旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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157話 旅人がいない日 後編

「おっ、某宝具かな?弓兵多過ぎ問題」

 

「呪いだな、早く倒せよ」

 

「騎士……、炎!やだなぁ、亡者に堕ちても技は冴えてるんだから」

 

「魔法なのか奇跡なのかは分からんが、索敵範囲が広い!」

 

「良いの?安請け負いしちゃって?闇喰らいのミディール、眠りを守る、ねぇ……」

 

「また沼か」

 

「竜狩りが何故ここに?!」

 

「人間性を見せよ、か」

 

「解呪の碑はこれか」

 

「くっ、ドラゴンブレス!効くなぁ!!」

 

「やっぱりパッチじゃねーか!!」

 

「あいつがミディールか。ドラゴン退治は久しぶりだな。うおおおお!死ねよやー!!!」

 

「ちょっと待って、眠りを守るって約束は?知らない?進む?鬼かよ……」

 

「ほーらほらどうすんだ!何か呼び出してきたぞ!!」

 

「……やはりこの世界は……」

 

「ジジイてめえ!!!!某デビルハンターみたいな動きしやがって!!!!」

 

 

 

×××××××××××××××

 

「五日経ったわよ」

 

「霞さん、司令官が出て行ったのは五日前の午後ですから。まだぴったり五日間ではありません」

 

「ぐぬぬ……」

 

約束……。約束なのに。五日で帰るって……。

 

「もーーーーーやだ!!!!」

 

あ、曙が……。

 

「我慢できない!!提督を探しに……、チィッ!!!」

 

「駄目です……。命令は良い子にしていろ、ですから」

 

「……三日月ィ……!!!」

 

あら、相変わらず凄い技のキレね。

 

三日月のメイスは牽制でも強力、曙の手甲の爪は堅く鋭い。

 

「邪魔を、するなっ!!!」

 

「司令官の命令を聞いて下さい、曙さん」

 

「何が命令よ……!!」

 

「司令官の命令こそ、私達の全てでしょう。他に何か?」

 

「ふざけないで!!あんたは提督が心配じゃないの?!!」

 

「心配?司令官は必ず帰ってきます。何を心配する必要があるんですか?」

 

「……っ、この、メンタルお化け!!!」

 

……って、ちょっと!

 

「味方同士でやり合わないでよ!!」

 

私闘は禁止よ!

 

「私にそのつもりはありません」

 

「……私にだってないわよ」

 

「じゃあ、艤装下ろしなさい」

 

「「………………」」

 

「睨み合わないの!!」

 

はぁ……。

 

駄目ね。鎮守府中が荒れた雰囲気。

 

予想は出来てたけど、ここまでおかしくなるなんて。

 

「……ごめん、ちょっと気が立ってた」

 

「いえ、大丈夫です」

 

曙はもうギリギリね。物凄くイライラしてる。

 

逆に三日月は完全に司令官を信じてる。例え、ずっと帰って来なくても、一生待ち続ける感じかしら。

 

性格も考え方も真逆だから……。

 

「三日月、後何時間?」

 

「後、三時間で司令官は帰ってきます」

 

三時間、ね。

 

よし。

 

「執務室行くわよ。司令官が帰ってくるまでカウントダウンするわ」

 

 

 

×××××××××××××××

 

『司令官帰宅まで、後三時間!』

 

「三、時間……?」

 

「本当……?」

 

「もふ」

 

あいつが外出した。

 

僕の友達の旅人が。

 

旅人の周りにはメスが沢山いて、それに囲まれて過ごしている。

 

でも今は、あいつがいないから、メス達の機嫌は最悪。多くは倒れてしまった。

 

……僕は、手が足りないから、倒れたメス達の面倒を見ろって言われた。

 

猫の手ならぬ、首輪付きけものの手も借りたい状況らしい。

 

幸い、今は冬で、裏山の管理もあまりすることがない。ちょっとくらいなら、手伝っても良いんだよね。

 

「……首輪付き、提督は、帰って来るの?」

 

「もふ」

 

飛龍だったっけ?胸が大きいやつだ。

 

「私達、提督に命令してもらわないと、何にも出来ないの……」

 

「もふ」

 

こっちは蒼龍。胸が大きい。

 

「提督、提督、提督、提督……」

 

……僕に言われてもね。

 

兎に角、さっきの放送でメス達が起き始めた。

 

面倒をみなきゃ。

 

ああ、全く。

 

手伝うなんて言わなけりゃ良かったよ。

 

僕は面倒が嫌いなんだ。

 

 

 

×××××××××××××××

 

『司令官帰宅まで後二時間!』

 

「後二時間、でありますか……」

 

槍を、振るう。

 

邪念雑念を振り切るように。

 

「……はあっ!」

 

突く斬る薙ぐ砕く……。演舞のように。

 

だがそこに、いつもの技はない。

 

一分のズレ、刹那の隙、一寸足りない間合いと数多の欠点。

 

足運びは覚束ず、体幹はぶれて、力は逸れる。

 

槍は……、武技は如実に語っている。

 

自分の不安を……。

 

「おおおっ!!!!」

 

雄叫びを上げ、槍を振るえど、答えは変わらず。

 

一様に……、

 

「提督殿の不在で、ここまで……!」

 

自分が至らない者だと告げられる。

 

「ーーーッはああああ!!!」

 

そう、告げられるのだ。

 

他でもない、自らの槍に。

 

自分はまだ……、未熟。

 

敬愛する提督殿に褒められて、良い気になっていた。正しく無双だと称され、天狗になっていた。

 

提督殿がいないだけで、自分は……。

 

「こんなにも、弱く……」

 

無双などとは、程遠い……。

 

例え如何なる理由があれど、提督殿の為に、この身を捧げると誓った筈が。

 

少しの間、お会いすることが叶わないこと、それだけで。

 

自分の槍は、武技は、脆くも崩れ去ったのだ。

 

「あああああああ!!!」

 

無心になれと自らに言い聞かせるが、心にあるのは寂寥のみ。

 

無念無想は夢のまた夢。必殺の槍技も今は錆びついた。

 

「………………提督殿」

 

結局自分は、提督殿に甘えているだけ、か……。

 

仕えるなどとは、程遠かった。

 

自分は、憐れでありますな……。

 

 

 

×××××××××××××××

 

『司令官帰宅まで後一時間!』

 

「あら、時雨ちゃん。山風ちゃんは大丈夫?」

 

「さっき、目を覚ましたよ、古鷹さん。心配してくれてありがとう」

 

ああ、良かった。

 

目の前で倒れた時はびっくりしたもの。

 

「今は海風が介抱しているよ」

 

「海風ちゃん?海風ちゃんも、提督がいなくなった日に、喉を掻き毟ったって聞くけど」

 

「ああ、ああ、大丈夫さ、大丈夫だよ。何も、問題は無い。……海風は少しばかり脆いからね、苦労したみたいだ。でも、眼を見て諭せば分かってくれたよ」

 

「ふふ、分からせた、じゃなくって?」

 

「もちろんさ。身内を洗脳する訳ないじゃないか。ただ少し、蒙を啓いてあげただけだよ」

 

……へぇ、そう。

 

「……嘘の匂いはしない、か」

 

「心外だね。君に嘘をつく理由がない」

 

でも、嘘をついている意識が完全に無いと、匂いもしないからなぁ……。

 

「……大体、仮に艦娘の洗脳をしたとして、何の問題があるんだい?」

 

「躾の問題かな?仲間に喰らいつく駄犬はあの人の走狗に相応しくないし」

 

「はは、躾けるのは提督だろう?君じゃない」

 

「そうね。でも、お馬鹿さんは要らないのは事実でしょ?」

 

「ははははははは」

 

「ふふふふふふふ」

 

うーん、やっぱり、腹芸は苦手かなぁ。私、提督みたいに器用じゃないから。

 

だから、

 

「疾ィッ!!」

 

直接、身体に聞いた方が早いかな……?

 

「……危ないじゃないか」

 

……うふふ、相変わらずだなぁ。剣を突き付けられたくらいじゃ、何ともないか。

 

「……本当に、洗脳はしてないのね?」

 

「ああ、誓って。……僕の妹だよ?そんなことはしないさ」

 

時雨ちゃんは私より賢いから、分かりづらいや。

 

でも……、

 

「それに、僕達は群れだ。提督が一番なのは変わらないが、二番目だってあるだろう?」

 

「二番目?」

 

「群れの仲間さ。提督の次に大切なのは、同じ艦娘の皆だろう」

 

「……国とは言わないんだ」

 

「ははは、国は三番目以降だね」

 

……まあ、良いかな。理由としては納得できる。

 

「僕達は人類じゃない、艦娘だ。数少ない仲間同士で共喰いなんてしないさ。野蛮だ。非論理的だ」

 

そもそも、共喰いしないのも、提督を不愉快にさせない為だし。時雨ちゃんもその辺は分かってる、よね。

 

「そう、ね。疑ってごめんね、時雨ちゃん」

 

「良いさ、実際に、白露型が側から見れば怪しげなのは自覚しているよ」

 

それにもしも、もしも提督を不愉快にするようなら……。

 

その時は、ちゃんと、消し炭にするから、ね?

 




三日月
変わりなく。ミカはブレねえな。

首輪付き
倒れた艦娘の面倒をみていた。苦労してる。

あきつ丸
武力低下。

古鷹
正直者の良い子なので何の問題も無い。

時雨
賢くて良い子なので何の問題も無い。

旅人
久しぶりの大冒険にウキウキ。

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