……「命令?ないよそんなもの。自由に過ごしなよ」
自由に……。
自由に?
自由って……、何?
私が、考えるの?
……そんなことする必要、無いよね?
だって、提督がいるんだよ?
提督は凄いんだよ、何でもできるし、かっこいいし、優しいし。よく大淀さんが提督のことを神様だって言うけど、本当だと思う。
そんな神様みたいな提督が、指示を出してくれるなら、それに従うだけで良いよね。
自分で考えて動く必要なんて、無いよね。
「……蒼龍?」
「何?提督?命令くれるの?」
命令、欲しいな。
私が一番幸せなのは、提督の命令を聞いている時だからね。
「あー、一体これで何度目になるか分からないんだが……、自分で考えろ、蒼龍」
「私も、何度目か分からないくらい言ってるけど……、命令して、提督❤︎」
「よーし、分かった。そっちがその気なら俺はこうだ。激おこだ。いっそもう嫌になるくらいに命令してやる!!」
「ほ、本当に?!やったあ!」
命令だ!命令が貰えるんだ!
うふふ、やったね!
「……命令貰えるのが、そんなに嬉しいのかい?」
「うん!私、提督に命令されるの、大好き!」
「……良いかい、これだけは言っておく。君はロボットでもマシーンでもない、人間だ。俺と同じ、人間なんだ。それだけは、覚えておいて欲しい」
「……?、分かった」
私は、人間……?
よく、分からない。けど、提督が覚えておけって命令してくれたし、覚えておこうっと。
「まずは着替えろ、お出かけするぞ」
「うん!」
あは、命令!命令してもらっちゃった!提督に隷属してるって、考えただけで最高!
さあ、命令の通り、着替えよう。
提督に作ってもらった服を着て、と。
「はい、着替えたよ、提督!」
「よしよし、良い子だぞ、蒼龍」
あ、頭なでなで……。くふー、嬉しい。
「じゃ、出かけるぞ、ついて来い」
「はーい!」
ついて来い、だなんて。犬みたい!わんちゃんみたいに、提督の後ろをついて行こう!私は提督専用の雌犬だからね!!
ああ、ああ、嬉しいな、嬉しいな。雌犬として、奴隷として提督の命令に応える。私ってなんて幸せなんだろう!
「……蒼龍、俺は蒼龍をペットや奴隷のようには思っていないよ」
あら?心でも読まれちゃった?それともまた心理学?まあ、なんでも良いや。私の全部は提督のためにあるんだから。でも、一応聞いてみる。
「じゃあ、どう考えてるの?」
「あー、その、家族、かな」
家族?家族かぁ。私は奴隷が良いんだけど。
「命令するたび恍惚とした表情を浮かべるのはやめてくれー……」
えへへ、私、顔に出やすいタイプだし。
提督と一緒にお出かけ。嬉しいな。
何もなくっても、提督の隣を歩けるだけで、私は幸せ。
欲を言えば、もっと命令して欲しいんだけど。よく言うブラック鎮守府?くらいに、私のことを酷使して欲しい。私のことを、必要だって言って欲しい。
「来い、蒼龍」
「あっ❤︎」
手ぇ、握ってぇ……❤︎
ふふふ、提督の手、ゴツゴツしててあったかいな。
「どこ行くの?提督」
「なら、サ店に行くぜ!」
サ店……、喫茶店ね。
「スタバで良いか」
「うん」
よく分からないけど、提督が行けって言うなら地獄にだって行くからね!
「いらっしゃいませー」
とか思っているうちに、手を引かれて喫茶店に。
「俺、キャラメルマキアートで。蒼龍は?」
「分かんないから提督と同じので良いよ!」
何か呪文みたいな横文字がメニュー欄に浮かんでいる。全く分からないので、提督におまかせだ。
「それじゃ、キャラメルマキアート二つ。スコーンとワッフル、あとドーナツも二つずつお願いします」
「はーい」
すると、一分しないうちにキャラメルがかかったコーヒー、とお菓子が来た。
「お待たせしましたー」
「よし蒼龍、座れ」
「はい!」
「食べろ」
「はい!」
「……これあかんよなぁ。側から見たら完全にそう言うプレイだよなぁ」
命令を受けて、席に座ってドーナツを頬張る私。
ん、美味しい。
提督の手作りドーナツ程じゃないけど。
「なあ、蒼龍。やっぱやめにしないか?蒼龍に命令すればするほど、俺の社会的地位がガタガタ言ってるんだけどもさ」
「やだやだ!今日はたくさん命令してくれるって言ったもん!」
駄目だよ提督。今日は嫌になるくらいに命令してくれるって約束したもん。
「だが、見ろ、周囲の目を!俺はゴミクズを見るような目で見られてしまっている!!この事実をどうする?!」
「じゃあ、提督が、『皆殺しにしろ』って命令すれば良いんだよ!提督を不快にする奴は、私が全部殺してあげるからね!」
提督は私に遠慮し過ぎ!もっと道具みたいに、気軽に命令してくれれば良いのに!
気に食わないから殺して来い、とか、そんな命令でもちゃーんと聞くんだからね!
×××××××××××××××
……「ざわざわ……」
……「ヤダー命令だってー」
……「変態だ……」
ひー、怖いよー怖いよー。世間の目が怖いよー!
どれもこれも蒼龍の仕業だ。
蒼龍がスタバのど真ん中で命令してなんて言うから!
お陰で俺達は、特殊性癖抱えた人を見る目で見られてしまっている。
「蒼龍、頼むから、外でそう言うこと言うのやめような」
「……?、うん、分かった」
意味は分かってないが、兎に角、俺の命令は聞く、か……。
そんなんじゃ寂しいじゃないか、悲しいじゃないか。
思考停止は一番いけないよ。
「蒼龍、俺の命令の意味って、考えたことあるか?」
「ない、かな?」
「そうか。あのな蒼龍、俺はな、仕事で命令することもあるが、それ以外で君に何かを言う時は、幸せになって欲しい一心で命じてるんだよ」
……まあ、偶に邪念が混ざることもあるが。本心は愛情から来る親切心だ。
「うん、それは、何となく分かるよ!だから、提督の命令を聞けば私は幸せになれるんだよね!」
そうだが……。
「蒼龍、俺はな、幸せってのは自分で探すもんだと思ってる。……蒼龍も、自分で自分の幸せを探してみれば良いんじゃないか?」
いつも言っているが、人は誰でも幸せを探す旅人のようなものだからな。
「嫌だよ?」
そっかー。
「私の幸せの全部は、提督がくれるから。私はそれで十分なの」
ああ、そうか。
蒼龍は満足してしまっている。
果てのない欲望を持つ俺とは真逆だ。これで良いと、今のままで良いと満足している。満足してしまっている。
だから蒼龍は動かない。
自立、してくれないなぁ……。
「コーヒー、美味しかった!やっぱり、提督の命令を聞けば幸せになれるね!」
境界が曖昧なんだよな。美味しいコーヒーを飲んで幸せ、なのか、俺の命令を聞いて幸せ、なのか。
コーヒーが美味しいことに喜びを感じたんだろうけど、まずその前提として俺の命令がある。
例え、命令なしでコーヒーを飲んでも美味しいと、幸せと感じるだろうが、俺の命令がない時と比べるとその幸福感は大きくランクが下がるんだろう。
「俺の命令」と「その他の幸せ」が合わさってこそ、本当の幸せなんだろう。最初はそうだった、筈だ。
だが、蒼龍は、いつからか、「俺の命令」をこなしたことによる幸福感が他の全ての価値観を圧倒するようになってきた。
今では、それこそ、仲間殺しやテロのような「その他の幸せ」に繋がらないようなことでも、命令を聞くようになってきている。
蒼龍は、壊れてしまっているのだ。
……歪みきった人格だが、俺が死ねと命じない限りは問題ないだろう。
殺せ、と命じたら殺しまくるだろうが、その辺は俺が制御するしかない。
結局は、俺の責任か……。
あーあ、嫌だな、他人の人生背負うのは嫌だ。責任重大じゃんかよ。
まあ、世界の命運握るような大きな戦いよりはマシか。
昔よりはマシ、昔よりはマシ……。
そんな感じで自分を誤魔化す。
「大丈夫だ、蒼龍。君は俺が守る」
社会とか世論とか、常識とかそう言うのから、守っていきたい。
「?、うん、ありがとう?」
守護らねば……。
蒼龍
旅人からの命令によって動く。人間らしさが最も欠如していて、命令されるのが最高の幸福だと考えている。
旅人
自発的に動くアクティブなクズ。