旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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仮に自害するとしても、連載作品だけは終わらせてから死ぬぞ俺は。

エターだけはやっちゃならない。


410話 魔法理論

「……は、こうで……、こうかな」

 

「成る程〜!」

 

「でも、ここはこうじゃないかしら?」

 

おやおや。

 

時雨と、巻雲と、鳥海。

 

女の子同士仲良しで良いね!

 

……いや、本当にね。

 

女の子同士で仲悪くしてるのが一番良くないよ。ネチネチを嫌味を言い合ったり、悪い噂を流したりとかね。

 

女の戦いとか、そう言うのは本当に怖いからね。

 

「あ、司令官さん」

 

「旅人様!旅人様も一緒にお喋りしましょうよ!」

 

「おお!良いとも!巻雲の為なら何でも話しちゃう!」

 

「本当ですか?!じゃあ……」

 

なんのお話かなー?

 

お化粧?ファッション?それともお菓子?やっぱり可愛い話してるんだろうなー!

 

「この魔術理論の構築における、簡易詠唱の基礎部分の骨子と、完全詠唱による効果の拡張、及び魔術戦においての有効度の検証と評価についてのお話なんですけど」

 

「んんー?」

 

あるぇー?

 

女の子なんだからさ……、もっとこう……、キラキラした……、ふんわり甘いお話とかじゃないんですかね……?

 

「君の血は、官能的な甘さがあると思うよ」

 

そんな話してないよ時雨?

 

「アッハイ、この魔術理論の話ね」

 

俺は巻雲のノートを見る。

 

「どうですか?」

 

「あー……、良いんじゃない?二行目のこの構文、二重詠唱でしょ?戦闘中に使うとすれば……、ここ削って、ここを三重構文にして、全文を高速詠唱すれば?」

 

「ええっ!そんなことしたらピーキーで使い辛くなっちゃいますよぉ!」

 

「いやいや、巻雲の魔力量なら適当にブッパするだけで牽制になるし、外れても相手にプレッシャーを与えられるじゃん」

 

「うー、まあ、そうなんですけど……」

 

そんなことを話していると、鳥海が聞いてくる。

 

「あ、そうだ、この前時雨ちゃんに見せたっていうとっておきの変な魔術、教えてくださいよ!」

 

「えー?あれは駄目、とっておきだから」

 

「そんなー、そう言わずに!」

 

「んもー、ちょっとだけだよー?」

 

「その話は僕も聞くよ。完全には解析できなかったからね」

 

時雨も聞きたいらしい。

 

さて、仕方ないからちょっと話すか……。

 

「あら?時雨に、巻雲、鳥海さんと司令官?……どういう組み合わせかしら?」

 

あら、雷。

 

折角だ、雷にも聞かせるか。

 

「いや、俺の魔術についてちょっと話すんだけど、聞きたい?」

 

「司令官のお話ならなんでも聞くわ!」

 

ほーん。

 

かわええやん。

 

「なら話すわ」

 

 

 

いやー、自分の手の内話すのはちょっと嫌だからね、全部は説明しないよ。今回は、完全にバレてるのと最近作ったのだけ話すわ。

 

「まず……、よく使うのは、バフデバフ、転移、回復かな」

 

「転移と回復は何となく分かるけど、バフデバフって?」

 

電が首を傾げる。

 

「うん、バフは支援、デバフは妨害のこと」

 

「あー、そう言えば、司令官って、素の力は弱いけど、魔法を使うと強くなるものね」

 

「それでも精々、軽巡重巡並のパワーしか出ないけどね」

 

全力でバフを盛っても、精々那智と同じくらいのパワーしか出せないんだよねえ……。

 

硬さは……、金剛くらい?

 

速さは島風より速いよ。まあ、僅差だけど。

 

そういう風に聞くと、「あれ?ひょっとして提督、強い?」みたいに言われるんだけど……、俺は戦闘能力という観点で見れば大したことないから。

 

ほら、ボディビルダーがプロ格闘家に勝てない理由……、みたいな。

 

いくらパワーがあっても、技量が伴わないと意味はない、とかそんな感じ。

 

もちろん、一般人よりは強いんだけどね。

 

まあ、確かに、長門みたいな、超圧倒的なパワーだけで全てを捩じ伏せる……、なんてのもある。

 

長門のパワーは特撮ヒーローの最終フォームみたいな馬鹿げたパワー。俺なんて一撃貰えば即ミンチ。

 

でも俺は長門のような特化型じゃない。

 

速さは確かに相当だが、それでも、その速さを完全に制御することは不可能だ。

 

島風は、自分の『加速領域』を持っているから、その領域では知覚も身体の動きも速い。

 

しかし、俺の速さは、バフのゴリ押しで無理矢理速くしただけの暴走特急。

 

その辺の差だ。

 

「バフに使ってる術式はこれ」

 

俺用の魔導書を見せる。

 

魔導書、って言っても、中身は俺が使う魔術魔法の覚え書きみたいなもん。

 

魔術師なら誰でも持ってると思うよ。

 

つまりは、メモ帳。

 

俺のこれは無限のページと検索機能、俺しか使えないロック機能と、万一他人に開かれた時に発動する攻勢防御システムがあるよ。まあ、普通の魔術師なら、誰でもやってるね。

 

だから、白露型、夕雲型、高雄型は魔術魔法を行使するので、皆それぞれ、魔導書を持っている。

 

でもまあ、夕雲型、高雄型は魔術魔法が便利だから使ってるって感じで、研究とかそういうのではないっぽいな。その中でも巻雲と鳥海は純粋な学問としての興味があるようだ。白露型?あの子達は俺より賢いでしょ。

 

「バフは『加速』『英雄』『聖なる盾』『肉体の保護』『シェル』を即時に詠唱できるから。まあ、5秒もあれば身体能力を十倍にはできるよね」

 

「凄いの?」

 

雷が無垢な顔で聞いてくる。

 

「凄いとも。普通、魔術師は防御力の向上ならまだしも、身体能力を向上させる魔術なんて使わないからね」

 

時雨が言った。

 

「でも、5秒もあれば、私なら大抵の人は殺せるわよ?」

 

「ふむ……、提督の言う5秒とは、最低限のバフを張るまでの時間だよ。実際の提督の戦法は、恐ろしいまでの勘と『瞳』による限定的な未来予知によってあらかじめ襲撃や奇襲を読んで、詠唱破棄による速度向上の魔法で一瞬で間合いから離れ、そこでバフを張る……、と言う感じかな」

 

「成る程ね、絶対に先手は取らせないのね!」

 

「仮に先手を取られても、即死回避や瞬時蘇生などがあるからね」

 

「へえ……、最大でどれくらい強くなれるの?」

 

雷が聞いてくる。

 

「うーん、三十倍くらい?でも、現実はアルテリオス計算式とは違うから、単純に身体性能を上げても意味ないんだよね」

 

アルテリオス計算式ってのは、相手の攻撃力マイナス自分の防御力イコール被ダメージってなる計算式のことな。昔のRPGとかでよくある。

 

「何で?」

 

「限界まで筋力を強化しても、精々重巡並。パワーだけでゴリ押すには足りない……。だから、魔力という限られたリソースを有効活用するためにも、満遍なく色んな魔術魔法を使うよ、ってこと」

 

「えーと、どんなに頑張っても、パワー一本でやっていけるまで強くはなれないから、他の魔法を使うことに魔力を使うってことね」

 

「そうだよ」

 

「それと……、ランダムにテレポートする魔法と、バリアを張る魔法、相手の動きを遅くする魔法や相手の魔法を封じる魔法とかを使うのね」

 

「そうだね」

 

さて、そして、前回使った魔術の解説をするか。

 

「えー、まず、俺が使う魔術は基本的に、『対策しづらく』、『解析しづらい』をコンセプトにしている」

 

「うん」

 

「例えばこの、お菓子の家って術式は、グリム童話から編んだよ」

 

「ヘンゼルとグレーテルね!どんな魔法なの?」

 

「建物に存在する木材をクッキーに変える魔術だよ」

 

「素敵ね!可愛い魔法だわ!」

 

「詠唱は『"Knupper, knupper, Kneischen, Wer knuppert an meinem Häuschen?"』、和訳して『ガリ、ガリ、ボリ、私の小さい家をかじってるのは誰かな?』……、ヘンゼルとグレーテルを食べようとした魔女のセリフだね」

 

「メルヘンチックで素敵だわ!」

 

「これ、正式な術式ね」

 

俺は魔導書のページを見せる。

 

それを見た巻雲と鳥海は驚いている。

 

「いえ……、その……、実用性皆無でピーキー、その上謎の構文が多くて……」

 

「これって高速詠唱が前提ですよね……?しかも座標指定型なのに座標指定の部分を詠唱破棄するんですか……?」

 

ふむ、確かにそう言う意見もあるだろう。

 

「デメリットも多いが、俺にとっては利点の方が多いよ」

 

「ええと……、旅人様、まず聞きたいんですけど、何故グリム童話なんかから編んだんですか?」

 

「駄目なの?」

 

雷が首を傾げた。

 

「駄目ではないんですけれど……、一般的ではありません。魔術というのは、普通、神秘が大きいものから編むものです」

 

「神秘?」

 

「神秘とは……、一言では言えないんですけど、知名度と古さ、みたいなものですかね?基本的に古い物語から編んだ術式は強い、と思ってもらって大丈夫かな?」

 

巻雲か眼鏡を弄りながら、雷の疑問に答える。

 

「そう言えば、艦娘の艤装にも神秘が篭るって言ってたわね」

 

「そう、艤装にも神秘があります。艤装は……、戦艦、つまり戦闘機械への信仰と言うか……、知名度や信仰が神秘になってるんです。人間が思う科学への信仰が神秘の力になって、ダウンサイジングされた武装でも、まるでフルスペックのような力を発揮できているんです」

 

「ふーん。つまり、グリム童話には神秘が小さいから駄目なのね?」

 

「そうです、普通は、聖書やヨーロッパの伝記などから術式を編みます」

 

「それともう一つ、一小節の魔術にしては詠唱が長く、術式が複雑なことです」

 

鳥海が言った。

 

「駄目なの?」

 

「そうですね……、戦闘中に魔術を使うんですよ。なのに、複雑で、呪文が長いと困ると思いませんか?」

 

「確かにそうね」

 

鳥海は窓を開ける。

 

「普通、戦闘中に使う魔法はこの様な形にします。『MA』」

 

マジックアローが窓の外に真っ直ぐ飛んでいく。

 

あれはマジックアローの魔法を詠唱破棄して、特定の言葉に魔力を乗せて口にした時に自分の正面からマジックアローを放つと言うものだ。

 

角度、座標、威力を一定にして放つため、誰でも安定して使える。

 

ゲーム風に言えば、マクロを組んだみたいな感じかな。

 

このマクロってのが、戦闘中にはかなり大切になる。

 

特定の言葉、動作に魔力を乗せることで発動させる……。

 

つまり、指をさした方向に魔法の矢を飛ばす、一小節でバフをかける。一瞬の隙が命取りの戦場では長い詠唱は不利、詠唱を縮めて速くして、若しくは詠唱以外の手段で発動させる。

 

「しかし……、この司令官さんの魔術には、木をクッキーにする『座標の指定』をマニュアルでしなくてはならないのです。それと、一小節にしては詠唱が長いので高速詠唱をしなくてはならない点も挙げられます」

 

「座標指定については、指を指した位置の半径30cmだよ。詠唱はこれ以上削れないんだよねえ」

 

「ええー……」

 

「つまり、何が駄目なの?」

 

雷が尋ねる。

 

「つまりですね……、木材をクッキーに変えて相手の隙を作る魔術なのに、呪文が長く、クッキーに変える木材を指差しして指定しなければならないのです」

 

「使い勝手が悪いのね」

 

ふむ、確かにその通りだ。

 

「これはこうやって使う予定で編んだ術式だから」

 

俺は上着とシャツを脱ぐ。

 

そして、背中から口のある触腕を生やす。

 

「……あ、成る程!触腕であらかじめ詠唱しておいて、触腕で指定するんですね!それなら、戦闘中でも腕が塞がりませんし、何より、口を作れるなら、複雑な術式でも並列詠唱が可能です!」

 

「つまり……、人間以外が使うことを前提として作られた魔法だから問題ないってことね!」

 

「いや、俺はバリバリ人間だし」

 

「……うん、まあ、司令官がそう思うんなら、きっとそうなんじゃないかしら。司令官の中では」

 

 

 

こうして、魔術講座を終えたみんなは解散、各自で勉強しましょうと言うことになった。

 

雷も楽しかったとのこと。

 

 

 

さて……。

 

新しい手札を増やさなくては。

 

俺は魔導書を開き、少し考えてから新たな術式を編み始めた。

 




旅人
最大出力なら重巡並の能力があるが、最大出力時には力の制御がほぼ不可能。よって軽巡ほどの力が限界。得意な魔法はバフ。

時雨
超一流の魔法使いであり、狩人。速度や衝撃波など、運動エネルギーを操作、制御する魔法が得意。

鳥海
冒険者。魔法使いとしては一流。戦闘用の魔法を満遍なく使える。特に元素……、火や氷、電気などの魔法が得意。

巻雲
超一流の魔法使い。ソウルの魔術を始めとして、様々な魔法を操る。ソウルや結晶などの純破壊魔法エネルギーを操作する魔法が得意。


天使。

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