差別は嫌いだ。
俺は最初に、艦娘の願いを叶えると言ったんだ。
例え、この黒井鎮守府以外の艦娘の願いであっても、俺は叶える。
有言実行初志貫徹。ブレない男なのだ俺は。
さて、誰にしようか。
そんなことを考えつつ、休憩室に行く俺。休憩室には大抵誰かいるからな。
そこには、
「もぐ、もぐ……、んん〜!おいひいです!」
ケーキを一ホール頬張る翔鶴の姿が!
……休憩室の冷蔵庫には、俺が手慰みに作ったお菓子が大量に常備されていて、自由に食べて良いと言ってある。
そして、大飯食らいの戦艦空母の皆んなは、放っておくとお菓子を喰らい尽くしてくれるのだ。作った側からすればとっても嬉しい。
「もぐ……、あ、どうも、旅人さん」
「やあ、翔鶴」
まあ、特に何か問題がある訳でもなく、いつも通り、通常のコンタクト。
さて、翔鶴である。
翔鶴……、翔鶴か。
ほぼほぼ合併状態にある音成鎮守府の艦娘だ。今日もうちに訓練しに来たのだろう。今は休憩中と言ったところか。何も問題はない。
さて、願いを聞こうか。
「やあ、ようこそ黒井鎮守府へ。この紅茶はサービスだから、まずは落ち着いて飲んで欲しい」
「あ、ありがとうございます。……その、何かご用でしょうか?」
俺は翔鶴に優しく微笑む。
「……また、ですか?」
「うん、「また」なんだ。済まない。仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない」
そう、「また」だ。
また、いつもの思い付きである。
「でも、この俺の顔を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。そう思って、そのケーキを作ったんだ。じゃあ、願いを聞こうか」
「願いを?……成る程、今回はそう言う趣向なのですね」
理解が早くて大変OK。
つまり、そう言うこと。
「因みに、その、お願いとは、どの位の範囲まで……?」
「そんなん、俺に出来る範囲なら何でもよ」
ここで我が黒井鎮守府の艦娘ならば、「ん?今何でもするって言ったよね?」となって、野獣の眼光を見せられることになるところだが、音成鎮守府なら安心安全。安請負しちゃうもんねー!
「んー、そう、ですねえ……」
ケーキを食べ終え、口を拭いながら思案する翔鶴。何だ?何でも聞くぞ?
「それじゃあ、動物と触れ合いたいなー、なんて……」
「OKだァ!」
何て優しい答え。まともだ。
首輪付き、はマンネリ感。動物園、じゃあ触れ合えないな。
ならば答えは一つ。
「奥羽山脈、行こう!」
「……奥羽山脈?」
東北の、秋田の方、奥羽山脈の二子峠。あそこには俺の友人がいる。いや、人ではないからな、友人と言って良いのか分からんが、それでも、俺は友人だと思ってはいる。
そんな友人達に会いに行こうじゃないか。
さあ、やって参りました奥羽山脈。
初手獣化からの遠吠えで、知り合いを呼び寄せる。
『ウオオオオオオォォォン……!!!!』
するとどうだ、二子峠から沢山の犬が!!
『久しぶり、お前ら!元気してたか?』
『おお!久しぶりだな、旅人!』
『食い物寄越せ!』
『旅人だ、旅人の野郎だ!』
はっはっは、戯れるな戯れるな。いやあ懐かしいな、ハイブリッドの件以来かな、ここに来るのは。
「え?あの……、ちょっと待って下さい。……話、通じてるんですか?」
「さっきから皆んな喋ってるだろ?」
「いえ、その……、吠えてはいるな、とは思いますけど……」
んー、やっぱり通じてないか。犬と話せない人多いよな、何でだろ。
まあ、それはさておき、
「ほら、触れ合って良いぞ、翔鶴」
「は、はい、じゃあ……」
触れ合うが良い、翔鶴よ。
「わ、もふもふ……、可愛い」
おっかなびっくりと言った様子で犬を撫でる翔鶴。もちろん、翔鶴の方が可愛い。
『何だこの女?』
『俺の……、嫁?』
奥羽軍の戦士の一匹、佐助に尋ねられる。因みに、佐助の犬種は柴犬だ。……まあ、翔鶴は俺の嫁と言っても過言ではないだろう。一応ケッコンカッコカリの指輪も渡してあるし。
「この子、お名前は何て言うんですか?」
「ああ、こいつは佐助、そいつはロケットだな」
「そうなんですか……。男の子ですか?」
「うん、奥羽軍の戦士は大体男だよ」
「戦士?!」
この山にいる犬は皆んな勇敢な戦士だよ。
「た、戦うんですか?」
「有事の際には」
侵略者が現れたり、熊が出たりしたら戦うんだぞ、奥羽の戦士達は。
「ほら、餌でもあげると良い」
「は、はぁ、そうですか。佐助くーん、おやつだよー」
『おお、ありがとよ』
うん、良い画だ。動物と美女。視聴率アップ間違いなし。キルビジめいて視聴率アップですわ。ヘルピープルも納得の可愛さ。
写真でも撮っておくか。ベンもジョンも死んだし、会える内に会っておかないとなー。
犬との触れ合いを存分に楽しんだ翔鶴と別れ、鎮守府に帰ってきた。
さーて、まだまだ聞くぞ、まだ聞くぞ。
次は、と。
「くっ、黒井鎮守府の皆んなには負けてられない……!はっ!やっ!てやぁぁぁ!!」
訓練場で必死に刀を振るう神風を見つけた。
袴か。このご時世に大正浪漫感溢れるこの格好。良いじゃん。
「何やってんの?」
「あ、旅人さん!」
会話コマンド。
……何?普通だって?いや、俺、普通の人だから。いきなり抱き上げたりとかそんなことはしないさ。
さて、何やってんのかな、と。
「どうしたの、やけに熱心に訓練してるけど」
「旅人さん、お願いがあるの!」
お、話が早いな、実にOKだ。
「何だい?」
「私を強くして!!」
「えっ」
えー。
なんか、こう、キャピキャピしたやつを予想してたから……。神風の神風をペロンしてペロンみたいな……。
「お願いしますっ!私、黒井鎮守府の皆んなみたいに、強くなりたいんです!!」
「……まあ、良いか」
ここまで熱心にお願いされちゃあねえ。
「……で、えーと、強くなりたい、だっけ?」
「ええ!」
……参った、普通にどうしよ。
俺、強くねえし。ウタカゼで例えるならば俺は知恵と愛情にしか振ってない感じ。戦いは門外漢。
「あー……、えー、神通、は駄目だな、訓練で殺しかねん、鹿島、も基礎しか教えられないし……、そうだ!」
そうだ、装備。
装備を変えれば簡単に強くなれるんじゃないか?
「これ、あげる」
「……これは?」
「飛竜刀」
ユクモ村で狩ってきた。言っておくが、俺は一応G級ハンターの資格を持っているぞ。
「こんな凄い業物、貰えないんだけど……」
「良いから貰ってよ。俺が持ってても腐らせるだけだしさ」
と言う訳で飛竜刀を押し付けておいた。
「さて、これでいくらか強くなったんじゃない?」
「……いえ、得物が良くなっても、地力は変わってないから!」
地力ねぇ。そう言うのは本当、継続して訓練するしかないからなぁ。積み上げるしかないのだ。
「地力をすぐに鍛えるのはちょっとなあ……」
「やっぱり、無理、かな?そんなうまい話は無い?」
「いや、あるにはあるけど……」
手っ取り早く地力を鍛える方法なら、人間をやめるのが一番早いんだけど、まさかおすすめする訳にはいかねえしな。となるとハーブか、ポーションか。ポーションは貴重だからなー。
でも、他でもない神風のお願いだ、できるだけ叶えてやりたい。多少の出費が何だ。
「だったらお願い!私を強くして!尊敬する足柄さん達に追い付く為にも、手段は選んでられないの!」
「しょうがないにゃあ……、良いよ」
テレテレッテレー、ノースティリス産、潜在能力のポーション。
「飲むと良い。ちょっとだけだが、強くなれるよ」
正確には強くなる余地が増える、だが。
「……え、その、薬とかは……」
ん?何か問題が?
「いつもみたいに魔法とかで強くして貰えるのかと……」
バフ魔法は一時的な強化だから。
「まあまあ、ポーションどうぞ」
「え?これ大丈夫なの?本当に大丈夫なの?」
「一気、一気!」
「わ、分かったわ……。えいっ!」
お、飲んだ。
「あとはこれ、キュラリア」
ノースティリス産ハーブ。ノースティリスのハーブは何故かは知らんが食べると大きく経験値を得るからな。味は不味いが。
「これ、食べるの?」
「不味いけど、効くよ」
恐る恐るハーブを口にする神風。
「う、うえっ、本当に不味い?!」
不味いよ、そりゃあ。えぐみと苦味の集合体みたいな感じだよ。下手すりゃそこら辺の雑草の方が美味い。
「噛まずに飲み込むんだよ」
「……うう、これ、本当に強くなってるの私?」
「ああ、ちょっとづつだけど、確実に強くなってるよ。……ポーションとハーブ、数日分あげるね」
と、ポーションとハーブの在庫を押し付けて、俺はクールに去るぜ。
おっと、その前に。
「口直し、要るかい?」
「うえっ……、う、うん、良ければ何かくれない?」
「はい、どうぞ」
口直しと言ったら決まってる。
熱い口付けだ。
「んにゅ?!!」
何だい、キスくらいで真っ赤になって。そのまま神風はフリーズした。
……いやー、処女からかうのは面白いなあ!
翔鶴
動物と触れ合えて満足。
神風
強くなった。
旅人
経験豊富なやり手。