ルイズとかあんなやかましいガキいたら、ボコボコにぶん殴って土下座させてペットにしたいですよね。
あのほら、手をサッとあげると「ひっ」って縮こまる感じになるまで毎日殴りたいですね。
それでたまに優しくして……、優しくしてもらえるのを期待して媚びた笑顔ですり寄って来たらもう最高。
敬語使わせてさー、気に食わなかったり虫の居所が悪い時にぶん殴って、たまに優しくしてーって調教すんの。
「はい、もしもし、黒井鎮守府窓口です」
私の名前は海原守子。
提督だ。
今、私は。
『もしもし、株式会社クロスですけど』
「はい、株式会社クロス様ですね。貿易に関するお話でしょうか?」
黒井鎮守府窓口で、働いている。
海を守ろうと家族の反対を押し切り一念発起して提督になったはずが、気付けば別の鎮守府に半分併合されてその上で電話応対の仕事を任されるようになった。
何を言ってるか分からないと思うけど私にもよく分からない。
「はい、はい、ではそのように新台に伝えておきます、失礼いたします」
ここ、黒井鎮守府で事務仕事をやっているのは。
「はい、麻薬密輸船の轟沈ですね」
大淀さん、
「兵器技術の提供ですね」
翔鶴さん、
「金塊の密輸ですか?」
鹿島さんなどが担当。
まあ、十人くらいはまともに電話応対できる艦娘がいるので、黒井鎮守府はちゃんと運営できている。
因みに、これが長門さんなら。
『あの、もしもし、黒井鎮守府さんですか?こちらは株式会社◯◯です』
「む、何だ」
『あ、あのですね、今週の貿易品目の確認なんですが』
「そんなこと、私に言われても分からんぞ。陸奥ー!陸奥ー!!代わってくれ、電話だ!!」
となる。
電ちゃんだと。
『もしもし、株式会社◯◯です』
「はい、こちら黒井鎮守府なのです」
『え?子供?電話番号間違ったかな……?』
「え?いや、あの、黒井鎮守府なのです!」
『ごめんね、おじさん番号間違えちゃったみたいだよー』
「だ、だから、黒井鎮守府なのです!」
となる。
雲龍さんなんかはもっと酷い。
『もしもし、株式会社◯◯です』
「……今日は空が綺麗ね」
『は?』
「……こんな日は提督と一緒に外でお散歩したらきっと気持ちが良いわ」
『え?あの?』
「……ちょっと誘ってみようかしら」
と、電話を切るだろう。
黒井鎮守府の八割はサイコパ……、話がちょっと通じな、通じにくい子が多いぃ、って言うか、その、まあそんな感じだから、電話応対を許されているのは十人ちょっとだけだ。
……それにしても、半分くらいは違法なことに突っ込みは入れていいのだろうか。
黒井鎮守府は、兵器の開発と輸出、違法合法問わずの貿易の護衛や仲介、他の密輸船の襲撃などで生計を立てている。
悪事の片棒を担がされている気がするけど、まあ、気にしちゃいけないのだろう。
大々的に悪事はやっていないのだ。
密輸にしても中継や護衛に留めて、積荷が何なのかは知らない、というスタンスを貫くし、兵器技術についてはいつのまにか裏で政府の許可を取ったらしい。
公的機関に踏み込まれても、洗脳装置らしきもの(怖くて聞けない怪しい機械)で記憶を改竄し解放するので、どこにも悪事はバレていない。
とてもグレーな鎮守府である。
「ふう……」
五時だ。
黒井鎮守府では九時に業務開始、五時には定時。
窓口も締め切り、そして週休二日祝日も休み。
事務処理での残業はなし。
めちゃくちゃホワイトだ。
艦娘でも五時以降の出撃は申請をあらかじめ出さなきゃならない決まりになっているので、物好きしか夜戦はやらない。
この仕事の少なさは学生時代と変わらないくらいの忙しさなので、真面目に働いている世の中の社会人の皆さんに申し訳ないという気持ちが湧いてしまう。
ストレスと言えば、窓口なので、たまに野党の政治家を名乗る人や反戦団体みたいなよく分からない団体から要領を得ない謎のクレームの電話がかかってくるくらい。
仕事と言っても、電話がかかってくるのを窓口にいる艦娘の皆んなとお喋りしつつ、美味しいお菓子とお茶を楽しみながら待っていれば良いだけなのだから。
大淀さんとか鹿島さんとかも、旅人さんのこととなると凄くエッチでいかがわしいことを言うけれど、それ以外ではまともだ。
大淀さんは読書家なので、面白い本の話をしてくれる。でも、ホラー小説をとても面白いと賞賛する斜め上のセンスの持ち主なので、話半分に聞いているけど。
鹿島さんはとってもお洒落で、ファッションの話題に詳しい。私はあんまり詳しくないので、同じ女の人として尊敬する。
他に、窓口にいる艦娘と言えば鳥海さんかな?大淀さんと同じく読書家で、難しい本が好きみたい。古典文学って言うのかな、そう言うの。私は流行っている小説をちょっと読むくらいだから……。
他にも陸奥さんとかいるかなぁ。陸奥さんはファッションに詳しいのもあるけれど、クラシックのコンサートに行ったり、美術館巡りをしたりとか、芸術への造詣が深い。高尚過ぎて私はいまいち分からないなあ。
思えば艦娘の皆んなって本当に個性があるよね。旅人さんが趣味に生きる人だから、趣味を持つことを推奨したっていう背景があるのを差し置いても、艦娘の皆んなは多様な趣味を持つように思う。
海外戦艦旅サークルとか、趣味で夜戦や山籠りをする川内型(那珂ちゃんは無理矢理付き合わされてる)、ゲーマーの望月ちゃん、黒井鎮守府のWebページを作った青葉さん衣笠さん、怪しげな魔術の研究以外にも芸術への造詣が深い上に楽器の演奏や絵を描いたりできる白露型と言う謎の集団、鎮守府中のお花畑やバラ園を管理する古鷹さん、バイクいじりをする加古さん、株取引が趣味の霧島さん。
黒井鎮守府には、多様多種な趣味人がいる。
それはまあ、衣食住が保証された上で、3桁万円のお給料と週休二日祝日も休みと定時退社と多めの有給を貰えば、誰だって趣味に走ると思う。
艦娘の皆んなは実質週休六日、皆んな物凄く暇らしい。
趣味がないとやっていけない、とのこと。
私も特に趣味らしい趣味はないので、正直暇だ。
「定時ですね。どうします?」
大淀さんが尋ねてくる。
「丁度食堂が開く頃ですし、晩御飯食べてから飲みに行きましょう」
鹿島さんが提案。
いつもの流れだ。
「うう、お酒飲むとまた太っちゃう……」
「え?海原提督、そんな太ってますか?」
「最近ついに50kgの大台に乗りました……」
「なあんだ、私と5kgしか違わないじゃないですか」
「5kgもっ!違うじゃ!ないですかぁ!!」
ナイスバディの鹿島さんには分からないでしょうねえ!!女の子で5kgはとても大きい数字なんですよお!!
「そんなお腹とか出てます?……あっ、ぷにっとした」
「ひうぅ、突かないで、突かないで下さいぃ……。脇腹が出たりなんかしてません……」
食後、居酒屋鳳翔にて。
「「「「かんぱーい!」」」」
飲み会だ。
窓口チームは、旅人さんが関わらない限り、割とまともな集団だ。なんて言ったって日本語が通じるのだ。黒井鎮守府には日本語が通じにくい子が多い。海外艦もそうだけど、サイコパ、キチガ、あー、えーと、詳しくは、私の口からは……。
私とも、お友達、みたいな関係だと思う。
ただ、この人達は、旅人さんの命令があれば、私を殺すことは愚か、仲間同士で殺し合い、強盗殺人、テロ、何でもやるけど……。
「私、焼き鳥食べたいです、ねぎまとぼんじり、砂肝と皮、塩で。それとアサヒスーパードライを」
「季節のお刺身盛り合わせと適当にお刺身に合う日本酒を」
「うーん、ローストビーフと野菜スティックを。お酒は赤ワインで」
「かしこまりました、海原提督はどうします?」
笑顔で対応する鳳翔さん。
因みに、温厚そうに見える鳳翔さんも旅人さんを馬鹿にしたり命令があったりしたら相手が誰でも殺しにかかる。
「わ、私は……」
「どうしました、海原提督?まさか、また太るとかどうとか考えてるんですか?」
「だって……」
「まあ大丈夫ですよー。ダイエット代わりに護身術を習っているんでしょう、提督に」
「多少太っても運動すれば平気ですよー」
「ご飯あんまり食べてなかったじゃないですか、大丈夫大丈夫」
う、うう……。
甘言……っ!!
「ううううう〜!!か、唐揚げとフライドポテト、キリンビール下さいぃ!!」
「はい、かしこまりました!」
うああああー!!
甘言に惑わされてしまった……!!
「うう、美味しい、美味しいよお……」
駄目ぇ、やめられないぃ……。
タダで飲める美味しいビール……、キリンの一番搾りがぁ……。
さっぱりしてて美味しい……。
唐揚げがジューシーでお肉の旨味が流れ出るのを、さっぱりビールで洗い流すように飲む……!!
ああもう駄目……。
美味しい……。
お父さんお母さんごめんなさい、私は欲望に抗えない駄目な子です……。
「今週何体殺しました?」
「800くらいですかねぇ」
「白露型が鬼クラスの身柄欲しがってましたよ」
「何に使うんですかねー」
「知りませんよ、また怪しげな儀式じゃないですか」
「でもあれ理にかなったことしてますからね。最近は時間を止める実験してるみたいですよ?」
「それに何で深海棲艦の肉体が欲しいんですかね」
「電池代わりにするんですよ。生体エネルギーを吸い取って使うんです」
「生贄ってやつですか」
「私も専門外なんで、詳しくは説明できませんけど、ティンダロスの猟犬をどうするかで大分議論してるみたいですよ」
飲みながら会話をする電話組。
「そう言えば海原提督、また変なのに絡まれてましたね」
「ああ、あれですか、野党の……」
「連峰でしたっけ、なんか変な女」
し、失礼ですよ大淀さん……。
「なんか変なこと言ってませんでした?」
「ええ、まあ……、なんだか現政府の批判と黒井鎮守府の解体?とか言ってましたね」
「いつの世も政治家は馬鹿なんですねえ」
と、コップを傾ける大淀さん。
「でも、今の総理大臣も大分無茶苦茶やってますよね」
と鹿島さん。
「剣桃太郎さんでしたっけ?提督の知り合いの。かなり武闘派らしいですね。軍隊の再編とか、防衛費の増額とか、強気外交とか……。この前も、尖閣諸島にやって来た中国船を大砲撃って追い返したとか」
「うーん、私達、戦艦ですから……、いまいち外交とかよく分からないんですよねぇ。領海に無許可で入って来たり、領土を占拠されたら潰すのが普通なんじゃないですか?」
「ですよね。まあでも、本格的に戦争になれば戦力差的に勝てないんじゃないですかね。いや、私達が参戦すれば勝てますけど」
「日本軍は優秀らしいですよ?それに、また神風が吹くかも」
「そんなもの期待して戦わなきゃいけない時点で負けですよ」
グラスを傾けつつ、そんな話題を。
一応軍隊だから、そう言う話題が多くなるかなあ。
「でも、深海棲艦が出ているのに、人同士の戦争なんて起こりますかね?」
「あはは、何言ってるんですか海原提督。人間がどんなに馬鹿なのか知らないんですか?地獄の底でも争い合うと思いますよ、人間ってやつは」
「……その、人間、嫌いなんですか?」
「嫌いですね。でもまあ、海原提督は人間の中でもマシな方ですから嫌いではありませんよ」
そ、そうなんだ、艦娘の皆んなって人間のこと嫌いなんだ……。
「そんなゴミ虫共を守っていると思うとイライラしますが……、提督の命令ですし」
「そもそも私達は旅人さんの命令で戦ってるだけですしね。国防とかどうでもいいです」
「海上貿易では、ほぼ世界征服を達成しましたし、後は各地に技術と武力を提供することで経済的に優位に立てば……」
うーん……。
「深海棲艦を倒して、皆んな仲良く、とはいかないんですかね?」
「でしょうね。仮に深海棲艦を倒したら、次は私達艦娘が排斥の対象になるでしょう」
「そうならないように、適度に支配して管理しなくてはなりませんね」
それは……、でも、人間はそんな生き物じゃないって、私は信じたいな……。
「「「「お疲れ様ー」」」」
解散して、自室に戻る。
黒井鎮守府に自室が用意されている事実について疑問を覚えるが、スルーする。
にしても、人間が嫌いで、支配して管理すべき、か。
「このままじゃ、黒井鎮守府の皆んなは、本当の悪になっちゃう……」
そうならないように、私ができることは、何だろう。
世界を守ったのに、悪者になるなんて。
そんなのはおかしい、よね。
海原守子
音成鎮守府の提督。今は黒井鎮守府の窓口をやっている。善人。
窓口チーム
大淀、鹿島、香取、翔鶴、伊勢、鳥海、陸奥など。