暑い夏の日。
暑いね。
暑いのに、うち、黒井鎮守府の前には謎のデモ隊が沢山いる。
「司令官、あの人達はなんなの?」
暁に聞かれる。
「どの人だ?」
「あの、民◯党って人達は?」
「あれは……、気狂いだ」
「そうなの?」
「ああ」
「じゃああの、動物愛護団体って言うのは?」
「あれか?」
「うん」
「あれは……、気狂いだ」
「そうなの?」
「ああ」
「じゃああの、女性保護団体って言うのは?」
「あれか?」
「うん」
「あれは……、気狂いだ」
「そうなの」
「ああ」
「じゃあ……、あのヴィーガンって人達は?」
「あれか?」
「うん」
「あれは……、気狂いだ」
「そうなの?」
「ああ」
「……気狂いしかいないの?」
「正気ならこのクソ暑い中デモなんてやらないと思うんですけど(名推理)」
「……それもそうね!」
そもそもなんでうちにデモしに来てんの?
反体制運動すりゃリベラルなの?
俺には何も分からない。
旅人には政治がわからぬ。
俺は旅人である。
ギターを弾き、美女と遊んで暮らしてきた。
走れ旅人。
兎に角、偉い人や頑張っている人の前で大騒ぎするのがリベラルのやり方なんだろう。
今日みたいな暑い日でも、馬鹿の一つ覚えみたいに、議事堂、沖縄、米軍基地前なんかでデモ隊がプラカードを掲げて、支離滅裂な感情論を振りかざしている。
そいつらが黒井鎮守府にも来るようになっただけの話だ。
こう言った連中は真性のマジキチか、そう言う連中から金をもらってやっているかのどちらかだ。
まあ、どの道関わるべきじゃない奴らばっかりってことだ。
……うちの前で暴れるの、本当に勘弁してくれないかな?
百歩譲って反戦団体やら深海棲艦を守る会やら海を守る会なんかはまだ分からんでもない。
けど、ヴィーガンやら野党やら女性保護団体やらは完全に謎だろ。
どうしてここにいるんですか……?どうして……。
そして、黒井鎮守府の正面門が使えないんだが。
どうして?
ねえ、どうして?
うちは割と真面目に戦ってるんだけどなあ……。
やっぱり、自分の利益とかそう言うのに目がくらむのかな?
うーん?
この手のデモは、やって儲かる奴がいるから起きると思うんだよね。
どこが儲けてるんだ?
調べてみよう。
そして、根源を特定して、なんとかしよう。
「川内」
「はっ」
俺が指を鳴らすと、天井裏から川内がシュバッと現れた。
「鎮守府正面のデモ隊で儲けている奴を」
「暗殺だね」
「そんなことしなくて良いから(良心)。いや、探してくるだけで良いから……」
「分かった!」
そして川内がまたシュバッと消える。
流石はニンジャ。
「どうだった?」
「えっとね、複数の組織の思惑があるみたい」
ほー。
「まず野党デモはまあ、『募金』を活動源にして、『お食事代』を配ったり、暇で馬鹿な老人や学生を集めたりして暴れてるね。兎に角現政権が気に食わなくって、ちょっとでも現政権にダメージを与えられたらなんでも良いって思ってるみたい」
「いやー……、剣政権はぶっちゃけ日本始まって以来の最高レベルの政権だぞ」
「そうだよねー、深海棲艦発生の混乱の早期解決、強気の外交、不透明な政治献金や天下りは厳罰……」
「まあ、だからこそ、恨まれてるんだけどね」
「だよねえ。今までなあなあでやってきたこととか、薄汚いズルとか、全部許さないからね、今の総理大臣は。野党には生きづらい世の中だろうね」
成る程。
そんな感じか。
「他は?」
「動物愛護団体は……、金持ちからの『募金』で活動してるみたいだね。どうやら、深海棲艦の保護を訴えてるみたいだけど……」
「はあ……。勝手にやれば良いんじゃない?」
「なんだか、動物愛護団体の中では、うちが攻撃してるから深海棲艦が攻撃してくるんだってことになってるみたいだよ」
「はぁー……」
イミワカンナイ!
「ちゃんと説明したと思うんだけど」
簡単に言えば、深海棲艦は海の防衛機構が暴走したもので、一部の指揮官以外には意志はなくただ殺戮を繰り返すだけの虫みたいなものだって。
「聞いてないみたい」
「はぁー……」
何で?
「って言うか、深海棲艦を殺さなきゃ殺されるよ?」
「そうだねえ」
「言わば、餌がなくて山から降りてきた飢えた熊を守ろう!って言ってるようなもんだけど」
「そうだね」
「はぁー……」
どうすんのこれ。
「はぁ、他は?」
「ヴィーガンは、どさくさに紛れてデモしてるよ」
「勘弁してくれよ……」
「何でも、黒井鎮守府が牧場を経営してたり、食肉業者から大量の肉を買ったりしてるのが駄目なんだって」
「はあ……?」
「今目立ってる艦娘をヴィーガンにすれば話題になって、ヴィーガンを増やせると思ってるみたい」
「????」
いや……、ごめん、真剣に意味わからん。
「川内」
「何?」
「お肉好き?」
「大好き!今日の晩御飯何?」
「生姜焼きにするよ」
「わーい!」
はあ……。
「あとなんか、動物愛護団体とヴィーガンは同じようなところから金が流れてるねー。主張も似てるし」
「主張って?」
「要は、牛も豚も鶏も、深海棲艦もなーんにも殺すなってところ」
「ハヒー」
思わず変な声出ちゃった。
「え……、あのさ、これって俺がおかしいの?」
「提督はおかしくないよ、大丈夫大丈夫」
「あの……、あのさ、命の価値とかってさ、動物と植物で違うとかあるの?」
「なんか知らないけど、植物は痛みを感じないから良いんだって」
「???????」
はい?
「え、じゃあ、麻酔打てば殺して良いってこと?」
「知らないけど……」
「ってか、何でただの人間ごときが他の生き物の命の価値を決めてるの?何様?」
「さあ……?」
「ってか、何でうちに来るの?」
「艦娘をヴィーガンにする為だって」
「????????????」
は?
「いや……、バランスよく、好き嫌いせずに色々なものを食べた方が身体に良いよ……?」
「そうだね」
「あー……、訳わかんないわ。良いや。後でバーベキューやろう」
「わーい!」
「で、他は?」
「女性保護団体は、艦娘が女の格好をしているのが駄目なんだって」
「は?」
「女の人が戦っているのは野蛮で、女性のイメージを悪くしてるんだって」
「????」
頭がおかしくなりそうだ。
「そんなん俺に言われても」
「艦娘は女じゃ駄目なんだって」
「いや……、古来より船は女性とみなすみたいな……、霊的に女性の方が有利だったからなんだけど、説明したよね?」
「したねえ」
「したよね、うん、したはず、なんだけどなあ……」
「よし」
「どうするの?」
「金がなきゃ動けないだろうし、ちょっと集金してくる」
「わーい!私も行くー!」
そうして、あぶく銭と言うには少々大きい額の金を頂戴すると、デモ隊は数分の一になった。
まあ、そんなもんだな。
よーし!
この金で高い肉買ってバーベキューやろーっと!
川内
ニンジャ。
旅人
流石に本物の気狂いに対しては引く。