どっちが先だと良いと思いますか?
「さて、仕事終わり、と」
ふう、と一息ついて。
仕事も午前で終わり、ですか。
まあ、艦娘と言う戦力兼整備士であるこの明石は、他の艦娘と比べれば仕事は多い方ですが。
皆さん、本当に優秀で、艤装のメンテナンスくらいしか、やることないんですよね……。
趣味で新しい兵器や発明品を作ることはありますけど、もう殆どそっちがメインみたいな。
しかも、予算は黒井鎮守府から直接出るんで、懐は痛まないし。
至れり尽くせりで。
「……提督は、何を考えているのでしょうか」
研究資金は幾らでも用意してくれる、お給料もくれる、食べ物もお酒も、お菓子も、服もアクセサリーも、愛情までくれる。
だから、時々、不安になる。
いっつも笑顔のあの提督が、何を考えているのかを。
もしかして、私達のことを迷惑に思っているんじゃないかと、そう思うと夜も眠れない。
「……と、言う訳で、提督の心が読める眼鏡を作りました。艦娘の皆さんはテストにご協力をお願いします」
……「不敬では?」
……「いや、白露型は皆提督の心を読んでいるそうだぞ」
……「興味深いですね」
「異議異論はもちろんあるでしょう、ですから、強制はしません。……ですが!提督が普段何を考えているのかを可視化するまたとないチャンス!逃す手はないかと思いますが?」
「「「「………………」」」」
すると、艦娘達の手が、手元の眼鏡に伸びる。
くくく、成功ですね。
さあ、提督?
教えてください。
貴方が何を考えているのかを……!
「明石、何だその眼鏡」《可愛いな、似合ってる》
はぁい成功!
読めます読めます読めますねー!!!
「これですか?ちょっとした発明です!鎮守府に配布しましたが、あまり気にしないで下さい!」
「ふうん、そうかい」《明石可愛い》
「ところで提督?私について、何か言いたいこととかないでしょうか?」
この質問で、提督の心を見る!!
「言いたいこと?」《んー?何のことだ?いつものいたずら?いや……》
「見たな」《見たな》
「え?」
《心を読んでいるな?》
「ちょっ?!何で分かるんですか?!」
《分かるさ、そのくらい。覗かれている感覚があるんだ》
「す、すみません……」
《俺の心を覗くのは非常に危ないから、おススメしないぞ。認識災害とかミームとか》
「は、はあ」
《誤字とか、伊る、ねことかな。脳に記憶処理装置をぶち込む羽目になるのは嫌だろう?》
分かりませんが。
《まあ、そうと分かれば俺も、深層心理までは読ませないように注意するから》
「ええー」
《ブーイングは聞きませーん》
ぶーぶー。
《心を読むのは構わないけど、俺だけにしとけよー。他の子の心を読んだりしちゃ駄目だからなー》
「あ、それは大丈夫です、この眼鏡、提督の心しか読めませんから」
《それは安心だ》
って、そうじゃない!
そうじゃないんですよ!
私が提督の心を読もうと思ったのは……。
「私のこと、迷惑に思ってないかと……」
「んーん、そんなことないよ」《いやマジで》
「でも、心の奥底では……」
「俺は明石のこと好きだよ」《愛してるばんざーい、ってね》
「まあ、分かり、ました。でも、提督。なるべく、思ったことは口に出して下さいね。嫌なところは直しますから」
「ああ」《嫌なところなんてねーけどな》
×××××××××××××××
司令官❤︎司令官❤︎
私の大好きな司令官ー❤︎
ふふ、白露型である私は、こんな道具なんてなくても、司令官の心を覗けるけど……。
一度、しっかりと見てみようかな❤︎
「司令官ー❤︎」
「ん?」《ヘルシェイク矢野》
んん?誰それ?
「ああごめん、ヘルシェイク矢野のこと考えてた。何だい春雨?」《今日の晩飯何作ろう。コロッケ、いや、メンチカツ……》
えっと……。
「司令官の心を覗きに来たの❤︎」
「ふむ、ストレートな物言い、実に良い。好きなだけ覗きたまえよ」《マグマミキサー村田》
だから誰?
……まあ、いっか。
さあ、集中して、脳内の瞳を拡張して……。
「あ、ハハはっ!キヒィ!!来たァぁ!!!」
ふふ、見える……!流れ込んでくる!!
司令官の記憶が!!!
《クソ、食いもんがねえ……。あー嫌だな、しょうがねえ、ゾンビの肉食うかー。うおぇ、不味い……》
《『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!!!』痛え、ああ、しくじった。ムーンビースト共め、遠慮なしか……》
《くっ、やべっ『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ーーー!!!』獣め、畜生、内臓が……》
《チッ!クソが!死にやがれー!!……っはぁ、やったか》
《何だここ。監禁?ずっと一緒?オイオイ、冗談キツイぜお嬢さん》
《寒い……、寒い……、死ぬ……。洒落にならねえぞ八寒地獄》
「くひっ、ひはは、あはははは!!やっぱり司令官は私達と一緒だ!破綻者なのね!!」
「んえ?何が?」《そうだ串カツにしよう!たまにはこういう晩飯もありだろう》
「生きるために屍肉や蛆虫を喰らい、得体の知れない化け物共にはらわたを抉られ、数多の悪意に殺し殺され!!そんな中でも司令官は確固たる自分を持っている!持ち続けている!!」
狂気の中、正気でいるものが最も狂ってる……❤︎
「お、おう、そうだな。確かに俺は、我の強い方だが」《後は、そうだな、お好み焼きでも焼くか。たこ焼きもいいな。焼きそばも。関西リスペクトー》
「常人なら自我が擦り切れ、心的外傷で精神が潰れるはずの日常!!貴方は、司令官は、それでも自分であり続けた!!!」
「人聞き悪いな、確かに辛いこともあったが」《人を気狂いみたいに言うのはNG》
「暗い宇宙の深淵の中、確かな輝きを放つ恒星のようで!……美しい!美しいの、司令官の心は!!!精神は!!!!」
「照れるぜ」《春雨のパンツ何色かな》
「うふふふふふ、あはははははは!!!あ、ピンクです」
何て綺麗なんだろう!!
ああ、だからこそ、だからこそ……。
この人が、欲しい……!!
この人の光が私達だけに降り注いだらどんなに素敵か!!
欲しい、欲しい欲しい欲しい欲しい!!!
「頂戴、司令官……❤︎」
「ほい」《まーた血液抜かれんのか。その内貧血で倒れるぞ俺》
×××××××××××××××
「しーーーーーぁはーとあたっく!!」《ああ^〜、やっぱりクイーンは最高だぞい!ロックの頂点だ!》
ああ、いた。
私のAdmiral。
ロックミュージックかしら。私はクラシックくらいしか聴かないから、詳しくはないけれど、Admiralが歌うと様になるわね。とっても上手だし。
「おやウォースパイト。何か用かい……、って聞くまでもないか。さっきから艦娘達が俺の心を覗きに来てるからな」《つーか眼鏡似合うなー。知的な雰囲気だ》
「一応聞いておくわ。心を覗かれることに嫌悪感は?」
「無いね。俺の知り合いには心が読める女の子がいる」《琴浦ちゃんとかさとりんとか》
脳内にビジョンが浮かぶ。
一般的なhigh schoolの女の子と、紫の髪が特徴的な女の子だ。
「他にもいる」《ボクシング界を牛耳るとか抜かしたチンピラとかダービーとか言うゲーマーとか》
特徴的な男性が二人。
「俺も読もうと思えば読めるし」《心理学<80>と脳内の瞳で》
成る程……。
「じゃあ、少しくらい心を読まれても問題ない訳ね」
「そうだね」《かまぼこ》
かまぼこ?
……まあ、良いわ。
「それじゃあ、子供の頃のことを思い出してみて頂戴?貴方の過去が知りたいの」
相互理解は恋愛で最も大切なことだと思うわ。
Admiralは私のことを理解してくれるけど、私はAdmiralのことを理解しきれていない。
もっと知りたいわ、私の愛しい人。
「まあ、良いぞ」《子供の頃?子供の頃かー》
《『ジャギ!アミバ!行くぞィァ!!!!』『うおおやめろ馬鹿野郎!!兄者の顔に落書きなんて!!!』『こ、殺されるぞ!!!』》
《『愚地師範、稽古つけて下さい!』『ヨッシャ、良いだろう』》
《『花凛、飯だぞー』『うん、兄さん。ありがとう』》
成る程、世紀末幼稚園。
「お知り合いが沢山いるのね。こんなに沢山の人を覚えていられるの?」
「うん、案外覚えてるもんだよ」《出会った人のことはよく覚えてる》
でも、あれね。
皆んな特徴的な人ね。
「あ、そうだ、Admiralのsisterに会いたいのだけれども」
「うん?何で?」《うちの妹に何の用だ?》
もう、Admiralったら。
「結婚相手の家族にはしっかりと顔を見せるべきよ。貴方のsisterは私のsisterでもあるんだから」
「んんーん」《なーんだそりゃ。ケッコンカッコカリとは一体何だったのか》
「今度、鎮守府に招くと良いわ」
「考えとく」《考えておくだけな》
ふふふ。
でもね?
「Admiral、私は嬉しいの」
「何でだい?」《大体予想できるが、聞こうか》
あら?分かってるのに聞くのかしら。
まあ、そこもAdmiralの良いところよね。
「家族ができたから!」
「ああ」《そうかい》
「艦娘と言う、世界で一人きりの私の、家族になってくれたじゃない!」
「そうだな、君達の家族だな俺は」《兄とか父親ポジションじゃいかんのか》
駄目よ。
「それでね、Admiral。戦況もそろそろ安定してきたし……、新しい家族を」
「えー」《嫌だ》
むぅ。
Admiralは意地悪ね。
明石
黒井鎮守府に数多くいるヤベーやつの一人。
春雨
狂人。確かな智慧を秘めている。血に酔っている。狩人。
ウォースパイト
恋愛を楽しんでいるつもりのサイコパス。
旅人
読心はできるが、やらない。