「そ、そのだな、Admiral?よ、良ければ、私の背中に乗らないか?」
「えっ」
「いやその、Admiralさえ良ければ、な?折角ユニコーンなのだから」
「まあ、良いなら乗せてもらおうかな?」
「むふふ、そうか。落馬しないようにしっかりと抱きしめ……、ではなく、掴まっているんだぞ?」
ふふふふふ……、そうだ、私の腰に腕を巻きつけて……。
愛するAdmiralを背中に乗せて歩けるとは。
この半馬の身体も悪くないな。
「あ、その、手綱は必要か?必要とあらば付けてくれても構わんぞ?な?」
「いや、そこまでは良いよ、アーク、ありがとう」
「構わん、Admiralのためだ」
「アークロイヤル、ユニコーンの聖騎士(パラディン)。巻雲、ハイエルフの大魔導師(スペルマスター)。摩耶、人狼(ライカンスロープ)の剣聖(ソードマスター)。天龍、ドラゴニュートのサムライマスター。プリンツオイゲン、黄昏の魔人(トワイライトデーモン)のウェポンマスター。鹿島、淫魔(サキュバス)の魔物使い。菊月、ハイエンド・オートマタのガンナー……」
Admiralがクランメンバー表を読み上げる。
「……ゲームバランスこわれる」
「そうなのか」
「どう考えても上位ステータス、上位種族、上位職業じゃん。初期レベルも500超えてるし」
「初期ステータス、種族、職業、レベルについては、現実世界のものと、最初の質問によって左右されるらしいぞ」
「ほーん……」
おかしいだろうか?
「まあ、そうだわな。VRゲームで筋力耐久力反応速度が人並みまで落ちたら、艦娘からすればおかしいだろって話だもんな。だったら、システムの方を現実に合わせた方が良いのか」
「実際、軍人やプロスポーツ選手などのプレイヤーは、初期ステータスが高いそうだ」
「そうだよなあ、鍛えてる人がゲームの世界で弱体化しちゃおかしいよな」
そんなことを言いながら、Admiralを背中に乗せて草原を駆け抜ける。
最初の街から五日も走れば、ギャンブルの街『イダス』に着く。
「ってか、アークは俺に付き合ってくれなくても構わないよ?好きなとこ行って良いのよ?」
「私の好きな場所はAdmiralの隣だよ」
「あら可愛い。隣と言わず胸の中でもええんやで、と」
イダスにて。
まあ、Admiralはギャンブルなら大抵の相手には負けない。
そもそもの動体視力や器用さ、記憶力などから、大抵のギャンブルは勝てる。
伊達にギャンブルをやり続けていない、勝率は相手がAdmiralを超えるやり手かド級のイカサマ使いでもない限り、ほぼ百パーセント勝つ。
聞いた話によると、麻雀では裏世界のトップに挑んでボロ負けするらしいが……、そこら辺の雑魚には負けないとのことだ。
目標は「アカギシゲル」とか「カイ」に勝つこと、らしい。
Admiralは山程儲けて、胴元を泣かせると、大量の金貨とカジノの景品全てを掻っ攫う。
「よーし、後は逃げるぞー」
「分かった」
ギャンブルで勝った後は逃げるのが鉄則……、だそうだ。
確かに、この手の胴元は反社会的な組織であることが多い。
国営だとしても、胴元が泣き出すほどに稼げば、睨まれもするだろう。
私も、そこら辺の雑兵に負ける気は無いが、正面から戦って突破する理由はない。
結局、逃げてしまうのが手っ取り早いということだ。
「いやー……、後は全力で旅するけど」
「そうか」
「アークは別についてこなくて良いんだよ、本当に。みんなと冒険したりすれば良いと思うよ?」
「ついて行っては、嫌か?」
「嫌ではないけど……、俺はノースティリスのあいつや@みたいな冒険者ではないからね?」
「?」
誰のことだ?
「あー……、俺の知り合い。ジューアのクレイモアのあいつと、エントのスペルマスターの@だよ。友人だ」
「ふむ」
「あいつは専科百般、古今無双の化け物で、クレイモア……、大剣使い。まあ、魔法でも何でも使いこなすけど」
「なるほど」
「@はがまんづよい、エント(木人)のスペルマスター。近接はぶっちゃけ俺でも勝てるくらい弱いけど、魔法ならとんでもない使い手だよ。総合的な戦闘能力じゃあいつにも匹敵するかもな」
「そうなのか。それは、強いのか?」
「少なくとも、君なら五分保てば良い方ってところかなー」
「そんなにか」
世界は広いな、この私より強い者がいるとは。
「話は変わるけど、どうやら、この世界は白露型の協力で、魔法が使えるようになっているらしいしね」
「ああ、確かに、魔法が発動する」
そう言えばそうだな。
「俺もあいつや@に魔法を習ってさ、ある程度は使えるんだよ、魔法」
Admiralが言うには、Admiralは職業的には観光客だけど、「世界」のルールに縛られないから、どんな領域の魔法もスキルも覚えられるらしい。
しかし、「世界」のルールに縛られないが故に、恩恵もないそうだ。
Admiralはそれを、悪役補正も主人公補正もどっちもないと称している。
Amiralは常に私の考えている世界よりも大きなものを見ている気がする。
「この電脳世界においても、魔法の使い方は現実世界とあんまり変わらないみたいだ」
「そうだな、私も少しは魔法が使えるから分かるが、少し術式を弄ればこの電脳世界でも魔法は使える」
「そもそも、今回は、一般人の魔法適性を調べる目的があったから」
「そんなものを調べてどうするのだ?」
「さあ……?何かしらに使うんじゃない?」
そうか……?
「イダスでは十分稼いだ。次は……、首都に行こう!」
「はっ!」
私とAdmiralは、北へ向かう。
道中、モンスターの襲撃はあったが、弱かったので消しとばした。
首都は……、煌びやかだ。
「ふむ……?私が思うに、中世ヨーロッパをモデルにした、と言う割には、街並みが美しく、嫌な臭いもしないぞ?」
「そこら辺は魔法でどうにかしてる設定だから……(震え声)。あんまりリアルにこだわり過ぎると、街中クソまみれってことになっちゃうから……」
「成る程。これはゲームと言うことか」
「このすば的ファンタジー世界だから……」
確かに、リアリティを求めて、本物の中世の都市の様にしたら、衛生面などで不愉快な街になるな。ゲームだからと理由をつけて、ある程度近代化せねばなるまい。
「じゃあ、王都を見て回ろうか!」
「ああ」
王都は……、ヨーロッパの様でいて、イギリスでもフランスでもイタリアでもない……、私からすれば若干違和感のある家屋が並び、王城もまた、ゴシックでもルネサンスでもロココでもない、尖った屋根の大きな城だった。
ファンタジーとは、こんな感じなのか。
「おー、良いね!自撮りスクショ撮ってツイッターに上げよう!ほらおいで、アーク!」
「あ、ああ」
Admiralは、ゲームの機能の、スクリーンショット機能で写真を撮り、街を回る。
「城に入りたい……、城に入りたくない?」
「そうだな、だが、兵士が沢山いるが……」
「ちょっと待って」
Admiralは兵士に駆け寄って話をする。
「何をしたんだ?」
「兵士に、鎧と槍の生産をやっている鍛冶屋の在り処を聞いてきた」
……ふむ?
「どうするつもりだ?」
「まあ見てな」
鍛冶屋に行くAdmiral。
「こんにちは、ラファウル王国新兵士です。鎧を受け取りに来ました!」
「ん?おう、そこにあるだろ、持ってけ!」
「ありがとうございます!代金はお城に請求してください!」
そう言って、まんまと正規兵の装備を手に入れたAdmiral。
「成る程、正規兵に化けて忍び込むのか。しかし、私はどうすればいい?」
「我に策有り」
ど、どうする気なんだ?
アークロイヤル
リアルパラディン。ちょっとマゾ。
旅人
観光客。