『嫌よねえ、あの子。ちょっと可愛いからって調子に乗ってるんじゃないの?』
『キモーい、ありえなーい』
《女の戦いスペシャル!本当にあった昼ドラみたいな話!》
と、テロップが流れるテレビを見つつ、一服。寒い時期だ、ほうじ茶が美味しい。
……女の戦い、か。
概して、女の子は陰湿で陰険だと言うが。
テレビでも、野球部のエースの少年と交際していた少女が、嫉妬心から陰湿ないじめに逢い、自殺に追い込まれる、と言うシーンがあった。
あとは、旦那の浮気相手に凄惨な報復をする女の人とか。
自分をフった男に復讐する女の人とか。
怖い。洒落にならん。
そして何が怖いって、俺も他人事じゃないってところだ。
「浮気した旦那と無理心中ですって。怖いですねー。提督も気を付けて下さいね」
俺の隣でほうじ茶を飲む古鷹が、ニッコリと微笑んで、言う。何それは?何かの警告?怖いよ?
「う、うちの艦娘はそんなことしないよな!な?!」
「ええ、ええ、そうですとも!私達艦娘は提督を不快にしたりなんてしませんよ!」
いつもと変わらない、満面の笑みで言う古鷹。綺麗だ。いっそ恐ろしいくらいに綺麗だ。
だが不安だ。
俺も、いつカナ-シ-ミノ-状態に、伊藤誠状態になるのかとヒヤヒウアいや、ヒヤヒヤしてる。別に首だけになっても死にはしないが。
「ですが、外部の女の人はするかもしれませんよ?」
「が、外部に女なんていねーし!!!」
その辺で女の子引っ掛けたりなんてしてないよ?ナンパなんてしてないよ?風俗も行ってないよ?ないったらないよ!
「いえ、良いんですよ。私は、提督がどれだけ女の人を囲おうと気にしませんから」
「か、かかか、囲ってないよ!本当だよ!」
「そうですか?でも、この鎮守府に提督の行動に文句を言うような躾のなっていないメス犬はいませんよ!」
メス犬とか言わないの!
「でもほら、嫉妬したりとか……。修羅場は起きてるよね?」
「最近は少ないじゃないですか」
まず、日常の中に修羅場があることに疑問を覚えようか。
「別に口汚く罵り合ったり、殺し合いを始める訳ではないのですから」
確かに、うちの修羅場は、空気が極限まで悪くなるだけで、悪口や暴力は無い。艦娘同士の仲は良好なのだ。だが、
「空気が悪くなるのがなあ」
困るんだよな。
「ヤンデレは本当に勘弁」
「何ですかヤンデレって」
「君達のことだよ」
「つまり?」
「病んでるしデレてる」
「病んでませんよ?」
どの辺が?
病みまくりでしょ。
「間違いなく精神を病んでるよ、君達は」
「そんなことありませんよ!皆んな忠誠心が高い、提督の従僕です!」
その辺りが病んでるって言ってるんだよなぁ。
あらすじ。どこもかしこもヤンデレばかりだ。
あの後も、少々話したが、どうやらヤンデレである自覚は一切ないらしい。
んー、自分のことって中々気付けないモンよね。
そうだ、自分の異常さを感じて貰うために、艦娘を煽るのはどうだろう。
自分の感情が異常だと気付けば、少しはまともになってくれるかも。
些か以上に危険だが、やってみる価値はあるだろう。
「よし……」
ダッシュ。アンド……、
「鈴谷ァーーー!!!」
「わぁ?!何?!何なの?!!」
「何ですの?!」
ゴー。
「鈴谷……、鈴谷ァッ……!!」
紅茶を飲む熊野を横目に、休憩室のソファーの上でダラダラとスマホをいじる鈴谷に突撃。平均より幾らか大きい胸に飛び込んだ。
「鈴谷」
「ど、どうしたの提督?」
「好きだ」
「ええ?……ふふ、ありがと」
少し困惑しながらも、好きだと告げられた鈴谷は口角を上げて礼を言う。
一方熊野は?
「あらあら……」
困ったように笑うだけだ。セーフ。
何だよ、嫉妬しねーじゃんか。
「よしよし、鈴谷は可愛いなぁ」
「えへへ、照れる〜」
「あらあら……」
なんてこたぁないな。
「おっぱい大きくなったなー」
「やん、揉んじゃだめぇ」
「……あらあら」
嫉妬なんてしないか。
「良いではないか良いではないかー」
「ああん❤︎」
「………………」
ふと気になって、ちらりと、熊野の方を見る。
その時、ほぼ無意識に俺の心理学<80>が火を噴いた。
そして表面上は変わらないが、熊野の中に渦巻く強烈な嫉妬の感情を察知!!
「………………」
ヒィ、喋らないのが怖い!!!
「提督」
「はい!」
「何の、おつもりですか」
「いや、ちょっと……」
「私の目の前でこれ見よがしに鈴谷を可愛がって、何のおつもりですか」
「熊野に、嫉妬させてみようと……」
「そうですか。もう十分ですわ」
そう言って笑う熊野。笑顔が怖い。
「ご、ごめんなさい……」
クソッ、しゃーねーだろ!女の子に怒られたら平謝りするしかねーんだよ男ってもんは!
「……はぁ。何の悪ふざけか分かりませんが、私のことも可愛がってくれなきゃ嫌ですわよ」
「ごめんな熊野」
熊野を抱きしめる。抱きしめるしかない。
ここで機嫌を損ねたらどうなるか、そんなことは子供でも分かる。
「で、でもな熊野。そんなに嫉妬されたら、俺、困っちゃうよ」
「何か問題でも?鈴谷を愛する分だけ私も愛すればよろしくてよ」
そうだけどもね、そうだけどもね。
「熊野、良いかい?君達はおかしいんだ。嫉妬し過ぎなんだよ。もっと穏やかに生きて欲しいなーって」
「?、そうですか?」
「申し訳ないがヤンデレはNGってこと」
「ヤンデレ?」
「病んでるしデレてる」
「病んでませんことよ?」
病みまくりでしょ。
「そういうの良いから。自覚して。病んでるよ」
「はあ」
はあ、じゃないが。
説得したが、例によって無駄に終わった。
あれだけの病みっぷりに対して、自分が異常だとはかけらほども思ってないらしい。
これは決して俺の説得技能が低いからとかではない。
自覚のないヤンデレって怖い。
だが諦めない。皆んなのヤンデレを治すためにも、一肌脱いじゃおう。
さて、見つけたのは満潮と霞だ。
どっちを揶揄っ、いや、嫉妬させてみようか。
……霞だな。
「満潮」
「ひゃん?!な、何よ司令官?!」
霞の前にいる満潮に思いっきり抱きつく。背後から抱きついたからか、びっくりして変な声を出す満潮。
「愛してるよ」
「急に何なのよ……」
「突然ですまない。けど、君に、愛していると伝えたくなったんだ。この気持ちは止められない」
愛を止めないで。これが最後のフォーリンラブ、なんてね。
いよいよもってプライドも何もなくした俺は、満潮のようなロリに愛の告白をすることも可能なのだ。
もう怖いモンなしである。
「もう、変なの……❤︎」
口ではそう言うが、満潮は、愛おしそうに俺の手を撫でた。脈ありですわ。
「こ、こ、こ、このクズーーー!!!」
一方で、霞はキレていた。
「霞、静かにしようよ。急に大声出したら皆んながびっくりするでしょ」
「あ、ごめんなさい……、じゃなくて!!急に何やってるのよこの変態!!」
おっふ、効くなあ、ロリから罵られるの、効くなあ。……マゾじゃないからね、傷つくんだよね。
「何って……、愛する満潮に思いの丈を伝えただけだよ」
「愛する、満潮……!ふふん❤︎」
喜色満面の表情を浮かべる満潮に対して、
「ぐぬぬぬぬぬ!!」
悔しそうな、怒ったような顔をする霞。
「満潮、君はいつも俺に幸せをくれるね。嬉しいよ。世界で一番君が好きさ」
「んもう!調子良いことばっかり言って!」
「そんなことないさ、心の底から君を愛しているよ」
何千何万と言った口説き文句を連発だ。
「司令官が、私を……、うふふふふふ」
まさに夢見心地と言った雰囲気の満潮。
「う、う、う……」
「ん?」
「ひっく、ぐすっ、ううう……」
ああっ?!霞が半泣きだ!
「司令官の馬鹿ー!司令官は私のものでしょ?!」
ええ……?霞のものになった覚えはないんだけども。
「ごめんな、霞」
取り敢えず謝っておこう。俺は腰が低い旅人だ。謝るのは得意だぜ!
「許して仮面!」
そしてハジケリストでもある!!
「許さない!!」
IGA、許されません。
「ゆるちてゆるちて」
「許さないってば!!」
参ったな、完全にヘソを曲げてしまったぞ!
「この場で心臓を抉り出すから許して」
「発想が猟奇的?!」
実際、それくらいしか許しを請う方法が思いつかん。女の子を泣かせるのは重罪ではないかね?
「そこまで、しなくても良いわよ!ただ、私は……!」
可愛がって欲しい、顔にそう書いてある。
……しょうがないにゃあ、良いよ。
「霞、君は俺の天使だ」
「あっ❤︎」
「いつも美しい、俺の天使なんだ」
「んんっ❤︎」
「もう離さない、君が全てさ」
びーまいべいべー。
「んふっ、えへへへへへ……❤︎」
一頻り撫でたら、どうでもよくなったのか、蕩けた顔で俺に抱きつく霞。
くっくっく、ちょろいぜ。
某獣殿が如く、女は駄菓子と言い切る訳ではないが、俺も悪い男だと思う。
顧みる気はねえけども。
「司令官、だーい好き!」
「ははは、よしよし」
「さて」
「大淀さん、ちょっと提督にベタベタし過ぎよ〜?」
「愛宕さんこそ、胸を押し付けるのはやめたらどうですか」
「提督の前で下らない争いはノー、デスヨ」
「提督殿が不快に思っているでありますよ」
「躾のなってないメス犬は鎮守府にいらないよ?そこら辺分かってる?」
「古鷹さん、そんなに切れてちゃ提督さんが悲しい気持ちになるっぽい。提督さんは優しい子が好きっぽい」
例によって、調子に乗り過ぎて、艦娘を煽りまくってしまって、鎮守府中がFF14並みのギスギスオンラインと化した訳だが。
「えーと、どうするかなー」
「「「「………………」」」」
さて、困った時はどうするか?
うんうんそうだね、土下座、だね!
さあて、頭下げるぞー!
熊野
嫉妬したら怖い。
霞
ちょろい。
旅人
修羅場を止める程度の能力。