……いや、頑張ったよ、俺は。
昨日のあの後も、木曾は俺に着いてまわり、今隣で寝てる。いや、あれはヤバかった。俺は基本、外でドラム缶風呂に入ってるんだけど、何故か木曾も一緒が良いって言うからさ、うん。あの狭いドラム缶風呂に二人。……危うく狼さんになってしまうところだった。
鎮守府の皆んなは、言い方は悪いが地雷なのだ。例えば、木曾と致した場合、執務室に大井ちゃんの魚雷が飛んでくるだろう。金剛と致した場合、霧島さんが殴り込んでくるだろう。つまり、誰としても死ぬ。
普段は、夜の街に出てあんな事やこんな事をして発散(div)しているが、これもバレたら大変なことになるだろうよ。気を付けなきゃな。
さて、結局寝室まで着いてきた挙句、俺と添い寝した木曾を起こし、厨房へ飯炊きに……。
そして朝飯の後。
「「提督!これから空いてますか?」」
と、工廠に入り浸るDIY精神同盟の仲間、夕張と明石。……夕張も距離が近いんだよなぁ、明石と同じくらいには。
「うん、暇だよ?」
「良かった!その、とある画期的な発明をしたんですよ!私達!」
「でも、どうしても未完成の部分があって……。提督に力を貸して欲しいんです!!」
へぇ、発明。興味深いね。何だろ?
「じゃ、工廠に行きましょー!」
テンションマックスの夕張が、俺の手を握って工廠に連れて行く。ナチュラルに恋人繋ぎなところが凄いよね。
「ふーん、『魂魄移転及び艤装適合率上昇装置』ねぇ……」
「はい!これがあれば、理論上、特殊な装備が無くとも、私達艦娘が強くなれるんですよ!!」
「私達は便宜上、『ロック装置』と呼んでいます!」
……この、魂魄移転及び艤装適合率上昇装置は、その名の通りに、「軍艦の神霊」である艦娘の魂魄を、本体である艤装から、肉体へ徐々に「移し換え」、「個体としての確立」と、それに伴う「個体別の進化」による「性能の向上」を行う装置、らしい。
ま、簡単に言えば、艦娘が人に近づいて、より強くなれる装置ってとこか。
……うん、良いことだ、良いことなんだが…………。
「……なんで、よりにもよって首輪型なの?」
「「私達の趣味です!!」」
あ、そっかあ(諦め)……。
「はぁ〜(クソデカ溜息)、まあ、確かに、魂魄移転の部分がまだできてないな。……あと、デザインは首輪以外も作ること。トラウマがある子もいるんですよ?」
「「はーい!」」
「じゃ、行くから、用意して」
「……行くって?」
「魂魄移転装置なんて、流石に専門外だ。知り合いの科学者に会いに行くんだよ」
「へぇ、何処に行くんですか?」
「北海道」
「「…………え?」」
×××××××××××××××
「さささささ寒い!!寒いです、提督!!」
「かかかかか風邪引いちゃいますよぉ!!」
私、夕張と、明石さんは、提督に連れられて、何故か北海道の桜町に来ている。何でも、凄腕の科学者がいる、とか。でも…………。
「ここ、ゴミの島じゃないですかぁ!!こんな所、科学者どころか、人っ子ひとりいないですよぉ!!」
「いるってば、まあ、待ってな!」
そう言うと、提督は、ボロボロの小屋の戸を叩き、叫んだ。
「おーい、博士ー!!ちょっと力を貸してくれー!!」
「!、…………(どうするの、剛くん?旅人さんだよ?)」
「…………(寒いから、居留守しちゃおうよ、ミーくん)」
「…………(ドアを開けたら冷た〜い空気が入ってきちゃいますもんねー)」
…………返事が無い。
「ほら、やっぱりいないじゃないですかぁ!」
「うーん、折角、差し入れに食料を大量に持って来たのになぁー。旬の魚と、美味しいお肉と、新鮮な野菜、良いお米に、お高いお酒、うちで作ったお菓子も沢山…………」
「「「こんにちは!旅人くん(さん)!!!さあさあ、どうぞ中へ!!!」」」
「…………な?」
「な?って言われましても…………」
小屋から出てきたのは、背の低く、丸くて髪の薄いおじさん、黒猫を模した服を着た男の子、メタリックな猫…………。科学、者?
「いやー、久しぶりだなぁ、旅人くん!何でも、提督になったとか?」
「凄いよねー、大出世ですね、旅人さん!」
「ところで、そっちのおねーさん達は?」
ん?あれ?ちょっと待って?あのメタリックな猫、今、喋った?
「どしたの?緑のおねーさん?ボクの顔に何か付いてる?」
「…………え?なにこの、何?」
本当に、何?ろ、ロボットかな?
「わぁ!かわいい!かわいいです!!」
「わぁ!は、離してよー、ピンクのおねーさん!!」
明石さん、猫好きなんだ……。いや、そもそも、猫?猫なの?
「夕張、あれはミーくん、サイボーグの猫だよ」
「さ、サイボーグ?!」
一部では実用化されてるらしいけど、猫をサイボーグに?!なんで?!
「さあ、紹介しよう、この子達はうちの鎮守府の技術担当、夕張と明石だ。今回は、二人の発明品の完成に手を貸して欲しいんだ」
「夕張?明石?!」
驚く男の子。
「じゃ、じゃあ、お姉さん達って、艦娘なの?!」
ああ、そっか、怖がらせちゃったかな?要は、軍艦が歩いているみたいなものだし、普通は驚くよね。なんとか、敵意がないことをアピールしなきゃ。
「凄いよ!じゃあ、お姉さんが、造船の神様と呼ばれた平賀譲さん設計の、あの重武装な軽巡洋艦なんだね!!そして、明石さんは、連合艦隊唯一の工作艦で、内部には17の工場があったとか!!」
あ、あれ?
「おお!私も知っているぞー!どちらも、科学者として尊敬できる、素晴らしい設計思想の軍艦だ!」
「おねーさーん、いい加減離してよー!」
「その、怖く、無いんですか?」
「「怖い?何が?」」
お、おかしいな、だって、私達は、人間じゃないのに。
「あー、夕張?この人達はな、艦娘なんかよりもっとヤバいもんと関わってきたから。感覚が麻痺してるんだよ」
「なっ!君に言われたくは無い!」
「そーですよ!」
あー、そっか。非常識の知り合いも、また非常識ってことなのね……。
すると、自分を科学者と名乗るおじさんは、ゴホン、と咳払いをすると、私達に言った。
「それで、ええと、発明品だったね?流石の私も、現物を見ないことにはなんとも……」
「あ、はい、その、これなんですけど……」
未完成の装置を見せる。
「ふむ、どれどれ……?成る程、魂を移し換えるシステムで行き詰っているみたいだ。これなら、前にデビルと戦った時の装置の理論を応用すれば直ぐだ」
!、凄い!一瞬で見抜いた。見た目はアレだけど、提督の言った通り凄腕なのかな?
「コタローくん、あの装置、何処にやったかな?」
「こっちです、博士!あ、お姉さん達も、こちらにどうぞ!」
「あ、はい!」
と、私と明石さんは、部屋の奥に案内される。
「はい、じゃ、ミーくんもおいでー!」
「おっと!ミーくんはこっちで俺と料理だ。悪いが、解放してやってくれ、明石」
明石さん、ロボットとかサイボーグとか、そう言うの大好きだったっけ。この前は、ヒュッケバインをガンダムと間違えた望月ちゃんに小一時間くらい講釈してたような……。明石さんみたいな技術者は、夢中になると周りが見えなくなるからなぁ。
「はーい、また後でね、ミーくん!」
「あ、あはははは、またね、明石おねーさん!はぁ……」
「さて、ミーくん?博士達が発明を終わるまでに、晩飯作っておこうか!」
「そうだね!腕によりをかけて作るよー!」
え?猫のサイボーグが料理を?!……良いのかなぁ?
…………あー、終わった!予想よりはるかに早く出来上がったわね。おじさん……剛博士の腕は素晴らしいもので、私達の知らない知識、技術、そして理論を持っていた。私達はそれを少しでもものにしようと、必死になって質問したり、メモを取ったりしていた。気がついたらもう陽が落ちている。……お腹、空いたなぁ。
「「終わったー?ご飯できたよー?」」
提督と猫のサイボーグが現れ、そう言った。……コック帽被ってる。
「「わーい!ご飯だー!」」
……コタロー君は分かるけど、剛博士まで……。いや、子供心を忘れないからこそ、既存のものに囚われない良い発明が出来る、のかな?
にしても、ここは本当に非常識な空間だ。早く鎮守府に帰りたい……。
「じゃ、ご飯食べたら近くのホテルに行くぞ、明石、夕張。次の日は、この辺の知り合いに挨拶してから鎮守府に帰るからね」
「……また、おかしな知り合いですか?」
「ん?もう一体のサイボーグ猫と、喋る猫とかだな」
ああ、もう、常識が通用しない!!
夕張、明石
楽しい工廠組。
自称天才科学者
割とマジで天才。サイボーグ技術を中心に、様々な技術を持つ。
黒猫服の少年
これまたシャレにならないレベルの天才。が、子供。
サイボーグ猫
趣味は料理。
旅人
この後、焚き火にミサイルを焚べようとして怒られる。