旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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胸糞回。


341話 嵐の日常

『1:名無しさん

XXXX/XX/XX ID:◯◯◯◯◯◯

ヒーロー少女現る

◯◯◯◯.MP4』

 

クリック、と。

 

『や、やめて下さい……』

 

『なんだよぉ、俺達と遊ぼうぜえ』

 

気弱そうな女性が、三人のチンピラに囲まれている。

 

周りの人々は見なかった振りをするか、スマートフォンを向けてSNSに投稿するネタができたと見物するかで、手出しはしない。

 

社会って冷えなー。

 

そこに。

 

『やめろ!』

 

これは……、嵐か。

 

『あぁ?おいなんだガキィ!』

 

『文句でもあんのかぁ!』

 

絡まれる嵐。

 

あわわ、助けなきゃ!

 

ってこれ過去の映像か。

 

慌てたぞこの野郎。

 

『文句はある!その女の人は、嫌がっているじゃないか!!』

 

『なぁんだとぉ!!』

 

『そんなことねぇよなあ?!』

 

キレて女性に詰め寄るチンピラ。

 

『ひぃ!』

 

女性は怯えて身を引く。

 

『やめろ!怖がってるだろ!』

 

『ウルセェぞガキが!ぶち殺されてえのか!!』

 

『やってみろ!!』

 

嵐が果敢に言い放つ。

 

やだ、カッコいい……。

 

『んだとぉ!ガキだから殴られねーとでも思ってんのか!!』

 

そう言って、大人気なく、嵐に殴りかかるチンピラ。

 

あ、嵐、なんて危ないことを……。

 

『ええいっ!!』

 

『ぁ?がぁっ?!!』

 

しかし嵐は危なげなくチンピラの拳を片手で受け止めて、チンピラを投げ飛ばす。

 

おお、強いぞー!カッコいいぞー!

 

『て、てめえ!!』

 

『このガキっ!!』

 

残りのチンピラが掴みかかってくるが。

 

『えいっ!!』

 

『がっは!!』

 

『ぐあぁ!!』

 

避けてから、アッパーカットを決める。

 

残りのチンピラも軽く倒した嵐は。

 

『お姉さん、大丈夫か?』

 

と、絡まれていた女性に話しかける。

 

『は、はい、大丈夫、です』

 

『なら良かった!なるべく友達と歩くとかして、気をつけるんだぞ!じゃあな!』

 

と、一言言ってから去る嵐。

 

うん、完全にヒーローじゃん。

 

偉い。

 

 

 

話を聞いたところ、嵐は、自警団よろしく、東京辺りの街を歩いて、チンピラやヤクザを相手に日夜戦っているらしい。

 

……なんで?

 

……暇つぶしらしい。

 

えーと?

 

暇つぶしで街を守ってんのか。

 

なんて言うか、凄いな。

 

艦娘の中には、副業をしている子も多いが、嵐みたいに慈善事業?みたいなことをしている子はいない。

 

偉いぞー、あとで褒めてあげよう。

 

うん。

 

うーん。

 

そう、だな。

 

嵐の活躍を間近で見たいな。

 

………………。

 

よし。

 

こっそりと、外出する嵐についていこう。

 

嵐はどこかなー?

 

「重い荷物を〜、枕にしたら〜♪」

 

っと、いたいた!

 

今日も一人で街を歩くんだな!

 

はい、追跡、隠れる、忍び歩き<80>、と。

 

行くかァー!

 

 

 

おっ、早速事件だ。

 

「きゃー!引ったくりー!!」

 

女性がカバンを引ったくられる。

 

フルフェイスのヘルメットをした男が、スクーターで逃げる。

 

「俺に任せろ!」

 

嵐が走り出す。

 

嵐はその気になれば100mを一秒で走破するからな。

 

そんな嵐からすれば、スクーターなんてトロいもんに追いつけない訳がねえよなあ?

 

物凄いスピードで走って、スクーターの背後について、スクーターの本体の後ろ側を片手で掴む。

 

「な、なんだ?!」

 

そして、徐々にスピードを下げる嵐。もちろん、力によって物理的にだ。

 

成る程なぁ、思いっきり引っ張って止めたら、慣性で運転してる引ったくり犯が吹っ飛ぶもんな。

 

犯人にもなるべく怪我をしないように配慮しているのか。

 

本当に良い子だな、嵐は。偉いぞ。

 

「さあ、盗んだものを返せ!」

 

「う、あ、あ、は、はい、返します!!」

 

そして、返却されたカバンを、引ったくられた女性に渡す嵐。

 

「お姉さん、気をつけてな!」

 

「ひっ!あ、ありがとう……」

 

そして、見返りを求めることもなく、パトロールを再開する嵐。

 

本当にいい子だわ。

 

……でも、あの被害者の女。スクーターを力ずくで止めた嵐に怯えていた、な。

 

 

 

次はー、っと。

 

お、裏路地でカツアゲかあ。

 

「ちょっとジャンプしてみろよオメー」

 

「ひいっ、わ、分かりました、出しますから……!」

 

そこに!

 

「おい、やめろ!」

 

嵐だー!

 

「な、なんだてめえ!」

 

「俺が誰かなんてどうでも良い。だけどな、カツアゲなんてみっともない真似はやめろ!」

 

お、偉いなあ!

 

カツアゲは良くないもんなあ!

 

「う、うるせー!」

 

「アルバイトとか自分でやるんだ、お金は自分の努力で稼ぐから意味があるんだぞ!」

 

うわぁい!耳が痛え!

 

やめろ嵐、その言葉はギャンブラーに効く。

 

そうだよな!

 

お金ってのは賭け事とかで稼いじゃ駄目だよな!

 

賭け事で溶かしちゃもっと駄目だよな!

 

ごめんなー、ごめんな嵐ー!駄目な大人でごめんなー!

 

さて。

 

「黙れや、ガキィ!」

 

おわ、チンピラが嵐に殴りかかってきた!

 

「ふんっ!やあっ!」

 

「がっ……、はあっ?!!」

 

それを、片腕を軽く振って、弾くと、引いていたもう片方の手で拳を固めて殴り返した。

 

チンピラは一撃で倒された。

 

「お兄さん、大丈夫かー?」

 

明るい顔で被害者に話しかける嵐。

 

「……だよ」

 

「え?」

 

「誰が助けてくれなんて頼んだんだよ!お前のせいで、次カツアゲされるとき、もっと酷くなるじゃないか!!」

 

て、めえ、このクソガキ……!!

 

嵐は善意で助けたんだぞ、それを!!

 

すると嵐は、少し悲しそうな顔で。

 

「そうか……、ごめんな。でも、もしも、戦う勇気が少しでもあるなら、頑張ってみないか?少しだけなら、格闘技も教えてやれる……」

 

「うるせーよ!そんなこと僕にできる訳ないだろ!余計なことしやがって……!!」

 

「……ごめん」

 

嵐……。

 

 

 

クソ、ムカつくな。

 

次は、お昼に、そこら辺の定食屋で唐揚げ定食を食べる嵐。

 

かわええ。

 

癒された。

 

そして、道端で、また騒ぎが。

 

「おいゴラァ!!金返せやぁ!!」

 

「ひぃぃ!」

 

ヤクザ複数人が小さな飲食店から取り立てをしているみたいだ。

 

「おい、やめろ!!」

 

そこに突っ込んでいくゥ。

 

「なんだぁ、ガキィ」

 

「関係ねえだろ」

 

「すっこんでろ」

 

「やめてやれ!」

 

おー、啖呵切ったよ、嵐。

 

「こいつを庇う気か、嬢ちゃん」

 

「ああ。確かに借りたものを返さないのは悪いことだ。だが、その人にも生活ってもんがあるだろ!」

 

「知るかよそんなことはよぉ!こいつは契約書にサインしたんだぜぇ?!」

 

「そもそも、その契約は正当なものなのか?!」

 

「ぐっ、うるせーな!」

 

最終的に、ヤクザ側が暴力を振るってきた。

 

ふむ、嵐から殴ることはあまりないのかね。

 

「おらっ!」

 

「遅い!」

 

「あふん」

 

ヤクザの拳を避けて、カウンター気味に放った拳は、ヤクザの顎を掠める。

 

顎を正確に打ち抜いて脳を揺らして、脳震盪で倒したのか。

 

なるべく怪我をさせない、ということか。

 

優しいな。

 

「て、てめえ!」

 

「やっちまえ!」

 

「この野郎!!」

 

次々と襲いかかってくるヤクザ。

 

中には、ドスを抜いている者もいる。

 

しかし、嵐は、突き出されたドスの刃の部分を掴んで、握り潰した。

 

「ひっ、ば、化け物……!!」

 

「とうっ!」

 

「がへぇ」

 

「うおおおお!!」

 

「甘い!」

 

「うぐぅ」

 

「うおおおおおあ!!!」

 

遂には、拳銃を取り出して、撃ったヤクザ。

 

しかし、まあ、艦娘にそんなものは効かない。

 

「馬鹿!街中で鉄砲なんて撃つな!危ないだろ!」

 

の一言とともに、弾丸を掴み取った嵐。

 

掴み取った弾丸をそこら辺に投げ捨てると、銃を持ったヤクザから銃を取り上げて、顎を打ち抜いて倒す。

 

「あぎゃ」

 

「全く、こんなものはこうだ」

 

そして、拳銃を握り潰して、そこら辺に捨てる嵐。

 

最後に、腰を抜かした飲食店の人に手を差し伸べて、こう言った。

 

「大丈夫か、おじさん?立てるか?」

 

しかし。

 

「ひっ、う、わあ、あ、ば、化け物……!!」

 

大層怯えた様子で嵐の手を振り払う飲食店の男。

 

てめえ……!!

 

「お、俺は化け物なんかじゃ」

 

「お、お前は化け物だ!寄るな!寄るなああ!!」

 

ああ、そうかよ。

 

銃弾を掴み取ったら化け物かよ。

 

そんな程度で良ければ、できるやつは何人も知っているんだがな!

 

「そう、か。ごめんな。じゃあ、俺は行くから……」

 

悲しそうな嵐。

 

 

 

もう、駄目だな。

 

これは、良くない。

 

「嵐!」

 

「し、司令?!」

 

俺は嵐を抱きしめる。

 

「君は正しいことをした、胸を張って良い!」

 

「み、見てたのか?」

 

「ああ、コソコソついてきてすまない。けど、嵐、君に非はない!」

 

「そ、そうか?へへ、ありがとな!」

 

俺を抱き返す嵐。

 

「俺は、司令にそう言ってもらえるなら、それだけで嬉しいよ。ありがとう、司令」

 

「……嵐!」

 

なんて良い子なんだ嵐は!

 

「頑張ったな、偉いぞ。本当に良い子だ」

 

「えへへ……」

 

「嵐は化け物なんかじゃないからな、大丈夫だからな」

 

「うん……」

 

「さあ、一緒に帰ろう。小さなヒーローさん」

 

俺は嵐の手を取って、黒井鎮守府へと帰る。

 

嵐は、艦娘は化け物なんかじゃない。

 

皆んな、本当に良い子なんだ。

 

帰ったら、美味しいもの食べさせて、いっぱい遊んでやるからな、嵐。

 





旅人を第一に考える歪んだ正義感を持つが、基本的に旅人が絡まない話においては善良でまとも。

旅人
正義でも悪でもない。

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