旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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長く続いたssなので、最初の方の設定と矛盾することもあります。

そこを「異議あり!」と突っ込まれると痛いのでやんわりと言ってください。


168話 メンタルケア 前編

とある日の昼下がり。

 

相変わらず仕事がない俺は、休憩室でテレビを見ていた。テレビの内容は、戦場の兵士のドキュメンタリーだ。

 

『……このように、戦争に出た兵士の多くはPTSDによって苦しめられ……』

 

ふむ、PTSD。心的外傷後ストレス障害。つまりはトラウマだな。

 

旅に出てからと言うもの、毎日のように命の危機に晒された俺はもう慣れたが、普通の人間は違う。自らの命に危険が及ぶと、それがトラウマになるものだ。

 

それはきっと、艦娘だってそうだろう。

 

自分と、そして戦友の命に関わる戦場に毎日のように出撃して、まともな精神状態でいられるだろうか?

 

皆んな、心の奥底では辛いと思っているかもしれない。ううん、知らないけど絶対そう。

 

そもそも日本はメンタルケアに関する学識が足りていない。気合いと根性でどうにかなるのは一昔前のジャンプくらいのもんだ。

 

カウンセリング……。

 

早急にカウンセリングする必要があるな。

 

思い立ったら吉日、即断即決即行動、黒井鎮守府カウンセリングルームの開設だ!

 

「もしもし、成歩堂なんでも事務所ですか?希月弁護士に依頼したいんですが……」

 

 

 

「……で、何ですか、これ?」

 

現れたのは大淀。カウンセリングにおいでよの張り紙を見てくれたのだろうか。

 

「カウンセリングルームだ」

 

カウンセリングルーム……。黒井鎮守府の防音室の一つを改装した部屋だ。突貫工事で今日作った。

 

「カウンセリング、ですか?」

 

「そう、カウンセリングだ。ココロのスキマ、お埋めします」

 

「また、急な話ですね」

 

「でも、重要なことだろ?メンタルケアは大事だ。だから、知り合いのカウンセラーを呼んでね」

 

「はあ……。心労なんてありませんけど……」

 

「いやいや、本人が気付いていないだけで、ストレスが溜まってるかもしれないだろ?相談だけでもしてみて欲しいんだ」

 

本人は何ともないと思っていても、心の奥底では……、なんてよくある話だ。

 

「分かり、ました。折角のご厚意ですし」

 

「それじゃあ、俺は出て行くよ。大淀はカウンセラーさんをこの部屋に案内してくれ。そろそろ来るから。俺は暇な艦娘から順にカウンセリングを受けるように言っておく」

 

「了解しました」

 

と、そんな感じで。告知の為に放送室に向かおうか。

 

カウンセラーの方は問題ないだろう。あの子はまだ若いが、心理学への知識も、他人の心に寄り添おうとする優しさも十分にあるからな。

 

それじゃあ、後は頼んだよ、希月さん。

 

 

 

×××××××××××××××

 

わたしの名前は、希月心音。

 

成歩堂なんでも事務所に所属している、弁護士だ。

 

弁護士、なんだけど……。

 

……『ああ、もしもし、希月さん?カウンセリングを依頼したいんだけど』

 

……「えっ、カウンセリングですか?その、わたし、弁護士が本業なんですけど」

 

……『いつも法廷でやってるじゃん?依頼料弾むからさ、頼んだよ』

 

……「え?ええー?」

 

なんの因果か、黒井鎮守府でカウンセリングをすることになりました……。

 

確かに、心理学を学んできたのは事実で、法廷で証人にカウンセリングをしたことも何度かありますけど……、まさかカウンセリング自体を依頼されるとは。

 

……でも、困っている人の助けになれるなら、それも良いかな。

 

あ、艦娘は人じゃないってツッコミは無しですよ?相手が人じゃなくっても、困っているなら手を差し伸べる。

 

わたしは、成歩堂なんでも事務所でそう学んだから。

 

……でも、流石に、シャチの弁護をした成歩堂さんにはビックリしたけどね。

 

 

 

おっと、そろそろ到着かな?

 

……って、

 

「広っ!!!」

 

広い!な、何ここ?わたしがアメリカで通っていた大学よりも広いかも?

 

敷地だけじゃなく、建物も大きいし……。でも、軍隊の施設らしい厳つさはしない、かな?花とか植えてあるし。まるで女子校みたいな……。

 

「あの〜?」

 

「はい?」

 

と、そんなことを思っていると、セーラー服の女の子に話しかけられた。あ、あれ?もしかして本当に女子校?

 

「カウンセラーの方でしょうか?」

 

「え?あ、はい」

 

「黒井鎮守府にようこそ、私は艦娘の大淀です。よろしくお願いしますね」

 

「………………え?」

 

艦娘……?

 

「えええええええ?!!!」

 

わ、わたしと変わらないくらいの年頃の女の子じゃない!

 

「?、どうかなさいましたか?」

 

「い、いやその、何でもありませんよ!」

 

驚いた、噂には聴いていたけど、本当に普通の女の子にしか見えない……。

 

『ビックリシタヨー!』

 

「あら?今の声は何でしょうか?」

 

あ、そっか。いきなり声が聞こえたらビックリするよね。

 

「今の声はこれです。モニ太って言って、わたしの心理分析を手助けしてくれる道具なんですよ」

 

そう言って、首に下げたモニ太を見せる。

 

モニ太は、今説明した通り、わたしの心理分析に使う道具だ。……勝手にわたしの感情を話してしまうところが玉に瑕。

 

「そうですか?まあ、危険は無さそうなので、持ち込んでいただいて結構ですよ。では、早速、カウンセリングルームへ案内をさせていただきますね」

 

「はい、お願いします!」

 

 

 

大淀さんに案内されて、黒井鎮守府の中へ入った。途中、何人かの艦娘とすれ違ったけれど……、皆んな、格好は兎も角、普通の女の子にしか見えなかった。

 

こんな子達が日夜戦っているなんて、信じられない……。

 

「……ですから、艦娘の外見の年齢と精神の年齢は一致しないこともあると思っていて下さい。他にも……」

 

因みに、隣にいる大淀さんは、艦娘についての説明をしてくれている。

 

説明を聞いた限りでは、艦娘は人間とは違って、戦争の頃に造られた戦艦の記憶を持った、人型の戦艦らしい。

 

そう言われても、わたしの目で見た限りは、皆んな普通の女の子にしか見えなかったけど……。

 

「あ、ここです。カウンセリングルームに到着しました」

 

「あ、案内ありがとうございます」

 

「いえいえ、提督の命令ですから……」

 

あ、あれ?

 

今、提督って口にした時、凄く大きな喜びの感情が……?

 

「それでは、私は退室しますね。カウンセリング、よろしくお願いします」

 

「え、ええ、分かりました」

 

気のせい、じゃないよね。

 

……わたしには、声のトーンから他人の感情を読み取る特技がある。だから、それを利用して法廷でカウンセリングをして、本当の証言を引き出すことができるんだけど……。

 

さっきのは、おかしい。

 

大淀さんは、提督と言う言葉を口にする時だけ、とても、とても大きな喜びの感情を感じていた。普通の会話では、感情の起伏は一般の人と変わりないのに。

 

提督……、旅人さんのことだよね。一体何が……。

 

 

 

「すいませーん」

 

!、おっと、いけない。余計なことを考えてる暇ないよね。折角来たんだし、カウンセリングしなきゃ!

 

「はーい、どうぞー」

 

「失礼します……」

 

部屋に入って来たのは……、やっぱり普通の女の子。中学生くらいかな?第六十一駆逐隊と書かれた黒のハチマキが特徴的だ。

 

「秋月型防空駆逐艦、一番艦、秋月です。よろしくお願いします!」

 

「うん、よろしくね!」

 

うんうん、元気があって大変よろしい!……悩み、あるのかな?

 

取り敢えず、話を聞いてみよう。

 

〜秋月の悩み〜

 

「実は私、元々は違う鎮守府に所属していたんですよ」

 

「そこでは、もっと酷い扱いを受けていたんですが……」

 

「この鎮守府に来てからと言うもの、全くの逆で」

 

「待遇が良過ぎて、怖くなってくるんです」

 

……成る程。

 

今ある幸せが贅沢に感じるってことね。

 

「大丈夫!幸せで悪いことなんて無いよ!」

 

「そうでしょうか……」

 

「もっと今の自分を認めてあげよう?今まで辛い思いをしてきた分、幸せになって良いんだよ」

 

カウンセリングの第一歩は、今の自分を認めてあげること。真面目な人ほど重い荷物を抱え込んでしまうから。

 

「で、でも、三食食事ができて、休みまであって、その上お給金までもらえるんですよ?!贅沢過ぎます!!」

 

「そ、それは普通のことなんじゃないかな?」

 

「いえ!艦娘は多少食事を抜いたところで死にませんし、その気になれば休まず戦うことだって可能です!」

 

「だけど、休まずに戦えって言うのも変な話じゃないかな?しっかりと休んだ方が、その、戦いにも集中できると思うよ?」

 

戦いとか、そう言うことはよく分からないけれど、休まずに何かをやり続けるなんて無茶だ。

 

「食事もすっごく豪華で!昨日なんてビフテキが出ました!!」

 

ビーフステーキかぁ、良いなぁ。

 

「良かったじゃない」

 

「よ、良かったですけど……。人間、一日に玄米四合と味噌と少しの野菜があれば生きていけるのです!」

 

雨ニモマケズかな……?

 

もしかして、いわゆる貧乏性ってやつなんじゃ……。やっぱり、常識が昔のままなのかも。

 

「あ、あのね?今の時代ならもっと裕福に暮らしても良いと思うよ?それに、秋月ちゃんは普段凄く頑張ってるんでしょ?報われても良いと思うな!」

 

「そ、そうでしょうか?私、頑張ってるんでしょうか?」

 

「うん、そうだよ!秋月ちゃん達が頑張って戦ってくれているおかげで、わたし達は安心して暮らせるんだよ!ありがとう、秋月ちゃん!」

 

事実、黒井鎮守府のおかげで、日本近海は随分安全になったらしい。マスコミやメディアはそのことをあまり取り上げないけれど、口コミやインターネットでは多くの人が黒井鎮守府の名を挙げている。

 

「で、でも、でもですよ?私はまだ、司令になんの恩返しもできていません!」

 

あれ?秋月ちゃんも?

 

司令って言葉を口にする時、大きな喜びの感情が……。

 

多分、旅人さんに感謝してるのかな?

 

「うーん、恩返しって言うのは、一度にやらなきゃいけないことかな?もっと長い目で見て、毎日頑張ろうと思えればそれで良いんじゃない?」

 

「そ、それはそうですけど……。でも、不安で……」

 

こんな時は、そうだ!

 

「秋月ちゃんは大丈夫です!」

 

「え?な、何ですか急に?」

 

「わたしの先輩の受け売りなんだけどね、不安に思った時は声に出して大丈夫ですって言ってみるの!秋月ちゃんも、声に出してみて?」

 

自己暗示って言葉もあるくらいだしね。実際に声に出してみるのは効果アリ、かな。

 

「え、えっと、秋月は大丈夫です?」

 

「もっと大きな声で!」

 

「秋月は大丈夫です!」

 

「もう一回!」

 

「秋月は大丈夫です!!……な、何だか、不思議と、大丈夫な気がしてきました!」

 

「本当?良かった!」

 

「そうですね、生涯をかけて、拾っていただいたご恩をお返しすれば良いんですね!相談に乗ってくれて、ありがとうございます!!」

 

「うん、どういたしまして!」

 

解決、かな?

 

 

 

にしても、艦娘、かぁ。

 

人間と同じ姿形で、人間と同じ心を持ってる。人間と何が違うんだろう?

 

秋月ちゃんなんて、中学生くらいの女の子にしか見えなかった。

 

これを機に、艦娘がどんな人達なのか知れたら良いな。

 




秋月
現状が幸せ過ぎて辛い。元気爆発なので立ち直りも早い。

希月弁護士
新米ながらも心理学の力で逆転無罪を勝ち取る。

旅人
気を遣った。

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