旅人が大丈夫大丈夫とたまに言うのは、運び屋リ・ガズィからきています。
ここは地下室。妙高型の拠点だ。
私達、妙高型が支持する、アサシン教団の旗がかけられた一室。
ホワイトボードに男の写真を貼り付けて、妙高姉さんが口を開く。
「ターゲットはこの男。カーチック・ゴドフリー。46歳、アメリカ人。アブスターゴの幹部よ。例によって、裏から世界を支配しようと暗躍しているの。つまり、提督の敵ね。質問は?」
質問は?と問われれば、当然、ある。
私は、手を上げて尋ねた。
「はい、那智」
「ターゲットの位置、警備は?」
「ネバダ州で休暇中、らしいわ。いつもの、警備員満載のビルに突撃って訳じゃないから、その分楽かしら?」
若干雑な説明だが、正直に言って、警備状況がはっきり分かることなどまずない。
そもそも、警備状況が丸裸になるならば、最初から依頼なんてこない。
依頼主であるアサシン教団も暗殺者の団体。殺せるならばとっくに殺している。我ら妙高型に来る依頼は、どれも、警備が厳重過ぎてまともに暗殺できないようなものばかりだ。
まあ、これも、まともな人間ならば、という次元での話。艦娘である私達には特に問題はない。
「はーい」
足柄が元気よく挙手。
「はい、足柄」
「逃走経路は?」
「今回も、教団が用意した足を使います。陸路で一日移動した後は、飛行機で帰国しますから、偽造パスポートを無くさないように!特に足柄!」
「あ、あはは、はーい」
足柄はパスポートを失くして、一人だけ別ルートで帰ったことがある。
この手の仕事でミスは許されないというのに、全く。
「あ、あの」
「はい、羽黒」
「ど、毒物の制限は?」
「ネバダ州の真ん中よ?拡散性がある毒は駄目、極力小規模のものにしてね」
「わ、分かりました」
その後もいくつか質問を重ねて、準備ができたところで。
「それじゃあ、行きましょう」
空路で、ネバダ州へ。
ネバダ州ラスベガス。
艦娘としても、暗殺者としても縁がない土地だ。
実際、今回来るのも初めてのことだ。
だがまあ、どうとでもなるだろう。
ターゲットがいるのはこのカジノらしい。
いつもの、フード付きコートを着込んで、カジノ内に入店。
ターゲットは……、いた。
二階の吹き抜けのすぐ側。
……ん?
「成る程」
『レディースアンドジェントルメン!本日は、この、カーチック・ゴドフリーの主催するショーにようこそおいで下さいました!』
罠、か。
その瞬間、カジノのドアや窓が締め切られる。
そして現れる大量の警備員、そして、サイボーグ。ほう、月光……、アームズ・テック・セキュリティ社製の無人二足歩行兵器のことだ、まで導入してきたか。
『楽団め、やり過ぎたんだ、貴様らは。今日こそ終わりにしてやる!死ね!』
楽団、とは、私達の業界での呼び名だ。
能面で活動しているうちにそう呼ばれるようになった。
ふむ、にしても、どうやら本気で潰しにきたらしいな。
第一陣、警備員、小銃で武装。
ふむふむ。
「いやはや、侮られたものだ」
笑える話だ。
この程度で、私達が殺せるとでも?
艤装召喚、アルタイルの剣。
無論、伝説と謳われたアサシン、アルタイルの剣の本物ではなく、レプリカであり、艦娘用に作られた超硬合金製の両刃剣だが。
「シィイ!!!」
『速っ……?!!』
一太刀で首を斬り飛ばす。
私は無駄に痛めつけるようなことはしない。
一瞬で殺してやるぞ。
「それっ」
『ぺぁ』『ぶがっ』『げはっ』
大円月刀を振るい、一息に数人をまとめて吹き飛ばす足柄。
『くそ、くそおおお!!!死ねえええ!!!』
足柄は小銃で撃たれるが、避けない。それくらいじゃ私達は死なないし、大してダメージもないからだ。
『う、嘘だろ、マシンガンを食らってピンピンしていやがる?!!』
「やったわね?」
『う、う、うわあああ!!化け物おおお!!!』
「あら、失礼しちゃう。えいっ」
『があっ』
蹴りの一発で、首から上が柘榴のように弾けた。
全く、足柄め、殺し方が汚いな。
私のようにスマートにできんのか。
ほら、妙高姉さんのようにしても良いぞ。
『死ねえええ!!!』
「ふっ」
二本のピストルソードで小銃の弾丸を弾く。
単純に、小銃より私達の方が速いのと、それを成すほどに剣が丈夫なのがある。まあ、弾丸が当たっても死なないんだが。
『ヒッ、あ、弾切れ、が、あぁ』
「死になさい」
さくり、と。
心臓を貫いて、殺す。
首を断ち、頭蓋を割って、殺す。
流れ作業のように手早く殺す。
やはり、妙高姉さんは一流だな。
羽黒も負けていないぞ。
『お、おい、おかしい、何かがおかしい。そう、そうだ、四人いたはずだよな、三人しかいねえ、ぞ……?がはっ』
『何だ、どうし……、げへぁ』
気配を完全に消して、指揮官を殺して回っている。
暗殺という一点においては黒井鎮守府最高の腕前だからな。
さて、そろそろ第二陣が来るか。
第二陣は、サイボーグか。
『死ねえ!!!』
まあ、人間よりはマシだが。
それでも。
「甘いな」
要は、私達にとって、斬るものがちょっと変わっただけなのだ。
血と肉ではなく、カーボンと人工筋肉の塊と言うだけ。
とどのつまり、斬れるのであれば、相手が何でも構わないのだ。
「貴様が死ね」
どんどん、首を斬り落としていく。
「なんだ、サイボーグも大したことはないな」
さっきの焼き増しだ。
足柄は素手でサイボーグを投げ飛ばし、大円月刀でボディを斬り飛ばして殺す。
妙高姉さんも二刀流で手早く首を斬り落として、舞う。
羽黒もこっそりと殺す。
さて、最後に第三陣。
月光などの無人兵器だ。
まず、足柄が、こんなこともあろうかと!と言いつつ、取り出したチャフグレネードで撹乱。
まあ、やはり、これもまた。
斬るものがちょっと変わっただけだ。
鉄の塊を斬れば良いんだろう?
簡単な話だ。
フリーランで月光のボディを駆け上がり、メインコンピュータらしき部分に剣を突き立てる。
『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ーーー!!!』
図体だけ、だな。
他の妙高型も、同じような要領で月光を撃破していた。
さて。
「カーチック・ゴドフリーだな」
『ば、馬鹿なっ!!あれだけの数を一分で殲滅だと?!あり得ん!!!』
「そうか、では死ね」
『ま、待ってくれ、金ならいくらでも』
「ん、ああ、いや、金は最低限で良いんだ。私はな、」
『げ、あ……!!』
「お前のような屑には、一人でも多く死んで欲しいだけなんだ」
半ば慈善活動なんだよ、これは。
その後は、陸路で逃走。
顔もバレてない。
服も着替えた。
完全に旅行に来たOL四姉妹にしか見えないだろう。
使った武装も全て艤装なので、喚んだり消したりは自在。
検問も素通りだ。
「いやあ、大したことなかったわねー!」
「足柄……!」
「ヒッ、妙高姉さんごめんなしゃい」
「良いですか足柄?今回は珍しく、罠にかけられたんですよ?つまりこれは、相手側がこちらを狙って来たと言う訳です。要するに、今後もこのようなことがあるかもしれない、のですよ」
「ま、まあまあ、あの程度なら幾らいても」
「その油断がいけないのです!もしも提督のお手を煩わせるようなことがあれば……、私は絶対に許しませんよ!」
「もー、分かってるわよー!」
まあ、確かに、このように罠をかけられるのは初めてのことだ。
つまり、暗殺は、これからもっとやりづらくなるだろう。
司令官が嫌う屑共の排除も、うまくいかないと言うことだ。
この世界は司令官のもの、司令官が心地良く暮らせるよう整備するのが私達の使命。
だと言うのに、仕事が捗らなくなると思うと、怒りが湧くが……。
「まあ、良いだろう。今日のところはゆっくり休んで、また次に目一杯殺そうじゃないか」
「そうそう、帰って飲みましょ!」
「ああ、全くもう……、でも、そうね、休むのも仕事のうちね」
頷く妙高姉さん。
「羽黒も飲もうな。ああ、お前は酔わないんだったか?」
「う、うん、アルコールにも耐性があるから。でも、折角だから一緒にお酒飲もう?」
「ああ、そうだな」
こうして、飛行機に乗り、無事帰国した。
うむ、一仕事した後の酒は、格別に美味いものだな。
妙高型
暗殺者兼艦娘。