「はゔぁなぐったーいむはゔぁなぐったーいむ!」
え?ムーンライト伝説じゃないのかって?知らんなぁ。仮にタキシードに仮面を付けていたとしてもムーンライト伝説じゃなきゃならないなんて法はないィ。ごめんね、素直じゃなくてね。
「………………その、司令は、何を?」
「見れば分かるだろ?」
「いえ、全く」
何だと?俺はそんな不可解な行動をとっているだろうか?
「見たままだよ、見たまま。おかしなことはやってない」
「……タキシードに白の仮面のまま、縦笛からギターの音を出して、某有名ロックナンバーを熱唱する姿が、おかしくないと?」
「何か変か?」
「……いえ、司令が正しいと言うなら、何もおかしくはないのでしょう。不知火の浅薄な考えをお許し下さい」
何も謝ることはないのに。畏まった子だな、不知火は。
「ところでぬいぬい」
「不知火です」
「今、艦娘に対して持ち物検査をやっているんだ。ご協力お願いします」
「……はあ、持ち物検査ですか」
「まあ、見るからに検査してますって態度だからな。分かってたと思うが」
「どの辺が検査してますって態度なんでしょうか……」
おかしいな、検査してますって雰囲気を出してたはずなんだが。まあいいや、とっとと検査をしよう。
「先ずは手荷物を見せてくれ」
「了解です」
俺の懐から出した机に、不知火の手荷物が置かれていく。
「まず財布」
「はい」
「鍵」
「はい」
「……これだけ?」
「はい。あまり持ち物を増やしたくはないので」
んー。まあ、良いか。
「艤装は?」
「これです」
「主砲、高射砲、魚雷……」
うん、普通だな!
「陽炎型の戦闘方法は格闘攻撃が主ですから。特殊な装備はありません」
そうだったな。陽炎型は格闘戦がメインだったよな。不知火はパワーを活かした戦闘スタイルが魅力だ。特に、パンチ力には定評があるらしい。
艤装で変わっているところと言えば、赤いスカーフくらいか。
やっぱり問題はない。
「時間を取らせてすまなかったな、行っていいぞ、不知火」
「はい。……その、一つ質問してもよろしいでしょうか」
「何かな?」
「タキシードと仮面はまだ良いんです。ロックも、まだ分かります。でも、どうやって縦笛からギターの音を出しているんですか?笛から弦の音は出ないと思います」
あ、あー、はいはい。
「昔、そふとくりーむと言う悪の組織に関わった事があってね。その時ちょっと」
「ちょっと……?」
「まあ、正確にはガリクソンプロダクションってところでだけど。とある音楽講師に、縦笛の吹き方を教わってね」
「はあ……。縦笛、ですか」
何かおかしなことを言っただろうか?
縦笛から熱いビートを奏でても問題はないと思うんだけど……。
「………………いえ、もう、何でもありません。司令が正しいのですから。固定概念は捨てましょう」
「?、よく分からないが、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。もう、なんか……、大丈夫です」
そっか。
不知火は頭を抱えて鎮守府に戻って行った。頭痛かな?
「提督?何やってるの?」
「山風か」
不知火と入れ替わりで、鎮守府から出てきたのは山風。小動物系のかわい子ちゃんである。別に机の下に隠れてむぅーりぃーとか言う訳ではないが。
「おいでー、パパだよー」
「えっ、提督、あたしのパパなの?」
「年齢的にはパパでもおかしくないんだな、これが」
大変笑えないが、俺はもう山風くらいの娘がいてもおかしくない年なんだよな。
「提督がパパ……。良いかも」
いっそのこと養子にでもしようかしらん?いや、結婚したいから駄目って反対されるだろうな。
「じゃ、じゃあ、ね、あの、パ、パパ?何やってるの?」
くー、うほう!良いねぇ!可愛いぞ山風ェ!おじさんがパパにでも何でもなってあげちゃうからな!!
「パパはねー、艦娘の皆んなに持ち物検査をやってるんだー。山風も協力してくれるかい?」
「い、良いよ。協力、する」
よし。
「じゃあ、先ずは手荷物を見せてくれるかな?」
「う、うん、分かった」
そう言って、手荷物を机の上に置いていく山風。動作がいちいち可愛いなオイ。
「これは?」
「携帯電話。アイフォンだよ」
新しいモデルのやつだ。
「これは?」
「お財布。あと、鍵と、飴玉かな」
財布は小さめ、鍵にはキーホルダーが付いている。飴玉は駄菓子屋で売ってそうな、粗目砂糖がまぶしてあるやつ。分かるよ。これ美味しいよね。
「これは、俺の髪で編んだミサンガか」
「うん、提督の髪、綺麗だから……」
「でも、滅多なことでは切れないと思うぞ」
俺の髪、硬いし。
「ううん、良いの。願い事とか、無いし。お守りとして着けてるから」
「そうか。なら、良いんだけどね」
さて、持ち物はこんなもんか。
次は艤装を見せてもらおう。
「艤装は?」
「うん、今呼び出すね」
おっ、出てきたな。
「これは……、獣狩りの斧か」
「そうだよ。よく使うから……」
獣狩りの斧……。古都ヤーナムの狩人が使う仕掛け武器だ。柄を伸ばすことが可能で、大斧からハルバードに変形する機構を持つ。
「で、これは改造主砲か。水銀弾を撃てるようにしてあるな」
「うん。水銀は重いから、足止めには最適。あたしのは散弾だから、射程は短いけど」
どうやら、白露型得意の艤装パリィ用に調整されているようだ。
艤装パリィと言うのは、相手の攻撃に合わせて砲撃をして、体勢を崩す技。
大抵は、体勢を崩した敵は、その瞬間に内臓を引き摺り出されて惨殺される。
「む、この瓶は……」
鉛の秘薬か。飲むと一時的に体重が増加する秘薬だ。
「それ、鉛の秘薬……。あたし、軽いから。戦いの時に踏ん張りがきかなくて」
「飲み過ぎないようにな」
「うん」
よし、艤装にも問題はない。総評、無罪!やっぱり山風は天使だった!
「よしよし、良い子だな山風は。問題無しだぞ」
撫でてやろう。
「えへへ、本当?あたし、良い子?」
「ああ、良い子だよ、山風」
「あたしのこと、見捨てない?」
「見捨てる訳ないじゃないか」
「そう、そっか、そうだよね。えへ、えへへへへ」
あー、可愛い。
やっぱりうちの子は天使やったんや。問題なんて無いんや。
誰だ、うちの子の持ち物検査をやる度にSAN値チェックが入るなんて言った奴は!ほのぼのハートフルストーリーじゃないか!良い加減にしろ!!
「なあ武蔵!!」
「え?あ、お、おう」
通りすがりの武蔵に声をかける。
「ところで武蔵。俺が何やってるか分かるよね?」
「うむ、分からん」
「OK、そんなこともある。ならこれでどうだ?」
懐からブルマを取り出して見せる俺。
「すまん、余計に分からん」
「……そっか」
残念だな。
「一応、持ち物検査をやっているんだけど、武蔵も協力してくれる?」
「む、そうなのか。とてもそうは見えなかったが……。まあ、構わないぞ」
さて、了承も得たことだし、武蔵の手荷物を検査していこうか。
「財布と鍵、替えの眼鏡、プロテインバー、俺のコート。……俺のコート、武蔵が持って行っていたのか」
一張羅って訳でもないし、困らないんだけど。
「サイズも丁度良いからな、借りているぞ」
無断で借りられていた件。
「……駄目か?」
まるで悪びれずに首を傾げる武蔵。駄目かどうかと問われたら。
「世間一般的には駄目らしいよ」
と、厳しい答えを返してみる。
「そうか。では、改めて言おう。借りるぞ」
「良いよ」
でも、男物だよ?良いのかね。まあ、本人が良いなら良いんだろう。
「お次は艤装だ。見せてくれ!」
「うむ、艤装か」
黒の巨大な手甲か。
盾みたいな形だ。肘の部分にはポンプのような機関があり、手首部から圧縮空気を噴出するギミックがある。
「……これだけか?」
「ああ」
「主砲は?」
「部屋に置いてある」
そうか、殴った方が早いってことか。
良い具合に脳筋だな。
「武蔵、ありがとう。問題ないよ」
「因みに、何を持っていれば問題ありなんだ?」
え?それは……、
「これとか、あれとか……、あとこう言うのとか」
「……何だそれは」
「輝くトラペゾヘドロン、アルハザードのランプ、銀の鍵……、ナコト写本にネクロノミコン、グラーキの黙示録」
流石に、こう言うものを野ざらしにはできない。
「よく分からんが……、それは『分かってはいけないもの』だな?」
「平たく言えばそうだね」
「他にも、麻薬、聖杯、SCPとかも規制対象だ。決して軽はずみな気持ちで持ち歩かないで欲しい」
「まず、手に入れる方法がないんだがな、そんなもの」
そう?結構その辺に落ちてるじゃん。
いやー、結局、危険物を持ち歩いている艦娘はいなかったな。
所有していたとしても、しっかりと管理しているみたいだし、言うことなしだ。
うん。
危険物は、なかった。
「タキシード、洗濯しておきますね」
「シャツをこちらへ」
「提督、パンツ下さい」
危険人物は多々いたがな!
不知火
頭を抱える。
山風
かわいい。
武蔵
黒いメガデウス。
旅人
SAN値9999。