次回の建造でリクエスト分は終了か。
音成鎮守府。
黒井鎮守府のお隣にある、小さな、あるいは中規模な鎮守府です。
提督はこの私、海原守子。歳は二十五歳。
見た目は、そうですね、艦娘の翔鶴さんにどことなく似ていると言われます。いえ、髪は黒色ですけど。
この海を守ろうと思って、数年前、大学の卒業と同時に提督になりました。
実家は田舎の漁村の漁師で、特技は魚料理です。
「やあ守子ちゃん」
この人は黒井鎮守府の提督、新台真央さん。何でもできる完璧超人で、かっこいい男の人。
黒井鎮守府って言うのは、国内どころか、今では世界最大級の規模と戦力を誇る巨大鎮守府。
音成鎮守府は、黒井鎮守府に近い位置にあるということもあり、黒井鎮守府とはほぼ併合状態です。
「はい、何か?」
「おいで」
「は、はあ」
歩き始めた旅人さん(名前ではなく、旅人さんと呼んで欲しいらしい)に、取り敢えず着いていく。
「あの、どこに?」
「居酒屋鳳翔」
「ひ、昼間ですよ?!」
昼間からお酒だなんて!
「仕事、あるの?」
「………………ありま、せん、けど」
そう、そうなのだ。
最近は、お仕事が、ない。
艦娘の皆んなは有能の一言で、簡単な書類仕事を除けば、今や私の仕事は、黒井鎮守府での簡単な雑用のみ。
私は、と言うと、日がな一日、黒井鎮守府をふらふら歩って、その辺の艦娘の皆んなからお仕事を貰って、それをこなしているだけだ。
「じゃ、飲もうよ、守子ちゃん」
だからと言って、昼間から酒盛りはどうかと?!
「うう、良いんでしょうか、こんな時間からお酒だなんて……」
「鳳翔ー、テキーラ持ってきて。ジョッキで」
「普通は死んじゃうかもしれませんからね?!」
旅人さんは完璧超人だが、悪癖もある、そうだ。私も艦娘の皆んなも何とも思っていないけれど、旅人さんが言うには悪癖らしい。
まず一つ、これは普段の生活を見れば分かるけど、女の人に弱い、ってところ。美人には目がないそうだ。
私のことも美人だと言っていたけれど……。えへへ、ちょっと恥ずかしいですね。
そして二つ、時間やお金にルーズなところ。沢山稼いで沢山使うのは悪いことじゃないと思うんだけど。
そして、三つ目に。
「テキーラ一杯で死ぬかよ」
お酒を沢山飲むところ、だ。
「大きなジョッキでテキーラですよ?!」
まあ、酔って暴れる訳でもないし、悪いことでもないとは思うんだけど……。
「大丈夫大丈夫、こんなに美味い酒が身体に悪い訳ないじゃん」
喉を鳴らしてお酒を飲む旅人さん。うわぁ、あれ、私なら倒れちゃうんだろうなぁ……。
「守子ちゃんも頼みなよ」
「い、いえ、ですから、まだ昼間ですし」
「でも、仕事ないんでしょ。酔っても困らないじゃん」
「そう、ですけど……」
お仕事はありませんけど、それでも、昼間からお酒は抵抗が……。
「今度飲もうって約束してたじゃん」
「しました、けど」
堕落……、堕落してしまう!このままじゃ、碌にお仕事せずにお酒飲む人に!
「鳳翔ー、カシスオレンジ頼む」
ああっ!
「ん?カルーアミルクが良かった?それともビール?」
「だ、だって私、碌にお仕事してないのに、昼間からお酒だなんて」
「俺も働いてねーから」
嘘だ。
旅人さんは、家事をしたり、出撃したり、貿易したり、艦娘とコミュニケーションを取ったりと沢山頑張っている。
働いていない、と言うのは旅人さんの主観であって、余所から見れば十分働いている。
艦娘と遊んでいるのも、艦娘のモチベーション維持と考えれば仕事の範疇だろう。
そう考えると、旅人さんはいつも働いている。
私は、私、は……。
「まあまあ、嫌なことは飲んで忘れよう!」
「もう、分かりました……」
はぁ、考えてもしょうがない、か。
出されたカシスオレンジを一口。うん、美味しい。あはは、働かなくってもお酒は美味しいんですねー。
「こっちも飲んでみるかい?」
「え?あ、じゃあ、ちょっとだけ」
旅人さんからテキーラのジョッキを受け取る。
か、間接キス……!
「って、凄い爽やか!そして辛口っ!」
「パトロンシルバーよ。俺はブランコの方が好きだからな」
「あ、でも、甘くて独特な香りがします。結構美味しいかも」
「そうだろうそうだろう。スピリッツは美味いんだよ!女の子はあんまり飲まないかもしれないけどさ!」
強いお酒好きですよね、旅人さん。
「で、何だい?愚痴なら聞くよ?」
「愚痴って言うか、最近の私、まるで働いてないな、って……」
「んもー、気にしなくっても良いってば!ベーシックインカムが導入されたとでも思って、ゆっくりしていってね!」
そんな、こと……。
「そもそも、働かないで済むならそれが一番ではないだろうか(哲学)」
「そうかも、しれないですけど……。それはその分、皆んなの負担になっていると言うことになるじゃないですか」
「守子ちゃん真面目過ぎー。世の中なんて持ちつ持たれつ、負担なんて好きなようにかけて良いんだよ」
そう言う訳にもいきませんよ。
私が頑張ってない今、私の代わりに誰かが頑張っている、と言うことになるんですから。
「良い子だなぁ、守子ちゃんは。俺も見習うべきだな、こりゃ」
「そんなこと……」
「いやだって、守子ちゃんは俺と違って、借金もないし、口説き落とした女の子ほっといて旅に出てもいないし、良い子じゃないか」
「え」
な、何やってるんですか旅人さん。
「風俗と酒とギャンブルとで溶かした金、一銭も返してないぞ俺」
「うわぁ」
旅人さん……。
「因みに幾らくらいあるんですか、借金」
「十億から先は数えてないね」
ひ、酷いですね、それは。
「幻想郷とかドリームクラブとかの女の子なんて、口説いて抱いた後は会いに行ってないし」
「うわぁ」
「因みに何人くらい」
「百人以上?」
うわぁ……。
「と、まあ、このように最低のクズな訳だが」
「いや、その、最低だなんて……」
いえ、その、えっと……。
「いやいや、取り繕う気はないから」
「まあ、はい、確かに、ちょっと酷いかな、とは……」
「そうよ。守子ちゃんは俺みたいにマイナスじゃないだけマシよ、マシ」
うーん、そうなの、かなぁ?
「それに、雑用を頑張ってくれてるんだろ?」
「雑用なんて、ちょっとだけですよ?」
掃除も家事も、その辺を徘徊しているロボットがやってしまう。
料理は旅人さんと厨房組の艦娘達がやる。
私がやるのなんて、本当に、ちょっとしたことだけだ。
「仕事、仕事ねぇ。あ、そうだ」
何かを思いついたような顔をする旅人さん。
「うちの窓口やってよ」
「窓口、ですか?」
「そう、受付。クレーム対応とかするの」
「クレーム、来るんですか?」
「来るねー、反戦団体とか。大変そうだけど、やってくれる?」
「は、はい!やります!やらせて下さい!」
「旅人さぁん!何ですかこのお金ー!!」
「え?君の給料だけど」
「何でクレーム対応程度で◼︎◼︎◼︎万円も渡すんですか?!」
「うちの給料、基本給は◼︎◼︎◼︎万だから」
「兎に角、こんなにたくさん貰えません!」
「貰って」
「い、いや」
「貰って」
「駄目で」
「貰って」
もー!!
音成提督
本名は海原守子。国立で文系の大学生だったが、提督としての素質を持っていることがひょんなことから発覚し、卒業と同時に提督になる。温和だが芯の強さと優しさを兼ね備えた女性。「私も頑張るから、あなたも頑張りましょう!」とか言ってくるタイプ。
旅人
人間の屑。