旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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秋刀魚食いてえ。


194話 秋刀魚漁

秋。

 

秋刀魚が美味しい季節だ。

 

夏の焼けつくようなあの日差しとは打って変わって過ごしやすい陽気、実りの秋だ。他にも、読書の秋にスポーツの秋、食欲の秋と話題には事欠かない。

 

でも、そんなことより、秋刀魚が美味しい季節だ。

 

 

 

……秋刀魚、食いてェ……。

 

 

 

秋刀魚が食いてえ。刺身にして生姜醤油で、塩焼きにしておろしポン酢で、蒲焼にして、揚げ物にして、炊き込みご飯にして……。

 

……今、俺は、私事で作戦を発令しようとしているッ!!

 

職権乱用?黙れ、俺は止まらないんだよ!!

 

 

 

はーい皆んなー集まってー!作戦会議の時間だよー!この一声で、鎮守府内の艦娘は会議室に集合した。急な命令だと言うのに、このやる気。頭が下がる思いだ。

 

「暇な子ー、手挙げてー」

 

「「「「はい!」」」」

 

んー、全員暇なのかー、そっかー。

 

「はいはい、そんな訳ないでしょ。本当に暇な子は?」

 

そう言ってみると、ポツポツと手が下がっていく。何だ、皆んな結構予定あるじゃん。良かった。暇は無味無臭の猛毒だからな、暇、良くない。

 

そして残ったのは、真に暇な数人だった。

 

「最上ー、暇なの?」

 

「うん、予定ないんだー」

 

「鳥海も行ける?」

 

「はい!」

 

「利根と……、江風もか」

 

「暇じゃよ」

 

「うン、オッケーだ」

 

「卯月も?」

 

「うーちゃんも大丈夫ぴょん」

 

「菊月もOK?」

 

「勿論だ!」

 

と、まあ、そんな感じで。

 

今回は六人で良いか。航巡重巡駆逐と良い感じだし。

 

「じゃあ、出撃、お願いできるかな?」

 

「「「「了解!」」」」

 

「まあまあ、出撃と言っても大それたことはしないけどね。確認された深海棲艦の補給部隊を叩くついでにちょっと漁するってだけよ」

 

嘘だ。

 

本当は逆だ。

 

秋刀魚漁しようとした場所付近に深海棲艦が湧いてるから、ついでにぶっ殺すだけだ。

 

人間の屑の理論である。

 

まるで将棋だな(意味不明)。

 

でも皆んな、文句言わずについて来てくれる。天使だ。

 

「さあ、行くぞ!旅人号にのりこめー^ ^」

 

「「「「わぁい^ ^」」」」

 

 

 

 

 

さて。

 

我が黒井鎮守府の力を以ってすれば、輸送部隊程度一網打尽な訳だが。そのはずなんだが。

 

「んんー?んんんんんんんー?思ったより数多いんだけどもー?」

 

ざっと見て輸送艦護衛艦諸々含めて三千はいるかな?

 

……これ、倒せる?

 

全滅は無理じゃね?

 

「不味ったなあ、今からでも誰かもっと制圧力がある子呼ぶか?」

 

空母とか、戦艦とか。

 

「む、心外だな」

 

「菊月?」

 

「この程度の軍勢……」

 

菊月の肩から伸びたグレネードランチャーが火を噴き、数体の深海棲艦を纏めて吹き飛ばした。

 

「私達だけで充分だ」

 

あらそう?

 

なら、良いか。

 

「じゃあ、そうだな。……無双ゲーの始まりだ!」

 

 

 

×××××××××××××××

 

「卯月、行くぞ!」

 

「うー、うーちゃん的には、こんな艤装積みたくなかったぴょん……」

 

文句を言うな。

 

あと、そのTシャツダサいぞ。何ださんまって。

 

「早く艤装を出せ」

 

「むー、良いぴょん、後で司令官に泣きつくぴょん。沢山慰めてもらうんだぴょん」

 

「好きにしろ」

 

さあ、行くぞ!

 

「ターゲット、確認。排除、開始……!!」

 

艤装呼び出し、パルスライフルWG-XP2000。

 

弾数は200、射程は18000。

 

ばら撒くように放てば、深海棲艦は次々と蒸発していく。

 

続けて、小型二連ミサイルWM-S40/2、グレネードランチャーWC-GN230を呼び出し。

 

両武器の作り出す爆轟に包まれた深海棲艦は、骨も残らず消し飛ぶ。

 

更に、レーザーブレードLS-2001。

 

これで、接近してくる深海棲艦を斬り伏せる。灼けた深海棲艦の匂いが心地いい。

 

「卯月ィ!!!」

 

「あーもう、分かったぴょん!艤装呼び出し!ISONOKAMI mdl.2!!」

 

ISONOKAMI mdl.2……、アサルトライフルだな。それも、装弾数に特化し、継戦能力を高めたもの。

 

うむうむ、良い選択だ。卯月も分かってきたじゃないか。

 

両手のISONOKAMI mdl.2を乱射しながら、深海棲艦に吶喊する卯月。良いペースだ、これならすぐに全滅させられ、ッ?!!

 

「回避しろ卯月!!!」

 

「分かってるぴょん!!」

 

その時、大出力のビームが、私達のすぐ側を掠めた。

 

「危ないなッ!!」

 

「相変わらずとんでもない威力ぴょん!!」

 

これほどの大出力のビームとなると……、

 

「うむ、上々じゃな!」

 

利根だな。

 

「おい、危ないだろ!ちゃんと狙え!」

 

と注意するが、

 

「いやー、すまんの!」

 

悪いと思っているんだかいないんだか……。

 

しかしあの、大型のジェネレーターに直結した大型のビーム砲の威力には、眼を見張るものがあるな。

 

余談だが、妹の筑摩はプラネイトディフィンサーと呼ばれるバリアフィールド発生装置を装備しているらしい。姉の利根のビーム砲が最強の矛、妹の筑摩のバリアフィールドが最強の盾と言うコンセプトだそうだ。

 

「ははははは!吾輩と筑摩と、提督の前に立つ者は、誰であろうと消し炭にしてくれるわ!!」

 

轟音を響かせ、破壊の嵐を撒き散らす利根。

 

恐ろしいな……。

 

ふと、振り向くと、そこにはまた別の破壊。

 

「鳥海、吶喊します!」

 

アーティファクトと呼ばれる超常の武器類の一つ、★死を奏でる大鎌を振るう鳥海。

 

あれは、駄目だ。

 

科学に真っ向から喧嘩を売る魔法の品。

 

私達睦月型の使う武器は頭に超が付くが一応は科学技術の産物だ。しかし、高雄型の使うそれは、魔法と言う全くの別体系の技術によって成る。

 

ノーステリィス……、異世界の狂気を孕んだその武器類には、爆音の衝撃波を発する、時間を止める、局地的に世界の終末を起こすなどなど、気狂いじみた効果があるのだ。

 

★死を奏でる大鎌にあるのは、

 

「行きます!」

 

浮遊、魔法からの保護、炎熱からの保護、

 

「首を、斬り落とすッ!!!」

 

首狩り、魔法力吸収、そして、

 

『轟音の波動……!!!』

 

魔法威力増大、だそうだ。

 

魔法、魔法だぞ?

 

あり得るものか、普通。

 

一応、軽く概要を聞いてみたが、私には理解できなかった。全く異なる世界の突拍子もない話に、脳が理解を拒んだとも言える。

 

しかし、高雄型は弛まぬ努力の末に、魔法を習得したと聞く。

 

結果、

 

『ライトニング……、ボルトォ!!!』

 

黒井鎮守府に魔法使いが誕生した。

 

何を言ってるか分からないと思うが、私も何が起きてるか分からない。

 

むしろ、この鎮守府では何が起きてもおかしくない。

 

あっちでは、ほら……。

 

「砕けろ!!」

 

魔力、なるもので顕現した青い左腕で、深海棲艦の群れを殴りつけている最上。

 

「おりゃ!!!」

 

そして、レッドクイーンと呼ばれる、背にジェットの噴出口がある片刃剣を爆炎を迸らせながら振り回している。

 

なます斬りってやつだ。

 

驚異のスピードで、スタイリッシュに破壊されていく深海棲艦。

 

こちらもまた、違った恐ろしさだ。

 

如何に精強な深海棲艦であっても、空中にカチ上げられて攻撃を続けられれば、何もできないまま殺されるだろう。

 

もし戦うことがあれば……、いや、考えたくないな。

 

最後はこいつだ、

 

「ははははは!死ねよ!」

 

江風だ。

 

次々と深海棲艦を殴り殺し、湿った殴打音を響かせている。

 

戦う姿は人か、獣か。それとも、もっと恐ろしい何かか。

 

流石は黒井鎮守府でもトップクラスの戦闘能力を持つ戦闘集団、白露型だ。

 

その中でも、江風は異端……、極端な程までの攻撃性を持つらしい。

 

奇形の大金槌、爆発金槌には、撃鉄が取り付けられており、一度その撃鉄を起こし、深海棲艦を殴りつけると、

 

「爆ぜろッ!!!」

 

爆炎による追加のダメージを与えるのだ。

 

「ひゃは、ははは、はははははは!燃えろ燃えろ!提督の敵はみぃンな燃えちまえ!」

 

狂った笑みを貼り付けたその顔は、やはり、人ならざるもののように見える。炎獄で嗤う魔獣の類だ。

 

 

 

だが、何より、何よりも狂っているのは、

 

「秋刀魚get!秋刀魚get!秋刀魚get!」

 

司令官その人だ。

 

『はいもがみん退がって!利根フォロー!江風六時の方向!』

 

魔法だろうか、謎の方法で脳内に直接指示を送りながら、

 

「よっしゃ、大漁大漁!帰ったら秋刀魚パーティですわ!」

 

漁をして、

 

「邪魔だオラオラ、波動拳!アグニ!チェーンバインド!」

 

深海棲艦に対処する……。

 

本人は火力や射程において艦娘より大きく劣ると考えているらしいが、大凡不死身と言っていいほど丈夫な司令塔としての働きがどれだけ役に立っているか、理解していない。

 

私達と言う圧倒的な個を完全に統率するブレーンだぞ?戦場を上から俯瞰しているかのような的確な指揮の素晴らしさと言ったら……。

 

直接戦場に出てリアルタイムで指揮を執って貰えば、艦隊の戦力が何割か上昇すると言っていい。司令官は自分が艦隊における戦闘でどれだけ重要なファクターになるかまるで理解してない!

 

その上、的確な援護防御もしてくれる盾役だ。非の打ち所がない。

 

「秋刀魚get!秋刀魚get!秋刀魚get!……でもこんなんじゃ駄目、もうこんなんじゃホラ、秋刀魚獲らなきゃねもっともっと!長門型も一航戦も皆んな食うからねちかたないね」

 

一体どうなってるんだこの人は。

 

全く、底が知れないな……。

 

『菊月ー、三時の方向!』

 

「了解!」

 

おっと、ご指名だ。

 

艤装呼び出し……、WG-1-KARASAWA!!!

 

「消し飛べ、深海棲艦」

 

まあ、いい。

 

考えても意味はない。

 

どの道、私のやることはたった一つ。

 

敵の殲滅なのだから。

 

司令官の前に立つイレギュラーを排除する、それだけだ。

 

それが愛と言うものだ。

 

だろう?

 

 

 

「わぁお!大漁大漁!……ん?ボボボボボ!助けて!流されちゃ……」

 

「あっ、司令官が撤退する深海棲艦に連れ去られていくぴょん?!」

 

「ええい、確保だ!捕まえろ!」

 




菊月
黒井鎮守府の誇るイレギュラーハンター。

卯月
無理矢理艤装を近代化された。

最上
拳銃はブルーローズ。

利根
ビームキャノンが主兵装。

鳥海
ノースティリスで研修済。

江風
火薬庫。

旅人
この後、秋刀魚をお腹いっぱい食べる。

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