んあー、困った、最近力が出ない。
「うーん……」
黒井鎮守府の食堂の隣で、ドーナツを揚げながら唸る俺。
「あの、どうかなさいましたか?」
鳳翔に心配される。
「ああ、いや、昼飯のメニューをどうするかと思ってね」
ご存知かもしれないが、黒井鎮守府の食事は日替わりメニューの二、三十品目のうちから好きなだけ選んで食べると言う方式だ。
廃棄も少なくなるように調整しているし、余り過ぎ、足りな過ぎと言うことはない。
基本的にメニューはこう。
1〜8番目まで米やパンなど。
9〜12番目までがスープ。
13〜30番目まで主菜と副菜。
EXにデザートが三品目くらい。
生卵、温泉卵、ゆで卵、ハム、海苔、ふりかけ、チーズ、納豆、フルーツ類、ヨーグルトなどは、言ってもらえば出せる。
ソーセージやベーコン、目玉焼きにじゃがバターなんかの簡単なものも対応可能。
飲み物も何でも言えば用意する。
メニューは、旬の肉、野菜、魚、その他を3:3:3:1くらいの割合で提供しており、朝はメニュー少なめ、昼多め、夜普通。
和風と洋風は3:7くらいだろうか?
一口に洋風と言っても、我らが黒井鎮守府の艦娘は多国籍。アメリカンもあればおフランスもあるような感じだろうか?
もちろん、艦娘にも好き嫌いはあるから、その辺りも調整している。
海外艦は納豆やらくさややらは嫌いだし、なるべくならパンが良いらしい。
日本の艦娘は、ご飯に合わないものはあまり食べないとかある。
艦娘全員の好き嫌いは一応把握しているので、なるべく順繰り、好きなメニューを出してあげたい。
因みに、腐っても我々は日本海軍なので、毎週金曜日の昼はカレーである。
そんな俺と、厨房を任せてある鳳翔達は、主菜と副菜、スープ、デザートの二十品目のメニューを一日三回、考えねばならない。
これは、毎日割と悩んでいる。
現在も、LINEに昼飯をどうするかのアンケートをとって、そこから決定する感じにしているが、艦娘約二百人の意見からどれを選ぶかが難しい。
あ、今揚げているドーナツはおやつだから。
「クリームシチューとかどう?」
「良いと思いますよ。それなら、きのこ汁とビシソワーズはどうでしょう?」
「アリだな。主菜にサンマの蒲焼と……、栗ご飯だ、栗ご飯はどうだ?」
「栗ご飯!良いですねえ。もう秋ですから、栗ご飯は美味しいですよ!デザートはスイートポテトにしましょう」
「うん、うん、スイートポテト!良いな、首輪付きが農場でたくさんサツマイモを収穫したらしいからな、スイートポテトにしよう」
鳳翔と相談しながらドーナツを揚げて、トレイの上に乗せて砂糖をまぶす。
鳳翔はあんこの鍋をかき混ぜながら、どら焼きを量産。
「クリームシチューとなるとロールパンかな?」
「え?ご飯にかけるんじゃないですか?」
「えぇ……、シチューをご飯に?」
「日本の艦娘は割とやりますね。海外艦はみんなおかしなものを見る目で見てきますが」
「そら(シチューをご飯にかけたら)そう(なる)よ」
俺は、クリームシチューはパンにつけて食べるもんだと思ってるんだが、日本の艦娘の中にはご飯にかけるという選択をしてくる子も多い。
まあ、別にちゃんと食べてくれるなら怒らないけど……。
あの子達は、あんかけとか煮物とか出すと高確率でご飯にかけて食べるからなあ……。
いや、気持ちはすごくよく分かるんだけどね?俺も日本人だし、横着してそう言う食べ方もするよ。
ほら、味噌汁にご飯入れてかっ込んだりとかするよね。
だけど個人的に、シチューをご飯にかけるのはどうなんだ?とは思う。
女の子なんだからもうちょっと慎みを持とうね?汁物をぶっかけて食うのはガテン系親父のやることでは?
まあいいや、俺は大人だ、寛容な心で受け入れよう。
むしろ、ご飯にかけると言うならば、それ用に調整してあげるくらいの気持ちが必要だな。
となると、味を濃くして、とろみをつけて……、隠し味に醤油かな?
そんなことを考えつつ、約三百個程のドーナツを冷蔵庫に突っ込む。
鳳翔も、同じくらいのどら焼きを冷蔵庫に突っ込んだ。
巨大冷蔵庫に「ドーナツ、賞味期限は九月二十五日まで」と書き込んだ張り紙を貼って、早速昼ご飯の調理を始める。
この巨大冷蔵庫は、一つの巨大なアイテムストレージであり、他の場所にある冷蔵庫から自由にアクセスできる。
現に、今冷蔵庫に入れたドーナツは、休憩室の冷蔵庫と繋がって、既に三十個が消失した。
作っても作っても、まるで熱々の鉄板にバターを押し付けるかのようなペースで消えていくから、作り過ぎなんてことにはならない。
さて、料理スキルでポンと料理。
三十分もしないくらいで、全品完成。
昼ご飯の配膳開始!
配膳は、黒井鎮守府謹製のアンドロイドに代行させる。
料理を作ることは俺達厨房組がやるが、配膳はロボットにもできるので、ロボットにやらせようと言う話になった。
いつも、厨房組は、ピークが過ぎた頃に、料理を温め直して食べていたから、それを見た他の艦娘が、配膳はせめてロボットに任せて、なるべくみんなで一緒に食事をしようと言うことになったのだ。
優しさが身に染みる……。
さて、俺は全メニューを日本昔ばなしサイズで注文。
合計で大体三十キログラムくらい、少な目の昼食を楽しむ。
空母、戦艦なら三、四十キログラム、駆逐艦なら一キログラムくらいの食事量だ。
「いただきます」
俺は席について、余り物を中心に構成されたメニューを食べる。
朝の食パンの余りをトーストして、縦に切ってスティック状にしたものに、クリームシチューをたっぷりとつけてパクリ!
「おっ、んまい!」
すかさず芋と人参をパクリ。
パンと野菜の優しい味を楽しむ。
秋刀魚の蒲焼も箸でほぐして一口。
「美味いな、流石は鳳翔」
栗ご飯をガーッと掻き込む。
美味え……。
やっぱり、旬の食材以上に美味いものはないんだよなあ……。
確かに、最近はハウス栽培なんかも凄いんだが、やっぱり、天然物の旬の素材が一番美味いように感じる。
日本風フィッシュ&チップスもイギリス艦の為に出してみたんで、それも一口。
「おお、美味いな!」
口には出さないが、本場イギリスで食うより三倍は美味い。
そしてフランス艦に配慮した今日のパスタ、イカスミパスタもとりあえず十皿。
うーん、これも美味いな。
俺が担当したが、白ワインでイカスミの生臭さを消してある。イカの切り身もコリコリでグッド。
そして、今日のゲテモノ枠、ワイバーンオムレツ。
ゲテモノ枠とは言え、みんな割とチャレンジャーであり、面白がって注文する。
しかも、味はしっかりと美味い。
うん、美味い。
そのように食べ進めつつも、食堂をさりげなく見回す。
やはり、料理人の端くれとして、みんなが喜んでくれているのかは常に気になってしまうのだ。
鳳翔達、厨房組も、ついみんなの顔を見てしまっている。考えていることは同じだろう。
さて、大体、艦種ごと、国籍ごとに固まって食べているのだが……。
まず、戦艦や空母の方を見てみよう。
彼女達は……、あ!やっぱりシチューをご飯にかけてる!
蒼龍は、バケツの三倍程の大きさの容器にご飯をもそっと入れて、そこに、バケツ一杯分くらいのシチューを、お玉でかけながら、レンゲですくってかっ込んでいる。
「美味しい!シチューはご飯に合う!」
合うのか……?
そして、チキン南蛮が見えなくなるくらいにタルタルソースをかけて一口。
「んんー!美味しいー!」
そしてご飯をガーッと掻き込む。
まあ、美味しく食べてくれるなら俺は何も言わないよ。
一方で軽巡。
天龍はどうだ?
「うんめー!」
量は、戦艦空母と比べれば可愛いものだが、それでも、一キログラムはあろうかというご飯を頬張り、秋刀魚の蒲焼にかぶりついている。
そして、お供の麦茶で流し込む。
早食いだな、天龍は、釣りの時は平気で二時間三時間待てるのに、普段はせっかちなところがあるからな。
その隣の龍田は、天龍と同じくらいの量の栗ご飯をハイペースかつ下品じゃない食べ方で食べている。
その顔は笑顔だ。
駆逐艦は、少量のご飯をおしゃべりしながら食べている。
美味しいと言ってくれている。
嬉しい。
俺の目の前の鳳翔も、俺が作ったチキン南蛮を美味しそうに食べてくれている。
「「あ」」
鳳翔と目が合った。
「うふふ、やっぱり、みんなが美味しく食べてくれているか気になりますよね」
「そうなんだよなあ、毎日ちょっと不安になるよ」
「でも、旦那様は美味しそうにたくさん食べてくれますから、私は嬉しいです」
「鳳翔も、俺の料理を美味しそうに食べてくれて嬉しいよ、ありがとう」
「ふふっ、同じことを考えてたなんて、なんだか夫婦みたいですね……❤︎」
「そうだね、別に夫婦ではないけど」
「旦那様との結婚生活が上手くいって嬉しいです❤︎」
んん、艦娘特有の時折話が通じなくなる現象だ。
躍起になって否定しちゃいかんな。
「そうだね」
肯定しておこう。
肯定ペンギン。
「大好きですよ、旦那様❤︎」
「うん、俺も鳳翔が大好きだよー」
まあ……、事実、愛していることは確かだし、細かいことを考えるのはよそう。
鳳翔
とてもかわいい。
旅人
「いや、シチューはご飯にかけるものじゃないでしょ?スープでしょあれ?」