それより聞いてくださいよ、うちから歩って1kmくらいのところにあるスーパーに、俺の大好物の舟和の芋羊羹が売ってたんですよ。
舟和の芋羊羹、しつこくなくて優しい甘さで、焼き芋の美味しいところを集積したみたいな味がするんですけど、これがもう、本当に好きで。子供の頃は田舎の方で育ったんで、駅前の大型スーパー以外には売ってなくてですね。
兎に角美味いから食え。
「はい旅人レポーーート!はいと言う訳でね、俺は今ストックホルムに来ています!ストックホルム、どこだか分かります?ストックホルム症候群の名前ばっかり有名で肝心のストックホルムがどこかわからんよって人多いんとちゃいますか?」
ストックホルム症候群は元々ノルマルム広場症候群って言われたんだけど、スウェーデンの国外のメディアが勝手にストックホルム症候群って言い始めてそれが定着したらしいよ。
まあこんな豆知識クイズ大会でしか使えないわねー。
うん。
はい。
と言う訳でスウェーデン!
スウェーデンに来てるぞ!
ソロでな!
でも、俺には分かるが、明石が衛星で監視しているし、白露型の『瞳』も感じる。
見られてる。
だからナンパはできぬ……。
こわいよう。
さて、気を取り直して海外旅行だ!
久し振りの海外だなー!
楽しみー!
『な、なんだあの男は……、虚空に向けて話しかけている?サイコパスだ……、関わらんでおこう』
と、街の人にドン引きされながらも旅。
いやこれ、多分、黒井鎮守府にオンエアされてるからね。
俺一人で話している訳じゃない。
一人じゃない。
ひーとりじゃなーい、ひーとりじゃなーい、ひーとりじゃなーいからー!!!
「ゆずと言えば冷蔵庫にゆずジャムあるから食べて良いぞー」
「スウェーデンは料理も結構美味いぞ。あの悪名高いシュールストレミングを作った国だからメシマズじゃないのかって?そんなことないない!」
スウェーデン料理はなー、なんかこう、しょっぱいものに甘い味を加えるみたいな、天邪鬼なことやるのが多いんだよね。
けど、それが良くってさー。
ほら、日本料理でも、煮物に砂糖を入れたりするだろ?スウェーデンでも肉料理にフルーツジャムを……、とかやるんだけど、これがまた美味いのよ。
ショットブラールって言う、まあ、肉団子があるんだけどね、これ、ブラウンソースと苔桃のジャムで食うんだよね。「えー?肉にジャムー?味覚障害かー?」って思うじゃん?それが結構いけるんすよ!ジャムの酸味がいいアクセントになっていくらでもいけるんだよね!
あ、因みに、シュールストレミングだって食ってみると普通に美味いぞ。
いや、臭いよ、確かに臭いよ?
でも、食べ物に罪はないんだ、食ってごらんよ。
強烈な匂いと、塩気!意外と美味いんだよな、これが。食べ辛いならパンに乗せて食べるとかしてみればどうかな?
さて、グルメ話はこの辺りにしておくか。
ここからは自分の目で確かめてくれ!と昔の攻略本みたいなことを言っておく。いや、舌で確かめてくれ、かな?
まあそんなことはどうでも良い。
夕暮れ。
やっとあの子といい感じ?あの子って誰だ。
その時シュワっと風が切れたりはせず、俺は。
『あ、う……』
傷ついて倒れる美女を、砂浜で見た。
「んー」
はい、旅中止。
俺はスウェーデンのグループダンス、エンゲルスカを一人で踊りながら倒れ伏す青髪の美女に近寄る。
おっ、これは……。
「艦娘じゃーん」
相手が人かどうかくらいは見抜ける。艦娘かどうかも。
流石に毎日会っている艦娘を、艦娘と人と見分けがつかないなんてことはない。
スウェーデンだし、スウェーデン語かな?英語でも通じると思うけど。
『おはよう、大丈夫かい?』
『う、うぅ……!』
あ、起きた。
『こんにちは美しいお嬢さん。俺は新台真央、旅人さ。君の名前は?』
立たせる。
『……たしに』
『はい?』
『私に触れるなぁーーー!!!』
「あっふん」
俺はぶん殴られ、三メートルほど宙を舞う。
空中で受け身を取って、着地した。
『痛いじゃないか』
興奮した様子の艦娘。
ふぅん。
『大丈夫、落ち着いて……』
俺はナウシカを見習い、ゆっくりと青髪の艦娘に近寄る。
『来ないで……、来るな、人間!!!』
物凄い蹴りが腹部に突き刺さる。
一般人なら内臓がお釈迦になっているだろう。しかし俺は旅人だから平気である。
『効かねェ!ゴムだから!(麦わら)』
『?!!』
俺は蹴りを受け止めて、この美女を抱きしめた。
『離して、離せ、離せーーーっ!!!』
錯乱して暴れる艦娘。
乳房が揺れて錯乱房。あっいやごめん聞かなかったことにして、つまんないこと言っちゃった。
俺は骨が折れ、肉がこそげ落ちる。
リジェネの魔法を使い、継続的に肉体を再生させる。
『怖くないよ、大丈夫、大丈夫』
やがて、そもそも、暴れる体力もなかったのだろう、青髪の艦娘は大人しくなった。
『落ち着いたかい、お姫様?』
『……分かったから、離して』
『おや、振られちゃった?おっかしいな、俺イケメンだよな?』
『うるさい』
『おお怖い怖い』
艦娘を離す。
『それで、お名前は?ここで会ったのも何かの縁、名前くらい聞かせてくれても良いだろ?』
『……ゴトランド』
ゴトランド。
『軽航空巡洋艦ゴトランド、スウェーデン海軍の素晴らしい艦』
『……ッ!!!』
ゴトランドさんは一気に警戒して、艤装を喚び出し、こちらに砲を向けた。
『ヒュー、怖いね』
口笛を吹く俺に対して、ゴトランドさんは鬼気迫る様子で叫んだ。
『貴方……、鎮守府の追っ手?!』
『何のことだか分からないな。まあ、君程の美人なら追っかけになるのも悪くな』
発砲され、砲弾が顔の横を掠める。
怖いなあ。
『ふざけないで。追っ手なのかと聞いているのよ』
『違うとも。口ぶりから察するにどこかから逃げてきたんだろ?それなら、追っ手なら武器を持った屈強な男が何人も……、とかじゃないかな?俺は一般通過旅人、害はないよ』
『……貴方だって屈強そうだけど』
『俺の筋肉は艦娘と比べたら見せ筋みたいなもんだよ。軽巡に腕相撲で負けるからな、俺は』
一部駆逐艦にも負ける。
『じゃあ、貴方は何者?』
『一般通過旅人。ついでに言えば……』
俺はゴトランドさんの手を握る。
『君を助けに来た』
ゴトランドさんは、俺の手を振り解く。
『人間如きに、何が出来るって言うのよ……!!』
おやおやおやおや。
随分と人間不信だな。
相当辛いことがあったんだろう。
俺が守護ってやらなきゃな。
例え俺より強い女の子だろうと、美人なら俺が守る。
『少なくとも、そうだな。俺はこう見えてかなり稼いでいてね。何十億クローナも持っている。それに外国への逃亡手段と、偽装戸籍を作るツテなんかもある』
『……貴方、マフィアのボスだったりする?』
『まあ、うちは悪の組織だからな。マフィアとも繋がりがあるよ』
『そう……』
『つまり、そうだな。俺んとこに来なよ、と言っている』
『……嫌よ』
あらあら。
振られちまったかー。
んー、俺イケメンなんだがなあ。
『どうして?』
『人間は、信用できないから』
……あー。
そう来るかあ。
……んあ。
『そこまでだ!!!』
あー……。
『ゴトランドめ……、良くも面倒をかけさせてくれたな!!』
『提、督……!!』
シリアス、入っちゃったかー。
旅人
監視されながらも旅へ。
ゴトランド
本来は優しい人だったが、度重なる虐待で人間不信に。「人間は」信じられない。