俺のデブが加速するのでもんじゃとか食わせないでくれー。
俺は休憩室で時雨とチェスをしている。
因みに時雨は人外レベルでチェスが上手い。
他にも望月がその辺で漫画を積み上げて読んでるし、五十鈴が本を読んでいる。
実に平和な日常の1ページだ。
こんな長閑な日々が続くことこそが、真の平和と言うのだろう。
政治家や官僚の掲げる大層なお題目ではなく、人々の健やかな営みの中にこそ、平和がある。
確かに、景気が悪いだとか、終身雇用がなくなるだとか、外交だとか、色々あるだろう。
だが、そんな世知辛い世界でこそ、暖かな平和を謳歌することは罪なのだろうか。
「さて、提督。ここに白露型が作った、人間の脳に寄生し人間を操る寄生生物のサンプルがあるんだ」
「時雨ー、俺のモノローグ読んでるんでしょー?読んでそれはないよねー?」
「継続的に前頭葉を破壊し続けるようになっているから、提督にも効くんじゃないかと思ったんだけど」
「話聞いてるー?」
勘弁してよ、それもう絶対痛いやつじゃん。
「痛みは一瞬だよ。すぐに何も分からなくなる」
「望月ー、助けてー、ボンドルド卿がいるよぉ」
「いやー、きついっす」
「助けて、割とマジで。俺、このままだとミーティみたいにされちゃう、人の形を失いそう」
「……あー、頑張って?」
「協力してくれるね、提督?」
「た、た、助けてナナチぃーーー!!!」
んなぁー!!!!
×××××××××××××××
『鎮守府放送、鎮守府放送。提督が白露型の実験により暴走しました、鎮圧してください』
いやー……。
今回は少しばかり、やり過ぎてしまったかな?
僕達、白露型が自信を持ってお届けする、『狂い虫』だったんだけど……、やはり提督はイレギュラーだ。
普通の人間であれば、寄生されて10秒ほどで自我を破壊され、魔力の波動によって動く肉人形になる筈なのにね。
まあ、正直に言って、僕もこの結果は大体予想していた。
提督風に言うならば「知ってた、い つ も の」だね。
なら何故やったのかと言うと……、何が起こるか詳しくは分からないからこそ実験をするのであって……、まあ、その辺りは良いだろう。
しかし、これは面倒だね。
提督は今、狂い虫による破壊と、自己再生による超速再生を繰り返し、結果的に暴走状態になっている。
緊急事態により、黒井鎮守府の出入り口を閉鎖し時空隔離もしているから、逃げられることはないだろうけど……。
『@&/&_/&$€2………………、GYYYYYYAAAAAAAAAAA!!!!!』
思いの外、大変なことになっている。
今の提督は、白い体毛に覆われた2m50cm程の人型実体で、鋭い鉤爪と牙、爬虫類の尻尾と、毒腺と針、蝙蝠の羽、鱗に覆われた数本の口のある触腕、そして魔力暴走による陽炎のような光を発する、狼人間の様な姿になっている。
予想外だったのは、この状態でも魔法や武術を行使してくるところだった。
身体に染み付いた技能は消えないと言うことだろうか?
放っておけば治る気がするけど……、それまでに暴れる提督を止めなくてはならないね。
『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎……『加速』『ヘイスガ』『ダッシュ』『とんずら』『内なる大力』『生命湧き』『リジェネレーション』』
「へえ……!」
成る程、触腕に付いている多数の口で同時に詠唱するのかい。
そして踏み込み……、速い!
『AGAAAAA!!!!』
発勁か!
一歩退いて避ける。
続いて南斗聖拳、無空波、足の鉤爪、尻尾……。
『瞳』での観測、安易的な、ごく限定的な未来予知。
「ファイアブレス、かな?」
ブレスを吐かれる前に提督の片腕を斬りつけて、提督の背後に跳ぶ。
『RUUUUU……、◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎『魔力の矢』『ファイアボルト』『ブリザガ』『火球』『ソウルの槍』』
片腕を斬り飛ばされながらも、即座に再生して、追撃の遠距離魔法を放つ提督。
「やる、ねっ!!!」
身を捩って躱す。
熱線が、熱量の塊が背後へと通り抜けていく。
『緩やかな平和の歩み』
「ッ!」
緩やかな平和の歩み……、一定範囲に存在する者の速度を著しく下げる『奇跡』だ!
捕まったら不味いね、魔法で盾を張って耐えよう。幸いにもこの奇跡はおおよそ10秒ほどで効果が切れる。その瞬間に踏み込んで首を斬り落とそう。
さあ、今……、?!
『"Knupper, knupper, Kneischen, Wer knuppert an meinem Häuschen?"』
「何っ……、だって?!」
見たことのない術式だ!
提督、まだ隠し球があったんだね?!
普段あれだけ、もう手札がないとか言ってるのに!
何が起きる……、攻撃……、いや、提督の性格と魔力では強力な攻撃魔法はあり得ない、妨害系の術式、のはず………、いや、あれはどう見ても錬金術の系統だ……、どこから何が来る?
その時、足元の床が割れた。
一瞬、床を見てみると……。
「床の木材がクッキーになってる?!!」
ま、さか、『ヘンゼルとグレーテル』のお菓子の家の再現?!
魔術に使うなら、もっと古くて神秘の篭ったヨーロッパの神話などにすれば良いものを、たかだか二百年分程度の神秘しかないグリム童話で術式を編むかな普通?!!
そもそも、これ、『家の一部の木材をクッキーに変える』って、どこで使う術式なんだい?!!何を想定して作ったのかまるで分からない術式だよ!!!
本当に、頭のおかしい術式を編ませたら世界一だよ提督は!!!
『天の原 振り放け見れば 霞立ち 家路惑ひて 行方知らずも』
次は何が来る?!
腕が……、いや、服が突っ張って、脱げた?!
「そうか……っ!」
そうか、丹後国風土記の羽衣伝説から編んだんだね?!
天女が羽衣を隠されると言う内容を都合よく解釈して、相手の服を脱がせる術式か!
冗談みたいだよね!態々服を脱がせるためだけにこんな綿密な術式を編んだの?!!
しかもこれ、この記述じゃ女にしか使えないじゃないか!!
何でそう、変な術式を編むんだよ君は!!
僕は即座に魔力で足場を作り、刀を握りしめた。
「良い加減に……!!!」
『閥閲遺書思惘然 誰知天道有循環 西門豪橫難存嗣 經濟顛狂定被殲 樓月善良終有壽 瓶梅淫佚早歸泉 可怪金蓮遭惡報 遺臭千年作話傳!!!』
今度は何の魔術だろうか。でも……。
「僕の一撃の方が……、速いよ!!!」
僕の刀は、正確に提督の首を捉えた、はずだった。
しかし。
「斬……、れない?!防御系の術式かい?!ああもう、術を解かないと……!!」
解析……、って。
「今度の術式はよりにもよって金瓶梅から編んだのかい?!!」
金瓶梅は水滸伝のスピンオフ官能小説みたいなものじゃないか!!そんなものから魔術を編むだなんて、普通の魔導師ならプライドが許さないよ!!
術式の内容は、『浮気をすればするほど死ににくくなる』と言うもの。……提督がやったら最強じゃないか?!!
さてはこれが切り札だね?!!
提督は全くもう!!!
「しかも滅茶苦茶複雑な術式……、やっぱりこれが切り札だね?!」
くっ、面倒な……!
あ。
「しまった!」
捕まった!
『GIIIIIYAAAAAA!!!!』
くっ、不味い、毒を注入された!
解毒薬を……!
………………。
この毒、媚薬だ。
『ECCHINAONNANOKOSAIKOOOOO!!!!』
「提督……、理性戻ってないかな?」
『………………CHYOTTONANIITTERUKAWAKANNAIDESUNE』
「別に媚薬を注射されたのが嫌だった訳ではないよ。けど、結局、本気で戦ってくれないのは少し困るな」
うん、ちょっと本気を出すよ。
×××××××××××××××
気がついたら首だけになって白露型の工房に軟禁されていた。
何言ってるかわからねーと思うがちょースピードだとかうんぬんかんぬん。
「提督……、僕は本気で提督と戦いたかったんだけどな」
「いやそんなん言われましても女の子に酷いことしたくないし」
「君の殺意が欲しかったんだけど。僕は君が欲しいんだ。愛も、殺意もね」
「えー……、対決するならラップバトルとかスマブラとかマリカにしてよ」
「どれも僕が負けるじゃないか」
うん、まあ……。
平和じゃん?
旅人
使い所不明の謎魔法を多数ストックしている。使い所不明の謎魔法を駆使して戦うので、側から見ると何やってんだこいつみたいな目で見られる。その術式の変態っぷりに、他の魔術師からは嫌われている。