夏だとラーメンって気分にはならないんだよなあ。
「べびべびべいべべいべべいべ!!!!」
城門を閉じ、バリスタや大砲を並べ、前衛が前に出て、準備ができた。
Admiralは、何故かギターをかき鳴らして歌っている。
それを見ているプレイヤー達は、声援を送り、テンションが上がっている。
Admiralは、特別に人を統べるカリスマがある訳ではない。
しかし、他人を鼓舞し、元気付け、その気にさせる弁舌と、何より、その楽しげな雰囲気が素晴らしいのだ。
この人について行けば、絶対に退屈しない。そう思わせる何かが、Admiralにはあった。
まるで、例えるなら、イアソンの様な人だと、私は思う。
本人は、確かに、様々な技能を持つが、特別に強いという訳ではない。
だが、兎に角、他人を乗せるのが上手いのだ。
見知らぬ人とでもすぐに仲良くなり、特に女性はすぐに口説き落とす。
気難しい英雄達も、Admiralに請われたら、喜んでアルゴー船に乗り込むだろう。
人を統べるカリスマではなく、人を友にし、共に歩む。そんな不思議な魅力が、Admiralにはある。
我々艦娘も、Admiralとならどこまでも行けると思っている。根拠はないが、Admiralと共にいると、そう思ってしまう。
だから、今回も。
『ガアアアアアアアッ!!!!』
「行くぞみんなー!!!!」
「「「「おおーっ!!!!」」」」
なんてことはない。
黒龍が雄叫びを上げ、城壁に向かって突っ込んでくる。
「障壁よーい!!!」
Admiralの指揮に従い、魔法使い達が障壁を張る。
『ガアッ?!』
思い切り障壁に突っ込み、出鼻を挫かれた黒龍に対して。
「やれー!!!」
一斉に攻撃を開始する。
直接的な戦闘能力が乏しい斥候や盗賊は、大砲を撃ち込み、バリスタを放つ。
魔法使い達は全力で魔法を放ち、錬金術師達はマジックポーションを配り歩く。
剣士や戦士と言ったプレイヤー達は、障壁にぶつかり倒れた黒龍に取り付き、各々の武器を振るう。
『グオオオオオオ!!!』
「起きたぞー!守れ!」
黒龍は起き上がり、鋭い爪で城門を引っ掻く。
障壁で防ぐが、巻き込まれた少人数のプレイヤーが潰される。
「ヒーラー隊!蘇生!」
「はいぃ〜!」
ガンビア・ベイの指揮する神官達、ヒーラーの寄せ集めに指示が出され、失った人員を蘇らせる。
「ブラックフラッグ!かませ!」
「はい!『ウェポンバースト』!!!」
指示を受けた艦娘クランから、プリンツ・オイゲンが飛び出して、クールタイムの長めな大技スキルを放つ。
『アアアアア?!!』
黒龍の顔面にダメージを与え、再びダウンさせる。
「よーし!今だ、やれー!!!」
「「「「うおおおお!!!」」」」
つまり、作戦はこうだ。
黒龍の攻撃を防ぎ、隙を作り、その隙を艦娘が突いて、黒龍をダウンさせる。
そして、ダウンした黒龍を囲んで殴る。
Admiralが言う、大物狩りの基礎だそうだ。
本人が言うには、これでゾラマグダラ……、何とかを倒しただとか。
本音を言えばゲキリュウソウ?を持ってきたかったらしいが、その辺りはよく分からない。
「解析完了!両腕両足、そして額にある赤い岩のような部分が弱点!」
スペルマスター巻雲が叫び、それを聞いたプレイヤー達は集中攻撃を始めた。
「『サモン:ケルベロス』!」
ビーストテイマー鹿島が、黒龍ほどではないにしろ、かなり巨大な三つ首の犬を呼び出し、炎を吐かせる。
『ガアア?!!!』
「右腕破壊!右腕破壊!」
黒龍の腕の弱点が破壊され、歓声が上がる。
「まだあるぞ!気を引き締めろ!」
再び立ち上がる黒龍。
今度は、ブレスを放ってきた。
「障壁全開!全開ィーーー!!!」
む、不味いな、あれは危険だ。
私が大盾を持って前に出る。
そして、スキルを発動。
「『フォートレス』!!!」
ブレスを軽減し、死傷者を減らす。
「アークサンキュー!回復急げ!サポーター動け!」
Admiralは指揮を執りながらも、王都の宝物庫にあった大弓を使って、攻撃もしている。
「提督!行けるぜ!」
サムライマスター天龍が叫ぶ。
「よーし!左腕を狙え!」
「おう!『不動明王剣』ッ!!!!」
『ガアアアアアアアッ?!!!!』
黒龍の左腕を根本から切り落とした天龍。
「すまん!暫くは無理だ!」
「良い!休んでろ!」
天龍を拾って引っ込めたAdmiralは、更に指示を出す。
「次!右足!じゃんじゃん撃て!矢弾の代金なんて気にするな!後で国に請求書書いてやれ!!!」
「「「「うおおおお!!!」」」」
そうして、右足の弱点も破壊する。
続いて、左足も破壊した時に、黒龍は一際大きな咆哮を上げ、口元にエネルギーを集めた。
「あー、ありゃ駄目だ、防げねえ。総員退避ーーー!!!!」
瞬間、放たれたレーザーブレスは、城門を吹き飛ばした。
「な、何があった?!」
「いやー、乱世乱世。奥の手はレーザーブレスだったみたいだね」
艦娘クラン以外のプレイヤー達は半数が蘇生不可能なほどにダメージを受け蒸発、城門は見るも無残に吹き飛んだ。
「あ、ああ……」
「や、やっぱ無理だ!」
「に、逃げなきゃ……」
戦意も最悪、状況は一気に劣勢だ。
だが。
「まだ終わってないだろ!」
Admiralが叫んだ。
「まだ負けちゃいない!勝機はある!まだ城門が吹き飛んだだけだ!」
「で、でも」
「考えてもみろ!この城門の持ち主は誰だ?」
「お、王国だ」
「そうだ!王国のものが壊れたんだから、直すのは王国の仕事だろ?ほら、少なくとも金の心配は要らなくなった」
「プレイヤーがもう」
「まだ半数は生き残っている!諦めるな!相手も切り札を切ってきたってことは、追い詰められているんだ!」
「ま、まだ、やれるのか?」
「ああ、やろう!最後の最後まで戦って、それでも駄目な時に泣け!少しでも希望があるのなら、冒険者は笑うもんだ!」
「そ、そうだ!」
「や、やるぞ俺は!」
「まだやれる!」
プレイヤー達を鼓舞したAdmiralは、再び指揮を執り……。
「そこだーーー!!!!」
『ガアアアアアアアッ?!!!!』
黒龍の額を砕いた。
『レイドボス:討伐完了』
『congratulation!』
その後、Admiralは、黒龍の素材を分配して、レイドボス戦に参加したプレイヤー全てと宴会をして、その請求書を王国に叩きつけて、逃亡した。
行き先は、次は帝国に行くそうだ。
「行こう、アーク!」
「……ああ!」
例え、電子の世界でも。
愛する人と共に旅ができるとは。
こんなに嬉しいことはない。
アークロイヤル
かわいい。
旅人
たまには活躍する。