君にジュースを半分あげる。
さて、黒井鎮守府に新たに作った客室と言う名の離れに一晩泊まってもらって、演習の日。
少年少女達は見学。
まずは電子戦やろうか。
お互いが用意した機器をネットワークに接続して、特定のデータを取り合いする、と言う内容。
……つっても、これは俺もあんまりよく分からん。
電子戦なんて、俺は基礎しか分からない。
同人ゲームとか、ちょっとしたコンピュータウィルスとかなら作れるんだが、軍用ファイアウォールみたいな本格的なのは流石に無理だ。並のハッカー並の能力しかない。
詳しく聞けば理解はできるんだが……、明石も、曹長も、プロ中のプロだ。
多分、全員、何やってるか分からないと思う。
実際、高度過ぎてよく分からなかった。
夕張に解説してもらう。
「はい、まずですね、明石さんは艤装直結システムでコンピュータとリンクし、直接的なハッキングを行いました」
ふむ。
「艤装直結システムで直結した機器は、自分の手足のように動かせますから、それを利用して、圧倒的な演算能力でゴリ押しに走ったのです」
なるほど。
「クルル曹長は、その圧倒的な演算能力に一時押されましたが、ファイアウォールが保たないと見るや否や、ダミーデータの増殖に切り替えました。もちろん、本物のデータは巧妙に隠して」
それで?
「それで、ゴリ押しが得意な明石さんは、全ダミーデータを無理矢理に破壊しようとし始めました。力尽くで」
で?
「すると、クルル曹長はダミーデータに自己増殖機能を持たせて、更にかく乱。明石さんの方の主要データをどさくさに紛れて掻っ攫う、という話でした」
ふーん。
まあ、予想はできていたけれど、明石の負けだ。
「うーん、やっぱり無理かあ」
「クーックク、まあ、防御力より攻撃力を重視した構成がアレだが、それなりにはやるんじゃネーノ?」
「ありがとうございます」
明石が礼をして、電子戦は終了。
次は白兵戦。
向こう側から出るのはタママ二等兵。
「あー、その、ね。うちは白兵戦は滅茶苦茶強いから、やめといた方が……」
「そんなことを言われて怖気付くボクじゃないですぅ!」
そう?
「その、じゃあ、誰とやり合う?」
「んー、そうですねぇ、ボクは兵士としては突撃兵に当たるですぅ。だから、そちら側の最も優れた突撃兵を……」
「ほう」
長門が、嗤った。
あ、やばい。
「黒井鎮守府には突撃兵に相当する艦娘が多々いるが、その中でもトップは私、長門だ」
「そーなんですか?確かにマッチョな……、肉体美ですぅ。じゃあ、長門さんにお相手してもらうですぅ!」
「やめとけ、死ぬぞ」
俺は一応警告しておく。
「大丈夫ですぅ!そう簡単にやられはしないですぅ!」
「ふはは……、では、立ち合おうか」
あーあ。
知らねえぞ俺。
観客席に透明なバリアフィールドをかけた、この前鎮守府に作ったコロッセオ的な建物へ。
「タマちゃーん、頑張ってー!」
「はいですぅ、モモッチー!」
ほのぼのと声援を受ける二等兵。
「な、長門、やり過ぎないようにな……?」
「ふふふ、勿論だとも」
本当だな?本当だな長門?
言ったからな俺は。
「では、始め!」
大淀の声に従って、真っ直ぐに駆け出す二等兵。
「やああーっ!」
飛び蹴りが長門の腹部を捉えた!
しかし!
「効かんなあ……」
長門には通用しない。
長門は素手でベンガルトラ、インドゾウ、アリゲーター、リオレウスなどを殺せる。
猛獣や竜と素手でやり合えるのだ。
「な、何て硬さですかぁ?!」
「こちらの番だ」
ぶおん、と大きな風切り音。明らかに拳を振っただけで出せる音ではない。
「受けッ、無理……、避け、ますぅ!!!」
あからさまにおかしい、ギャグで済まないスピードとパワーで繰り出されたフックは空を切る。
「ふ、ふふふ、な、中々の力を持っているじゃないですかぁ!でも、まだまだですぅ!!タママインパクト!!!」
口からビームを放つ二等兵。
「ほう!面白いな。はぁっ!!!」
気合いの篭ったパンチでビームを弾き飛ばす長門。
長門にはね、うん、効かないんだわ。
長門は物理じゃ殺せないんじゃないかな……。
「ば、馬鹿なぁ!ですぅ?!!」
「終わりか?なら」
「はっ?!」
「吹き飛べ」
「ぶへぇ?!!!あーーーーーれーーーーー」
「ああっ?!タマちゃーーーん!!!」
「タママ二等兵ーーー!!!」
星になった……。
やはり長門はやばい。
今回がギャグ回で良かったな……。
タママ二等兵を回収して、次へ。
「機動戦だ、機動歩兵はいるか?」
ギロロ伍長がお相手してくれるそうだ。
「ここは私が出よう」
菊月、か。
9の数字を持つもの。
デストロイナンバー。
黒井鎮守府最強の一角。
機動戦なら彼女だろう。
「では、始め!」
大淀の号令とともに飛翔する二人。
ギロロ伍長が羽型のバックパックでふわりと飛行するのに対して、菊月はカァオとかっ飛ぶのが特徴的だ。
「成る程、速いな」
伍長が武装を異空間からロードする。
菊月の速度を見て、エネルギー兵器を選択したようだ。
「しかし、速いだけでは!」
ビームライフルを構え、斉射。
「エネルギー兵器か。やはり、異星人ともなるとエネルギー兵器の方が発展するものなのか?」
対する菊月は、クイックブーストで残像を残しながら回避、同時に、両手のアサルトライフルを放つ。
「正確な照準だな……、この女、できるっ……!」
菊月のアサルトライフルの火線に当たらないよう、身体を捻りつつ回避運動をとる伍長。
しかし、伍長の頬に弾丸が掠る。
「何?読み違えただと……?いや、違う!そうか、右の銃と左の銃で弾速が微妙に異なるのか!」
「正解だ!」
超時空要塞的な機動で空を駆ける二人が銃を撃ち合う。
「ちぃっ!だが甘い!」
ここで、思い切り前に出る伍長。
「接近戦はどうだ?!!」
「浅はかな!」
ビームサーベルを抜く伍長に対して、レーザーブレードを喚ぶ菊月。
「そこだ!!」
ビームサーベルを回避して、レーザーブレードを振り抜いた。
「ぐおっ!」
回避し損ねて、片手のビームサーベルを弾かれる伍長。
「隙ありだ!」
しかし、後ろに退がりつつ、もう片方の手のビームライフルで、レーザーブレードを振り抜いた菊月を狙う。
「やったか?!」
「……無駄だ」
「バリアフィールド、だと?!」
「これはプライマルアーマー……。そしてこれが!!」
「何を……?!くっ!!」
「アサルトアーマーだ!!!」
「う、おおお!!!」
咄嗟に離れる伍長。
「く、っ、うう……、バリアフィールドのエネルギーを攻撃に転用したのか……。だが、今ならバリアは張れないだろう!」
そう言ってバズーカをぶっ放す伍長。弾は散弾だ。通常弾頭だと、超高速移動で回避されると踏んで、面制圧を選択したのだろう。流石はプロだ、咄嗟の判断力に優れるな。
「むっ……!ならば、これで!!」
二段クイックブーストで回避した菊月は、バックパックからミサイルを放つ。
「その程度!!……何っ?!!」
迎撃しようとビームライフルを向けた伍長だったが、その瞬間に空中でミサイルが分裂。放射状に分かれたミサイルの迎撃は極めて難しいだろう。
「くっ……!」
回避に専念する伍長。劣勢だな。
「舐めるなよペコポン人!!!」
肩部ミサイルランチャー、脚部グレネードランチャー召喚、射撃。
「ふん」
菊月は、その全てを難なく迎撃。
しかし、爆炎と煙で視界が塞がれる。
「そこだ!!」
「読めている!視界を塞いで一撃を入れるつもりだろう?!しかし私にはプライマルアーマーが」
「理解している。故に、使うのはこれだ」
「スナイパーライフル……!」
確かに、それなら、菊月のプライマルアーマーを貫通できる!
「しかしっ!馬鹿正直に当たると思うかっ!!!」
「当てる、当ててみせる!!」
「やってみせろ!!オーバードブースト起動!!」
超高速移動する菊月に、伍長は。
「………………そこだぁーーー!!!」
何と、見事に、菊月の肩に当てたのだった。
「そこま……、あっ」
「すまん止まれん」
「なっ、ぐっはあ?!!」
菊月が伍長と衝突、そして墜落。
ふむ……、勝負としては、しっかりと一撃当てた伍長の勝ちだが、艦娘は脳味噌吹っ飛ばされたりでもしない限り死なないし、丈夫だ。
殺し合いなら、勝敗は分からなかった、ってところか。
「さあ、今日のところはこれで終わりだ。晩飯まで好きに過ごしてくれ」
さて、明日はどうなる?
曹長
超弩級ハッカーにして技術屋。流石の明石も勝てない。因みに、明石の専門は膨大なエネルギーを生みつつも環境や健康に甚大な被害が出るような機関と、それを使う兵器の作成なので、ハッキングのような電子戦は化物級の範囲に収まる。
二等兵
インファイトは強いが、流石に、人の形をしたスーパーロボット級のパワーファイターである長門には及ばなかった。でも山でカブトムシ相手に修行してきてパワーアップしそう。
伍長
長年の経験から菊月の一枚上をいく。しかし、殺し合いとなると、異常に丈夫で、かつ、同じくらいのレベルの兵装を持つ艦娘を殺しきれるかは分からない。