そろそろまた大規模作戦の話がしたいけど、その前に閑話を挟みたい。ギャグもののお決まりですよね、いつもはちょこちょこギャグ書いて、たまに長編やるって感じ。
あれから一ヶ月、俺達の鎮守府は、『ロック装置』の恩恵により、かーなーり強くなった。なんでも、この装置は、平たく言うと、装備したまま戦闘行動などを行うと、艦娘を強化するものらしい。
更に、その強化の具合によっては、艦娘を一段上のステージに上げる『改造』を行えるのだ。
つまり……、
「司令官、次は何をすれば良いんですか?何体殺せば良いんですか?……え?ソードメイスの使い心地?はい、良好です」
「提督に改造されちゃった、スーパー北上さまだよー。えへへ、ちょっと大人にされちゃったなー」
「提督!私も熊野も、提督のお陰で航空巡洋艦になれたよー!最近、沢山活躍できて嬉しいな!!」
こんな感じ。明石と夕張が作った練度測定器によると、この艦隊の平均練度は、最大値を99として、40くらい、らしい。元から戦闘慣れしていたこともあり、瞬く間に練度が上昇した、とか。
この練度という数値は、『ロック装置』を装備した艦娘が、どれだけの進化を遂げたかの目安を表すものらしく、一定値に達すると『改造』ができる仕組みとのこと。
にしても……、
「……強化し過ぎたか(ハマーン並感)」
「勝利を!提督に!!」
深海棲艦の砲撃を見てから避けた榛名は、回避行動と同時に素早く撃ち返す。しかも一発で当てて、一撃で大破させる。
「酸素魚雷、20発、発射です!!」
何発もの魚雷を放つ大井ちゃん。一度の攻撃で複数の深海棲艦を吹き飛ばす。
「さあ、素敵なパーティしましょ!!」
雷撃戦よりも近い距離、ダッシュで接敵し、深海棲艦に膝蹴りをかました後に、主砲を接射する夕立ちゃん。
つまり、だ。『ロック装置』がない頃は皆んな、人の形をしながらも「軍艦の戦い方」を行なっていたが、今では、軍艦の戦い方と人間の戦い方を融合させた、「艦娘の戦い方」をするようになったのだ。
艦娘の戦い方は多種多様で、高速戦艦であることを利用して、高火力、高防御、高機動で戦う金剛型、敵艦隊とマジで殴り合う長門、手持ち武器での近接戦闘を行う一部の軽巡と駆逐艦……。
このように、ウチの艦娘達は、他所の艦娘とは全く違い、そして格段に強い、特異な集団になったのだ。
それと、変わったことがもう一つ。
「提督ー!イク、今日も頑張ったの!ぎゅーってするの!」
「イクちゃーん?その身体でぎゅーってされちゃうと俺(の理性が)死んじゃうからさー、ちょーっと離れよっかー?」
「提督には、重巡洋艦の良いところも、私のことも知ってもらえましたし、今度は、私が提督の良いところを沢山知らなきゃ、ですね!!」
「うん分かったよ古鷹。でもね、俺の匂いは知る必要が無いんじゃないかなー?あっ、ちょっ、待って、身体擦り付けないで、マジやばいから」
「……提督、僕の前で他の女の子ばかり見るのはやめてよ、酷いじゃないか」
「ごめんね、時雨ちゃん。でもね、それだけの力で人を引っ張るのはやめようね?普通の人なら腕がもげてるからね?」
モテモテ、どころではなく、モテ過ぎるのだ。駆逐艦や潜水艦の殆どはべったり甘えてくるし、重巡や戦艦の子の多くはストレートに愛情を伝えてきて、一部軽巡や空母の子は、気が付いたらそばにいる、といった風に。ツンツンしてた子達も、今じゃ頭を撫でても怒らないくらいだ。
モテまくって大変嬉しいよ?けどな、そのモテまくりってのはどうやらタダじゃないみたいで……。
「チッ、あの野郎、オレ以外の女といちゃいちゃしやがって!!今日こそははっ倒してやる!!」
「……天龍、摩耶、また提督に挑むのかしら?不敬よ、直ぐにやめなさい」
「あ"?加賀さんには関係ねーだろ?すっこんでろよ」
「そうですね、私の提督に手を上げるのはやめてもらえませんか?不愉快です」
「……その、私としては、大淀さんの言う「私の提督」って言うのが一番不愉快なんですけど……」
「そうね、潮の言う通りだわ。クソ提督は大淀さんのものじゃないわね」
「HEY……!曙!今、提督のことを何と言いマシタ?!返答によってはタダじゃおきまセーン!!」
……旅人ですが、鎮守府の雰囲気が最悪です。
と、こんな風に、鎮守府では修羅場が結構な頻度で起こるようになった。……チームワークなどには影響は出てないし、艦娘同士で仲良く談笑するところなどはよく見られるが、それでも、俺の話題になるとこれだ。皆んな一応、分別がある子達だから、暴力やイジメはないみたいだけど、やっぱり、見ていて気分の良いものではない。
いつも通り仲裁しようと、前に出たその時。
「提督、客だ」
長門が、お客さんを連れて、この休憩室までやってきた。あれ?また怒ってる?なんで?つーか、休憩室に通すのってどうなの?執務室に案内するべきじゃ?
「長門さん?お客様なら、執務室にお通しするべきでは?」
大淀が突っ込みを入れる。
「……確かに、普通の客ならばそうするさ。だが、私はこの連中を客だと思っていない……」
「……どう言うことですか?」
「礼を欠いた者に礼を尽くす必要は、ない。そう言うことだ。……さあ、入れ」
すると、何故か真っ青な顔の、海軍の服を着込んだ女性と、これまた何故かどことなくドヤ顔の、恐らくは艦娘が入室してきた。
「…………えーと?誰?」
おかしいな、結構な美人だし、一度でも会っていたら忘れないと思うんだがな、記憶にない。
「…………あ、あの、す、すいませんでしたぁ!!!」
長い黒髪が床に付くのも気にせず、土下座する女性。え、何?なんで?
「提督、こいつは、あの音成鎮守府の連中だそうだ」
と、長門が言った瞬間、先程まで修羅場をしていたウチの艦娘達が一斉に此方を見る。
ビシリ、というのは、加賀の持つ湯飲みにヒビが入った音か、それとも、この嫌な空気の音か……。
「……何の御用でしょうか?お呼びじゃないんですけどね?」
さっきまで俺の背中ででれでれしていた古鷹は、聞いたことの無いような冷たい声で毒を吐く。あ、アレ?古鷹怖くね?
「い、いやその、私は、謝りたくって」
「あの作戦からは一ヶ月以上経ってマース?今更、謝りに来た、デスカー?……あまり、怒らせないで欲しいデース」
いつも笑顔の金剛は、全く笑っていない。声も酷く冷淡だ。
「そ、それは、その、信じていただけないかもしれませんが、先月は、何者かに鎮守府を破壊され、復旧で忙しく……」
「聞いてねぇんだよ、んなことは……。こっちはお前に用なんざねぇ、とっとと失せろ……」
天龍ちゃん、怖い。
「……も、勿論、失礼は承知の上です。それでも、謝りたいんです!私にできることなら、どんなことでも仰って下さい!!」
「あの、今更何が出来るんですか?作戦が終わって一ヶ月以上経っているんですよ?軽はずみになんでもしますなんて言われても、ただただ不愉快になるだけなんですけど……」
いつもよりはっきりとものを言う潮ちゃん。
「そ、そんな、わ、私は、私はただ……」
あーあ、泣いちゃったよ、この人。……多分、謝りたいってのはマジだろうよ。あの作戦は、音成鎮守府の保有戦力じゃどうやっても攻略出来ないものだったしな。多分、海域を軽く偵察したくらいだったんだろうよ。でも、気が付いたら、作戦を成功させたことにされていてビビったってとこかね。
ま、なんにせよ、怒る程のことじゃないね。さて、止めなきゃな……。
×××××××××××××××
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!
私の知っている艦娘じゃない!!!
私の艦娘は、こんな風に、身も凍るような殺意は出さない!こんな風に、恐ろしい顔で私を睨まない!!
秘書艦の日向さんもドヤ顔のまま固まってるし!!
怖い、怖いよ……。
確かに、悪いことをしたのは分かっている。けど、誓って、わざとじゃない!
気が付いたら、海域開放の功労者にされていて、資材とかお金とか、沢山渡されちゃったの!
本当に頑張ったのは、ここ、黒井鎮守府だって、私は知ってるのに!資材とかお金とか、全部渡そうと思って、それで、ちゃんと謝ろうと思って、それなのに……。
誰か、助けてよ……。
「……わかった、この話はやめよう。ハイ!!やめやめ」
あ……、え?
「ほら、頭を上げて、これで涙を拭いて、ここ座って?」
「あ、その、は、はい」
なん、で?どうして私に優しく?
「バンホーテンのクォクォアでいいかい?」
「わ、私は、その」
「あっ、ごめん、もう淹れちゃったわ(疾走)。……俺は、この黒井鎮守府の提督、新台真央。本業は旅人だ。貴女は?」
ココアを差し出しながら名乗った彼。
「あ、その、ありがとうございます!わ、私は!音成鎮守府の提督、海原守子です!えっと、去年までは大学生で、高めの適性があったから、その、海軍に入らないかって言われて!こ、こんな私にも出来ることがあるならと思って!!」
「へぇ、偉いな!あ、ゆっくりでいいよ、焦らなくっても、俺は暇してるしね」
「あ、はい!その、それで、今回は……」
……私は、昔から人と話すのが苦手で、男の人なんてお父さん以外とは話した記憶がないくらいだ。なのに、この人は、なんでも安心して話せるような、そんな優しい雰囲気をしている。
だからだろうか、私は、彼に全てを、しっかりと話せた。
……音成鎮守府は偵察しかしていないこと、そう大本営に伝達したこと。
……それでも、申し訳ないと思っていて、出来ることならなんでもするということ。
……謝罪が遅れてしまったこと。
でも、彼は……。
「んー?良いよそんなの!別に困ってないし!そんなことより、これからよろしくね!」
「……え?ゆ、許してくれるんですか?」
「うん、俺は怒ってないし」
お、怒ってない?!こんなことをされて?!それは、優しいの範疇に収まるの?!
「だって、皆んな無事だし、街の人達からは感謝されたし、戦果や、金なんて(知り合いから借りればいいし)必要ないからさー」
…………そっか、この人、多分、私と同じことを考えてるんだ。私も、艦娘の皆んなと一緒に、大切な人達を、綺麗な海を守りたくって、提督になったから。地位や名誉よりも大切なものを守りたい、そう思ってるんだ。
「多分、大本営に戦果を偽造されたんだろうね。……と、言う訳でさ、皆んなも許してあげよう?」
「まあ、提督がそう仰るなら……」
「私は、貴方の決断に従おう」
「まあ、良いでしょう」
そして、さっきから私を睨みつけていた彼の艦娘達の態度も軟化した。
……やっぱり、艦娘達からも慕われている、優しい人なんだ!他の提督みたいに、艦娘を使い捨てたり、虐げたりしない、本物の提督なんだ!!
「そうだ、折角だし、おやつ食べて行きなよ。美味しいイチゴがとれてさ、たくさんケーキを作ったんだ」
そう言って、私と日向さんにイチゴのショートケーキを差し出す。
「あ、ありがとうございます!」
そして彼は、色々なことを話してくれた。
……黒井鎮守府のこと、提督になった経緯。
……作戦の攻略方法、地元の人々との関係。
……そして、『ロック装置』。
そして彼との話が終わり、そろそろ日が沈みそうな頃……。
「あら?もう帰るのかい?折角だし、もっとゆっくりしていきなよ?」
「いえ!お気遣いなく!!……その、今日はありがとうございました!!わ、私、今の海軍は、艦娘を使い捨てるようなやり方には反対で、貴方みたいな強くて優しい人、尊敬します!……次からは!次からは本当に私達だけの力で海域を解放できるくらいに、強くなります!!」
「おっ、そうだな。頑張りなよ。……また、遊びにおいでよ、今度は、音成鎮守府の皆んなを連れて、さ」
「……はい!!」
私達は、一礼し、退室した。帰りは、黒井鎮守府の長門さんが送ってくれた。長門さんも、もう怒っていないらしく、最後に、「また来るといい」と言ってくれた。やっぱり、あの優しい提督の艦娘だけはある。
「……ふぅ、生きた心地がしなかったな」
日向さんがそう呟いた。
「でも、あの艦娘達は、それだけ彼を慕ってるってことなんだと思うよ。……この、ロック装置もくれたし」
「ふむ、使って大丈夫なのか?」
「うん、あの人のこと、信用してみるよ」
見ていてください、新台さん。私、頑張りますから……。
三日月(改)
望月と旅人には裏でこっそり三日月ルプスと呼ばれている。
旅人が遊び半分であげたソードメイスを大事にしている。
スーパーズ
重雷装艦になった。
鈴熊シスターズ
航空巡洋艦になった。
金剛型
火力もあって硬い上避ける。スパロボのマジンカイザーsklみたいな。
長門型
兎に角馬鹿力。軽巡くらいまでなら物理的に殴ってワンパン。
古鷹
何故か妹共々クンカーに。突然子供は何人欲しいかとか聞いてくる。
音成鎮守府の提督
女提督。近年稀に見る良い子。だが若干のコミュ障とあがり症有り。
日向
まあ、そうなるな。女提督の秘書艦。このあと航空戦艦になり、ノリノリに。
旅人
実際はど腐れだが、良い意味で勘違いされる。
この後、バンホーテンのクォクォアで生地がしっとりとしていて、それでいてべたつかない、すっきりとした甘さのぶらうにを作る。