『1:名無しさん
XXXX/XX/XX ID:◯◯◯◯◯◯
ヒーロー少女現る
◯◯◯◯.MP4』
クリック、と。
『や、やめて下さい……』
『なんだよぉ、俺達と遊ぼうぜえ』
気弱そうな女性が、三人のチンピラに囲まれている。
周りの人々は見なかった振りをするか、スマートフォンを向けてSNSに投稿するネタができたと見物するかで、手出しはしない。
社会って冷えなー。
そこに。
『やめろ!』
これは……、嵐か。
『あぁ?おいなんだガキィ!』
『文句でもあんのかぁ!』
絡まれる嵐。
あわわ、助けなきゃ!
ってこれ過去の映像か。
慌てたぞこの野郎。
『文句はある!その女の人は、嫌がっているじゃないか!!』
『なぁんだとぉ!!』
『そんなことねぇよなあ?!』
キレて女性に詰め寄るチンピラ。
『ひぃ!』
女性は怯えて身を引く。
『やめろ!怖がってるだろ!』
『ウルセェぞガキが!ぶち殺されてえのか!!』
『やってみろ!!』
嵐が果敢に言い放つ。
やだ、カッコいい……。
『んだとぉ!ガキだから殴られねーとでも思ってんのか!!』
そう言って、大人気なく、嵐に殴りかかるチンピラ。
あ、嵐、なんて危ないことを……。
『ええいっ!!』
『ぁ?がぁっ?!!』
しかし嵐は危なげなくチンピラの拳を片手で受け止めて、チンピラを投げ飛ばす。
おお、強いぞー!カッコいいぞー!
『て、てめえ!!』
『このガキっ!!』
残りのチンピラが掴みかかってくるが。
『えいっ!!』
『がっは!!』
『ぐあぁ!!』
避けてから、アッパーカットを決める。
残りのチンピラも軽く倒した嵐は。
『お姉さん、大丈夫か?』
と、絡まれていた女性に話しかける。
『は、はい、大丈夫、です』
『なら良かった!なるべく友達と歩くとかして、気をつけるんだぞ!じゃあな!』
と、一言言ってから去る嵐。
うん、完全にヒーローじゃん。
偉い。
話を聞いたところ、嵐は、自警団よろしく、東京辺りの街を歩いて、チンピラやヤクザを相手に日夜戦っているらしい。
……なんで?
……暇つぶしらしい。
えーと?
暇つぶしで街を守ってんのか。
なんて言うか、凄いな。
艦娘の中には、副業をしている子も多いが、嵐みたいに慈善事業?みたいなことをしている子はいない。
偉いぞー、あとで褒めてあげよう。
うん。
うーん。
そう、だな。
嵐の活躍を間近で見たいな。
………………。
よし。
こっそりと、外出する嵐についていこう。
嵐はどこかなー?
「重い荷物を〜、枕にしたら〜♪」
っと、いたいた!
今日も一人で街を歩くんだな!
はい、追跡、隠れる、忍び歩き<80>、と。
行くかァー!
おっ、早速事件だ。
「きゃー!引ったくりー!!」
女性がカバンを引ったくられる。
フルフェイスのヘルメットをした男が、スクーターで逃げる。
「俺に任せろ!」
嵐が走り出す。
嵐はその気になれば100mを一秒で走破するからな。
そんな嵐からすれば、スクーターなんてトロいもんに追いつけない訳がねえよなあ?
物凄いスピードで走って、スクーターの背後について、スクーターの本体の後ろ側を片手で掴む。
「な、なんだ?!」
そして、徐々にスピードを下げる嵐。もちろん、力によって物理的にだ。
成る程なぁ、思いっきり引っ張って止めたら、慣性で運転してる引ったくり犯が吹っ飛ぶもんな。
犯人にもなるべく怪我をしないように配慮しているのか。
本当に良い子だな、嵐は。偉いぞ。
「さあ、盗んだものを返せ!」
「う、あ、あ、は、はい、返します!!」
そして、返却されたカバンを、引ったくられた女性に渡す嵐。
「お姉さん、気をつけてな!」
「ひっ!あ、ありがとう……」
そして、見返りを求めることもなく、パトロールを再開する嵐。
本当にいい子だわ。
……でも、あの被害者の女。スクーターを力ずくで止めた嵐に怯えていた、な。
次はー、っと。
お、裏路地でカツアゲかあ。
「ちょっとジャンプしてみろよオメー」
「ひいっ、わ、分かりました、出しますから……!」
そこに!
「おい、やめろ!」
嵐だー!
「な、なんだてめえ!」
「俺が誰かなんてどうでも良い。だけどな、カツアゲなんてみっともない真似はやめろ!」
お、偉いなあ!
カツアゲは良くないもんなあ!
「う、うるせー!」
「アルバイトとか自分でやるんだ、お金は自分の努力で稼ぐから意味があるんだぞ!」
うわぁい!耳が痛え!
やめろ嵐、その言葉はギャンブラーに効く。
そうだよな!
お金ってのは賭け事とかで稼いじゃ駄目だよな!
賭け事で溶かしちゃもっと駄目だよな!
ごめんなー、ごめんな嵐ー!駄目な大人でごめんなー!
さて。
「黙れや、ガキィ!」
おわ、チンピラが嵐に殴りかかってきた!
「ふんっ!やあっ!」
「がっ……、はあっ?!!」
それを、片腕を軽く振って、弾くと、引いていたもう片方の手で拳を固めて殴り返した。
チンピラは一撃で倒された。
「お兄さん、大丈夫かー?」
明るい顔で被害者に話しかける嵐。
「……だよ」
「え?」
「誰が助けてくれなんて頼んだんだよ!お前のせいで、次カツアゲされるとき、もっと酷くなるじゃないか!!」
て、めえ、このクソガキ……!!
嵐は善意で助けたんだぞ、それを!!
すると嵐は、少し悲しそうな顔で。
「そうか……、ごめんな。でも、もしも、戦う勇気が少しでもあるなら、頑張ってみないか?少しだけなら、格闘技も教えてやれる……」
「うるせーよ!そんなこと僕にできる訳ないだろ!余計なことしやがって……!!」
「……ごめん」
嵐……。
クソ、ムカつくな。
次は、お昼に、そこら辺の定食屋で唐揚げ定食を食べる嵐。
かわええ。
癒された。
そして、道端で、また騒ぎが。
「おいゴラァ!!金返せやぁ!!」
「ひぃぃ!」
ヤクザ複数人が小さな飲食店から取り立てをしているみたいだ。
「おい、やめろ!!」
そこに突っ込んでいくゥ。
「なんだぁ、ガキィ」
「関係ねえだろ」
「すっこんでろ」
「やめてやれ!」
おー、啖呵切ったよ、嵐。
「こいつを庇う気か、嬢ちゃん」
「ああ。確かに借りたものを返さないのは悪いことだ。だが、その人にも生活ってもんがあるだろ!」
「知るかよそんなことはよぉ!こいつは契約書にサインしたんだぜぇ?!」
「そもそも、その契約は正当なものなのか?!」
「ぐっ、うるせーな!」
最終的に、ヤクザ側が暴力を振るってきた。
ふむ、嵐から殴ることはあまりないのかね。
「おらっ!」
「遅い!」
「あふん」
ヤクザの拳を避けて、カウンター気味に放った拳は、ヤクザの顎を掠める。
顎を正確に打ち抜いて脳を揺らして、脳震盪で倒したのか。
なるべく怪我をさせない、ということか。
優しいな。
「て、てめえ!」
「やっちまえ!」
「この野郎!!」
次々と襲いかかってくるヤクザ。
中には、ドスを抜いている者もいる。
しかし、嵐は、突き出されたドスの刃の部分を掴んで、握り潰した。
「ひっ、ば、化け物……!!」
「とうっ!」
「がへぇ」
「うおおおお!!」
「甘い!」
「うぐぅ」
「うおおおおおあ!!!」
遂には、拳銃を取り出して、撃ったヤクザ。
しかし、まあ、艦娘にそんなものは効かない。
「馬鹿!街中で鉄砲なんて撃つな!危ないだろ!」
の一言とともに、弾丸を掴み取った嵐。
掴み取った弾丸をそこら辺に投げ捨てると、銃を持ったヤクザから銃を取り上げて、顎を打ち抜いて倒す。
「あぎゃ」
「全く、こんなものはこうだ」
そして、拳銃を握り潰して、そこら辺に捨てる嵐。
最後に、腰を抜かした飲食店の人に手を差し伸べて、こう言った。
「大丈夫か、おじさん?立てるか?」
しかし。
「ひっ、う、わあ、あ、ば、化け物……!!」
大層怯えた様子で嵐の手を振り払う飲食店の男。
てめえ……!!
「お、俺は化け物なんかじゃ」
「お、お前は化け物だ!寄るな!寄るなああ!!」
ああ、そうかよ。
銃弾を掴み取ったら化け物かよ。
そんな程度で良ければ、できるやつは何人も知っているんだがな!
「そう、か。ごめんな。じゃあ、俺は行くから……」
悲しそうな嵐。
もう、駄目だな。
これは、良くない。
「嵐!」
「し、司令?!」
俺は嵐を抱きしめる。
「君は正しいことをした、胸を張って良い!」
「み、見てたのか?」
「ああ、コソコソついてきてすまない。けど、嵐、君に非はない!」
「そ、そうか?へへ、ありがとな!」
俺を抱き返す嵐。
「俺は、司令にそう言ってもらえるなら、それだけで嬉しいよ。ありがとう、司令」
「……嵐!」
なんて良い子なんだ嵐は!
「頑張ったな、偉いぞ。本当に良い子だ」
「えへへ……」
「嵐は化け物なんかじゃないからな、大丈夫だからな」
「うん……」
「さあ、一緒に帰ろう。小さなヒーローさん」
俺は嵐の手を取って、黒井鎮守府へと帰る。
嵐は、艦娘は化け物なんかじゃない。
皆んな、本当に良い子なんだ。
帰ったら、美味しいもの食べさせて、いっぱい遊んでやるからな、嵐。
嵐
旅人を第一に考える歪んだ正義感を持つが、基本的に旅人が絡まない話においては善良でまとも。
旅人
正義でも悪でもない。