まさかあいつがあいつだったとは……。正直、またかよ!って思いましたが、楽しかったです。バルログが一番使い心地良かったかなー。
……1949年3月15日。
余の意識は、そこで途切れた。
余は……、戦ったのだ。
立派……、かどうかは、後世の人々が評価するものだろうが、余は精一杯戦った。
それで、退役し、解体。
余は、『終わった』のだ。
……だが、余の魂は……、海に『在る』。
人間でいう、微睡みの中にいる。
何年も、何年も、微睡んでいた。
そして、ある日。
『おいで』
声が、聞こえた。
男の声だ。
余は、それに従ってみようと。
そんな気に、なった。
『っ……、は?!こ、ここはどこだ?!』
微睡みから、意識が覚醒する。
余は……?
ええと、余はネルソン。ネルソン級戦艦一番艦にして、ビッグセブンのうち一隻……、で。
多分、その、艦娘?というものだと思う。
艦娘?
艦娘とはなんだ?
艦娘とは……、よく分からないが、人間の形をした艦で……、女だな。女だと思う。
『おお……』
凄いな、艦の頃と違って、手足があるぞ。舵を操作されずとも自由に動けるのか。
『んっ……』
胸に大きな脂肪の塊が。これが乳というものか?むにむにだ。これで子を育むのだな。
服装は……、スカートが短いな。女が足を見せるのはあまり良くない、か?
余は、何故ここに?
……そうだ、深海棲艦を殺す為だ。
深海棲艦とはなんだ?
人類にあだなす怪物だ。
怪物?そんなものがいるのか?!
そもそも何故、余は艦娘になった?深海棲艦を討たねばならぬと思った?
……何も、分からない、か。
『あの、良いかな?』
美しいクイーンズイングリッシュで話しかけられた。
この声は……、そうだ!余を呼び出した声ではないか!
『貴様、何も、の、だ……?!!!』
余が顔を向けると、そこには。
絶世の色男がいたのだ。
なっ……?!
何と良い男だ!!
背も高く、体格も良く、白髪が美しい。
同郷の者ではないが……、高い鼻と深めの彫りは西洋の男のそれだ。
知性的な黒い瞳に余を写し、真っ直ぐに見つめてくる。
『うっ……?!』
『っと、大丈夫?!』
『い、いや、その、貴様を見ると、何故か胸が高鳴るのだ……』
恐らくは心臓であろう、臓器がどくんと動いたのを感じる。
『……あー、それは、まあ、いずれ慣れると思うよ』
だ、駄目だ、止まらん!この男に見つめられると、胸の高鳴りが抑えられん!!
どういうことだ?!
『……ちょっと離れようか?』
『そうして、くれ』
しかし、男が余の側を離れるとどうだろうか?
今度は、心臓が締め付けられるような……。
ええい、離れられるとかえって辛い!
『いや、やはりもっと近くに来い!』
『あー、うん』
むぅ……?
一体どういうことなのだ?
近付かれると鼓動が早くなり、離れられると胸が痛くなる……。
『……何かの病気だろうか?』
『……まあ、不治の病だよね、それは』
『な、何だと?不治の病か……!艦娘?とやらになって早々、死んでしまうのだろうか?!』
『死にはしないと思うよ?』
『そうか……?』
って、それよりもだ!
『貴様は、誰だ?』
『黒井鎮守府提督、新台真央。ネルソンさん、君を建造……、この世界に再び呼んだんだ』
『建、造……』
『君は艦娘。深海棲艦を倒す者だ』
それは、何となく理解している。
『……でも、そんなことは関係なく、君にはこの世界を楽しんでほしい』
『楽しむ、だと?』
『ああ。自然に触れ、芸術を楽しみ、美食を味わい、愛を知り……、この世界で生きてほしい。女性としての幸せを知ってほしい。そう思っている』
『……それは、理解した。つまり、余は貴様の指揮下に入り……、人間の真似事をしながら、深海棲艦と戦えということだろうか?』
『まあ、その認識で良いよ』
そうか……。
『……何故、この様な姿になったのだろうか?』
『んー、そうだね……。それは分からないけど、ネルソンさん、君は世界大戦で必死に働いただろう?』
『ああ』
『次は、人間として、幸せな日常を過ごして良い、と考えれば良い。第二の人生だ』
第二の人生、か。
『ネルソンさんは戦艦だし、山や森なんかは見たことなかっただろ?綺麗な自然を見に行かないか?』
自然……、見てみたいな、確かに。
『それに、今この世界は、君が解体されてから七十年以上の時が過ぎている。今の人間の営みなんか、そういうの、見てみないか?』
そう、だな。
余が守った人間を見てみたいものだな。
『……それより貴様、もう少し私の近くに寄れ』
『こうかな?』
『うむ……❤︎』
これは良いな、実に良い。
何故かは分からんが、この男が側にいると心地いい。
む?
『『『………………』』』
『お前達は……!!!まさか!』
ウォースパイト、アークロイヤル、そしてジャーヴィス!!!
『こんなところで戦友に会えるとは……!!久しいな!!』
『ええ、久しぶり。随分とAdmiralと距離が近いのね、ネルソン』
む?
『ああ、この男はよく分からんが側にいてほしく思う。この男は司令官としてはどうなのだ?有能か?』
『これ以上ないくらいに有能よ。このレベルの司令官は中々お目にかかれないわね』
ほう!
有能な美男か。
神は二物を与えたと言うことか。
『ならば、余の側に相応しい男と言う訳だ』
『ええ、そうね。でも、Admiralは貴女だけのものじゃないわよ』
『む、そうか?』
ふむ。
ふむ……?
なんだ?
なんだか、それは少し嫌だな。
この男は余だけのものにしたい。
『余だけのものにしてはならないのか?』
『できるものなら』
そして飛んでくる本気の殺意。
『……ッ?!!わ、分かった、それはやめておこう。しかし、余もAdmiralの側にいて良いだろうか?』
『ええ、皆で一緒に彼の側にいましょう』
『今日はネルソンさんの為に腕によりをかけて料理したよ。さあ、どうぞ』
『うむ、礼を言うぞ』
なんとこの男、多才で、料理の腕も一流だと言う。
沢山の料理を余を歓迎する為に作ってくれたとのこと。
『む……!これは美味いな!』
ほう……!
驚きだな!
料理の記憶はなんとなくあるが、ここまで美味いものの記憶はないぞ!
このローストビーフのソースの奥深い味と言ったら……!
この男は本当に有能だな!
余の側に置いておきたい!
『ラム酒もどうだい?』
『Admiralもいけるクチか?』
『ああ、酒を飲まないと干からびて死んでしまうんだ』
『ふふふ、面白いジョークだな』
『ここがネルソンさんの部屋だ。他のイギリス艦と一緒だよ』
『そうか』
友と一緒か。
態々個室にしてもらう必要はないな。士官でもあるまいし。そもそも、私室の必要性がほぼない。
何せ、この、黒井鎮守府は、施設が広く様々なものがある。
私室など、寝るときくらいにしか使わないだろう。
しかし……。
『それじゃあ、今日は寝ると良い。ゆっくり休んでね、ネルソンさん』
『待ってくれ』
『ん?何かな?』
『貴様といると、心臓が高鳴るんだ。これは、なんなんだ』
『……それは自分で考えた方が良い問題だと思うね。俺じゃ力になれないよ』
………………。
『もしかしたら、だ。これは、多分、恐らくは』
今日一日、この男と一緒に行動して。
『余は、貴様に恋をしたのかもしれない』
『……そうか。恋は良いよ、素晴らしいものさ。それで?』
『余を抱いてくれ』
『喜んで』
余は、余は……!!!
うわあああ?!!
邪魔するなウォースパイトーーー!!!
ネルソン
人間の形に戸惑う。