一ヶ月くらい更新はほぼ無いと思います。
季節は初夏。
段々暖かくなって来た今日この頃。
私は、噂の黒井鎮守府の調査に来た。
もちろんそれは、マスコミのような野次馬根性ではなく、正当な理由を持って、職務としてのことだ。
ここに来る前の上司の言葉を思い出す。
……『上層部は腐敗している!日本の海がここまで平和になったのは一重に、黒井鎮守府のお陰だろう!』
……そうだ、その通りなのだ。
大本営の上層部は、腐敗している……。
深海棲艦の襲撃以前から、何かと国家存亡の危機に陥ることが多かった日本は、かつての海軍、空軍、陸軍を再結成し、国防の要とした。
だがしかし、それも名ばかりで。
所詮は平和ボケした日本人と言うべきか、再編された軍隊は瞬く間に腐敗した。
有能な総理の尽力も虚しく、大本営はただの、癒着や天下りの温床となったのだ。
そんな大本営にとって、流星の如く現れ、異例の速さで海域を開放していき、ついに日本海を奪還した黒井鎮守府は、邪魔な存在だった。
よって、黒井鎮守府の功績は改竄され、秘匿され、評価されることはなかった……。
しかし、そんなことは許されて良いはずがない!
幸いにも私は上司に恵まれていた。私の上司は、黒井鎮守府の待遇を変えようと考えているのだ。
私自身も、今現在の黒井鎮守府の評価はおかしいと思っている。これを機に、黒井鎮守府の功績を再評価し、しかるべき地位と名誉を与えるべきだ!
そう考えつつ、私は、件の黒井鎮守府へと足を運ぶのであった……。
「これは……、入って良いのだろうか」
黒井鎮守府に到着してまず気付いたのは、憲兵がいないと言うことだ。
大きな門が目についたが、普通はいるはずの見張りが一切いないのだ。
「鍵も開いている……」
一体どうなっているんだ?
兎に角、入ってみよう。
さて……、門から本棟まで距離があるな。
だが少なくとも、見える範囲にはある。行くか。
そして、しばらく歩ったところで。
カラカラと、鉄棒か何かを引き摺る音が、私の真後ろから聞こえて来た。
「何だ?」
振り返ると、そこには。
「ひっ、あ?!」
片手に肉片のこびり付いた奇形の鉈を持ち、もう片方の手に、恐らくは深海棲艦であろう、いや、深海棲艦だったであろうものの生首をぶら下げる、銀髪の少女がいた。
美しい銀の髪を返り血で赤く染めたその姿は、筆舌し難い恐ろしさで、私には、地獄からの使者のように見える。
何より恐ろしいのはその瞳だ。
夢現の中にいるようでいながらも、確かな智慧を秘めたその瞳に見つめられると、頭蓋を割られ、その中身を見られているような錯覚に陥る。
「な、なん、いや、あ……」
私が、恐ろしさのあまり言葉に詰まっていると、目の前の少女は、薄く笑って声をかけてきた。
「侵入者かしら?」
……はい、などといったら、その瞬間に、少女の手にある鉈で首を斬り落とされる。
そう思った私は、恐怖を押し殺し、必死に声を上げた。
「わっ、私は憲兵だ!黒井鎮守府の待遇を改善するため、視察に来た!」
すると、銀髪の少女は、目を細め、私の目を見つめてきた。
「……本当みたいね。取り敢えず、提督に会ってもらいましょう」
……目を見れば分かる、と言うやつなのだろうか。信用は得たらしい。
「此方へ。提督に連絡をしました」
連絡をするような仕草は見られなかったが、取り敢えず、この少女の指示に従うことにした。詳しく聞く勇気が持てなかったと言うのもあるが。
……そして私は、先導する少女の後ろにくっ付いて歩き、この鎮守府の提督の元へ案内してもらった。
「提督、お客さんよ」
提督、と呼ばれた男は、事前に見た書類の通りの、白髪の大男だ。
「ありがと、海風。あ、こんにちは」
海風と呼ばれた銀髪の少女は、提督と呼ばれた大男に首を見せると、一礼してそのまま去っていった。
「は、あ、こ、こんにちは?」
そして大男は、軽く会釈して挨拶をすると、こんなことを言った。
「視察ですか?しなくて良いですよ?」
は?
「い、いや、そう言う訳にも行きませんよ!拒否権はありません!」
「いやあ、うち、見られたら困るとこで一杯ですからねえ。賄賂とか通じます?」
な、何なんだこの男は?
ヘラヘラ笑いやがって。
こんな男が、日本最大の鎮守府の主人なのか?
「そう言ったものは一切受け取りません!」
「あ、そう?……で、何が見たいって?」
「艦娘の管理状態と、戦果ですね」
「あー、はいはい。じゃあ取り敢えず、俺について来て下さいよ。今日は元々、鎮守府を散歩するつもりだったし、丁度良いや」
いやいや、どう言うことだ。
提督とあろうものが、平日の昼間に鎮守府を散歩するつもりってどう言うことなんだ。
提督と言えば、執務室で書類仕事をしているものだろうに。
「んじゃあ、こっちから行きますか」
「あ、ちょっと!」
くっ、マイペースだこいつ……。
廊下を歩いて、二階に上がって行った。クソ、着いて行ってみるしかないか。
ん?いや、折角提督が目の前にいる訳だし、直接聞いてみるのも良いか?
「では早速、艦娘の管理状態についてですが」
「ん」
「え?」
「こんなん」
階段を上ったその先は、大部屋だった。
「んー、プリン美味しい!」
「萩、六巻取ってー」
「はい。……嵐、その漫画面白い?」
こ、これは……。
「……艦娘ですか?」
「そうだね」
な、の、野放し?
「い、いや、これは、不味いでしょう?!艦娘ですよ?!人間なんて単純な腕力で縊り殺せるんですからね?!」
あり得ない!
艦娘は人の形をした兵器だ!
それを、こんなに自由にしておくか普通?!
危機管理って言葉を知らないのか?!
「いやいや、うちの子はそんなことしませんよー」
「ふ、ふざけないでいただきたい!」
「ふざけてねーよ。確かに、艦娘は人を殺せるだけの力があるけど、それと実際に殺すかどうかは別の問題だろ」
り、理屈の上ではそうだが……!
だからと言って、こんな杜撰な管理をするものか?!
「確かに見た目は人間ですが、艦娘は人ではありません!裏切られる可能性も考慮して、しっかりとした管理をすべきでしょう?!」
「まあ、あれだよね。裏切られたら俺がそこまでの男だったって話で」
「そ、それは貴方の覚悟の話でしょう!もしもこれだけの艦娘が反旗を翻せば、どれだけの被害が出ると思っているのですか?!」
「人を疑って生きるより、信じて裏切られる方がマシだ。大分、大分マシだ」
「だから、艦娘は人では……!」
「人間だよ」
「はい?!」
「心があるんだ、人間と変わらないだろう」
はぁ……。
「もう良いです。ここで、人間とは何かについての議論をするつもりはありません。ただ、この事は、しっかりと報告させてもらいます!」
仕方ない。
これは本部に持ち帰って、厳正に対処しよう。
「好きにしなよ。……お次は戦果だったか?資料室は上だ」
資料室……。
もう一階階段を上った先、会議室のすぐ隣に資料室があった。
「ここが資料室だ、好きに見て良いですよ」
では、言われた通りに資料を……。
『時雨:週間撃破数1000体達成』
『長門:量産型レ級エリート通算100体撃破』
『木曾:量産型姫クラス通算100体撃破』
「………………馬鹿な!!」
「えっ何が?」
あり得ない!
こんな馬鹿な記録があるか!!
「何ですかこの記録!」
「何って……、戦績だけど」
「こんな戦績がありますか!」
週に千体?レ級や姫クラスを百体?あり得ない、あり得るはずがない!
週に千体なんて、並みの鎮守府一つ分の戦果だ!ましてやレ級や姫クラスなんて、鎮守府一つが総力を挙げてやっと一体倒せるかどうかなんだぞ!!
「うち、強いから」
「改竄するにしても、現実的な値を書くべきでしょうに!」
「マジだって」
ぐ、しかし、黒井鎮守府の戦力が強大なのは事実。強ち間違いでもないのか……?
いやしかし、それにしたってこの記録はおかしい。
どう考えても、こんなに沢山は撃破できないだろう。週に百体の間違いではないのだろうか。
「本当の記録は無いのですか?」
「いや、だからさ、本当も何も、それが本物の戦果だって」
「冗談はやめていただきたい。いかに黒井鎮守府が優れているとは言え、ここまでの戦果は出せないでしょう」
「うちには出来るんだよ」
「くっ、何を馬鹿な。記録の改竄は大罪ですよ!この件についても厳正に対処させていただきますからね!」
「はいはい、勝手にしろよ」
戦力の私物化、杜撰な管理、記録の改竄……。黒井鎮守府、まともじゃない!
「帰らせていただきます!追って罰を通達しますからね!!」
「あ、待てよ」
私は、提督の制止を振り切り、階段を下りていった。
艦娘が野放しになっている危険な空間から離れたい気持ちももちろんあったが、それよりも、不正を正したいという義憤に駆られていたのだ。
しかし、建物を出たところで、私の足は止まった。
いや、止められた。
大きな破砕音と共に、目の前が爆ぜたからだ。
「な!」
目の前には、破砕音の原因、奇妙な形の金槌があった。
「お帰りかい、お客さン」
艦娘だ……!
しかも、最初に会った、銀髪の少女と同じ目付きをしている!
「何を……」
「話、聞いてたぜ。随分なこと言ってくれるじゃン?お陰で、タダで帰すには行かなくなっちまった」
ま、まさか。
逃げ出そうと辺りを見回すが、その時には、同じ目付きの少女達に囲まれていた。
少女達は皆、薄く笑い、奇特な武器を片手に、私に迫って来たのだ。
「ああ、ああ、安心するといい。僕達は命を奪う事はない。ただ君は忘れるんだ。忘れるだけなんだ」
「今日の記憶を処理するだけっぽい。提督は相変わらず優しいっぽい」
「はーい、記憶処理装置、持って来たわよー」
何だ、一体何なんだ!
私は一体、何をされるんだ?!
「君は、黒井鎮守府の不利益になる。だから……」
すると少女達は、物凄い力で私の身体を固定すると、私の頭に何かを取り付けた!
「待て、何をする気だ、やめろ、やめろ!やめろおおおおおおお!!!」
「大丈夫、すぐに忘れるよ」
白露型
侵入者を感知するとどこからともなく現れる。
旅人
財団からかっぱらって来た記憶処理装置を勝手に利用。