すき。
うー、最近の朝は少し寒いな。オフトゥンから出たくない。まあ、シベリアとか北極よりかは暖かいから寒さ的には平気なんだが。
平気なんだが、それでも、ぬくぬくのオフトゥンは恋しいもの。中々離れられないね。
「そうは思わんかね、時雨よ」
「ああ、そうだね」
と、何故かいる時雨に声をかける。
何故俺の部屋にいるんだろう。
「単純に会いたかったから、じゃあ駄目かい?」
俺の脳内の疑問に、俺の思考を読んで答える時雨。
「いや、問題ないよ」
思考を読まれるのがデフォみたいなところはあるが、不快ではない。碌なこと考えていないから読んでも面白くないだろうけど。知り合いの覚り妖怪には「この人頭おかしい……」ってよく言われる。
「ふふ、本当に会いたかったから、と言うのもあるけど、本題はこれさ」
ん、作戦具申書……?
題名は、『ベーリング海奪還作戦』か。なるほど。
「そりゃあ!」
『ベーリング海奪還作戦!!!』
ホワイトボードに文字を書く。
「やります」
「端的過ぎる」
そうだろうか?もう、やりますで十分ではないだろうか。作戦会議なんか必要ねえんだよ(KBTIT)!!
正直言って言うことがない。
「編成どうしよっか。……言い出しっぺの白露型全員で良いか」
戦闘能力が高過ぎて、艦種関係ないもんな。例え戦艦が出ようと白露型で十分だ。特に時雨と夕立は最大戦力にも数えられるほどだし。
「ブリーフィングをしないか!」
と、長門に注意される。
つってもなあ。
「あー、そうだな、そう言えば、新しいタイプの駆逐艦が確認されたんだった。これだ」
ホワイトボードに写真を貼る。
その深海棲艦は、まん丸で、まるで人魂のような見た目だった。
「名前はナ級。こっちの後期型は火力が馬鹿にならないから、気を付けろ」
くらいかなぁ。言うことねえわ。
「海域のボスと思われるのはこれ、駆逐棲姫。なんか春雨に似てるからわるさめちゃんと仮称するね」
「?!」
……うん、以上だ。
「何か質問は?」
「ないよ」
「ないっぽい」
「ありません」
よし、と……。
全員問題なし。
時雨のスカートをめくって、と。
うん、黒!
「さ、行こうか!!」
「(スカートをめくった意味は……?)」
旅人号にVOB(追加ブースター)付けて海上を音速で疾走、日本の黒井鎮守府からものの数分でベーリング海についた。
羅針盤?知らんなぁ、そんなものは。
「白露はまだ練度が低いからな、身を守ることを最優先に考えるように」
「はーい!」
因みに、白露の持つ仕掛け武器はパイルハンマーだ。破壊力が一番だから、らしい。
「じゃ、敵が出るまで待つか」
VOBを切り、平常速度で巡航する旅人号。これより、敵とエンカウントするまでだらだら巡航することにした。
旅人号の中に用意された居間で、白露型とだらだらする。とても作戦中とは思えないが、戦闘前には気負わずに肩の力を抜くことも大事だ。
「提督……」
「時雨……」
色っぽい目で見つめられる。ヤバいな、最近の時雨は色気が凄い。ミステリアスな雰囲気を漂わせ、大人っぽく迫ってくる。ついつい、こっちもその気になっちまう。
「んっ……❤︎」
キスされた。これが春雨なら、思いっきり舌を入れてくるんだけど、時雨はあまりそう言った、所謂エロい責め方はしない。ただ、愛を伝えるように、思いの丈を吐露するように長い長いキスをするのだ。
「ずるいよ、時雨姉……。提督、あたしとも、ちゅーしよ?」
「おっ、そうだな」
対して、山風は、雛鳥が餌をねだるかのようなバードキス。親に甘える感情だろうか、愛に飢えていやがるな。……あとなんか甘いな、飴玉でも舐めていたんだろうか。
二人の肩を抱きながら、存分にイチャイチャする。楽しいなあ、イチャイチャすんの楽しいなあ!
「あたしも構うっぽい〜!」
「はいよー」
夕立には噛み付かれた。首筋から流れ出る一筋の血を、掬い取るように舐められる。
「あは、美味しい❤︎」
赤い瞳が愉悦で歪む。白露型にとって俺の血は万能薬であり、嗜好品だ。
「提督?次は脾臓が欲しいわ?食べて、食べて……、貴方の事をもっと知りたいの❤︎」
俺の腹部をなぞる海風。セクシーで妖しい魅力があるな。
こんな感じで、両手に花どころか全体的に花状態で楽しんでいると、俺の脳内の瞳に敵影が映った。
まん丸、ナ級だな。
「はーい、じゃ、そろそろ行こうか」
「あらら、残念」
「ちぇー、もっと提督とこうしていたかったのになー」
村雨と江風が文句を言うが、仕方ないことだ。
出ちまったもんはしゃーない。
「行くぞー」
「「「「了解」」」」
オンオフしっかりできるのができる大人ってやつだ。
船外には、予想通り、ナ級の姿が。
「んじゃ、やりますか」
「ああ、行こうか」
「殺すっぽい」
「うふふ、行くよ?」
俺が目の前のナ級に駆け出すのと同時に、全員が海面を蹴った。
そして、俺以外のそれぞれが、皆手元に艤装を……、仕掛け武器を顕現させた。
時雨は、柄頭に着脱可能な刃の付いた日本刀、落葉を。
夕立は、月の光を纏う、月光の聖剣を。
春雨は、隕鉄によって造られた一対の薄刃剣、慈悲の刃を。
村雨は、伸縮自在の蛇腹剣、獣肉断ちを。
白露は、特殊機構で鉄杭を打ち出す、パイルハンマーを。
海風は、鋸と鉈の複合武器、ノコギリ鉈を。
江風は、撃鉄の付いた大槌、爆発金槌を。
山風は、ハルバードにもなる大斧、獣狩りの斧を。
それぞれが悍ましい、殺意の極致にあるような武器だ。
『ガァッ!!!』
「死んじゃえ」
村雨は、ナ級の砲撃を、首を逸らすだけで避け、獣肉断ちを伸ばして一撃を加えた。
『ギッ……?!』
「それ」
そして、伸ばした獣肉断ちの鋸刃を叩きつけ、思いっきり、引いた。
『ガガゴガゴガガガガガガ!!!!』
結果、ナ級は、装甲が、血肉が、骨が刮げて、真っ二つ。無残な屍を晒す。
近付いて嚙み付こうとするナ級に対しても、即座に獣肉断ちを縮め、対応する。
『ガギッ』
「はいはい、遅い遅い」
更に、襲いかかるナ級を迎撃するかのように砲撃し、白露型専用の水銀弾を叩き込んでは、
「いただき!」
動きの止まったナ級の内臓を引き摺り出す。
『ガ……、ア……』
びくん、と大きく身体を動かしたナ級は、血の塊を吐き出すと、故障した機械のように動かなくなる。
山風は、見た目と違って酷く暴力的だ。
「ううう……、あああ!!!」
駆逐艦にしては強過ぎる筋力を存分に発揮し、獣狩りの斧でナ級を斬り飛ばす。
ナ級の群れの真ん中に躍り出ては、
「邪魔ぁぁぁ!!!」
がしゃん、と言う音と共に、斧の柄を伸ばしてハルバードにしたと思うと、
『ギッ』『ガッ』『ゲアッ』
くるりと一回転、薙ぎ払い。
これで、多数のナ級が真っ二つになる。しかし。
「ぁぁぁあああ!!!」
山風は容赦せず、もう一回転。計二回転の360度薙ぎ払い。
真っ二つに分断されたナ級達の身体は、吐き気を催すような肉塊と化した。
一転、春雨は華麗だ。
歪んだ二枚刃の慈悲の刃は、星に由来する隕鉄で造られており、速度が乗れば乗る程鋭くなると言う特性がある。
「あはっ❤︎」
凄まじい速さで戦場を駆け巡る春雨。
交差させて斬り裂く、貫く、退く瞬間斬りつける……。ステップと共に放たれる鋭利な斬撃は、死の残響のようだ。
その、死の残響と共に春雨は、
「うふふ、あは、あははははは!!!」
殺戮の舞踏を踊るのだ。
一通りの殺戮が終わったあたりで、ナ級の群れの奥からわるさめちゃんが出てきた。
『ヤラセハ……シナイ……ヨッ!!』
「わるさめちゃん!わるさめちゃんじゃないか!!」
『ワ、ワルサメチャンジャナイ!駆逐棲姫ダ!!……ヨクモヤッテクレタワネ、反撃開始ヨッ!!!』
するとどうだろうか、俺達を囲むように、数百体の駆逐水鬼の量産型が集まってきた。
なるほど、罠か。ここにおびき寄せて、量産型水鬼で囲んで殴る作戦だったんだな。
『フフフ、サア、追イ詰メタワヨ、黒井鎮守府!!!』
「あは、は」
「ははははは、はははははは!!」
「あはははははは!!!」
そして、笑い始める白露型。
『ナ、ナニガオカシイ?!!並ノ鎮守府ナラ百回潰セル戦力ヨ?!!!』
「ああ、いや、すまない。おかしくってね。その程度で勝ったつもりになるなんて、まるでお笑いだよ」
くつくつと、喉を鳴らして笑う時雨。
「……しかし、これは、些か多いじゃないか。不快だね、不快だ。全て、直ぐに、消そう」
『ナ、ナニヲ……?!』
時雨は、自らの胸に落葉を突き立て、抜いた。
その瞬間、血の波動が辺りを吹き飛ばす……!!
「さあ、白露型の狩りを見るがいい……!!」
白露型
気狂いしかいない。
覚り妖怪
妹が気狂い。
旅人
気狂い筆頭。