「ゆうかりーーーん!!!」
「ふん!」
「グワーッ?!!!」
ゆうかりん呼ばわりは流石にNGだったか!!!
くー、効くねえ。
いいパンチだ。素晴らしい。
美しい花達の花弁が舞うこの太陽の畑に、俺の身体が飛んで行く。
花弁と共に宙を舞う俺。
なんて重いボディブローだ。我が黒井鎮守府パワー部門最強の長門のに匹敵するぞ、この鉄拳。
Anotherなら死んでた。
「ぐ、う、ぐはっ」
痛え……。
「提督ーーー!!!」
地面に叩きつけられた俺に駆け寄るゴーヤ。
「提督、提督!大丈夫でちか?!」
「ぐ、はぁ、大丈夫だ」
肋骨粉砕ってとこか。
痛い。
痛いが、このくらい慣れたものよ。
「な、なんででちか?!なんで提督にこんな酷いことするんでち?!」
俺を殴り飛ばした女に詰め寄るゴーヤ。
その女の人は、緑髪で切れ目ながらも、どこか花を思わせる雰囲気の美女だった。
名を、風見幽香。
魑魅魍魎が跋扈するこの幻想郷で、最強の名をほしいままにする、絶対者。大妖怪だ。
「何よ、貴女」
「ゴーヤは提督の鑑娘でち!提督を虐める奴は、ゴーヤが絶対に許さないっ!!!」
「……へえ、真央、随分面白いのを連れているのね」
サディスティックな微笑みを浮かべる幽香。
「生きた神霊なんて珍しい。どうなってるのかしら、これ」
「ゴーヤに手を出すなよ、幽香」
「さあ、どうかしらね?目の前でうろちょろされると、鬱陶しいわ。虫けらみたいに潰しちゃうかも」
ううん、やっぱり幽香は変わらないな。
圧倒的な力を誇る、王者の風格。
君臨する者。
幻想郷の頂点の一角。
唯我独尊のカッコいい人だ。その生き様には男として惹かれる部分があるな。
「ゴーヤ、手出しするなよ。幽香を相手にするのは嫌だ」
「で、でも……」
「俺は、ゴーヤがちゃんと我慢できる子だって思ったから、ここについて来てもらったんだぞ。我慢、出来るよな?」
大分卑怯な言い分だが、納得してもらう他ない。だって、幽香は強い。超強い。
恐らく、艦娘でまともに戦えるのは長門や木曾、時雨、夕立、古鷹、加古、明石などの鎮守府でも最強と名高い最高戦力組だけだ。
恐らく、ゴーヤでは勝てない。
「う、うぅ、分かったでち」
すまんな、ゴーヤ。
幽香を怒らせてボコボコにされるのは忍びないからな。
「さて、幽香。新年明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「もう二月よ」
まあまあ、そんなことはどうでも良いじゃないか。
「君に会えて嬉しいよ」
「私は別に嬉しくもなんともないんだけど」
あら、つれないねぇ。
「俺は君のこと好きだよ」
「……はぁ、相変わらずの色ボケ男。女なら妖怪でも良いなんて、本物の馬鹿ね」
「君は美人だ」
「だから?」
「愛してる」
「安売りされる愛の言葉ほど虫酸の走るものはないわ」
ひっどーい!本気なんだけどなー。
幽香は確かに、人妖問わず恐れられる大妖怪だが、本当に美しい女だ。俺が声をかけない訳がない。
「提督……」
「何だい、ゴーヤ」
「……他の女の子にそんなこと言っちゃ嫌でち」
「あ、あー、そうだな!ごめんな!ゴーヤも愛してるぞ!」
「……えへへ、うん。ゴーヤも、提督のこと大好きでち」
ゴーヤを撫でる。良い子だなぁ。
「何よ、そういう仲なの?」
「一応な。何の因果か百人ぐらいの女の子と事実婚してるんだよ」
「クズの中のクズね」
「え?酷くない?」
罵倒されてしまった。やはりドSか。
「最低の女たらしね。死ねば?」
「て、提督は悪くないでち!ゴーヤ達が結婚して欲しいってワガママを言ったんでち!!」
幽香の視線が絶対零度まで冷え込む。
「いや違うんすよ、これは違うんすよ」
「クズ、ゴミ、最低男」
ひええ、俺の心に大ダメージ。マゾなら飛び跳ねて喜ぶ幽香の罵倒だが、俺みたいなノーマルからすれば普通に心が傷つく。
「あー、その、何だ。これを機に幽香も俺と結婚」
「死ね」
「グワーッ!!!」
「提督ーーー!!!」
四、五メートルくらいかな。
え、ああ、いや、飛距離。殴り飛ばされた時の。
酷いな幽香は。何も殴ることはないじゃないか。
二度もぶった、親父にもぶたれたことないのに。
さて、過ぎたことはもういい。
次に繋げていこう。
次の挨拶回り先は、そう、ここ。
「博麗神社か……」
妖怪神社こと、博麗神社である。
ここは、幻想郷と外の世界を隔てる結界を維持している、要の地。そこには、幻想郷を守護する巫女がいるのだ。
「何、提督。お参り?もう二月だよ?」
連れてきた北上が言う。
「いや、お参りじゃねーよ。賽銭は入れるけど」
賽銭代わりに適当な金貨を投げ入れると、ちょうどその時。
「あら?」
「よう、霊夢」
幻想郷の異変解決屋、今代の博麗の巫女、博麗霊夢が現れたのだ。
「あら、金貨?感心感心、ご利益あるわよー」
「何の?」
「それは、まあ、分かんないけど。博麗の名にかけて幸せが訪れると宣言するわ。責任はとらないけどね」
「適当だな」
「そんなもんよ」
そんなもんか。
「にしても、何しに来たの?異変は起きてないわよ?」
基本的に俺は、異変が起こる度に幻想郷に現れ、霊夢について行き、現れた美女達を口説き落とすと言うスタンスだ。
「君に会いたかっただけさ」
「はいはい」
「ありゃ、駄目か」
「そもそも、女連れで女を口説こうってところに疑問を持ちなさいよ」
成る程、女連れではナンパは成功しないと。初めて知ったそんなこと……。
「あははー、私、お邪魔だった?」
「いや、そんなことないさ、北上」
頬をかく北上の肩を抱く。
「……ってか、その人神霊じゃない。罰当たりね、あんた」
霊夢が北上を見て言う。
「だから何だ、美人なら口説くのが礼儀だろう」
口説くに決まってるよなぁ。
「へー、じゃあ、私を口説いてくるってことは、あんたの中では私も美人扱いな訳ね」
ちょっと嬉しそうな霊夢。可愛いじゃないか。
「もちろん。野に咲く一輪の花のように、可憐な少女だよ、君は」
「あら、お上手ね」
「本心さ。君になら俺の人生を捧げたって構わない」
「はぁ、本当に良く回る口だこと。女たらしじゃなければ一考の余地ありなんだけどねぇ……」
と、頭を押さえる。
んー?俺は全ての美女を等しく愛しているだけだぞー。
「男前だし、面白いし、いい奴なんだけれどねー。でも致命的に馬鹿なのがねぇ」
「何でそんなに散々な評価?俺なんか悪いことした?」
「厄神とか吸血鬼の妹とかさとり妖怪の妹とか色んな女をたらし込んで、あんたを取り合って殺し合いになりかけたりしたでしょ」
「ああ、そんなこともあったな」
いやー、あれはヤバかった。
「ま、浮気しないって言うなら、相手してあげるわよ」
マジで?
「しないしない」
「嘘つけ」
信用無いな、俺。
「何だよ何だよ、霊夢だって年頃の女の子じゃねーか。蕩けるような甘い恋とか、興味ねーの?」
「無いわよ。魔理沙じゃあるまいし」
断言。
乙女力が欠如しておる……。
「って言うか、この子は何なのよ。神霊でしょこれ。異変起こしたら潰すからね?」
霊夢が北上を指差す。
「艦娘だよ」
「はぁ?」
「二次大戦頃の戦艦の神霊。今はこの子達と海の平和を守ってるんだよね」
やってることと言ったら霊夢と一緒、だよなぁ。トラブルシューターだよ。
「……よく分からないけど、今度は何人たらし込んだの?」
「百人くらい」
「馬鹿じゃないの」
食い気味に言われた。酷いな。
「え?何あんた……。百人くらいの神霊をたらし込んだの?いや、本当に、どうしようもないくらい馬鹿ね」
「皆んな可愛いから……」
「見た目が良いって理由で女の人に声かけるのやめなさいって言ってるでしょ?紫に声かけた時なんかは本当にびっくりしたわよ……」
いや、美人だったから。美人だったから。
「いつか痛い目に遭うわよ」
「望むところだ」
「望むな!」
はっはっは。
「まあ、でも……、本当にどうしようもなくなった時は、ここに来なさい。匿うくらいは、してあげるわ」
「ああ、ありがとう、霊夢」
……かくして、俺は幻想郷への挨拶回りを終えたのだった。
また異変起こったら、乱入しよう。
そう、心に誓って。
ゴーヤ
艦隊でもトップクラスにいい子。聞き分けがいい。
北上
旅人が他の女の子に声をかけても怒らない。温厚。
ゆうかりん
こわい。
博麗の巫女
何だかんだ言っても、結構好感度は高い。
旅人
異変の度に博麗の巫女について行き、様々な女を口説き落とす。