「わーい、セッツブーンだー!」
いやー。
艦娘の皆んなはノリが良いから困らないなあ!
今時節分なんて真面目にやる家庭、そうそうねえよな。
なんだか、そういうイベントをちゃんとやるのは裕福な家庭ってイメージがあるよな。
まあ、実際、我が黒井鎮守府は裕福。
情操教育の為、日本文化に触れてもらう為、節分を敢行。
さあ、やろうか。
「節分だ」
「セッツブーン!って、何?」
いまいち分かってないプリンツ。
「ああ、これはな、一種の厄払いなんだ」
「宗教的なアレ?」
「そう、だな、大体そう」
「Meこれ知ってる、鬼は外ーってやるやつでしょ!」
アイオワがなんだか嬉しそうに言ってくる。
「そうそう、炒った大豆……、soybeanを鬼に投げるんだ」
へー、と声が出る。
「ねえ、Amiral?鬼って、日本のmonstreよね?何で豆なんかで倒せるの?」
と、リシュリュー。
ふむ。
「鬼の目、即ち魔目に、豆を投げることにより、魔を滅することができたから、とされているよ」
「……鬼って、大したことないのね」
「いや?昔会ったけど滅茶苦茶強いぞ?ってか、妖怪は基本的に明確な弱点がある代わりに滅茶苦茶強いのが基本だから」
いやあ、幻想郷で絡まれた鬼は強かった。パンチ一発で俺の胴体に風穴開けるんだから相当だぞ?
バフ全部載せ防御結界ありありの俺の防御を全部力押しで割ったりするし。もう相手したくない。
「そうなの?」
「妖怪ってか、その類のやつらは弱点さえ突かれなければ、ほぼ無敵だしな」
聖なるものに弱い吸血鬼、人間の唾液の付着したもの以外ではほぼダメージを受けない上に龍を殺す大百足、聖なるもの以外からはほぼ攻撃を受け付けない上にとんでもない性能の鬼、天狗、河童、妖狐その他諸々。
「昔、ヴラド公その人である吸血鬼と戦ったことがあるが、殺しても蘇り、聖なる力が込められた武器でなければ攻撃が通用しなかった」
「ヴラド公……、まさか!ルーマニアの?!」
「いや、その時はイギリスで会ったが……、法外な強さだった。あれはうちの戦力の半数を出して殺しきれるかどうか……」
「うちの戦力の半数って……、うちの艦娘なら、単騎で小国の軍隊を滅ぼすくらいはやるのよ?!」
「あの人は死そのものだからなぁ、ちょっとした軍隊レベルの戦力でどうこうできんよ」
俺も一人じゃ何回か殺すのが限界かな。逃げ切るのも……、まあ、それは大丈夫だが。
「鬼も強いぞ?特に、かつて四天王と呼ばれたあの子達なんて、正直異常な強さだったね」
「四天王……」
「てな訳で今日は四天王の伊吹さんを呼んであります」
「はーい、来たよー」
鬼の四天王のォ、伊吹萃香さんだァ!!!
酒で釣った。
あとは個人的に俺に会いたかったらしい。
なんか、「鬼はね、自分の気に入った人間を攫っちまうんだよ。お前も攫ってやるから、待ってな」とか、「お前が人間の生を楽しみたいというから、飽きるまで待ってやっているんだ。何、時間はいくらでもある」とか、「勇儀も待っていることだしね、早くこちら側においでよ」とか言われてあるが、まあ、スルー。
「「「「………………鬼?」」」」
「鬼だろそりゃ、どっからどう見ても鬼よ」
いやァ、鬼っスわー。
「角が生えた女の子にしか見えないけど」
「ノンノンノンノン!違うよォン、君より何百何千歳も年上の大先輩さね、見た目に騙されちゃあいかんよ〜?」
「とてもそうは見えないわね……」
まあなあ、萃香は飲んだくれてる子供にしか見えないわなあ。
「うげ、神霊だ……。ちょっと旅人ー、どう言うことだー?こいつら、長生きするぞー?」
「そうだね」
「とっとと人間なんてやめて、こっち側に来いよー。妖怪は楽しいぞー?」
「いや、俺は当分は人間でいる予定だから」
俺の片腕に頬擦りしながら、妖怪サイドへの勧誘をする萃香。
その瞬間、この場の雰囲気が一変。
殺気が膨れ上がる。
「……へぇ、こりゃあ、私も本気でやらないと退治されるかもね」
萃香がニヤリと笑う。
萃香も鬼だ、戦闘狂の気はある。
「今回は豆まきだから!ガチバトル展開はないです!どしたの君達?血の気多くない?!」
「「「「提督を奪う奴は殺す」」」」
ヒェー!!
「ま、待て待て、そもそも殺し合いじゃ」
「へえ、言っておくけど、旅人はいずれ私のものになる予定だよ」
「まっ、ちょ、萃香!!!あーーー!!!」
「『ミッシングパープルパワー』!!!」
「「「「艤装召喚!!!」」」」
あー。
あーあーあー。
爆発する鎮守府。
あー。
「鬼退治ができるなんて光栄ね!」
「やれるもんならやってみなよ!」
「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」
俺は取り敢えず、自分の心を落ち着けるため、懐から取り出したウォッカを一口。
うん、すごく落ち着いた。
っふぅー。
さて。
「やめなさーい!!!(しかるたびびと)」
黒井鎮守府の一室は、完全に吹き飛んでいた。
なんてことを。
あとで直そう。
さて、あとは、普通に、萃香に協力してもらって豆まき。
でも俺は、萃香とも一緒にいたいと思うから、鬼は内と唱えて豆を投げた。
鬼は内福は外とか言うと、倒された怪人が巨大化するかもしれないので、その辺は気をつける。
これはヤバイバ。
「うきゃー!」
「……これ、効いてるの?」
「多少はね。まあ、今回の豆は落花生だから殆どダメージはないらしいけど」
萃香に豆を投げつけたりなんかしたら可愛そうだろ!!
と言う訳で落花生を投げてる。
ほら、今の時代はね、落花生を投げたり、大豆アレルギーがある子供に配慮して新聞紙を丸めたものを投げたりするらしいよ?
リアル鬼である萃香に炒り豆を投げたら、普通に痛いらしいし。
俺も若干効く。
おかしいな、俺、人間のはずなのにな。ニンニクは好きだけど、十字架とかちょっと効くし、聖書読むとちょっと痛いし。
やっぱり、悪魔とか鬼とか吸血鬼に成りかけてんのが悪いのかな。
まあ、でも、そうやって、本当に炒り豆でダメージ受ける人に豆を投げるのは可哀想じゃん?
だから、落花生を投げて豆まきの雰囲気だけを、ね?
良いんだよ、こういうのは雰囲気を楽しめればさ。
そして恵方巻き。
無言で食べると願いが叶うと言ったが、黒井鎮守府の艦娘達は、俺と暮らすことが願いなので、それは既に叶っているとして、普通に、和気藹々とした雰囲気で食事をする。
「エホウマキ……、スシとは違うの?」
「いや、寿司だよ」
「因みに、このカンピョウ?って、原材料は何?」
「ユウガオって言うウリ科の植物を細く切って乾燥させたものを、水で戻したもののことだよ」
「へえ、そうなの、ウリ科ってことは、ズッキーニとかきゅうりとかと同じなのね」
アイオワと会話しつつ、節分的な料理を食べる。
これはなあ、節分の時に出る料理は、地方によってバラバラだからなあ。
一応、鰯とか、鯨料理とか、とろろご飯とか、蕎麦とか出してるけど。
「て、提督、海外艦の方々に鯨を出しても良いのでしょうか?」
と鳳翔。
「……いいんじゃないかな?」
「で、でも、しーしぇぱーど?とか言う人達に怒られるかもしれません。そうしたら私、皆殺しにするしか……」
鳳翔がオロオロと伝えてくる。
「あはは、大丈夫よホーショー。シーシェパードなんて、アメリカ人もcrazyだと思ってるわよ」
と、アイオワ。
「そもそも、かつての大戦で何人も殺してきた身としては、今更、動物愛護とかしようと思いませんよね」
「家畜は殺すのに鯨は駄目なんてことはないわよ」
「私、毛皮製品が好きだから。そう言う類の批判はしないわ」
と、海外艦の意見。
……『どうせ人間に食われるんだったらクジラになりたいね……。食われるために育てられ……、何もわからないまま友達だと思ってた人間に殺される。ブタや牛にしてる事の方が残酷だと思うぜ……、オレはね。クジラやイルカは食われたとしてもそれまでは自由に大海を泳いでいたんだ……。捕まったのは力と運が無かったからさ。オレだったら戦って敗れたい……。ブタや牛と、クジラやイルカとの間に決定的に違うことが一つある。戦うチャンスすら与えられない者と……、戦って敗れることのできる者……、オレにはこの差はでかい……、と思うぜ』
かつての知り合いの言葉を思い出す。
俺もほぼ同意見だ。
「まあ、ね、節分は別に、派手なイベントじゃないからね。今度はリオのカーニバルに連れてってあげるよ。予約とったし」
「「「「はい!」」」」
と、まあ、オチはないが、次の予定が決まったところで、セッツブーンを終わろうと思う。
プリンツ
節分についてある程度は理解した。
旅人
鬼は内、福は内。