けど、TRPG動画が好きでめっちゃ見てる。
俺もTRPGに付き合ってくれる友達、いや美少女が欲しかった。
いや、隣の部屋についつい肉じゃがやビーフシチューを作り過ぎてしまい、おすそ分けしに来てくれる美人大学生とかが欲しい。
金も欲しい。
全てを破壊する圧倒的な力も欲しい。
「提督、僕は感動したよ」
俺が昼間からウォッカを片手に新作の映画を見ていたら、時雨が話しかけてきた。
映画に感動した、とかそう言うアレじゃないな。言い方は悪いけど、時雨はそんな柄じゃない。
丁度エンディングテーマが終わり、製作会社のロゴマークがデカデカと映った画面を横目に、聞いた。
「主語がないのよ主語が。何の話?」
「心を読んでも良いよ?」
「いやあ、コミュニケーションって大切だよな」
「ふむ、一理あるね。では、話そうか」
時雨は、俺の隣に座って、腕を抱くと、話し始めた。慎ましい胸の膨らみを押し付けられるのがたまらないな。
「そうだね……、どこから話したものか」
「ゆっくりで良いし、適当に話してくれて構わないよ。俺と君の仲じゃないか」
「ふふ、そうだね。……探索者を見たんだ」
へあ。
「君ももちろん知っていると思うけれど、この世界は常に、邪神や神話的恐怖、外なる神に狙われている、砂上の楼閣に過ぎない」
「そうだねえ」
何度か世界を救ったことがあるからね、それは理解しているよ。
「見えるだろう、遥か彼方に、アザトースが微睡んでいる姿が。人の世界に降り立ったニャルラトホテプが、狂乱の種を撒き散らすのが。悍ましい人外共が、影の街に跋扈し、狂った人間が動乱を呼ぶ様が」
「そうだねえ」
「そんな中、僕は見たんだ。人の輝きを」
「ほー」
「矮小な人間如きが、神々に逆らい、立ち向かう姿を。僕は、感動したよ」
ふむ……。
「時雨のそれって、頑張ってる人間に感動したって言うか、こう、教育テレビでやってる生き物はこんなに頑張って生きてる!みたいなの見ておおー、ってなってる感じだよな」
こう、カラスが木の実を割るために車を利用するのを見て、「わー、かしこーい」みたいな?
時雨の知能はもう、人間の領域を遥かに超えているから、人間なんてただの動物にしか見えないんじゃないの?
「ふむ、そうだね。でも、例え、僕より知能が劣っていたとしても、精一杯考えて、できることをやれる人間には敬意を払うよ」
視点が神なんだよなあ。
「で、つまり?」
「はい、これ」
紙束。
「白露型の調査レポートだよ。そこに、動乱の種がある」
ふーん?
紙束を見る。
Wordでまとめられた、カラー写真付き調査報告書。
タイトルは、『神話的怪奇発生予測地』とある。
「Word使うんだ」
「紙媒体の保存は難しいものも多いからね。データ化したり、コンピュータを使ったりはするとも。得意ではないけれどね」
ほーん。
紙束をめくる。
「何々……?『神城島』『クローズドシナリオ』『推奨人数:四人』『推奨技能:博物学、心理学』『予定時間:二日』……?」
まるでTRPGの導入案内みたいだぁ。
そんな感じの、『シナリオ』の発生場所について記されている。
「つまりこれはあれかな、艦娘に探索者をやらせる、と?」
「そうだとも」
うん。
「ゲームとして成立しないよ多分」
「その時はその時さ。化け物共の計画がぶち壊されたところで、誰が困るって言うんだい?」
「……それもそっか!」
ん?
「でも危なくない?」
「艦娘は余程のことがない限り死なないし、精神も人間とは違う。最悪、僕達と提督が助けに行けば良いじゃないか」
百理ある。
「やるっかぁー」
「で、これは?」
「今回の艦娘探索者編「編とかメタ発言はやめよう?」……艦娘探索者の企画は、ステータスと技能が大事だ」
「そりゃそうだね」
適材適所。何だってそうだ。
「例えば、戦闘力よりも推理力が求められるシナリオにおいて、長門さんのような脳筋は無用の長物だ」
確かに。
「それで?」
「だからあらかじめ、艦娘のステータスと技能を調べておく必要があると思ったんだ」
「成る程」
で?
「ここに血を一滴垂らしてくれるかな?」
と、羊皮紙を渡される。
見るからに、魔術的な工作が施されたものだ。
ふむふむ。
よく切れるミスリルのナイフで、親指をチクっと。
血を垂らしてみると。
『新台真央 Age:28
STR:32
CON:125
POW:200
DEX:108
APP:18
SIZ:17
INT:25
EDU:18
HP:100
MP:68
SAN:689513648
装甲:15
回避
こぶし
組みつき
キック
投擲
KARATE
応急手当
目星
聞き耳
追跡
忍び歩き
跳躍
登攀
言いくるめ
説得
クトゥルフ神話
オカルト
博物学
魔法
忍術
呪術
奇跡
秘儀
製作:料理
芸術:音楽
外国語
………………
…………
……
(以下多数)』
「なにこれぇ(ゴロリ)」
「提督のステータスと技能だよ」
そっかあ。
「凄いの?」
「HPとMPの平均は大体10以上、SANは50程、他のステータスは……、人間の最大値が18くらいかな」
「へー、じゃあ俺って人間の限界くらいイケメンなんだ」
「ふふ、そうだね」
うーん?
「この装甲ってのは?」
「その数値以下のダメージは無効化するんだ」
ふむふむ。
「因みに、普通の人間は装甲は0だよ」
「俺も普通の人間だよ、それなのに装甲がある、これはおかしい」
「うん」
うんじゃないが。
「そうだね、通常の9mmオートマチック拳銃が急所に当たって10のダメージってところかな」
「へー」
じゃあ。
「このSANってのは?」
「正気度かな。その人間がどれくらいまともかを表す数値だね」
「じゃあ俺まともなの?」
「いや、ここまで高いと逆に異常かな」
ほーん。
「上位の邪神に出会えば、人にもよるけど、平均して50くらいは減るね」
「じゃあ、常人なら、上位の邪神に出会えば発狂してもおかしくないってこと?」
「そうだね」
そんなもんかな?
「それじゃあ、艦娘を日本全国に派遣する感じで?」
「そうだね」
「じゃあ俺らは脳内の瞳で観測するっかぁー」
はーい、それじゃ、艦娘探索者編。
よーい、スタート。
時雨
SAN0。
旅人
探索者。