おはよう。
響だよ。
その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ。
黒井鎮守府ではストーカーの通り名で通っているよ。
その名の通り、提督のストーキングと過去の調査に命をかけているよ。
だから今日は、提督の知人を訪ねて聞き込み調査をしているよ。
「そう言う訳で、調査中なんだ」
「あの、気を悪くしねえで欲しいんだが、言って良いか?」
「何?」
「お嬢ちゃん、やることが気持ち悪いぞ……」
こちらはジャギさん。
提督の親友だよ。
「そうかな、みんなこんな感じだけど」
「うわぁ……、タチ悪りぃな……」
そうかな?
「それで、提督の話だけど」
「あいつの話……?いやあ、特に話すことねぇぞ、昔からあんな感じだ」
成る程。
「ギャンブルと女遊びやって破産して、変な奴らから追っかけられて……。本当に、変わんねえな、あいつも」
「昔からあんな感じだった?」
「おうよ、いつもあんな感じだ。ガキの頃から女好きで、美人と見るや否やすっ飛んで行ってよぉ。女を口説くのも上手いもんで、どんな堅物もコロッと堕としちまう」
「ふむふむ」
「そんでまたすぐに他の女のとこに行って、嫉妬した女が刃物持って暴れ出す……ってな感じだ。俺が知る限りじゃ3桁は刺されてるぞあいつ」
「成る程」
「確かに……、あいつは人間のクズだが、女には優しいし、多芸で頭も良い」
「そうですか」
こちらは空条さん。
提督の恩師だよ。
「だが……、あいつは、『超えちゃならないライン』ってもんを『弁えている』。例えば、女の家に転がり込んでも、その女を食い潰したりはしねえ、むしろその恩を返したりもする」
「成る程」
「ギャンブルもやるが……、『あぶく銭』しか賭けない。『自分の組織の金』や『女の金』には絶対に手を出さねー……」
「ふむ」
「それと、『吐き気を催す邪悪』以外は基本的に殺さねえ、そして、『悪党』からしか盗まねえ」
「それで?」
「そして……、あいつは基本的に、正義でも悪でもないが、『世界を愛している』。女に包丁でブッ刺されようと、マジに『女を愛している』……。恐らく、君のことも臆面もなく『愛している』とのたまうだろう」
「そうですね」
「そうですね……、彼は料理人としては一流ですな」
「そうなんですか?」
こちらは味沢さん。
提督の知り合いのコックだよ。
「彼の人間性は確かにクズ以下ですがね、料理人としての腕と、舌は確かですよ」
「そうですよね」
「しかし……、あいつは女性を相手にした時は、私の目から見ても見事な調理をし、その女性に最も相応しいものを提供できます。だが、これが、相手が男となると、急に自分が正しいと思ったものを出す傲慢な料理をしますね」
「成る程」
「男と女で出す料理が違うのでは、超一流にはなれませんな。まあ、私には関係のない話ですがね」
「あいつの教師としての腕前?うーん、女子生徒には甘くて男子生徒には適当……、って感じかな?」
「そうだね、多分そうだと思っていたよ」
こちらは鵺野さん。
提督の知り合いの教師兼退魔師だよ。
「あいつは……、子供と一緒になって遊べる稀有な存在だな。今、そう言う教師は少ないからな……」
「確かに、提督は子供っぽいところがあるね」
「まー、ギャンブルって言うゲームで遊ぶことと、いたずらのこと、工作のことと食べることと、エッチなことを考えているんだから……、まあ確かに子供だな」
「じゃあ、指導力はなかったのかな?」
「そんなことはないな。逆にガキ大将って言うか……、そんなポジションで周りを引っ張っていくからな」
「退魔師としての実力は?」
「そこそこかな……?おかしな術式の魔術と、これまたおかしな組み合わせの退魔術で上手い具合に倒すからな……」
「おかしな術式とは?」
「うーん、俺が見た限りでは、グリム童話や水滸伝、山月記、古事記、源氏物語……、そう言うところから引用した、何とも言えない不思議な術式を上手く使いこなすんだよ」
鵺野さんが言うには、術式は聖書やアーサー王伝説、ローランの歌など、著名なものから編んだ方が安定するし、効果も強いらしい。
「退魔術もおかしいの?」
「ああ、例えば隠れ切支丹の歌であるオラショを使って、それを吸血鬼退治の聖杭と合わせて使う……、とか、マントラを唱えながら破魔矢を射ったりとかみたいな独特な方法で退治することが多いな。それと呪いや病気にも強くてな、疫病神が出た時とかは今だに手を貸してもらったりしているよ」
「結局、強いの?」
「強くはないんだが……、兎に角防御、妨害、自己強化、回復の術式のストックが多いから、大抵は泥仕合になって、何だかんだで勝つ、みたいな感じだな」
「成る程」
「旅人について……?それなら、先代の方が詳しかったんだが……、先代は既に亡くなっているからな」
「分かる範囲で良いので、教えて下さい」
こちらはドクターKこと、神代さん。
提督の知り合いのお医者さんだよ。
「ふむ……、先代のドクターKこと、KAZUYAが残した資料によると、旅人は遺伝子レベルで人間ではないそうだ」
「はい、そうですね」
「その他にも、肉体から、現代の科学では解明されていない物質が発見された……、とも」
「でしょうね」
「アクアウィタエ……、プラスミド……、旅人には、極めて不可思議な物質で構成されている。旅人を研究すれば、より医学の発展が望めるのではないか……、と言う意見もあるな」
「成る程」
「だが……、例え旅人が何者であれ、一人の人間であることは確かだ。人体実験など絶対に許さん」
「頼もしいですね」
「旅人か?うーん、あいつぁ、まあ、女好きで馬鹿だけど……、良い顔で笑う男さ」
「成る程」
こちらは加藤さん。
旅人の知り合いの拳法家だよ。
「でもな、あいつは、他の誰かに惚れている女には手出ししねえんだよなあ。だから、しろがねにも、親切にはするが、粉かけるような真似はしなかったんだとよ」
「しろがね……、加藤さんの恋人さんだね」
「ああ、まあな……。あいつは、心の底から、美人には幸せになって欲しいと思っている、そうだ」
「成る程」
私は、インタビューの結果をメモにまとめて、それを電子化して保存。
うんうん。
成る程。
「……聞けば聞くほど、提督のことは何一つわからないね」
調べれば調べるほど、よく分からないことが分かる。
今回も結局、多くの人が口を揃えて、あいつは人間じゃないと言う。
提督本人は、断固として自分が人間だと言い張る。
……結局、提督とは何なのか?
純粋な愛もあるけれど、それを除いたとしても、好奇心と言うものが湧いてくる。
「……と言う訳でね、提督。結局、提督は何者なのかな」
「俺?俺は一般通過旅人だよ」
うーん。
これだからなあ……。
響
ストーカーだがメンヘラではないので包丁を持ち出したりはしない。
旅人
人ならざるもの。