「鎮守府正面海域に敵影」
「無人兵器群が破壊されました。姫クラスと予想されます」
「どうしますか、提督?誰か適当に出しますか?」
いや、うーん?
「なんか、嫌な予感がする」
「……それは、つまり?」
「相手、強いと思う。最大戦力は誰か空いてる?」
「木曾さんが空いてますね」
「じゃあ呼んで、俺も出る」
「はい」
なんてことない初夏のある日、黒井鎮守府に珍しい殴り込み。
一年ぶりくらいの出来事に皆驚いていたが……。
俺は、何故か嫌な予感がした。
よって、最大戦力の一人である木曾と、バックアップに数人の艦娘を連れて、鎮守府正面海域を蹴散らすことに。
今回は……、おや、新しい深海棲艦だ。
「やあやあやあやあハローハロー、お名前は?」
『……深海鶴棲姫』
「へえ、それで?要件は?」
『ク、ククハハハハ……』
「楽しそうだね」
『オ前ヲ殺セバコチラノ勝チナノニ、ノコノコト前ニ出テクルンダモノ……、笑エルワ』
「笑うことは良いことさ、さて、形式上降伏勧告を」
あ、不味い。
「ッオオ!!!!」
素早いパンチが飛んできた。
あまりにも速く、重いので受けきれない。
防御に使った片腕が吹っ飛ぶ。
「死ね」
その瞬間、木曾が飛び出て、深海鶴棲姫に大斧を振り抜くが。
『死ヌノハオ前ダ』
斧を「砕かれた」……。
「ほう」
木曾が小さく感嘆の声を上げる。
「あふん」
片腕を失った俺を片手で抱き寄せ、もう片方の手に召喚した艤装のマシンガンをばら撒きながら、一瞬で後退する。
そしてバックアップの艦娘が援護射撃をして、俺は後ろへ放り投げられる。
「あーーーれーーー」
吹っ飛ばされた空中で短く呪文を唱え、失った腕を再生。
着水前に空中受け身、空中ダッシュで前線に戻る。
「はああっ!!!」
『オオオオオッ!!!』
木曾の恐ろしい威力のパンチ。
更に、「その上をいく」威力のパンチで殴り返す深海鶴棲姫。
成る程、「パワーは木曾以上」か。
つまり俺より強い。
『パワーノ強サハ「知ッテイル」ワ。サア、死ニナサイ!!!』
どこから取り出したのか、二メートル程の長柄の両刃バトルアックスを振り回す深海鶴棲姫。
その馬鹿力から繰り出される一撃は喰らえば不味い。
「ぐ、おお!」
木曾は回避を続けるが……、不味いな。
圧倒的なパワーで暴れている。
木曾は搦め手を使うのが苦手な方だ、単純にパワーで上回る奴とはやり辛い。
木曾のやり方は……。
「はぁあああ!!!!」
超高速飛行による……。
「叩き斬る!!!!」
ヒットアンドアウェイ!
『グ……!』
「まだまだ行くぞ!!!」
超高速で空を駆け、トマホークで斬りつける。
スピードとパワーが乗った一撃はただでさえ協力だというのに、それを何度も繰り返すのだから、強力さは伺えるだろう。
「はあ!!!」
並大抵の相手なら一撃で砕くんだが……。
今回のは並大抵の敵じゃないってことだ。
『無駄!ソノ戦法ハ「知ッテイル」ノヨ』
そうだな……、木曾は高速で移動し奇襲を繰り返す戦法だ。
つまり、奇襲の方向がバレると。
「か、はっ」
カウンターをもらって大ダメージ、って訳だ。
「木曾!高速修復剤だ!」
「ああ……、うっ」
高速修復剤……。
プロトタイプの高速修復材を、使い捨ての注射アンプルに入れるようになったもの。
よく考えて欲しいんだけど、バケツ一杯の回復薬って持ち歩けないじゃん?
だから、静脈注射アンプル式に切り替えたんだよね。
これを艦娘の静脈に注射すれば、失った手足すらボコボコと生えてくるよ。
え?涅マユリ???
何のことだかわからないなあ!!!
さて。
「くっ……、強いぞ、こいつ」
『マダダ、行クワヨ……、艤装召喚!』
深海鶴棲姫の手元に黒い光……、いや、この場合闇というべきだろうか、闇が集まって、武器の形をとる。
見たところ黒い……、ライフル?
俺は思考と同時に鑑定の魔法を詠唱。
「あれはショットガンだ!」
鑑定完了。
あれは散弾銃。
フルオート、艦娘系の技術故にリロード要らず。
威力は……。
「ナーク=ティトの障壁!!!」
『無駄ヨ。ソレノ硬サハ「知ッテイル」ワ』
「ッ!!!」
障壁が破られ、複数の散弾が俺に突き刺さる。
障壁で幾らか減衰したとは言え、効くなぁ!!!
更に、俺の身体に突き刺さった弾丸が炸裂した。
「ぐおっ!」
赤い花火と共に爆散する俺。
頭部分は幸いにも残っていたので、バックアップの如月に回収してもらう。
「あらあら」
「退がれ如月、今回のは相当だぞ、油断するな」
「はあい」
『無駄ナノヨ……。データハ採取シテアルワ。何ヲヤッテモ無駄』
「データ……、データねえ」
『ソウヨ。何回貴方達ト戦ッテキタト思ッテイルノ?貴方達ノデータハ採取シテアル』
ほうほう。
『戦法、火力、防御力、機動力……。全テオ見通シヨ!!!』
へえ。
「じゃあこれはどうだい?」
俺がテレパスを使って周囲の艦娘に指示を飛ばす。
バックアップの睦月型数人が、物理属性の弾丸を叩き込む。
『「知ッテイル」ト言ッタワ』
艤装……、盾だと?
「提督ー!あれ、うちの物理盾だよー!」
「ああ、俺も見たことある!」
うちで使ってるタイプのに形が似ている……。
海に飛び散った物理盾の破片を集めて解析したか!
ふむふむ。
そう来るかー。
「じゃあアレだな。コジマキャノン用意!」
「はい!」
「撃て!」
「コジマキャノン、発射!」
『ナ……?!!!』
片腕が消し飛んだ深海鶴棲姫。
「まあ、アレだね。見せてない武装なんて幾らでもあるってことだよ。さあ、降参かな?」
『ク……、ソウカ、マダ認識ガ甘カッタカ……。今日ハ撤退スル!更ナルデータヲ……!!!』
「逃すと思うかい?」
俺が尋ねる。
首だけで格好つかないが。
『フン、コレヲ見ロ』
「それは……!!」
帰還のスクロールか!
『コレハ素晴ラシイモノダナァ?即時ニ撤退ガ可能ナノダカラ。我々モ有効活用セネバ』
成る程、うちの艦娘には帰還のスクロールと高速修復剤を持ち歩かせている。
特に帰還のスクロールはそんなに難しい魔法じゃないし、艦娘も遠方の出撃から帰還する際になどよく使い捨てている。
タネが割れるのもおかしくない、か。
『次ハモットデータヲ集メテオクワ。ソレジャ、サヨナラ』
消えた……。
「あー、今回はやられたなあ」
「そうか?勝っただろう」
木曾と執務室にて。
「いやいや、今回の襲撃は多分データ採取だよ」
「そうなのか」
「次はもっと強くなって攻めてくるぞ」
「そうか……。アレを使うべきだったか?」
「ゲッター線か?アレは駄目だ。アレは軽い気持ちで使っていいもんじゃない。今回はコジマ粒子という札を切らされちゃったからな。やっちゃったなー」
うーむ。
俺の予想だと、地球の環境に悪いコジマ粒子やゲッター線などのエネルギーは恐らく、深海棲艦は使わないとは思うが……。
それでも、強めのカードを切らされたのはミスったな……。
深海棲艦も舐めてかかれるほど弱くはない。
油断しちゃならないな。
木曾
スピードとパワーが特徴的。
旅人
また首だけになったが、次話では元どおりになっているので心配いらない。