんて許せない」

 

「復讐しなきゃ駄目なの」

 

「ろーちゃんの提督に酷いことする子は、死んでいいかなーって」

 

……ほら、面倒。

 

提督は困った人でち。皆んな、提督のことが大好きでたまらないって分かってるのに、平気で怪我したり、遠くに行ったりするでち。

 

いくら治るからって言ったって、怪我なんてして欲しくない。いくら帰ってこれるからって、次元を超えるほど遠くになんて行って欲しくない。

 

女心が分かる癖に、無鉄砲でやんちゃなままでち。

 

「はいはい、皆んなやめるでち。提督に指示されない限りは、勝手な行動は慎むでち」

 

そりゃあ私だって、提督の敵は全身全霊でぶっ殺す所存でち。でも、何より大切なのは提督の意思。勝手に殺すのは不許可。提督が駄目って言うなら駄目なんでち。

 

「そうだね、俺のミスで勝手に怪我しただけだから。気にしないで良いよー」

 

……でも、たまには、頼って欲しいでち。気にしないで、なんて言わずに、敵を殺せと命じて欲しい。提督に何もしてあげられないのは辛いよ。

 

それに、気にしないなんて無理。提督が酷い目に遭うのは、嫌。全く、こっちの気も知らないで……。

 

「本当に、本当に何もやらなくて良いの?イク、強いよ?今日だって深海棲艦をいっぱいやっつけてきたのね!提督に酷いことする奴は、イクが全部殺してあげるの!」

 

「はは、気持ちだけもらっておくよ」

 

……でも、きっと無駄でち。

 

私達が幾ら怒っても、提督は旅を続ける。死ぬような思いも、辛い別れも、全部承知の上で。終わらない旅を楽しむんだと思う。

 

だから、私達に出来るのは……、

 

「……分かったでち。でも、提督の帰ってくる場所はここでち。だから……」

 

「ああ、必ず、なるべく早く、生きて帰ってくるよ。いつもね」

 

提督の帰ってくる場所を守ること。

 

それだけでち。

 

 

 

×××××××××××××××

 

「遅いわ」

 

「あっ、わあ!!!」

 

痛ぁ…………。

 

「ほら、早く立ちなさい!戦場はもっと厳しいのよ!!」

 

「うう、何で格闘戦?私達、潜水艦だよね?」

 

黒井鎮守府に来てから、数週間。出撃はせずに毎日訓練ばっかりだけど……。

 

「こういうのは基礎が大事なの!戦いの基本は格闘戦でしょ!」

 

「いや、数で押すのが一番だと思う。だから魚雷の召喚数を……」

 

「数で押すより正確さなのね!一番は魚雷で狙撃なのね!」

 

皆んな、言ってることがそれぞれ違って……。

 

進捗は良くない、です……。

 

 

 

「戦闘スタイルの問題だ」

 

「提督!!」

 

車椅子に乗った提督が声をかけてきた。片足が無いから立てないみたい。

 

……正直、さっきは提督が死んじゃったと思って焦ったけど、大丈夫、みたい。痛そうにしてないし、顔色も良くなってきてる。お腹の穴だって塞がった。

 

でも、私としては、安静にしてて欲しいんだけど……、本人は車椅子のまま私の訓練に着いてきたんだよね。

 

何を言っても大丈夫の一点張りだし、他の皆んなも大丈夫だって言うし……。もしかしたら、提督も艦娘と同じようなものなのかも。そう思うことにした。

 

「戦闘スタイル?何の話?」

 

「そうだな、例えば……」

 

ゴーヤの方に目を向ける。

 

「ゴーヤは、潜水艦の艦娘の基本である魚雷の生成に特化して……」

 

「敵に触れる瞬間に魚雷を創って、直接叩きつけるでち」

 

ああ、そっか。

 

ゴーヤの触れたものを爆発させるように見えたあれ、そう言うことだったんだ。つまり、打撃の瞬間に魚雷の弾頭を叩きつけてるんだ。

 

次は、イクに目を向ける。

 

「イクなら、魚雷による狙撃を突き詰めた」

 

「そうなのね、イクはスナイパーなのね!」

 

そうなの?まだ近海にしか出たことないから、分からないけど……、イクは狙うのが得意みたい。

 

そしてイムヤに目を向ける。

 

「イムヤは、音もなく忍び寄り、海中に敵を引き摺り込んで直接戦闘」

 

「海中こそ潜水艦のホームグラウンドなのよ。海中の私達は無敵だわ」

 

成る程、だから格闘戦を教えようと……。

 

続いてはっちゃんに目を向ける。

 

「はっちゃんは同時展開数を増やしたんだ」

 

「対空砲なら十数本、魚雷なら百本くらいかな」

 

そうなんだ。手元の本から色々な兵器を出して数で押すのがはっちゃん流なんだね。

 

最後に、ろーちゃんに目を向ける。

 

「ろーちゃんは潜水艦の基本方針である群狼作戦の先発……」

 

「要は偵察です!はい!」

 

群狼作戦……。誘い込んだ敵を狼の群れみたいに囲んで倒すやり方だね。

 

「……つまり、一人一人違った特徴を持つ訳だ」

 

「……じゃあ、私はどうすれば良いの?」

 

私は?私に出来ることって何だろう?

 

「何でもかんでも提督に聞いちゃ駄目でち。自分で考えるでち」

 

ゴーヤ……。

 

そんな風に言われても、分からないよ。艦だった頃と違って、今の自分が何を出来るか、なんて。

 

「大丈夫だ、しおいなら、すぐに答えを見つけられるさ」

 

でも、少なくとも……。

 

「……うん、分かった!私、頑張って答えを探すね!」

 

提督の言葉は、絶対だ。

 

何故かは分からないけど、この人の言葉に従っていれば、全部上手くいくんだもん。

 

きっと、皆んなが言うみたいに、提督は神様なんだと思う。

 

だから……、

 

「提督が出来るって言うなら、絶対出来るよね!」

 

これからも、私を上手に使ってね、提督。

 




ゴーヤ
割とまとも。

しおい
順調に洗脳されている。

旅人
定期的に死にかける。

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