バレンタインだ。
ヤクルト?いやそれはバレンティンだろ。
褌の日?いやいや、バレンタインだよ。話を逸らすな。
何々、チョコレートを渡すのは日本の風習だって?欧米では親しい人にプレゼントやお菓子を贈る日?良いんだよ、今は日本にいるんだからさ。
本場では愛の告白なんてしない?良いだろ別に、日本の風物詩だしさ。
いくら否定されても、今日がバレンタインで……、
「「「「提督!チョコレート、どうぞ!!」」」」
俺が、沢山の艦娘に囲まれてチョコレートを渡されてる事実は変わらないんだよ。
「ありがとう、いやあ、ありがとう」
モテモテだな俺。モテモテだわ。
モテモテ過ぎて困っちゃうなー。
既に山程チョコレートを貰っている。山程だ。
手作りだったり、買ったものだったり、色々だが、兎に角沢山のチョコレートが押し付けられる。まあうちの鎮守府プラス音成鎮守府の艦娘プラス音成鎮守府の提督からの分で優に百個を超える。
こりゃあ食べるのに一日はかかりそうだな。
どんどん食べて行かねえと……。
紅茶を飲みながらチョコレートを食べる。うん、今日の仕事はこれだな。
それと、俺もチョコレートケーキを作っておいたのだ。ホワイトデーにはまた別のものをお返しするが、ホワイトデー関係なく皆んなに美味しいものを食べさせてあげたいという善意からだ。
折角のバレンタインデー、美味しいチョコレート菓子を食べてもらいたい。艦娘の皆んなはいつも頑張っているからな、幸せにしなきゃな。
そんなことを考えつつ、貰ったチョコレート菓子を齧る。うーむ、美味い。店売りの、手作りの関係なく、気持ちの込められた贈り物ってのが嬉しいよね。
「じゃじゃーん!」
「おお、急に何だい?」
休憩室の一室でチョコレート菓子を齧りつつ漫画を読んで寛いでいるこの俺に、急に背後から話しかけてきた艦娘は。
せーの、今日は何の日?
「子日だよー!!」
子日だ。
「旅人さん、旅人さん、子日からのチョコレート、あげちゃう!」
そう言って渡される可愛らしいチョコレート。飾りのついた小さなビニール袋に、ハート型に固められたチョコレートがいくつか。
あれだな、これは……、小・中学生の頃を思い出す……、可愛らしい一品だ。
「そ、そのね、子日のチョコレートはね、ほ、本命だよ?」
顔を赤くしてもじもじしながらも、そう伝えてくる子日。可愛らしい、可愛らしいじゃないか。
「じゃあ、頂こうか……」
ぽりぽりと音を立てて食べる。味は市販品のものだ。だが。
「……うん、美味しいよ、子日。ありがとう」
子日の愛情、という付加価値がこのチョコレートを最高級品以上に輝かせるのだ。
「本当?えへへ、嬉しいな!」
「俺からもチョコレートケーキをあげるよ。冷蔵庫にあるから好きなの食べてね」
「うん!」
俺が作ったチョコレートケーキ……、美味いぞ?自分で言うのも何だけど、美味いぞ?
冷蔵庫に向かった子日は、うーん、と少し迷うような声を出してから、ガトーショコラを取り出した。
「じゃあこれ貰うねー!」
「ああ、好きなだけ食べろ……」
でも晩御飯食べられるようにある程度加減して食べろ……。
備え付けてある食器棚からフォークを取り出して、俺の隣に座り、ガトーショコラを頬張る子日。
「んーーー!!美味しいーーー!!」
くくく、そうだろうそうだろう。
美味しく作ったからなぁ!
「……子日、何だか、負けた気がするよ?」
ん?あ、あー、そっか。
「もっと手の込んだものを渡した方が良かったかな?かな?」
自分は市販のチョコレートを溶かして固めただけのものなのに、相手の男はチョコレートケーキ作ってんだもんな、アレだわな。
「そんなことないぞ、こう言うのは気持ちが大事なんだ」
「そう、かな?」
「ああ!俺は、子日にバレンタインチョコを貰えて、心底嬉しいよ」
「本当?」
「本当さ、嘘じゃない。大切なのは愛情さ!」
「じゃあ、良いけど……。子日、お菓子作りとか、頑張ってみるかな?」
「良いね、その時は教えてあげるよ」
「うん、お願いね!約束だよ!」
「ああ!」
優しい世界。
いやあ優しい世界。
俺の貰ったチョコレートの七割には、毛、血、経血、唾液、愛液、爪などが混入しているが、子日のチョコレートには異物が混入していなかった。
良かった純愛だ。
さてさて、どんどん食べ進めていかないとな。
んー、これは足柄のチョコか。お、ゴディバじゃん。確か、「お菓子作りは出来ないわねー。下手なもの作って渡すよりも、良いものを買った方が良いと思って」とのこと。足柄の良いところは、自分が何が出来て何が出来ないかしっかりと考えられるところだ。
鳳翔からは、きな粉と和三盆を使った和風チョコが。美味え、美味えぞこれ。ああ、全く、和食じゃ勝てないや。鳳翔凄い。
如月からは……、チョコレートマフィンだ。どこの、とは言わないが体液入り。ふわふわのマフィンの中にとろとろの液。えっちだ……。
感想を脳内に記録しつつも、着実にチョコレートを消費していく俺。
だが、まだ俺にチョコを渡していない艦娘も何人かいる。
つまり、チョコはまだ増える。
食べなきゃ……、チョコレート食べなきゃ……。
「提督?私からもチョコレートです」
おおっと、ここで追撃のグランドヴァイパー、チョコレートの量は更に加速した。
くれたのはそう、海風だ。
「ありがとう、海風」
礼を言ってチョコレートを受け取る俺。
「拙いものですが、目一杯愛情を込めて作りました。良かったら食べて下さい!」
「おう!」
手渡されたのは生チョコ。さて、食べてみるか。
さてお味は……?
……うん、血液の味!!
もう色の時点でアレだったからね。赤いチョコだったからね。
いやあ、これは……、美味しいと言って良いのか?これを美味しいと言えば、海風の一部を摂取して美味しいと言ったことになるじゃないか。それは変態的だ。
「ふふふ、お味はいかがでしょうか?」
「あー……、うー……」
なんて答えりゃ良いのか。困ったなぁ。
「美味しかった、ですか?」
んー、んー、んんんんんー、んー、んー、ん、ん、ん、ラヴィ!!!
「美味しかった、と言って欲しいです……」
分かった、分かったよ。些か以上に変態的だが……。
「あー、何だ、その……、お、美味しかったよ、海風」
「く、くふ、くふひははは!」
すると、海風は……、ぶっ壊れた。
「ははははははは!!提督が!!提督が私を!!!私を美味しいと!!!あははははははははははははははは!!!!」
あーもうめちゃくちゃだよ。
狂気のままに嗤う海風。
そっとしておこう。
テンションが上がった海風を放置して、更なるチョコレート消費へ。
もう一年分くらい食べてるんじゃないかな。
まあチョコレートと言っても中には異物が混入してるから、一割くらいはチョコレートじゃないものを食ってる計算になるけど。
このチョコレートの山の一割くらいはチョコレートじゃない。
「司令官」
「響か。チョコくれんのか?」
「それなんだけどね……」
するり、と布の落ちる音。
響は全裸に。
ん?
んんー?
「今からこの熱いチョコを私の身体に塗りたくるから、司令官は私を舐めて欲しいんだ」
んんんんんー?
思考回路がショートしていらっしゃる。
何をどうすればそのような結論に至るのか、皆目見当もつかない。
「正気かな?」
「良く考えてみて欲しい、司令官。私は熱いチョコがかかって気持ちいい、司令官はチョコレートを摂取できて嬉しい。win-winと言う奴じゃないだろうか」
何に勝ったの?負けだよもう。
「まずは乳首に……」
「待って待って本当に待って」
ヘラを持って胸に向ける響。ちょっと待とう?おかしいよ、おかしいからね。
もうR18でやったらどうですか?とか言われちゃうから!
「それともこっちに塗るかい?」
「そっちはもっと駄目ぇ!!!」
「はぁ、はぁ、見てよ司令官。このチョコレート、熱々で……。身体にかかったらきっと気持ちいいよ……!」
こいつ、頭が……。
「兎に角、駄目だからね」
「そ、そんな……。じゃあ私はどうすれば良いんだい?」
「普通にチョコ渡して」
「渡すからお返しにこの鞭で打ってくれるかな」
「承服しかねる」
何でさ。普通にチョコ渡すだけで良いんだよ。この際何入ってようと文句言わないからさ。体液でも薬品でも好きなもん入れて良いからさ。
「くっ、分かったよ。じゃあチョコを渡すから、顔面を殴って……」
「殴りません」
「せめてビンタだけでも」
「女の子は極力殴らない主義だから」
「そう言うプレイの範疇なら良いでしょ!」
あー、もー、しょーがねーなー!
「分かった、分かったよ、叩くから」
「良し……!」
何も良くねーけどな!
「おら、よっと」
仕方なく、本当に仕方なく……。
「ひっ❤︎ぎぃぃぃ❤︎❤︎❤︎」
いろんな意味で逝った響を見届けて、俺は紅茶を飲む。
ああ、今日もお仕事、大変だな、と。
そんなことを、不意に、思った。
子日
子日だよー。
海風
白露型特有のキチガイムーブ。
響
ドM。
旅人
チョコのようで厳密に言えばチョコじゃないものを大量に摂取する。