草バエル。
マッキーすこ。
「はあい、ご指名ありがとうございまーす!足柄よん❤︎」
足柄だ。
姉の妙高が、例えるなら柳のような美人だとしたら、足柄は薔薇の花束だ。
ともすればけばけばしいくらいに派手で、煌びやかで華のある、美しい女性だ。
「足柄ー」
「なあにー?」
「綺麗だな。君みたいな美人にお酌してもらえるなんて、俺は幸せ者だ」
「やだもう、お上手なんだから!」
「ははは、さあ、何飲む?」
「シャンパン、頼んでもいーい?」
上目遣いでおねだりする足柄。良いじゃん、これが、これこそがキャバ嬢だ!!俺の求めていたものだ!!
「良いよー、頼め頼め」
「やったー!お願いしまーす!」
注文する足柄。異様に様になっている。
「シャンパン、ゴールドで!」
「はーい」
はい三十万飛んだー!!
「でも、こうしておあつらえ向きの場所を用意されても、態々話すことなんてないわよねぇ」
グラスを傾けつつ、語りかけてくる足柄。
「あ、でも、こうして二人きりなんて場面はそうそうないかも。レアよレア」
「ああ、そうかもな」
「ふっふっふ……、さあ、提督!お酒の力で、普段言えないようなことを洗いざらい吐いてしまうのよ!さあ!さあ!」
おっ、なんだなんだ、普段言ってないこと?
「クジラに一番近い動物はカバだってこと?」
「確かに普段言ってないけど!!そうじゃないのよ!!……えっ、ってかそうなの?クジラとカバって仲間なの?」
「鯨偶蹄目だからね」
初耳だろう?豆知識だ。
「いや、初耳だけど!そうじゃないのよ!もっとこう、提督が言いたくても言えないような、そんなブラックなことよ!そう言うを私にぶちまけちゃって!!」
ブラックな話……。
「タコスミって実は美味いんだよ。取り出す手間と分量の少なさから使われないだけで」
「確かにブラックな話だけど!!私が予想してたのと違う?!えっ、ってか美味しいんだタコスミ?!」
美味いんだよ、これが。
タコスミでパスタ作ったことあるけど、中々の出来だった。
「そうじゃなくって!もっとほら、そう、愚痴よ、愚痴!この私に胸の内を明かしてちょうだい?」
「何で?」
「今回はキャバクラ回なんでしょ?だからよ」
そうかい。
「それに、提督だって、いつでも気を引き締めていたら大変でしょう?大丈夫よ、提督の駄目なところも、ちゃんと受け止めるから」
気を引き締める?そんなつもりはないんだがな。
「そうだな、足柄になら、ちょっと愚痴を言っても良いかもな」
「そうそう!言っちゃって言っちゃって!」
そうだなあ。
足柄は母性もあるな。
「最近、ちょっと隣くらいの世界によく行くんだけどさ」
「うんうん」
「そこで新大陸古龍調査団ってとこに潜り込んで、新大陸の調査をしてんのよ」
「うん……、うん?」
「そこで、ゾラ・マグダラオスって古龍を捕まえようと皆んなで頑張ったんだけど、見事に失敗しちゃってさ。駄目だったよ」
「……うん?」
分からんのか?
「えっと、まず、古龍調査団?って何かしら?」
「新大陸にいる古龍を調査する団体だ」
「古龍って?」
「長く生きるドラゴンだ。その多くは、火を吹いたり爆発したり天候を操ったりなど、法外な力を持っている」
「な、成る程ね、はいはい、提督の破茶滅茶は今に始まったことじゃないわよね、はいはい」
何だよ、人を無法の化身みたいに。
「じゃあ提督は、その新大陸ってところに、その、古龍?を調査するために向かったのね?」
「そうだよ」
「何で調査するの?」
「詳しくは知らんけど……、古龍渡りって現象の解明のためだって。学者先生とかいっぱい集まってるよ」
目的は知らん。
「で、その、ゾラなんとかってのは、どう言うやつなの?」
「うーん、火山に手足が付いた巨大な化け物、かな」
黒くて、デカい。
「……それ、ゴジラとかじゃなくって?」
「ゴジラではないな。ゴジラくらいデカいが」
「そんな化け物を、捕まえようとしたの?」
「いや、俺が言い出したんじゃないよ?上がそう言ったから」
俺は内心、「無理じゃね?」って思ってた。けど、皆んな乗り気だったし、やる気満々だったから水を差さなかっただけ。
「どうやって捕まえようとしたの?」
「砦を築いて、二段階作戦で」
まず第一の砦で体力を削ります。
第二の砦で捕まえます。
「ごめん、言わせてもらって良い?……馬鹿じゃないの?」
だよなぁ。
山みたいにデカい化け物を殺すならまだしも捕まえようってんだからな。それも、大砲やバリスタ程度の火力で。
「提督は何やったの?」
「俺?弓でチマチマと」
「山相手に弓で戦ったの?」
「うん」
「勝てると思ったの?」
「いや、無理だと思ってたよ」
「でも、やったんでしょ?」
「うん」
はぁ、と溜息をつく足柄。
どうした?
「いやあ、あんまりこんな言い方はしたくないけど、馬鹿な真似はやめて」
「いや、良いところまではいったんだよ?でも、急に現れたネルギガンテってやつに邪魔されてさ」
「はいはい。大丈夫なの?怪我とかしてない?」
「してない(した)」
「どっちなのよ」
「もう治した」
治る怪我は全部軽傷と言って良いのではないだろうか。
「全くもう、いくら言っても危ないことして帰ってくるんだから」
「俺も男の子だからな。危ないことは大好きなのだ」
「もー、戦いは苦手なんじゃなかったの?」
「いや、これは狩りだから。狩りは得意だよ」
狩りはまた別だ。
「まあ、良いわ。でも、死なないでね。それだけは約束してちょうだい?」
「善処するよ」
×××××××××××××××
善処する、だからな。
死なないとは言ってない。
さて、次の指名はー、と。
「リシュリュー!君に決めた!」
「はい、リシュリューさんですね」
ボーイ役の守子ちゃんがリシュリューを呼ぶ。
すると。
「Amiral、ご指名のリシュリューよ」
輝かしい白のドレスのリシュリューが現れた。
「やあ、リシュリュー」
「Bonsoir、Amiral」
挨拶を交わして、と。
「で?これはどう言う趣旨?Cabaretの真似事かしら?」
キャバクラはキャバレーとクラブを複合した和製英語。よって、間違いではない。
「大体合ってる」
「困ったわね、歌もダンスも自信がないわ」
「ああ、いや、それは大丈夫。リシュリューはただ、俺と楽しくお喋りしてくれればそれで良いから」
「それだけでいいの?」
「むしろキャバクラってそう言うものだから」
「そう」
と言う訳で。
リシュリュー、リシュリューか。
我が鎮守府のおフランス的美女にして、からくり使い。
あるるかんのレプリカを使って、戦場で無双する人。
……まあ、うちの鎮守府の子達は皆んな無双ゲーが如く無双するんだけど。
「楽しくお喋り、ねえ」
「そう、お喋り。何か話したい事はない?」
「話したい事、そうねえ。あ、最近、あるるかんの聖ジョージの剣を新調したのよ」
「リシュリュー、俺に合わせて危ない話をしなくったって良いんだぞ」
女の子が口を開いて第一に武器の話題ってどうなん?
「でも、男の人にファッションの話題とか振っても分からないんじゃないかと思って」
「俺は分かる方だぞ」
わかるマン。
「そう?それじゃあ、ルイヴィトンの新作の話なんだけど……」
………………
…………
……
「この、ピンク色の色合いと模様が綺麗でね、素敵なのよ!」
「エルメスも素敵でねー。そうだ、この前可愛いネクタイがあったのよ。プレゼントするわね」
「iphoneケースはね、日本のが結構可愛いのよ」
まともな会話をする俺とリシュリュー。
キャバクラ、これこそキャバクラ!
「にしても、Amiralは女物のブランドにも詳しいのね」
「そりゃ、ある程度はね」
「……女装癖でもあるのかしら?」
「なんでそうなる」
「だって、並みの女の子よりブランド物に詳しくて、お洒落の話が通じるのよ?ちょっと疑わしいわ」
「俺はノーマルだ」
「Vraiment?」
本当に?じゃねーよ。
「本当だよ、疑わないで」
「まあ、女の子に興味があるなら、良いわ」
ん?
「俺が女好きじゃないと困るの?」
「ええ、好きな人が同性愛者だと困るでしょ?」
あっ。
「あ、あれ?リシュリューって俺のこと好きなの?」
「ええ。Je t’aime、愛しているわ、Amiral」
お、おかしい。
好感度を上げた覚えがないのに。
「何でだ?何で惚れた?顔か?」
「恋は理屈じゃないのよ」
嘘やん。
「や、やめとけ、ほら、俺、不倫するぞ」
「良いわ、私の魅力で繫ぎ止めるから」
んんー、んんんんんー?
「俺じゃ君を幸せにできない」
「それは私が決めることよ。Amiralは言ったでしょう?幸せは自分で掴み取るものだ、と」
言った気がするが!
「だから、安心して。私はAmiralに、生涯をかけてついて行くから。一生、一緒よ」
安心できねぇーーー!!!
足柄
キャバ嬢っぽい行動が上手い。
リシュリュー
れざあましおう。
旅人
五期団に紛れ込んだ。