楽しい。
「……何やってんの、守子ちゃん」
海原守子。
お隣の、音成鎮守府の提督だ。
最近は殆どやることがないらしく、黒井鎮守府で雑用を買って出てくれている。
「えっと、その、受付兼ボーイです」
女の子なのにボーイとな。
「守子ちゃんは指名できない感じ?」
「は、はい。すいません。……でも、私なんかとお酒飲んでも面白くないと思いますよ。えへへ」
「分かった、じゃあ、今度個人的に一緒に飲もうな」
「あ、はい!」
さて。
壁を見る。
「ナンバーワンとか、張り出されてないの?」
「本日開店ですから」
「因みに店名は?」
「暁の水平線、です」
成る程ねぇ。
「では、早速ですが、ご指名は?」
うーん、どうすっかな。
………………。
「ちょ、ちょっと待って、何か、これ、駆逐艦や軽巡の子達もいない?」
「……はい、います」
「風俗法って言葉知ってる?」
「わ、私は止めたんですよ?けど、全員いないと不公平だって話になったらしくて……」
何が不公平?
「いや、だってこれ、例えばさ、暁とかがドレス着て酒出して来るんだぜ?そんなのもう犯罪じゃん」
「私に言われましても……」
まあ、まあ、良いわ。ここは黒井鎮守府、常識が通用しないと思って良い。
「で?セット幾らよ?」
「え?」
「こんだけのキャバ嬢いたとしたら、セット一万、指名料三千、ボトルで数万ってとこか」
「えっと、セットって何ですか?」
「え?基本料金だよ」
基本料金+指名料+酒代+サービス料=財布へのダメージ。
「基本料金……?」
「キャバクラはね、席に座るだけで金がかかるんだよ」
「えっ!そうなんですか?!」
知らなかったのか守子ちゃん。
「で?幾らよ?」
「え?えーと、無料です!」
「何ィ……?」
じゃあどこで金を取られるんだ?
「怖いな、ぼったくりか?」
「兎に角、無料なんです!旅人さん限定で!」
「高い酒飲んでも?」
「居酒屋鳳翔に置いてあるのを持ってくるそうです」
あー、確か、高級シャンパンとか置いておいたっけな。
三十万くらいの。
「よし分かった、もうごちゃごちゃ考えない」
「はい、あまり考えないでいただきたいです」
「じゃあ、指名しよう。あ、これって人数制限とかあるの?」
「基本、一人づつにしてもらえると助かります」
「分かった。じゃあ……」
どうするか。
そう、だな。
「霧島で」
「はーい。霧島さーん、指名入りましたー」
「ご指名いただきました、霧島です」
数分後現れた霧島。
黄色のワンピースドレス。
ほう、華やかでいい感じ。
「ドレス、似合ってるよ、霧島」
「はい、ありがとうございます」
取り敢えず褒める。
褒めるところから円滑なコミュニケーションが始まると言っても過言ではない。
「仕事柄、風俗店に足を運ぶことも多々ありました。データは揃っていますよ」
「成る程」
「先ずは席に案内します。こちらへどうぞ」
「ああ、ありがとう」
「では、お座り下さい」
……キャバ嬢ってか、用心棒?
メニューを開く。
「霧島、何飲みたい?」
「では山崎12年にしましょう。お願いしますー!」
「はーい」
守子ちゃんがパタパタを呼ばれて来て。
「おまたせしました、山崎12年です。グラスはこれでいいですか?」
「良くないね」
「え?」
「キャバクラなら、ゲスタンとレディタン分けるべきだね」
「何ですかそれ?」
「ゲスタンは8オンス、レディタンは6オンスだよ」
「ええと、これと、これですか?」
「そう、偉い偉い」
「ありがとうございます!」
と、守子ちゃんとのやり取りの後。
「さて、こう改まって、何の話をすべきか」
「いえ、司令。肩に力を入れず、いつものようになさって下さい」
「いつものように、っつってもなあ」
「そう、ですね。私のデータによると、仕事の愚痴を言ってみるべきかと」
俺が?仕事の愚痴?
「いや俺、仕事してないから」
「はっ、ご冗談を」
冗談も何も、仕事らしい仕事は……。
いや、そうか。
裏の貿易関係の仕事か?
「いや、仕事は上手くいってるよ。愚痴なんて無いさ」
「そうですか。では、自慢話に移行してみてはどうでしょうか。データによると、キャバクラに来た男性の多くが愚痴と自慢話をしてくるそうですから」
「俺はそんなことしないけどね。純粋に口説くよ」
「いえ、司令の自慢話に興味があります。是非聞かせて下さい」
まあ、そこまで言うなら……。
「じゃあ、俺が、埼玉県春日部市の幼稚園児とその家族と一緒に、世界を救った話をしようか」
「へえ、そんなことが。興味深いですね……。他には何かありませんか?司令のお話、もっと聞きたいです」
話せ、と言われたら話すが。
まあ、確かに、俺の旅話は面白いだろう。
俺の旅は、かけがえのない思い出ばかりだ。でも、
「俺の話ばっかりで良いのか?俺は霧島の話も聞きたいんだが」
俺ばっかり喋ってもな。
「いえ、キャバ嬢は聞き役に徹するものと聞きました。それに……」
「それに?」
「司令のお話は、本当に面白いのです」
そうかい。
「そう?じゃあ次だ。うーん、そうだな。ユクモ村でハンターやった話でもするか」
「……こうして、俺とハンターさんは、アマツマガツチを討ち倒して、ユクモ村に平和を取り戻したんだよ」
「そんなことが……。素晴らしいご活躍です、司令」
「……そして、その、身体は子供頭脳は大人の少年探偵と共に事件を解決して、大惨事を防いだって話さ」
「流石司令です」
「……そんなこんなで、多数の犠牲者を出しながらも、682を捕らえた俺と財団は……」
「……レイトン教授とその弟子の少年とのフィールドワークは楽しかったなー。失われた超文明の遺跡を発掘して……」
「……そして、エージェントのレオンと俺はBSAAのクリスと合流して、バイオテロの首謀者を……」
「……と言う訳で、偽神相手に大立ち回りを演じた俺とダンテ、ネロは、無事フォルトゥナを救って……」
「……消えた百億円は、ミレニアムタワーで悪徳政治家と一緒に吹っ飛んで、錦山さんはケジメをつけたって話。桐生さんは……」
「……こうして、ガンズオブザパトリオット事件は収束したんだ。最後の、スネークとオセロットとの殴り合いは、生涯忘れないであろう光景だった……」
「時間ですー」
守子ちゃんが伝えに来た。
延長して計三時間、ずっと俺が喋ってただけなんだが……。
「霧島、俺が喋るだけで本当に良かったのか?」
「はい。提督のお話は大変面白く、為になりました」
霧島がそれでいいなら、良いんだけどさ……。
×××××××××××××××
「次の指名はどうしますか?」
守子ちゃんに尋ねられる。
俺は、ううん、と、一つ唸って。
「じゃあ、妙高で」
指名した。
「はーい、妙高さん、指名入りましたー」
「お待たせしました、妙高です」
紫のドレス。派手過ぎない、清楚な雰囲気のそれは、妙高にベストマッチ。
「綺麗だよ、妙高」
「ありがとうございます、提督」
はにかむ妙高。美しい。
「妙高は何飲む?シャンパン?」
「いえ、私なんて、安酒で十分ですよ」
「……フードメニューは?」
「大丈夫です」
………………。
「良いか妙高、キャバ嬢ならな、飲み物はシャンパン、フードメニューはフルーツ盛り合わせを頼むんだよ」
上手い具合に、甘えた声で!!
「そ、そう言うものなんですか?」
「そう言うものなんだよ。謙遜しちゃ駄目だ、ナンバーワン目指すなら高いメニュー頼ませないと」
「別にナンバーワンなんて目指していませんが……」
そう?
「妙高ならナンバーワンも夢じゃないぞ」
「そもそも、キャバクラ、と言うものがよく分かりません。昔の喫茶店みたいなものでしょうか?」
「あー、大体あってる」
妙高達の時代の喫茶店と言えば、内情はほぼ今で言うキャバクラに近いものだったらしい。
「で、では、提督は、そのようないかがわしいお店によく、行くのですか?」
「行くのですよ」
「なりませんよ!」
いかんのか。
「提督ともあろうお人が、そんな下賎なところに足を運んではなりません!」
下賎なところ大好きなんだけど。
風俗とか大好き。趣味。生き甲斐。
高貴さとかそう言うのとは無縁だ。いや、ビシッと決めろと言われればできないこともないが。
「提督のお相手は、今後は私達が!……でも、私のようなつまらない女では、提督もお嫌でしょうから。金剛さんのような華やかな方に頼みましょう」
そう言って席を立つ妙高の腕を掴む。
「いや、俺は、君がいい」
「え?提督?」
「妙高にお相手して欲しいんだ」
「も、もう、そんなこと……!リップサービスってやつですか?」
何だよリップサービスって。どこでそんな言葉覚えて来るんだ。
「本心さ」
「本当、ですか?」
「本当だとも」
「そ、それでは……」
何だい?
「一度きり、一度きりで良いのです。私に、好きだと、愛してると、言っては下さいませんか……?」
それくらいならお安い御用。
「妙高……、愛してるよ(イケボ)」
「……ああっ!」
あっ、妙高が倒れた。
霧島
聞き上手。
妙高
ちょろい。
海原守子
ほぼバイト。
旅人
色々やった。