旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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はたらく細胞は今期の覇権アニメ。


316話 旅人の体内

「提督、この本は中々に面白いね」

 

と、時雨が珍しく漫画を持ってきた。電子書籍だが。

 

時雨は、極めて怪しい古書物か、お堅い本、学術本、論文しか読まないイメージがあったが?

 

どれ、なんの本だ?

 

はたらく細胞?

 

「ああ、これは中々面白いよ、良い漫画だよね」

 

あー、はいはい、こういう本ね。こういうのは良いよね。楽しめるし勉強にもなるし。

 

「人体についてポップに学べるね、良いよ、これは。鎮守府の図書館にでも置こう。……正直、黒井鎮守府の学力レベルは低いからね、最低限度は勉強すべきだよ」

 

「それで?それだけじゃないだろう?何か言いたいことがあるんじゃないのか?」

 

「ふふふ、やっぱり分かるかい?」

 

血の匂いを漂わせる狩装束を翻し、手招きする時雨。

 

「ほら、これだよ」

 

「うむ、黒井鎮守府学会?」

 

あー?

 

成る程、学会の真似事をするのか。

 

「この前の、ええと、コミケだったかな?あれは中々楽しかったよ。人前で何かを発表するのは、色々と新たな発見があって良いものだね」

 

確かにな。

 

人前で話すことによって、新たな発見をすることも良くあるな。

 

「それと漫画、なんの関係が?」

 

「ふふふ、僕が今回研究するのはね、提督なんだ」

 

ほー。

 

 

 

全艦娘を集めて、会議室で学会を行う。

 

発表者は、黒井鎮守府でもINTに振ってある子……、白露型、妙高型、工廠組などだ。

 

そして、目玉である俺の生態及び肉体の調査結果を発表する時雨。

 

「では、提督の体細胞について解説を始めるよ」

 

プロジェクターに画像を映す。

 

「まず最初に、基本的な構成物質から見ていこうか」

 

俺の赤血球を棒で指す。

 

「これが、提督の赤血球。こっちが、普通の人間のもの。提督の赤血球は勾玉のような形をしているね。そして、成分的には、ヘモグロビンを常人の数倍含み、酸素や栄養素の含有量も数倍。そして特定のエネルギー……、波紋、魔力、マナ、オド、気功などに反応し、励起状態になる」

 

励起状態の俺の赤血球は、高速で回転して活性化する。

 

「この励起状態だと、エネルギーの通りが良くなり、全身にエネルギーを効率良く分配できるんだ」

 

へー。

 

「続いて、こっちが白血球。通常のものと違って角錐形だね。この白血球は、毒物やウイルスに反応して、角の部分で菌を貫くんだ」

 

えっ、そんなアグレッシブなの?

 

「この白血球は……、白血球に関わらず、多くのリンパ球が、十字架状で回転しながら菌を切り裂いたりするなど、かなり駆逐力があるね。毒物ならなんでも平気で分解するみたいだ」

 

そう言って、俺の血のサンプルに炭疽菌やらHIVやらインフルエンザウイルスやらTウイルスやらを注入して見せる時雨。

 

それを観察している電子顕微鏡の動画では、俺の血の中の白血球が回転しながら猛スピードでウイルスに接近し、貫く様子が観察される。

 

えっ、怖いんだけど。俺の中身そんなんなの?

 

「それと核実験もしたよ。提督に高濃度の放射線を当てて、反応を見たんだけど、被爆した部分が再生していったんだ」

 

俺が、核実験室の中で放射線を当てられているシーンが流れる。

 

「その、提督が、『やっぱり神様なんていなかったね』と書かれたスケッチブックを持っているが」

 

外野からの質問。

 

「それの意味は不明だよ」

 

と、時雨。

 

さて、放射線を当てられた俺。

 

体表面の反応を見る。

 

細胞に変異が見られる、と思いきや、細胞はぐにゃりと形を変えて、正常な形に戻った。

 

おおお、と歓声が上がる。

 

「と、このように、提督の肉体は、提督の意図しない変形が起こると、再生反応を起こすんだ」

 

成る程。

 

「この再生反応なんだけど、これがまた面白くてね。まず、この細胞……、暫定的に設計細胞と名付けたこの細胞が、DNA情報から血小板に指示を出し、肉体の再生が始まるんだ」

 

「あの、血小板に肉体を再生させるような機能は無いと思いますが」

 

外野からの質問。

 

「もちろん無いさ、普通はね。でも、提督の肉体は違う。提督の血小板には、細胞分裂を促進したりするなど、通常の血小板にはない様々な効果があるんだ」

 

ここでまたおおー、と歓声が。

 

「実際に見てみようか。提督、申し訳ないけれど、指を一本千切ってもらって良いかな?」

 

「良いよ」

 

人差し指を千切る。

 

「じゃあ、ここに電子顕微鏡を置くね。……ほら、見てごらん、血小板が大量に染み出して、細胞分裂を促しているんだ」

 

1分ほどで指は元通りになった。

 

「……分かったかな?普通、爪なんかは再生しないものなんだけれど、提督のこの設計細胞は例え脳が欠損しても治すんだ」

 

前に実験で脳の言語野を切り離してもらったことがあるけれど、二、三分くらいはまともに話せなくなったが、その後再生して、普通に喋れるようになった。

 

「因みにこの設計細胞だけど、肉体から切り離されると非活性化するんだ」

 

「んん?じゃあ、仮に、提督を均等に真っ二つにした場合、どちらが再生するんだ?」

 

外野からの質問。

 

「うーん、それはね、分からないんだ。もしかしたら提督が二人に分裂してしまうかもしれないね」

 

え?マジ?怖っ。

 

「と、思ったんだけどね。この設計細胞は、未知の手段で他の設計細胞となんらかのやり取りをしているみたいなんだ。だから、再生し過ぎたりなどの問題は起こらないんだ。そして、一度非活性化した設計細胞は、元の肉体に戻らない限り活性化はしない」

 

ふーん。

 

「次に、臓器の構成を見てみようか。これが略図だよ」

 

明らかに、尋常な人とは違う臓器構成。

 

「これが提督の心臓の断面図なんだけど、心房が多数あるのが分かるかな?これにより、血液の循環を速くして、先程の励起赤血球を高速で循環、全身にエネルギーを行き渡せるんだ」

 

明らかに人のそれじゃない、大きめの心臓。

 

「これが肝臓。三角ではなく台形なのが分かるね。アルコールからテトロドトキシン、ストラキニーネ、ボツリヌストキシン、何でも分解するよ」

 

形がおかしい肝臓。

 

「これは胃だね。二つあるよ。食べたものに合わせて胃酸のPHを調整するんだ。鋼鉄を食べれば、強酸で溶かすよ」

 

複数ある胃。

 

「ここ、盲腸には、草食動物のようにセルロースを分解するバクテリアがいるみたいだね」

 

デカい盲腸。

 

「それでこれはリンカーコア。魔力を生み出す器官だね。言うまでもなく、普通の人間にはないよ」

 

リンカーコア。

 

「肺も三つあるね。理論上は一日くらいなら無酸素で運動できるみたいだ」

 

複数ある肺。

 

「他にも面白い細菌や細胞があるんだ。まずはこれ、アダム。今は非活性化しているけど、活性化すると様々な効果を発揮するんだ」

 

ああ、アダムか。

 

「これは、プラスミドと呼ばれる物質を消費して、電気や炎、冷気などの現象を起こすんだ」

 

まあ、火力はそこそこだけど応用が利くんで、たまに使うよね。

 

「こっちのジーントニックなんかも、直接遺伝子に作用する薬剤の効果だね」

 

そうだね、昔ちょっと色々あって服用した薬のアレだね。

 

「遺伝子といえばこれだよ、提督のDNA情報。こっちがヒトゲノムだね。これ、見てもらえれば分かるけど、殆ど違うんだ」

 

あ、本当だ。

 

「ヒトゲノムとの類似度はおよそ52パーセント程だね。残りは、イヌ科、頭足類、鳥類、魚類などに見られる特徴があるよ。そのうち15パーセントは地球上のどの生命体とも一致しない未知の遺伝情報が含まれているね」

 

……え?そんな違う?

 

「あ、あの、確かヒトゲノムとの違いについては、人とチンパンジーでも96パーセントはDNAが同じ、人と鶏でも60パーセントは同じなんですよ?そ、それが、52パーセント?」

 

外野からの質問。

 

「うん、52パーセントだね」

 

マジかー……。

 

 

 

「あの、聞けば聞くほど人間じゃないんですけど……」

 

とまた質問。

 

「そうだね。でも、生殖は何故かできるみたいだから安心してほしいな」

 

んー。

 

「結局、提督って何なんですか……?」

 

質問。

 

「ふむ……、一言でまとめると地球外生命体なんだけど」

 

うん?

 

「俺は人間だよ?だって52パーセントだよ?過半数は人間なんでしょ?じゃあ人間で良いじゃん」

 

「……だ、そうだよ」

 

いかんのか?

 




時雨
旅人のことは滅茶苦茶愛しているが、研究対象としても興味深々。

旅人
今回の件において、生きたまま五、六回目程解剖された。

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