旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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サイコパスって外面を取り繕うのが上手いんですよ。


169話 メンタルケア 後編

何人かカウンセリングしたけど……、艦娘の皆んなは、旅人さんの名前を出す度に、とても大きな喜びの感情を感じているみたい。

 

こ、これって、もしかしなくても、愛情だよね……?!うわー、なんて言うか、大人だ。わたしには、愛とか恋とか、そう言うのはあまり分からないや。

 

「失礼するよ」

 

あ、新しい相談者さんだ。ちゃんとお話ししなくちゃね。

 

「はーい、どうぞー」

 

入っていたのは、白い長髪の、小学生くらいの女の子。セーラー服がよく似合っていてかわいい。

 

「ヴェールヌイだ。響と呼んでほしい。ごくっ……」

 

そう言って響ちゃんは、手持ちのスキットル……、お酒用の水筒を傾けた。

 

………………?!

 

「待った!!」

 

あまりにも自然に飲むからスルーしそうになったけど、それってお酒じゃない?!

 

「何だい?」

 

「み、未成年者の飲酒は法律で禁止されてます!」

 

「艦娘に未成年も何も無いさ」

 

そ、そうだった、確か、艦娘の精神年齢と肉体の年齢は必ずしも一致する訳では無いって……。

 

でも、これ……。

 

「ハラショー、このウォッカは当たりだな」

 

「その、身体とかに問題は……」

 

「無いね。至って健康だよ」

 

うーん、痩せてるけど、不健康なほどじゃないし……。やっぱり、人間とは身体の作りが違うのかも。

 

「それで、相談なんだけど……」

 

「う、うん。何かな?」

 

兎も角、話を聞いてみよう。

 

〜響の話〜

 

「司令官の人間関係は複雑だ」

 

「経歴も調べてはいるが、全てを知ることは到底できないだろう」

 

「だから、単刀直入に聞く」

 

「貴女は、司令官の何なんだ」

 

……!

 

微かな怒りと、不安……。わたしを警戒している?もしかして、旅人さんを取られると思ってるの?

 

嫉妬ね。愛されてるなぁ、旅人さんは。

 

「……落ち着いて、響ちゃん。旅人さんとは知り合いなだけだよ」

 

「知り合い?」

 

「そう。昔、旅人さんが逮捕された時に、弁護をしたことがあるの」

 

あれは大変な事件だったなぁ……。でも、最後は無事に逆転無罪を勝ち取ったんだけどね。

 

「……確かに、弁護をされた記録があるね」

 

分厚い手帳をめくる響ちゃん。記録って一体何だろう。

 

「これ?これは司令官の記録だよ」

 

「記録……?」

 

「ああ、私が調べられる範囲での司令官の経歴や人間関係を調査したものだよ」

 

見せられたのは、旅人さんの詳細なプロフィール。

 

まさか、これって……。

 

「あらかじめ言っておくけど、ストーキングじゃないよ。司令官には、調べて良いって許可をとってあるから」

 

「そ、そうなんだ」

 

違う、明らかにストーカーだ……。スケジュールから身体的特徴まで、全部記録してある……。

 

「もちろん、これ一冊だけじゃないよ。写真や動画でもまとめてあるし」

 

と、盗撮まで……。

 

確かに、ストーカー行為は、直接的な行動がない限りは民事だから、本人が訴えなければ問題はないけど……。

 

「本当に、旅人さんはこれを了承してるの?」

 

「うん、あの人は心が広いからね。好きなだけ調べて良いって言われたよ」

 

そんな……。神経が太い人だとは思ってたけど、まさかここまでとは。自分の行動を逐一監視されて、記録されているのに、何とも思わないの?

 

少なからず、ストレスは感じているはず……。そうじゃなくっても、ストーキングなんて犯罪だ。

 

「でもね、響ちゃん。行動を監視されるのなんて、凄くストレスになることなの。大切な旅人さんに迷惑をかけたくないでしょ?」

 

「ああ、大切さ、誰よりも、何よりもね。だから私は知らなくちゃならない。どれもこれも、司令官を守る為なんだ」

 

そう言う響ちゃんの目は、ガラス玉のように綺麗で……、でも、暗く濁っていた。

 

なんてことなの……。こんなことはおかしい。でも、聞き取った感情と実際に話している言葉に矛盾がない!

 

つまり、響ちゃんは心の底から、「自分が旅人さんのストーキングをすることで、旅人さんを守っている」と思い込んでいる……!!

 

「もちろん、好きな人のことを知っておきたいと言う好奇心もあるけどね。でも、それ以上に、司令官は私が守ってるんだ」

 

「だ、駄目、そんなの間違ってる!」

 

やめさせなきゃ!

 

「何も間違ってなんかいないさ。私は知るべきなんだ、司令官の全てを」

 

「……好きな人のことを知りたい気持ちは分かるよ?でも、そんなにたくさん調べるのは変だよ。聞きたいことがあれば、本人に聞けばいいじゃない!」

 

「……あ、その手があったね」

 

……え?

 

「私を含めて皆んな、監視カメラや盗聴器の設置ばかり気にしていて、本人に聞くと言うのを失念していたよ」

 

「み、皆んなって……、他にも監視や盗聴をしている子がいるの?」

 

「艦載機が飛ばせる人は毎日飛ばしてるし、艦種毎に監視カメラと盗聴器の設置をしてあるね」

 

うわっ……。

 

「見るかい?今も監視カメラはオンラインだよ。……ほら、司令官が監視カメラに手を振ってくれている」

 

本当だ……。執務室らしき場所にいる旅人さんが、笑顔で監視カメラに手を振っている……。この人、どういう神経してるんだろう……。

 

「ふふ、今日も素敵だよ、司令官……」

 

……旅人さんの神経もそうだけど、響ちゃんの精神も尋常じゃない。それに、他にも監視や盗聴をしている子がいるって言うし……、艦娘の心の闇は深いかもしれない。

 

「と、兎に角、ストーキングはやめよう?仮に旅人さんが迷惑してなくても、犯罪だよ!」

 

「そうだね。……でも、艦娘を裁く法律なんて、この国どころかどこの国にもないさ」

 

そうか、艦娘……!人間と何ら変わりはないから忘れていたけど、この子達は艦娘なんだ!艦娘を裁く法律は、無い……!!

 

「でも、言いたいことは分かったよ。私も裁かれないとはいえ、犯罪はしたくないからね」

 

でも、良心が無い訳じゃないみたい。感情表現が豊かで人間味のある子ばっかりだし。

 

「じゃ、じゃあ……!」

 

「いや、司令官のことを調べるのはやめないけど」

 

「そこはやめようよ!」

 

 

 

……ま、まずい。

 

この鎮守府はおかしい。

 

聞いたところ、所属する艦娘の殆どが、旅人さんに対して、盗撮や盗聴、ストーキング、私物のすり替えをしている……。

 

しかも、それを注意しても、やめる気がないみたいで……。

 

……「盗撮?まあまあ、これも愛故にや」

 

……「ここは譲れません」

 

……「まー良いじゃン?本人が良いって言ってるンだしよー」

 

暖簾に腕押し。糠に釘。その上、誰一人として、自分の行動に疑問を持っていなかった……。

 

これじゃどう考えても、旅人さんにプライベートな時間は一切無く、常に誰かに監視されていることになる。

 

それを許している旅人さんもそうだけど、こんなことがまかり通るこの鎮守府自体が異常だ!!

 

異常、なんだけど……。

 

「何、やってるのかな……?」

 

「はい!新聞を書いています!あ、今週のありますよ、読みますか?司令官の写真、よく撮れてますよ!」

 

「あ、ありがと……」

 

本人達はこの調子……。

 

「ええと、その、青葉さん、だったよね。何でも、この鎮守府で一番の情報通だとか」

 

兎に角、話を聞いてみよう。元凶を突き止めないことには、何とも……。

 

〜青葉の証言〜

 

「あ、盗撮と盗聴?私が原因ですよ」

 

………………。

 

………………え?

 

あれ?犯人……?

 

「?、どうかしましたか?」

 

「ど、ど、ど、どうかしましたか、じゃないよ!!!何で?!」

 

「何で、と言われましても。青葉は記者ですから。真実を追い求めた結果、盗撮と盗聴に至りました」

 

「至っちゃ駄目だよ?!」

 

「まあまあ、細かいことを気にしちゃいけませんよ。もっと大らかに生きましょう」

 

「いやいや!大らかにじゃないって!」

 

そこを大らかにしたらこの世は無法地帯になっちゃうよ!

 

「いやあ、でも、おかしな話ですよね。私が司令官に許可を取って監視カメラを仕掛けたら、皆んなが挙って同じことをするんですから。パクリですよパクリ」

 

こ、この子、まるで罪の意識がない……!!

 

それどころか、盗撮を正当な行為だと思っている……!!

 

どうしよう、更生の余地がない!!

 

「じゃあ、青葉さんが全ての元凶ってこと……?!」

 

「人聞きが悪いですね」

 

「駄目だよ、犯罪は!それに、旅人さんもストレスを感じてると思うよ?」

 

「そんなことありません!司令官は全てを受け入れてくれます!」

 

ぐぬぬ……。

 

「そんなに言うなら、司令官本人に聞いてみて下さい!」

 

スピーカーをオンにした携帯電話で連絡を取る青葉さん。

 

「もしもし司令官?盗撮や盗聴がストレスになってますか?」

 

『いや?別に。愛されて嬉しいなー、くらいにしか』

 

うう、何でですか……。

 

「ほら、ね?だから青葉は、取材をやめなくても良いんですよ!それじゃ!」

 

あっ!逃げた!

 

 

 

だ、駄目だ、この鎮守府は駄目だ。

 

皆んなまともじゃない。

 

……「はぁ、はぁ、提督のシャツ……。提督の匂いがする……❤︎」

 

……「このコートですか?司令官から借りたのです。良い匂いがするのです❤︎」

 

……「はぁん❤︎て、提督のパンツ!は、榛名は大丈夫じゃありません❤︎」

 

手遅れだった……。

 

どうしてこんな風になるまで放っておいたんですか?!!

 

「答えて下さい、旅人さん!!」

 

「え、俺?」

 

〜旅人の証言〜

 

「答えろって言われてもなぁ」

 

「気付いたらこうなってたんだよ」

 

「それより、悩んでる子はいた?大丈夫そう?」

 

………………。

 

「とりあえず、一通りは話を聞きましたけど、皆んな特に大きな悩みはないようです」

 

「戦うのが辛いとか、怖いとか言ってなかった?」

 

「一言も言ってませんでした」

 

「マジで?」

 

マジです。

 

「それより、鎮守府内での犯罪行為の多さですよ!何やってるんですか旅人さん!!」

 

貴方、艦娘の保護者でしょう?!

 

「え?皆んな良い子でしょ?」

 

「良い子じゃありませんよ!皆んな何かしらやってるじゃないですか?!」

 

「良いじゃん、そんなの。俺が許してるんだからさ」

 

………………はぁ。

 

「……まあ、百歩譲って、盗撮や盗聴が許されたとしても、それでもなおおかしいんですよ。……艦娘の皆さんの精神分析の結果、旅人さんに対する、強過ぎる愛情と執着心が見られました。このまま放っておくと危険です」

 

「危険?」

 

「まともな精神状態の子が一人もいないんですよ!」

 

このままじゃ、取り返しのつかない事件が起こるかもしれない。

 

「そうかい?今の所問題はないけど?」

 

「起きてるじゃないですか!問題!!……良いですか?愛されることが悪いとは言いません。けど、限度ってものがあるでしょう?!」

「壊されそうなほど愛されても、俺自身が壊れなきゃ問題はないだろ?」

 

ああ言えばこう言う!

 

「兎に角!艦娘にはもっと厳しく接して下さい!これ以上の犯罪行為を容認しちゃいけません!!」

 

「わ、分かった、分かった」

 

 

 

ああ、疲れた……。

 

最初はカウンセリングだったはずなのに、いつの間にか、常識を教えることになってたよね。

 

まさか、艦娘に、下着泥棒は犯罪だと教え込む日が来るなんて、夢にも思わなかった……。

 

それにしても、思いの外アットホームな職場だったな、鎮守府。

 

艦娘の精神構造はちょっと変だったけど、基本的には人と変わらなかったし……。

 

ニュースとかで言われているほど、危険な集団ではないのかもしれない。

 

艦娘も人と変わらない、心を持った生き物なんだな……。

 

 

 

×××××××××××××××

 

「……帰ったかい?」

 

「帰ったっぽい」

 

「人の振りをするのは疲れマース」

 

「精神分析を躱すのは難しかったね。変に思われれば司令官に疑いがかかるからね」

 

「人間の感情は分かりませんからねー。提督への愛は隠せませんでしたけど、それ以外は上手く隠せたし、万々歳でしょう」

 

「喜びも、悲しみも、全ての感情は提督の為にあるのですわ。提督以外のヒトに感情を向けるのは、酷く疲れますの」

 

「にしても、提督も提督よ!私は提督以外の人間なんてどうでも良いのに……」

 

「まあそう言うな。提督は気を遣ってくれたんだろう」

 

「気遣い無用よ。私は提督がいれば後はどうでも良いの。皆んなだってそうでしょ?」

 

「まあ、な。正直な話、国も人もどうでも良い。提督さえいればそれで……」

 

「まあまあ、一応、外面を取り繕っておかなきゃ。社会で生きる上では大事だよ、外面って奴がね」

 





常に飲んでる。

青葉
全ての元凶。

希月弁護士
艦娘達にまんまと騙され、充実した気持ちで鎮守府を後にする。

艦娘
基本的にサイコパス。人間とは精神構造が全く違う。旅人に関すること以外では、殆ど心が動かない。しかし、外面を取り繕うのが上手く、心がある振りをする。人間の感情を模倣する理由は、「旅人が喜ぶから」。

旅人
基本的にサイコパス。子供のように純粋な精神を持つが、常人なら精神が崩壊するようなショックやストレスに笑って対処してしまう。キチガイじみた強メンタル。異常なSAN値。
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