旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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異世界食堂が悪い。


311話 ウォースパイトの満腹な冬の日 前編

冬の朝。

 

クリスマス後の一幕。

 

深々と降り積もる雪は、イギリスでは中々見られない光景。シラツユシスターズの子達による人工的?な雪でも、とても美しいと思うわ。

 

日本語では、風情がある、と言うのかしら。雪の降り積もった建物の丸いシルエットは優しげで、雪の上の足跡は何となくだけど芸術的だわ。駆逐艦や海防艦の子達が作った小さなスノーマンも愛嬌があって可愛いわね。

 

その隣にAdmiralの本格的な雪像を作ってあるのは、まあ、いつものことね。あの人、遊びとなると本気になるから。まあ、そこが素敵なんだけど。

 

そんな様子を自室の窓から見て……、ああ、もうこんな時間。

 

朝ご飯の時間よ。

 

私達、イギリス艦は、食事の時間とティータイムが本当に楽しみなの。

 

何せ、祖国イギリスの食事は……、不味い。

 

ちょっともう……、お話にならないくらい不味い。

 

ここ、黒井鎮守府で出される料理と比べると、家畜の餌にも劣る。

 

オートミールはふやかしたインコの餌、フィッシュ&チップスは悪性の油の塊、ウナギのゼリー寄せは生ゴミ、ハギスは悪魔の作り出した兵器。

 

……黒井鎮守府に来る前までは、料理に必要性などなく、お腹を満たして栄養をとれれば良いと思っていた。

 

しかし、今は違う。

 

美味しい食事は毎日の生活に活力をくれる。

 

私達イギリス艦は、美味しい食事と、Admiralの為に戦うのだ。

 

……祖国に戻る気はもうない。あんなに食事が不味いところではもう生きていけないから。

 

アークロイヤルもジャーヴィスも、祖国から帰ってこいと言われても最早帰ることはないでしょうね。

 

私達はAdmiralと結ばれたの。一生側にいるわ。

 

どんな絆よりも強固で、何者にも引き裂かれない。

 

死が二人を分かつても、永遠に、ずっと、一緒。

 

永遠に。

 

永遠に。

 

永遠に。

 

うふふ。

 

 

 

さあ、まずは朝食の時間よ。

 

同室のアークロイヤルとジャーヴィスと共に食堂へ。

 

ジャーヴィスを起こしてあげて、身支度を整えて、アークロイヤルに車椅子を押してもらいながら、艦娘寮から出る。

 

途中、何人もの艦娘とすれ違い、挨拶を交わす。

 

……うん、皆んな笑顔。相変わらず、ここはとっても良いところね。

 

……食堂はかなり広く作られているから、狭いという感覚は全くないわ。

 

もちろん、黒井鎮守府は全面的にバリアフリーで、車椅子の私でも行き来しやすいの。

 

そして、掲示されているメニューを見る。

 

暫し悩んで、決めた。

 

ご飯、焼き鮭、ほうれん草のお浸し、かぶときゅうりの漬物、豆腐とわかめの味噌汁、ネギ入りだし巻き卵、それと納豆。

 

「うわあ、朝から重いわね……」

 

うるさいわねリシュリュー。貴女は?クロワッサンとジャム?ヨーグルトにフルーツ?合計1kg?足りるのかしら、そんなで。貴女戦艦でしょ?

 

「血糖値が上がれば良いじゃない。まあ、艦娘である以上、お腹は減りやすいから、朝からこの量を食べるんだけれども」

 

私は白米だけで1kg、更にお代わりするつもりよ?

 

「それでお昼ご飯食べれる?」

 

余裕ね、美味しいから。

 

「そ、そう、まあ、貴女が良いなら良いんじゃないかしら」

 

さて、朝ご飯よ。

 

日本昔ばなし盛りにした沢山の白米!

 

ふっくらで、お米特有の甘みがある。しっかり炊けていて、お米の粒がピンと立っている。

 

それを、脂の乗った塩焼きの鮭で一口。

 

ああ、美味しい……。

 

鮭の上質な脂の味と、お米の旨味が口の中にじんわり広がっていく。

 

日本の朝ご飯。

 

これだからやめられない。

 

浅漬け、されたかぶときゅうり。

 

仄かな塩味と野菜の甘み、苦味そして酸味。嫌なえぐみは一切なく、豊かな風味がたまらない。

 

また、ご飯を一口。

 

……うん、そう、これよ。

 

ほうれん草のお浸しに箸を伸ばす。

 

出汁、の豊かな香りが、口の中を支配する。噛めば噛むほど甘みが染み出してくる。

 

この香りを、味噌汁で流し込み、口内をリセット。味噌の独特の風味がたまらない。

 

そしてだし巻き卵。芸術的な手腕で丸められた、ネギの入った卵焼き。

 

簡単に箸でほぐせるくらいに柔らかなそれは、口に入れた瞬間、卵本来の味と出汁の味両方を与えてきた。更に、噛めば、ネギのシャキシャキとした食感が返ってくる。

 

そして、納豆。

 

これは曲者よ。

 

海外艦には苦手という子も多いわ。

 

でも、こうしてよく練って、醤油とからしを入れれば……。

 

そう、これよ、これ!

 

最初は敬遠していたけど、いつのまにか、この独特の風味と食感の虜になっていたわ!

 

って言うより、チーズと同じ発酵食品よね?何で嫌がるのかしら?

 

そしてご飯を食べ進めて……。

 

お代わり下さいな!

 

 

 

12月の大出撃……。

 

12月の初めに、一斉に出撃して、12月と1月分の撃破数ノルマを一気に達成する、黒井鎮守府独特の行事。

 

大出撃が終わった後は、基本的には皆んな休む。

 

中には、休まずに訓練や出撃を繰り返す子もいるけどね。

 

あれかしら、日本名物ブラック企業のモノマネかしら?良くないわよそういうのは。

 

さて、私は、と言うと、休憩室で紅茶を飲みながら読書。

 

アークロイヤルも一緒よ。

 

ジャーヴィスは……、外に遊びに行ったわ。ふふ、元気なのは良いことよ。どうせ艦娘だし風邪をひいたりはしないでしょうけど、あまり身体を冷やさないようにね。

 

最近読んでいる本はこれ、重力の虹。

 

中々面白いわ。

 

……っと、そうこうしているうちに、昼食の時間。

 

頭を使ったからかしら、ちゃんとお腹は空いてるの。

 

さあ、今日のお昼は何にしましょう?

 

メニューを見る。

 

むむむ。

 

……よし、決めたわ。

 

醤油ラーメン、餃子、炒飯、エビチリ、回鍋肉!

 

今日は中華なのね。良いわよ、日本の中華は。

 

もちろんサイズは、全部日本昔ばなし!

 

さて、まずはエビチリから……。

 

……ピリ辛!

 

本場中華の辛過ぎな料理と違って、エビの甘みを感じ取れるくらいには辛さ控えめだわ。きっと、駆逐艦や海防艦のことを思って、辛さを控えめにしてあるのね。

 

そしてこの、エビのプリプリ感!歯がエビの身を噛みちぎる時の快感と言ったら、筆舌し難いわ。

 

次に、回鍋肉に箸を伸ばす。

 

ああ、もう、箸で掴んだ時点で分かるわ。これは、美味しい。

 

実際に食べる。

 

ほらね、ああ、ほら、美味しいわ。

 

甘辛い味付けの野菜と肉、強火で手早く炒められたそれらは、旨味を逃がすことなく凝縮されている!

 

歯ごたえもあって、『食べている』感触をくれる!

 

次にラーメンね。

 

……この、麺を啜る、というのは未だに慣れない子も多いけれど、私はなんか、食べているうちにできるようになっていたわ。

 

さて、ずるっと、黄色い麺を啜る。

 

……ふふ、流石はAdmiral。今回も最高の出来ね!

 

私は今回、あっさり醤油ラーメンをオーダーしたわ。

 

他の炒め物が脂っこい中、あっさりとした昔ながらの醤油ラーメンで脂を洗い流したかったから。

 

予想通り、回鍋肉の脂は、あっさり醤油味に流されて胃の中へ。

 

さあ、次に手を出したのは餃子ね。

 

Admiralの超ペース……、一個一秒の神速で包まれた餃子。

 

さあ、醤油に酢、辣油を取り皿に垂らして、綺麗な焼き目にたっぷりつける。

 

一口で一気に食べると……!

 

程よいモチモチ感の皮に包まれた、ジューシーなお肉の旨味が口内を刺激する!

 

犯罪的……、犯罪的な美味しさよ!

 

そのお肉も、にんにくの香りを十分に効かせて、粗く刻まれた白菜のシャキシャキ感が最高のアクセントになる!

 

そして、そして、炒飯。

 

今回は蟹炒飯らしい。

 

卵、蟹、ネギ、グリーンピースだけのシンプルなもの。

 

だからこそ、料理人の腕の見せ所ね。

 

まあ……。

 

一口。

 

ほら……。

 

一口。

 

Admiralの料理の腕に、心配なんていらないんだけれども。

 

もう一口。

 

ああ、止まらない。

 

蟹の旨味が米全体に広がっていて、どんどん食べられるわ。

 

……ふう。

 

ご馳走様でした、Admiral。

 

 

 

お昼も過ぎていくらか時間が経った頃。

 

この時間はティータイムよ。

 

イギリスから出て行ったとしても、この習慣は変わらないわ。

 

アークロイヤルもジャーヴィスも、この時間はティータイムって決めてるの。

 

たまにコンゴウとか、他の艦娘とご一緒することもあるわ。

 

日本でも、そう、おやつタイム?とか言うみたいね。

 

伝統的なイギリスのティータイムでは、スコーンなんかを食べるんだけど……、別に私達は伝統とか気にしないから。

 

さて、取り出したのはケーキ。

 

ケーキ!

 

ケーキよ!!

 

黒井鎮守府の冷蔵庫にズラッと並ぶ冷蔵庫には、沢山のケーキが詰まっているの。

 

こんなにあって余らないのかって?

 

大丈夫よ、賞味期限が近い順から空母達が物凄い勢いで食べちゃうから。

 

どうしても余れば首輪付きに食べさせるんですって。

 

首輪付き……、黒井鎮守府に住み着いている謎の生物。

 

白い、白い……、猫、みたいな、犬みたいな、うさぎ、じゃなくって、狸や狐ともちょっと違う、なんか、こう、獣。

 

赤い首輪がチャームポイント、つぶらな瞳のもふもふした子。

 

正体は完全に謎だけど、皆んなから可愛がられているわ。

 

……本当に何の動物なのかしら?

 

まあ、それはそれとして、ケーキの時間よ。

 

切り分けられているケーキ……、色々な種類があるものを楽しむの。

 

同じものを食べるんじゃなくて、色々なものを楽しむのが良いわね。

 

ショートケーキは王道よね。

 

苺の酸味とクリームの甘みの調和が、口の中に幸せを齎してくれるわ。

 

Admiral、お菓子作りがとっても上手よね。

 

ショートケーキはシンプルなケーキよ。

 

それをここまで美味しくするなんて、どれだけの練習と才能を……。

 

そしてアップルパイ。

 

林檎の爽やかな酸味とサクサクのパイ生地。

 

スフレチーズケーキ。

 

しっとりとした生地を口に含めば、チーズのマイルドな味わいが口に広がる。口どけなめらか。

 

ミルクレープ。

 

クレープ生地とクリームが折り重なった芸術品。味も芸術的な出来。クリームの味は優しく、繊細だ。

 

どれも素晴らしい出来……。

 

これに、高級な紅茶を飲んで、皆んなとお喋りしながら楽しい時間を過ごすの。

 

さて、次は夕食ね……。

 




ウォースパイト
日本に来てすっかりグルメになった。

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