旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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テイスティジャパンが悪い。


312話 ウォースパイトの満腹な冬の日 後編

晩御飯の時間まで、私はゆっくりして過ごす。

 

英字新聞を読んだり、鎮守府の図書館から借りてきた本を読んだり、映画を見たり、編み物をしたり、各所に取り付けられた監視カメラでAdmiralのことを見守ったりして、穏やかに過ごすの。

 

争いのない穏やかな日々はとても良いものね。

 

毎日がこうなら良いのに。

 

そもそも、できるのであれば、私は、戦争なんて野蛮なことはしたくないの。

 

知性ある生き物同士が争い合うなんて馬鹿らしいでしょう?

 

話し合いで解決するのが、知的生命体の正しい姿よ。

 

その点Admiralは素晴らしいわ。相手が何であれ、穏便な手段を使うから。

 

例え、生きる価値の全くないゴミクズみたいな馬鹿が相手でも、丁重に言葉を尽くしてから、それでもどうしても駄目な時だけ、暴力を振るうの。

 

そう言う知的なところがとってもカッコいいと思うわ。

 

戦いたくない、でも、お仕事をしないのは申し訳ないし、働く時はきちんと働くわ。

 

深海棲艦の殆どが、人の言葉を解さない獣であるからね。

 

薄汚い、白痴の獣はもう、殺すしかない。

 

……そろそろ晩御飯ね。

 

今日の晩御飯は何かしら?

 

 

 

食堂にて。

 

メニューを見る前から、香ばしい醤油の香りを感じる。

 

今夜は鍋。

 

鍋、鍋!

 

ああ、なんて素敵な響き。

 

鍋なのね。

 

何にしようかしら……。

 

ああ、そうね、やっぱり、これよね。

 

すき焼きを下さいな!

 

サイズはもちろん日本昔ばなしで!

 

すき焼き……、そう、私を魅了してやまない和食の一つ!

 

この寒い季節に、熱々のタレが染み込んだ具材を食べれば、身体は内側からポカポカと温まり、たちまち元気溌剌よ!

 

さあ、そろそろ煮えたかしら?

 

メインの肉はまだよ、先ずは焼き豆腐から……。

 

箸で掬うように取って、生卵につける。

 

あーん。

 

んんぅ、これは……!

 

焼いてあることにより香ばしさを追加された豆腐は、柔らかな舌触りでほろほろと崩れていく……!

 

そして続いてしいたけ。

 

これは凄いのよ、しいたけはタレの味を存分に吸っているの。

 

だからこうして口に入れた瞬間、甘いタレの風味が溢れる。

 

そして、これを。

 

噛むと……!

 

ああ、もう!じゅわっと口の中にタレの旨味が広がる!

 

日本人、なんて凄いのかしら。塩っぱい物に甘い味付けを追加することで、より味に深みを持たせる、だなんて。

 

ただ焼いただけのイギリス料理が直線だとしたら、日本の料理は立体……。多方向の美味しさが、喜びがある!

 

ふう、次はえのきね。

 

卵につけて、と。

 

んん〜!

 

コリコリ!

 

きのこがそれぞれ持つ独自の香りと旨味が噛めば噛むほど伝わってくる!

 

そしてここで春菊。

 

日本のハーブね。

 

強い……、ともすれば、人によっては嫌いかもしれない独特の匂い。

 

私は好きよ。

 

さて、ここでメインの肉ね!

 

生卵をたっぷりつけて……!

 

はむっ!

 

……んんー!!

 

甘塩っぱい味付けのタレを存分に吸った高級牛肉は、美味しい美味しい肉の脂がタレの甘みとマッチング!

 

肉本来の旨味と甘味が、すき焼きという料理の技法によって、更なる高みへと達している!!

 

ふぅ。

 

ここでしらたきによるインターバル……。

 

うん、程よくタレの味が染みていて美味しいわね。

 

そしてここでネギよ。

 

シャキシャキとした食感がたまらないわね。

 

匂いも強いけど、この匂いが癖になるわ。

 

日本人が色々なものにネギを入れるのも分かる気がするもの。

 

更に、この、味が染みた白菜!

 

シャキ、と言うよりトロッと言うか。

 

よく煮てある白菜は、タレを十分過ぎるほど吸っていて……!

 

ああ、凄く美味しい……!

 

どんどん食べて、そして最後は。

 

締めのうどん、ね。

 

こんなに具材の味が染み込んだスープを捨ててしまうのはもったいない、いや、むしろ神の冒涜に等しいわね。

 

だから、日本人は、最後の最後まで美味しく食べられる方法を考案したの。

 

それが、お鍋の締め。

 

ご飯やうどんを入れて、美味しいスープの最後の一滴まで食べ尽くす……。

 

とても合理的な判断ね。

 

さて、うどんをもらって、鍋に投入。

 

暫く煮込んで……。

 

……そろそろいいかしら?

 

さて、ズルッと。

 

うん、うん、やっぱりこれね。

 

うどんがタレの旨味を吸って最高の味になっているわ。

 

もちもちの食感を楽しみつつ……、スープも全部平らげて。

 

ご馳走様でした。

 

 

 

そろそろ夜ね。

 

お風呂に入りましょう。

 

シャワーより、どうせなら大浴場が良いわ。

 

黒井鎮守府の大浴場には、温泉まであるのよ。

 

レジャー施設も顔負けの充実っぷりね。

 

もちろん全面バリアフリーで、私でも入りやすい。

 

私は脚が不自由なんだけれど、杖をつけば少しは歩けるの。

 

これは、『ウォースパイトという戦艦は舵が不調だった』という謂れからくるもの。入渠しても治らない、言わば持病のようなものね。

 

さて、床は滑り辛くできているから、強化プラスチックの、お湯の中に入れても問題のない杖をついて、温泉に入るわ。

 

温泉にはもちろん、露天風呂もあるの。

 

ええ、景色は綺麗だし、お湯は暖かいし、最高だったわ。

 

そう……、お風呂も感動的な時間だったけれど、もっと素敵なのはこれからよ。

 

日本の習慣、晩酌の時間なのだから。

 

日本人はどうやら、夜にお酒を飲むらしいの。

 

私もそれに倣って、夜にお酒を飲みに行くことが多いわ。

 

もちろん、昼間に飲むこともあるけれど。

 

基本的に、黒井鎮守府は、やることさえやっていれば、昼間から飲んだくれて居眠りしてても誰も怒らないの。

 

……軍隊としての規律?まあ、良いんじゃないかしら。そもそも、私達はAdmiralの私兵だし。

 

専属の傭兵のようなものかしらね。

 

じゃあ、日本らしく、晩酌に行くわよ。

 

アークロイヤルも来るの?

 

ジャーヴィスは……、飲めない?眠いから寝る?そう、おやすみ。

 

ふふふ、夜は大人の時間よ。

 

全面的にバリアフリーな鎮守府を移動して、居酒屋鳳翔へ。

 

まあ、要するに酒保なんだけれども。

 

けど、鎮守府の内外からお客さんが来るから、居酒屋と言っても良いかもしれない。因みに、艦娘とAdmiralは完全無料。外部のお客さんからはある程度の……、相場より安めの料金を請求するらしい。でもこれは完全に店のマスターである鳳翔の趣味でやっているから、払われる金額は通貨も値段もバラバラ。

 

非営利目的で居酒屋をやっているとは、変な話よね。

 

でも、居酒屋鳳翔は、本当に広くて、お洒落なテーブルが沢山とバーカウンター、畳の間がある。

 

キッチンの奥には、食堂と同じく、食料庫へと通じる転移装置があるの。だから、移動の必要がないから、料理はかなりの速さで出てくるわ。

 

分身して料理する女将は居酒屋鳳翔の名物なのよ。

 

外部からの客、だけど、どうやらこれは、Admiralが行ったことのある世界にランダムで繋がる扉が現れるの。お客さんはそこを通ってくる、らしいわ。

 

Admiralは異世界食堂方式、って言ってたけど……、何かしらね?

 

まあ、そのせいで、たまにあからさまに人間じゃないお客さんが来ていたりするけど、艦娘もよく考えれば人間じゃないし、どうでも良いわよね。

 

それじゃあ私もオーダーしようかしら。

 

オーダーは決まっているわ。

 

串カツ盛り合わせ特大セット、枝豆、おつまみキャベツ、獅子唐のガーリック炒めを下さいな!

 

「はーい、ただいまー」

 

ホウショウがパタパタと可愛らしく動いて、注文を受ける。

 

「串カツ?また揚げ物か?太るぞ?」

 

何よアーク、艦娘はそう簡単には太らないわよ。

 

「と言うより、唐揚げじゃないんだな」

 

今日は串カツの気分なの。

 

確かに、唐揚げはおやつにも食事にもおつまみにもなる最強のワイルドカードよ。

 

でも、カードゲームはジョーカーだけじゃ成り立たないでしょう?

 

「ふむ、そうだな。ああ、私は焼き鳥の、つくね、もも、皮、ぼんじり、砂肝、ねぎまを四本づつ、そのうち、二本はタレ、二本は塩で頼めるかな?それと枝豆とナスと豚肉の味噌炒めとイカゲソの唐揚げを」

 

「はーい、お持ちしますねー」

 

瞬時に大ジョッキのビールが出てくる。

 

「こちら、お通しの小松菜と油揚げの煮浸しです。ビールは、ウォースパイトさんがエビスビール、アークロイヤルさんがキリンの一番搾りですね」

 

ええ。

 

「ああ、ありがとう」

 

さて、乾杯しましょう。

 

お通しは、と。

 

……うん、優しい味ね。

 

それでいて、これからアルコールが入ってくるんだよ、と胃に語りかけてくるような、そんな味よ。

 

ビールは、と。

 

……やっぱりエビスビールね。

 

この味、コク、苦味。ビールを飲んでいる、という気持ちにさせてくれるわ。

 

暫しアークと談笑。

 

そして、五分もしないうちに料理が来たわ。

 

まずは枝豆から。

 

……枝豆。

 

日本のおつまみの定番ね。

 

でも、定番になるにはそれだけの実力があるってとこよ。

 

どんな局面でも美味しくいただける……、それが枝豆。

 

そう、この塩気のある豆が美味しいのよ。

 

塩気のある豆、なんてありふれたもののように感じるのに、何故か、美味しい。次々と手を伸ばしてしまう。

 

まるで魔法ね。

 

獅子唐のガーリック炒め……。

 

これもビールに合うのよね。

 

獅子唐は苦い。

 

けど、この苦味がたまらなく、良い。

 

大人の味ね。これを楽しめる自分の舌に感謝しましょう。

 

ああ、ビールが進む。

 

ビールおかわりお願いします!

 

そしてこれ。

 

串カツ盛り合わせ特大セット。

 

計三十本の串カツの盛り合わせ。

 

多様多種な串に刺さった揚げ物が沢山。

 

ああ、どれから食べようかしら、迷うわ……。

 

そう、ね。

 

まずはここから攻めてみましょうか。

 

玉ねぎよ。

 

さあ、ソースをたっぷりつけて……、頬張る。

 

サクッと、衣を歯で貫いて、しんなりした仄かに甘い玉ねぎを噛みしめる。

 

ソースの複雑な奥深い味わいが、玉ねぎの熱と甘味を包み込む。

 

美味、しい!

 

たまらず、ビールのジョッキを傾ける。

 

口の中の油が洗い流され、次の準備よ。

 

お次は豚バラ肉、さあ、お味は……?

 

んん〜!!

 

最っ高!!

 

豚と衣の脂がソースの酸味で中和されて、いくらでも食べられる!

 

また、ビール。

 

そしてアスパラ一本まるごと!

 

豪快ね、でも嫌いじゃないわ。

 

これは、じゃあ、塩でいってみましょうか。

 

塩をちょんとつけていただきます。

 

……ああ、至福。

 

アスパラらしい、野菜らしい苦味がほんのりと、そして甘み。サクサクの衣の、油で揚げてあるが故に出てくる甘味。

 

その二つが合わさって、とても甘いもののように感じる。

 

うん、塩も良いわね。

 

ここでまたビール。

 

レンコン……。

 

根菜類ね。

 

これを揚げ物にすると……。

 

ああ、ほらね、やっぱり美味しい!

 

ホクホクで、それでいて歯ごたえがあって、根菜として大地から養分を吸い上げたのであろう力強い旨味。

 

止まらない。

 

はいビール。

 

そして牛串!

 

牛串よ!

 

ソースをたっぷりつけて、と。

 

お味は……?

 

……ふふっ、食べる前から分かっていたわよ。

 

美味しい、美味しいに決まっている。

 

ここにきてもう語彙力の限界を感じているわ。

 

美味しいものを褒め称える言葉が足りない。

 

それだけのレパートリーを示してくれたわ。

 

ここでビール。

 

箸休めに、おつまみキャベツをつまんで……。

 

さあ、夜はまだ長いわよ。

 

 

 

食べ終えた頃にはすっかり良い時間。

 

そろそろ帰って寝ましょうか、アーク。

 

「ああ、そうだな。いやあ、休みは良い。前の鎮守府ではこんな良い思いはできなかった。Admiralには本当に感謝している……」

 

ええ、そうね。

 

こんな良い思いができるのも、全部Admiralのお陰ね。

 

愛しているわ、Admiral。

 

ふふっ。

 




ウォースパイト
日本に来て以来、日本食にどハマりした。鳥の唐揚げとかカツとかが好き。祖国イギリスの料理をボロクソ言う。

アークロイヤル
日本食どハマりウーマンその二。甘しょっぱいタレのかかった料理とか、だしの風味がする料理が好き。祖国イギリスの料理をボロクソ言う。

ジャーヴィス
日本食にどハマりレディ。オムライスとかハンバーグとか、洋食が好き。祖国イギリスの料理をボロクソ言う。

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