「ぐへへ」
「……?」
何だろう、提督の視線を感じる……。
「あの」
「何?」
「何を見てるんですか?」
「祥鳳の柔肌」
私の、肌?
……ああ。
「服を片方、はだけさせているのが気になるんですか?」
「ああ、君の玉のお肌が綺麗に輝くのを見て幸せになっているのさ」
ええと?
「提督は、私の身体を見ると嬉しいのですか?」
「ああ、そりゃあもう」
つまり、これは、「そう言う事」ですよね。
「えへへ、少し恥ずかしいですけど……、提督になら、見られても平気です」
「……そうかい。俺的には、鎮守府がいくら女所帯とは言え、あんまり無防備な格好を晒すのは良くないと思うんだけどもね」
「そ、そうですか?」
「そうさ、そんな格好をしてると、俺みたいな悪い男に食べられちゃうぞ」
「て、提督になら、食べられちゃっても……」
食べられちゃうって、つまり、エッチなことをされてしまうって事ですよね。
少し、恥ずかしいけれど、提督になら……。
「……はぁ、祥鳳も俺のこと好きなのか。そんなに好感度を稼いだつもりはないんだがな」
……そう、明け透けに言われると、これまた恥ずかしいですね。
「……はい。私、祥鳳は、提督を、お、お、お慕い申し上げます!!」
でも、これが正直な気持ちですから!
「んあー、もー、俺、駄目男だよ、惚れる要素ある?」
「はい、沢山」
時折、提督は自分を過小評価する。謙虚さは美徳だけど、そこまで自分自身を卑下しなくてもいいと思う。
「えぇ……。俺クズだぜ?」
「やめて下さい!幾ら提督でも、提督を悪く言うのは許しませんよ!」
何でいつもは自信満々でカッコいいのに、時折自分を貶すようなことを言うんでしょうか。
「いやいや、天下無双のクズだぞ俺。麻雀で負けて三千万スった時の話とかする?」
「さ、三千万……?」
それは、確かに、物凄い額ですが。
「そう。マンション麻雀で負けてな」
「マンション麻雀って何ですか?」
「マンションで打つ麻雀」
マンションで、麻雀を?どう言うことなんでしょうか。
「いつもレートはデカピンくらい」
「どのくらいですか?」
「千点千円」
成る程?
「でも、その日は違った。傀と名乗る黒ずくめの男に、『打ちませんか?』と誘われてな。あれよあれよとレートを上げられ最終的には『御無礼』の一言と共に三千万が一夜で消し飛んだよ」
「それは、何というか、大変ですね」
「ギャンブルやる男とか最低だよね」
そうでしょうか?
「男の人は、賭け事とか、お好きでしょう?多少は仕方ないかと思います」
「三千万は多少じゃねーけどな」
確かにそうですけど。でも……、
「ですが、提督は、鎮守府の運営資金には一切手を出していないじゃありませんか。三千万円は確かに大きな額ですが、提督にとっては決して取り戻せない額ではないですよね?」
「そりゃ、そうだが」
「最低の男、と言うのは、周囲の反対を押し切ってまで、使ってはいけないお金にまで手をつけて、賭け事をする人のことを言うんだと思います」
「そう、か?」
「はい」
その点、提督は、お金の使い方は豪快ですが、手をつけてはいけないお金には、一円たりとも手をつけないお人です。
それに、例え賭け事に負けても、怒ったりせずに割り切ることが出来る人格者でもあります。
普通は、三千万円も負けたら怒ったり泣いたりするでしょうが、提督はそんなことはありません。大きな負け分を笑い飛ばせる時点で、大物です。
「……うーん、そう言う見方になる、か。だがな、一応言っておくが、マンション麻雀は犯罪だ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、刑法185条、賭博罪。見つかったら捕まるんだよ」
「へえ」
「そう、そうだよ。俺は悪い奴だ。数多くの犯罪を犯してきた。こんな悪い男に惚れちゃならないよ」
悪い……?
一体、どこが悪いのでしょうか?
「ですが、そもそも、提督がすることは全てが正しいのです。何が悪いこと、なんでしょうか?」
「まさかの全肯定?!」
当たり前、ですよね。
「俺は、ほら、悪いこと色々やったぞ!知り合いの怪盗三世と金庫破りとか、テンプル騎士団のアジトに爆弾仕掛けたりとか!」
「確かに、一般的には悪いことかもしれません。でも、全て、提督がするならば正しいことになるかと思います」
「な、何を言ってるんだ祥鳳。俺は悪党だぞ」
「いいえ、提督は常に正しいのです」
提督が白と言えば鴉も白色。常識ですよね。
「何なの君達、洗脳でもされてんの?好感度高過ぎとかそう言うレベルじゃねーぞ」
「洗脳?いえ、されていませんが」
「自覚なしか。……はぁ、遠慮しなくて良いんだぞ。気にくわないこととか、俺の駄目なところとか、指摘して良いんだからな」
「……分かり、ました」
提督に駄目なところなんて無いのに。気にくわないなんて、そんなこと……。常に私達のために尽力してくれている提督には、頭が下がる思いです。
「ですが、覚えていて下さい。この祥鳳、提督のためならば、いつでもこの命を捧げる、と!」
「重いよー、アジア系マフィア並みの忠誠心が重いよー」
「ふふ、もっと軽く考えて良いんですよ。私達の命、好きに使い潰して下さいね!」
×××××××××××××××
悲報、祥鳳が重かった。
命を預けるとか忠誠心がマッハ。
「正直、重いよ。期待が重い。俺はそんな凄い人間じゃないんだ」
「はあ」
どう思う?翔鶴。
「私は、旅人さんが、祥鳳さんにそれだけの忠誠心を向けられるだけの凄い人だと思いますよ?」
そうか?おだてるなよ。
「そうかな」
「はい!まず、頭が良いじゃないですか!だって、大学院出てるんですよね?」
「ああ、最初は日本の大学だったけど、留学してアメリカのミスカトニック大学とイギリスのグラッセンヘラーカレッジで考古学を修めたよ」
「凄いじゃないですか!」
いや、そうでもないけどね。大学の名前だけじゃ、社会に出てから通用しないって空条教授が言ってた。俺、社会出てねーけど。
「俺は賢くなんてないよ。精々、人よりちょっと頭の出来が良いって程度さ」
英国紳士の方の教授とか、本当に頭が良い人にはまるで叶わない。俺の頭の出来は精々上の下ってところか。
素の性能がそんなんでもないんだよ。妹の方が賢い。
「でも、教員免許も持ってるんですよね?」
「持ってるけど、あんなもん誰でも取れるよ。大学で片手間で取っただけだよ」
日本の教師のレベルを見て欲しい。教員免許なんてもん、誰にだって取れる。
「それでも、凄いじゃないですか!誰にでも出来ることじゃありませんよ!」
そうかい。
「それに、身体能力も超人並です!」
「並の超人並ってとこだよ」
「並の超人って言うのはよく分かりませんが……、素手で鋼鉄を引き裂き、銃弾を弾き、野生の獣より素早い……、完璧です」
その程度だ。技量は海王さんや愚地会長に届かないし、パワーや耐久性はラオウさんに届かない。気の闘技は桃さんに何十段も劣るし、スピードはヤーナムの狩人さん達に劣る。
いわば、人間卒業試験仮合格程度だ。
「何より、艦娘の全力を受け止めてくれるのが、私達にとって一番嬉しいんです。思いっきり触れ合えるなんて、とても喜ばしいですよ」
「いやー、俺程度のレベルの超人なら結構いるよ?」
「少なくとも私は見たことありませんけどね」
「探さないからだよ」
「それに、何より、人外の私達にも優しくしてくれるその心こそ、旅人さんの良いところですよ」
「まあ誤解だよね。俺が君達に優しい理由は、君達が美人だからだよ」
「ふふ、人じゃない私達を美人だなんて……。嬉しいです」
……あ、何だろうこれ。楽しい?
何言っても全肯定されるんだこれ。
ツイッターとかで日本人のオタクが可愛い女の子をママって呼ぶアレと一緒だ。
母性……。
翔鶴には確かな母性がある。
このままの調子で、俺はどんどん自分の悪事を白状する。
「借金もあるんだ」
「そうなんですか?」
「何十億も。踏み倒したけど」
「大丈夫ですよ。旅人さんは悪くありません」
「ストリートファイトした」
「旅人さんは悪くありません」
「強盗もやった」
「旅人さんは悪くありません」
「殺人もやった、殆どは正当防衛だけど」
「旅人さんは悪くありません」
「イスラム教徒に扮してアッラーを讃えよと叫びつつ道行く人に黒いボストンバッグを投げつけたりした」
「旅人さんは悪くありません」
ああ^〜。
浄化されるー。
「借金してまでキャバクラに通った」
ドリームクラブってところに。
「あ、それは駄目です」
えっ。
「キャバクラって、女の人とお酒を飲みながらお話するところですよね?それは駄目です。お話ならこの翔鶴がしますから、そんなお店には行っちゃ駄目ですよ」
俺から生き甲斐を奪おうと言うのか。
「翔鶴、悪い。キャバクラはやめらんないんだよ」
「……分かりました、ではこうしましょう!」
………………
…………
……
「で?」
「はい?」
「何これ」
改装された居酒屋鳳翔。
「キャバクラです」
キャバクラか。
「旅人さんの為に、キャバクラを作りました!キャストは全員艦娘ですが……、楽しんでいって下さいねっ!」
「成る程」
成る程。
祥鳳
旅人に忠誠を誓っている。
翔鶴
キャバクラは許さない。
英国紳士
イギリスのグラッセンヘラーカレッジと言う大学の教授。旅人の恩師の一人。
空条教授
ヒトデの研究。旅人の恩師の一人。
旅人
高身長、高学歴、高収入。