「深海棲艦を、殺すなー!」
「深海棲艦は人類の敵じゃないー!」
「艦娘は消えろー!」
「黒井鎮守府の武力独占を許すなー!」
「「「「許すなー!!!」」」」
おーおーおー。
相変わらず面白いことになってんなー。
我らが黒井鎮守府の前では、毎日のように変なデモがいる。
正面門はデモ隊が常にたむろしてるので、艦娘は裏口から出入りする。
裏口にもいるなら、艦娘には持ち歩くように指示してある『帰還の巻物』を使うように言ってあるので、極論を言えば、戻ってくること自体はできる。
因みに、これは秘密なんだが、黒井鎮守府の裏口はいくつかあって、生体認証とパスワードを入力するとどこからでも入れるみたいな感じだ。
因みにパスワードは『空耳ケーキ』だ。
え?いやだって、不思議な扉の文字は空耳ケーキだから。
まあ俺も艦娘からの好きだよ好きだよの声が聞こえてるからね、多少はね?
こちとらクソss大王だぞ。
さて……。
黒井鎮守府の前にデモしに来ている人々は、様々なバリエーションがあるが、主に三つ。
一つ目は、現政権を嫌う野党とその手先。大学生崩れのシールズ?みたいな奴らが多いな。こういう連中はこっそり野党とかヤクザとかから、お車代とかお食事代みたいな名目で金をもらい、大したイデオロギーもなくデモもどきをする奴らだ。バイト気分、お祭り気分ってとこか。
二つ目は、深海棲艦を神の使いと崇めるカルト。確かに、深海棲艦は人類を粛清しに来た、星の防衛機構のようなものだが、それを知り得ているのは俺だけだ。現在の状況でトチ狂った終末論者ってところかな?
三つ目は、反戦団体。兎に角、戦力そのものを許せない連中だ。戦争という言葉自体にアレルギーがあるらしい。仕事のないリタイヤ済の暇な年寄りから、野党の手先まで幅広い人材を取り揃えている。
その他にも軍オタや単なるファンなど、様々な暇人で溢れている印象。
俺も暇人なので、シンパシーを感じるなー。
良いよな、働かずに昼間から遊んでるのって。楽しいよな、気持ちは分かる。
俺も今は、昼間から遊び呆けているからな。
大学生崩れの諸君もとても楽しんでいるんだろう。まあ、その後の就活で地獄を見るだろうが……、今楽しければそれで良いんじゃない?
先のことなんて頭の隅にでも置いておけば良いのよ。今を楽しまなきゃ。
……「戦力の私物化を許すなー!」
うんうん、元気いっぱいだね、偉い偉い。
俺は優しい目でデモを見守る。
これもまたアイカツだね!みたいな雰囲気を出しておく。
だが、隣の大淀は違うみたいで……?
「ウジ虫風情が……」
絶対零度の瞳でデモ隊を見つめる大淀。
「んもー、大淀!駄目よ!女の子は笑顔でいなきゃ!」
「はい!」
微笑みを返してくれる大淀。
天使の微笑み。
やっぱり大淀は天使だったんだ。
天使にふれたよ。
「まあ黒井鎮守府なんて放課後ティータイムみたいなもんやし」
「どちらかと言えば聖飢魔Ⅱですよ」
そうかな……?
そうかも……。
「いやあ、黒井鎮守府はやさしいせかいだから」
「私的にはセックス・ピストルズだと思います」
「ザ・フーでは?」
事務の鹿島と香取。
「シド・ヴィシャスもキース・ムーンもうちにはいないよ」
「「もっとヤバいのがいますもんね!」」
そうかな……?
そうかも……。
さあ、それで、だ。
黒井鎮守府前のデモ隊については、極力干渉しないこと、一応一般市民なので『始末』したりしないこと、と艦娘達には言ってある。
艦娘達は基本的に、人間を虫けらくらいにしか思っていない節があるので、今のところ問題はあんまり起きてない。
だが艦娘だって、感情の揺れ幅や感じ方は人間と違うとは言え、心がある生き物だ。誹謗中傷をされればストレスも溜まるはずだ。いかに人間を虫けら程度に思っていたとしても、逆に虫けら程度に文句を言われると腹が立つと言う子もいるかもしれない。
しかし、ここで艦娘に好きにさせたら、黒井鎮守府前のデモ隊はけものフレンズ2のような惨状になるだろう。
シュシュっと惨状だ。
忍者ではないが正義?のハリケーンは巻き起こされるんじゃないかな。
まあ、つまりは、艦娘も謂れのない誹謗中傷でイライラしているはずだ。
ここは俺が一肌脱がなくては!!
……一肌脱ぐと口にすると、白露型に皮を剥がれそうだから、口には出さない。
『……そうさヨーデル好きの連中は、ムードメーカでハッピーメーカー。明るいお日様の光みたいに、心の中を照らすんだ!』
「歌うなー!」
「引っ込めー!」
「黒井鎮守府の戦力を放棄しろー!」
うーん?
おかしいな……、俺の歌じゃ駄目なのか……?
俺渾身のヨーデルを黒井鎮守府の前でデモ隊に披露したが、誰も聞いてくれなかった。
となるともうランカちゃん連れてくるしかねえぞ。
……いや、選曲か?
ならば。
『モスクワ、モスクワ、グラスを壁に投げつけろ!ロシアは美しい国だ!ホ、ホ、ホ、ホ、ホ、ヘイ!』
「黒井鎮守府の艦娘を処刑しろー!」
「深海棲艦を受け入れろー!」
「戦力の独占を許すなー!」
んー?
嘘だろ、めざせモスクワだぞ?
名曲だぞ?
音楽の力は偉大なはずなのに。
俺の力不足なのか?
「最早ジャギと漫才するしか……」
と、俺が困っていると。
「おや、何をしているのでありますか?」
あきつ丸のエントリーだ。
「あきつ丸ー」
抱きつく。
「おや、よしよしであります」
撫でられる。
ッハァ、あきつ丸は優しくて良い子だなあ。
すこ。
「艦娘は日本からいなくなれー!」
「平和な日本に戦力はいらないー!」
「黒井鎮守府は戦力を放棄しろー!」
おっおお、あきつ丸が屠殺場の豚を見るような目をしているぞー?
「……提督殿の崇高なお考えは、自分のような者には理解できないでありますな。ゴミを掃除してはならないのでありますかな?」
「あきつ丸、やめようね」
「……提督殿、自分は提督殿の敵は須らく斬るでありますよ」
「敵なんていないさ」
さて。
折角あきつ丸もいることだし。
「あきつ丸は訓練終わりかな?」
「はい、走り込みを終えたのであります。シャワーを浴びて着替えて、やることもないので外出でもして酒を飲もうかと思っていたところでありますよ」
「じゃあさ」
俺はアウトドア用の椅子とテーブルを出す。
「ここで一杯やらない?」
「おお、愚かな人間を眺めながら一杯、でありますか」
……「昼間から酒を飲みやがって……!」
……「うう、俺だって飲みたいのに……!」
……「いちゃつきやがって!!」
外野の声を消音の魔法でシャットアウトし、あきつ丸と日本酒を飲む。
炭火を用意して、目の前で焼き鳥も焼いちゃう。
たれをかけてジュワッと!甘塩っぱい匂いが煙と共にふわっと広がる!
……「う、うう……」
……「な、なんて良い匂いだ……」
……「う、は、腹が減ってきた」
そして、匂いを嗅ぎつけて、艦娘が集まってくる。
「あー!焼き鳥ー!夕立も欲しいっぽいー!」
「匂いを嗅ぎつけてきました、赤城です。提督、私にも下さい!」
「にゃ?焼き鳥にゃ。多摩にも下さいにゃー」
「おっしゃ、ブルーシート敷いてホラほい!」
ブルーシートを敷いて、ビールやらジュースやらの栓をあける。
いつのまにか多くの艦娘が集まり、ちょっとした宴会になっていた。
こんな感じのことが数日続いて。
数日後。
「あれ?なんかデモの人減ってない?」
「あー、なんか、艦娘が楽しそうに宴会しているのを毎日目の前で見せつけられて心が折れたらしいですよ」
と、大淀。
ふーん。
そっか。
「今日は裏山で宴会しようぜー」
「はい!」
これ以降もトゥイッターに宴会動画を流してたら、なんか知らんけど、デモの人達の元気はどんどんなくなっていった。
何でだろうな?
まあ、良いや。
最近はだんだん暖かくなってきたから、どんどん外に出ないとな!
旅人
パリピ。