旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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異世界転生してェ〜〜〜……!!

異世界チートしたい。

現実はクソ。



402話 過去改変系彼女 その2

『ゴトランド、貴様、敵前逃亡は死刑だと知ってのことか?』

 

銃を持った兵士達に取り囲まれる。

 

流石に、艦娘である私は、銃火器程度では死にはしないけど……。

 

私には首輪がある。

 

首輪……、艦娘の力を減衰させる制御装置。

 

これを扱える者を提督と呼ぶ。

 

この首輪の力があれば、提督の意思一つで、艦娘はたちまち人間以下の力しか出せなくなる。そしてこれは、提督にしか取り外しはできない。

 

その状態で撃たれれば、私も死んでしまうだろう。

 

現に、今。

 

『ぐ、うっ……!!』

 

自分の体重を支えることすら困難な力の減退を感じる。

 

立って、いられない。

 

『それにしても間抜けな女だ。勝手に逃げ出して、途中で深海棲艦と交戦し負傷。鎮守府のすぐ近くのここ、ストックホルムに寝転がっているとは』

 

提督が私を足蹴にする。

 

『私から!逃げられると!思っていたのか!!』

 

『ぐっ、がっ、があっ!!』

 

人間の蹴りなんて、本来の力があれば痛くもなんともないのに、今、制御装置で力を奪われている状態では、深海棲艦の攻撃並に痛い……!!

 

『お前はもう要らん、解体だ。次はもっと強く従順な艦娘を建造する。死ね、ゴトランド!!』

 

提督は銃を抜き、私の脳天に照準を合わせた。

 

嫌だ、私は……!!

 

『生きたい……!!』

 

 

 

その時。

 

一陣の風が吹いた。

 

 

 

『あ……?ああ、あああ、わ、私の腕がァァァァ!!!!』

 

気付いた時には、提督の銃を持った腕の、手首から先が地面に落ちていた。

 

どういう、こと……?

 

『やめようぜ、シリアスはよ。このssはギャグのタグがついてるだろ?』

 

『あ、なたは……』

 

さっきの、自称旅人……?

 

彼は、私の前に立った。

 

『なんの、つもり?』

 

『君みたいな美人は、幸せにならなきゃ駄目だ』

 

彼は、倒れ伏す私を抱き寄せて、目を見て話した。

 

『何で……、どうして?』

 

『んー、俺が決めた。俺は君を幸せにしたい。その為なら……』

 

彼は、絶対に壊れない筈の制御装置を引き千切って破壊した。

 

『世界くらいなら、敵に回せる』

 

彼は……、私を庇い、私の前に……、立った。

 

『ぅぁ、う、撃てえ!!撃ち殺せえええ!!!』

 

提督の号令と共に、兵士達が銃火器の引き金を引く。

 

『ぁ、やめ』

 

私が何かを言う前に、多数の弾丸が、彼の身に突き刺さる……。

 

と、思いきや、彼の前に、白い魔法陣が現れ、見えない盾のようなものが弾丸を弾いた。

 

『ナークティトの障壁……』

 

『何、よ、それ』

 

『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎……、加速』

 

短く、よく分からない呪文のような言葉を発すると、一瞬で視界から消える。

 

『顔を見られたから仕方がない。君達から光を奪う』

 

風が、兵士達の間を通り抜ける。

 

すると、兵士達の手足がすとんと落ちて、皆、目を破壊されている。

 

『な、は、え……?』

 

10秒しないくらいで、兵士達は全滅し、最後に。

 

『あ、あぁ……』

 

『俺は基本的に、人殺しはやらないんだ』

 

『や、やめろ、来るな』

 

『だが、殺さないだけで、殺す以上に残酷なことをしないとは言ってない』

 

『わ、私を誰だと思っている、い、今なら見逃してやる、だから』

 

『見逃す?ああ、そうだな、お前は俺を見逃す。何せ』

 

 

 

『お前はもう、何も分からなくなるんだから』

 

 

 

彼が、何事か……、恐らくは呪文のようなものを唱えると、提督は、血の涙を流して、狂ったように暴れ、叫んだ。

 

やがて、提督は、口から血の泡を吐いて、動かなくなった。

 

『……殺したの?』

 

『いや?肉体的には死んでないよ。ただ、まあ……、もう二度と提督業はできないだろうね』

 

つまり、なんらかの手段で、提督の心を殺した……?

 

『さて』

 

私の方を見る彼。

 

『私も、殺すの?』

 

『まあそんな訳ないよね。言ったろ、君みたいな美人は幸せになるべきだ』

 

土まみれの私を、自分の綺麗な服が汚れるのも構わずに抱き上げた。

 

『さあ、愛の逃避行と行こうじゃないか!行き先は日本だ、楽しもうね!』

 

『ちょ、ちょっと……!』

 

彼は、私を抱きかかえたまま、艦娘のように水の上を歩き、いつのまにかそこにあった客船に飛び乗った。

 

『は?えぇ?』

 

『んー?怖がらなくて良いよ、お姫様。さ、先ずはシャワーでも浴びてくると良い』

 

そう言って、シャワー室に案内される。

 

『これ、着替えとタオル。ドライヤーの使い方は分かる?』

 

『あ、分かる、けど』

 

『そうかい。じゃあ、入ってくると良い。これ、シャンプーとリンス、ボディーソープね。終わったら、艦内の地図を見て食堂に来てね、食事を用意しておくから。じゃ』

 

『じゃ、って……』

 

『ん?一緒に入った方が良い?』

 

『そ、その必要はありません!一人で入れます!』

 

『それは残念だ』

 

そう言って食堂へ向かう彼。

 

シャワー、ね。

 

 

 

シャワー、か。

 

こんなにゆっくりシャワーを浴びるのはいつぶりだろう。

 

温かいお湯が心地いい。

 

えっと、これがシャンプーで……。

 

うわ、砂がたくさん。もう一度洗わなきゃ。

 

リンス……、リンスなんて初めて使うかも。鎮守府には石鹸しかなかった。

 

わ、髪がギシギシしない、さらさら。凄い。

 

それとボディーソープ……、ああ、これ、とても良い匂い。ラベンダーかな。

 

洗い流して……、身体を拭いて、ドライヤーで髪を乾かす。

 

鏡を見る。

 

酷い顔だ。

 

痩せていて、目にクマがある。

 

あの人、こんな私を見て美人だなんて。

 

幸せにならなきゃならないだなんて。

 

おかしいよね、本当に。

 

……何で、助けたの?

 

提督や兵士達を傷つけて、スウェーデンの軍部そのものを敵に回してまで、何で、私なんかを?

 

 

 

取り敢えず、壁にある艦内の地図に従って、食堂へ行く。

 

『お、良いね、綺麗になったね』

 

『お世辞はいらない。……何で、私を助けたの?』

 

『可愛かったから』

 

『〜ッ、馬鹿なこと言わないで!私なんて、どこも可愛くなんてないわ!言っておくけど、スウェーデンの軍部を敵に回した貴方は』

 

『えー?可愛いと思うよ?今は確かに、疲れた顔してるだろうけどさ、素材は良いって。これからもうちょい太ってよく寝れば最高の美女になれるズェ』

 

『そんな理由でこんな馬鹿なことしたの?!あり得ない!何を狙っているの?』

 

『そんなのどうでも良いからさ、食事にしようよ。ほら、クロップカーカを作ったんだ、一緒に食べようよ。料理の腕には自信があるよー?』

 

『食事?!それどころじゃ……』

 

あっ、良い匂い。

 

お腹、空いて……。

 

………………。

 

『お腹鳴ったね』

 

『……な、鳴ったけど』

 

『お腹空いてるんでしょ?食事しながら話さない?今後の話をね』

 

『……分かった』

 

 

 

『『いただきます』』

 

美味しそうなクロップカーカを切り分けて口に運ぶ。

 

『……!!』

 

美味しい……!!

 

『他にも色々作ったから、遠慮せずに沢山食べてね』

 

『もぐ、もぐもぐ』

 

凄い、凄い。

 

今までレーションしか食べたことがなかったけど。

 

食事って、こんなに幸せな気分になれるものなんだ!

 

『デザートもあるからね、って、ちょ、ちょっと!泣かないで?大丈夫?』

 

『ごめっ、なさっ、私っ、その、ご飯、美味しくて……!』

 

『あー……、そうか。これからは毎日、三食ちゃんと食べさせるから。安心して良いよ』

 

『うん、うん、ありがとう、ございます……!』

 

 

 

結局私は、デザートまで平らげて、お腹いっぱいになった。

 

『美味しかった?』

 

『うん、その、ご馳走さま、ありがとう……』

 

『良いさ、いっぱい食べる君が好き』

 

『そ、その、ね、それで、これからの話だけど』

 

『お腹いっぱいで眠いでしょ?その前に寝たら?』

 

……それは、まあ、確かに眠たくなってきたけど。

 

『明日の朝も美味しい食事を用意するからさ、今日はゆっくりお休み?』

 

『……うん、分かった』

 

 

 

……今日は取り敢えず、寝よう。




旅人
この世の全ての美人は幸せに生きるべきだと考えている。

ゴトランド
可哀想な子。

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