加圧シャツとか着てます。
はーい、こちらビスマルク。
「あの、こんにちは」
「え、ええ、こんにちは」
朝、起きたら。
「あの、Fräulein、ここはどこかしら?」
「ふろいらいん?……ここはエローナの国ですよ」
知らないところにいたわ。
昨日、どうしたんだったかしら。
ええと、夜に、ジュンヨウと浴びるようにビールを飲んで……。
……原因はそれね。
酔って……、酔ってここに?
どれだけ遠くに来たのよ、私は。
全く見覚えがないところに来るなんて。
でも空港に行った覚えとかはないし……。
「そうだスマホ……、圏外ね」
ポケットから取り出したスマホは、残念ながら圏外。
参ったわ、ここが何処か見当もつかない。
「あー、えっと、エローナの国、とか言ったわよね?」
「はい、ご主人様が支配する、パルミアを超える巨大国家です」
パルミア?
「あの、貴女はムーンゲートらしきものを通ってここに来たと聞いています。この辺りの地理が分からないんですよね?」
「そもそも、どうやってここへ来たのかも分からないわね」
「そうなんですか?」
「ええ、ちょっと、酔った勢いでね」
「それは大変ですね」
………………。
そう、それで……。
「Fräulein、あー、お嬢さんは誰かしら?」
「私の名前は……、いえ、そう、ですね、ただの『少女』ですよ」
「?、それじゃあ、Fräuleinと呼ばせてもらうわ」
名乗らなかった少女……、十代半ばほどの、ブロンドの髪が綺麗な女の子は、前時代的な軽い鎧に身を包み、身の丈を超えるハンマーを背負っている。
コスプレ、かしら?
でも、見たところ、あのハンマーは本物、ハリボテじゃないし……。
「その、貴女の通ってきたムーンゲートの形は、黒井鎮守府の扉だそうですが、貴女は黒井鎮守府の方ですか?」
「え、ええ、そうよ。……って、扉?……ああ!私ったら、酔ってあの扉をくぐったのね?!」
そう、確か……、提督が、異世界食堂方式、とか言っていたあの扉。
確かあれは、異世界に繋がるとか言っていたわね。
ってことは、ここは異世界?
っぽいわね、空気がなんだか違うわ。
「旅人様は私のご主人様のご友人ですし、その関係者であるならば、私が面倒を見ますね。多分、そちらの旅人様がお気づきになって、迎えにいらっしゃるかと思います。それまで、この国でゆっくりしていってください」
「え、ええ、ありがとう。それで、ここは、どんな国なのかしら?」
見たところ、中世のような街並みだけど。
「ここは、私のご主人様が作った国で、ノースティリス……、この辺りの地域では有数の大都市です。技術や文化もトップクラスのものが揃っているんですよ」
「へえ……」
ご主人様、ねえ。
「その、ご主人様って?」
「お会いになったことはありませんか?大鎌を背負い、軽鎧を着込んだ、黒髪の冒険者の男性です」
あー、えっと。
ああ!
「オショーガツの時に見た気がするわ。とても鋭い目をした人ね?」
「はい、多分、その方ですね」
へえ、あの人、たまに鎮守府に出入りしてるわよね。
それに、ご主人様?
……こんな小さな女の子に、ご主人様って呼ばせているのかしら?
それはどうなの?
「どんな人なの?」
「殺戮と強姦と強盗が大好きで、暇潰しに核爆弾をパルミアの真ん中で爆破したり、隕石を降らせたりするお方です。旅人様にもらうお酒と、若い女の肉が好きなんだそうですよ」
「えっ、何それは」
控えめに言って化け物じゃない?
「犯罪者なの?」
「はい」
「ひ、人を食べるのかしら?」
「はい」
そ、そうなの。
まあ、提督の知り合いだし、危ない人なのね。
「そ、そんな人がよく街なんて作れたわね」
「ああ、免罪符を買ってカルマを上げてから、街の人を集めたんですよ」
「め、免罪符?そんなものがあるのね」
昔のカトリックかしら……。
「それじゃあ……、そうですね、街の観光でもどうですか?案内しますよ」
「あら、いいの?それじゃあ行きましょう」
「お食事はどうですか?」
「そう、ね、まだFrühstückは済ませてないわ」
「はい?」
「あー、朝食はまだよ。ドイツ語は通じないのね……」
「そうですか、では、食堂に行きましょう」
……メイドが歩き回る大きな食堂。
メイドさん、かぁ。
可愛いわねえ、私もそういう服を着てみようかしら?
ふりふりで白黒の可愛い服を着て、提督に見せたら……、可愛いって褒めてくれるかしら?
ふふ、提督に褒めてもらえたら、私は何もいらないわ。
「あの、貴女、ええと」
「ああ、ビスマルクよ」
「ビスマルクさんは、人肉を嗜みますか?」
「嗜まないわよ?!そんなもの食べる訳ないじゃない!!」
シラツユシスターズじゃあるまいし!!
「そうですか?すみません、ご主人様も、私を含むご主人様のペットも、人肉を嗜むものでして」
「そ、そうなの」
「で、あれば、ドラゴンのステーキがオススメですよ」
「まあ、ドラゴン?食べたことないわね、食べれるの?」
「ノースティリスでは最高クラスの肉と名高いんですよ」
へえ、そうなの。
確か、神話では、ドラゴンの血を浴びて不死身になった男の話とかがあるし……、やっぱり、ドラゴンの血肉は特別なものなのかしらね。
「ドラゴン牧場もありますから、あとで見に行きますか?」
「それは面白そうね」
ドラゴン牧場……。
ドラゴンって飼育されるものなのね。
「さあ、ドラゴンステーキをどうぞ。今朝とれたカオスドラゴンのステーキです」
「カオスドラゴン……、何というか、穏やかじゃないわね」
さて、まあ……、こちらは艦娘。ある程度の毒やウイルスなら無効化するし、ほとんど病気にもならない。
つまり、何を食べても平気だってこと。
気になるお味は……?
「……Lecker!!」
「え?」
「あ、美味しいってことよ」
提督に聞いたけど、トカゲはささみのような味がするらしいわ。
でも、ドラゴンはトカゲとは全然違うのね!
どちらかと言えば、クジラとか、馬とか……、あと牛にも近い?ような?それで……、野生的ね、ジビエって感じ。
和牛のような、霜降りでとろける、といったイメージじゃないけれど、噛み応えがあって、肉汁が溢れる……、みたいな?
駄目ね、ウォースパイトみたいな食に関するうまい感想が出せない。
けどまあ、とても美味しいわ!
食事を終えて、牧場や畑の見学。
牧場には、カオスドラゴンという、十メートルクラスの巨大なドラゴンが。
「強そうね、これを食べるの?」
肉食の生き物は食べても美味しくないって聞くけど……。
「ドラゴンは雑食ですし、カオスドラゴンはレベルが高くて、肉の質が良いんですよ」
「そ、そうなのね」
レベル?
「こっちの柵は……?」
「その四角いのが、テロ用キューブ、にゅるにゅるしたのが、テロ用エイリアンです」
「テロ用?生物兵器ってこと?」
「そうですね、ご主人様は、いたずらに世界に混沌を振りまくのがお好きな方ですから、街中で放つ用の増殖モンスターと寄生モンスターを用意しているんです」
「何でそんなことを……」
「ご主人様は、平穏な日々を過ごす人々が恐怖のどん底に堕とされ、大切な人を喪って慟哭する姿や、プライドを捨てて媚びる人々をプチっと殺すのが趣味ですから」
「そ、そうなの」
「最近は、妊婦の腹を引き裂き、胎児を母体に食わせて笑っていましたよ。あの時のご主人様はとても楽しそうでした」
そのご主人様っていうのは悪魔の一種かもね……。
気をつけないと。
「こ、こっちの畑は?」
「野菜、果物、宝石、アーティファクトが生えます」
「は?」
「あ、神器が生えてますね。収穫してみますか?」
「い、いやその、私の目が確かなら、植物に剣が生えているんだけれども」
「そういうものです」
「そ、そう……」
そういうものなのね。
「ビスマルクー、どこだー?あ、いた!」
「あ、提督!」
提督が迎えに来てくれたわ。
「うちの子の面倒見ててくれたのね、ありがとう」
「いえ、ご主人様のご友人のお嫁さんですから」
「扉はこの辺にあるんだろ?暇な時はうちにおいで、ご馳走するよ」
「ありがとうございます、ご主人様と伺いますね」
と、少女と短い会話を交わすと、提督は私の手を取って、転移。
黒井鎮守府へ帰った。
「ビスマルク、あそこは本当に危ないから」
「そ、そうなの?」
「エーテルの風が吹く時期じゃなくって良かった。大丈夫かい?」
「身体に問題はないわ」
「あっちに行くなら、最低限、シェルターと食料を持ち込むこと!良いね?」
「え、ええ」
ノースティリス……、よく分からないけれど、恐ろしいところだったわ。
ビスマルク
黒井鎮守府ではまともな方。
少女
ノースティリスのあいつのペット。