「……という訳で、今日からこの鎮守府に所属する、この子達をよろしくね!」
さあ、帰ってまいりました、日本!……スカート捲り事件から三日、皆んなも沈静化したんじゃない?
「「「「………………はあ?」」」」
え?何?
「どうかした?」
「い、いえ、まさか、海外の艦娘を連れて帰ってくるとは夢にも思わず……」
何だか久しぶりの大淀。そんなに驚くことかな?
「……しかし、提督の話によると、色々と不味くないか?」
と、長門。心配してくれるのかな?ありがとね。でも、多分大丈夫だよ。
「いやぁ、それがね?ドイツ軍も、あれだけ追っ手を差し向けておいて捕まえられませんでした、と、世間に公開は出来ないみたいよ?……大体、ブラック鎮守府の存在だって、世間の皆さんには伝えられていない情報だしね」
まあ、秘密裏に捜査されてはいるんだろうけどね。表立って動いたりはしないみたい。まあほら、軍艦六隻の紛失なんて、とてもじゃないが表沙汰に出来ないじゃん?不祥事というにはデカすぎる事件だ。
まあ、だからこそ、裏側の組織である、王立国教騎士団の耳に入ったんだろ。怖いねぇ、裏社会。
さて、ウォースパイトさんに車椅子でもプレゼントするか。あと、折角だし、鎮守府全体にバリアフリー工事をしよう、そうしよう。
「じゃあ、俺はこれからちょっと工廠行くから。……君達は、そうだな、金剛、はっちゃん、鎮守府の案内を頼んで良いかな?」
金剛は英語を、はっちゃんは独語を話せるからな、うってつけじゃん?了承してくれた二人に、海外艦達の部屋の鍵を渡し、俺は工廠へ向かった……。
×××××××××××××××
『あ……、て、提督……』
提督、行っちゃった……。寂しい、な。
『こんにちは、私は、伊8。はちって呼んでね。……貴女、もしかして、Uボート?』
『あ、う、うん。そうです』
あ、ドイツ語……。この艦隊にも、話せる子、いたんだ。ちょっとだけ、安心した。
『私も、潜水艦なの。よろしくね』
『は、はい、よろしくお願い致します』
『もう、そんなにかしこまらなくって良いよ……、じゃあ、着いてきて。この鎮守府の案内をするから』
『鎮守府の案内?』
『……うん、貴女達も、私達と同じような鎮守府で生きていたんでしょ?だけどね、ここは、良いところだよ』
『は、はあ』
そう言ったはちさんに、私達は着いて行った。日本の鎮守府、提督も、はちさんも、良いところって言っていたし、ちょっと期待です。
『まず、今いるここは会議室。大規模な作戦の時とか、今みたいな、大事な話がある時とかは、ここに集合』
とっても広くて、豪華な部屋。……でも、装飾は上品な感じで、嫌味がない。
『うむ、とても質の良い部屋だな。……壊したら怒られそうだ』
グラーフさんが言った。確かに、椅子やテーブルの一つ一つがこだわり抜かれている、と思う。
『多分、提督は怒らないよ?……でも、この部屋だけじゃなく、鎮守府の殆どは提督が頑張って作ったものだから。壊しちゃ駄目』
作った?
『あー、その、それは、日本風のジョークか?すまないが、冗談は苦手だ』
『冗談じゃないよ。……この鎮守府、昔はボロボロだった。けど、提督が来てからは、提督自身が鎮守府中を掃除したり、改装したりして回ったの』
『……はは、そんな馬鹿な……』
そうなんだ、やっぱり、提督は凄い。
『信じられないなら、工廠に行ってみる?今ならそこで証拠が見れると思うよ』
「うーん、こんな感じか?こういう感じのロイヤルなロイヤリティーを演出する感じの感じ」
「あれですよ、英国旗付けましょうよ、英国旗」
「いやそんな、ヤン車じゃないんだからさぁ、明石よぉ」
「えー?霧島さんはバイクに旭日旗付けてましたよー?」
「……oh……」
工廠では、工具片手に車椅子を作る提督がいた。……この短時間で、あれだけ精巧なものを作るなんて……。
『……おいおい、冗談だろう?』
グラーフさんが信じられないのも無理はない。……木のフレームは、まるでアンティークのように上等で、赤い皮と、金の装飾は絢爛でありながらも気品がある。パーツの一つ一つが輝いて見えるような、そんなものだ。
「ああ、丁度良かった。これ、ウォースパイトさんに。……プレゼント、気にいると良いけど……」
そう言って、ウォースパイトさんの手をとる提督。でも……、
「その、Admiral?こんな高価なものは……」
確かに、いきなりあんな高価なものを渡されたら、驚いてしまう。すると提督は、ウォースパイトさんの手を、金の装飾に持って行き、触れさせた。
「ウォースパイトさん、俺はね、高価なプレゼントで女性を釣るような、安い男じゃないよ」
「…………oh I see.これは……、よく磨かれたbrass(真鍮)ね?その上を酸化防止の為にコーティングしてる……」
「そう言うこと。……ちなみに、この木は、鎮守府の裏山で採ったもの。皮も、鎮守府の裏山の鹿から。……人件費はプライスレスってとこ。だから、原価はほぼゼロ。あるのは真心のみ、かな」
ああ、そうか、提督は、私達の気持ちまで分かっちゃうんだ。やっぱり、凄い。本当に、凄い。
「ふふ、そうなのね。……それじゃあ、有り難くいただくわ。……Thanks,Admiral…………、これ、凄いわ、かなり楽に座れて、快適ね」
「気に入ってもらえて嬉しいよ。……それじゃ、俺も鎮守府の案内をしようか。……次はどこへ?」
「休憩室にしまショー」
「オーケーだ、はっちゃんも良いかい?」
「私は提督の命令に従うよ?」
えっと、日本語はまだ、あまり上手くないけど、次は休憩室だそうだ。
提督は、ウォースパイトさんの車椅子を押しながら、私達と一緒に歩き始めた。
ちょっと、羨ましい。
「あの、提督?ここの休憩室って、どんどん拡張されてまセンカー?」
「おっ、よく分かったね、金剛。今や、この休憩室は、全部屋合わせれば会議室に匹敵する広さだよ」
鎮守府の二階、休憩室。大きなその部屋では、艦娘達が思い思いにくつろいでいる。
『え?あ、あれ!テ、テレビに色が付いてる!!』
オイゲンさんが言う。私もビックリしている。あんなにも綺麗な映像が流れているなんて。他にも、見たこともないものがたくさんあった。
『ここ、休憩室は、備品の持ち出しと一部の部屋が土足厳禁以外は特に決まりはないから。出入りは自由、置いてあるものは好きに使って良いし、冷蔵庫のものも好きに食べて良いんだって』
『……その、良いんですか?』
『最初は私達も警戒したけどね。良いんだよ、好きにやって』
「さて、そろそろお昼だ……、俺、ちょっと食堂行ってくる。金剛、ウォースパイトさんのこと、頼むな」
「OK、提督!」
「あら、Thanks,金剛。迷惑をかけるわ」
食堂?何で提督が食堂に?……もしかして、あの時みたいに料理を?
『そうだよ、この鎮守府では、提督と、軽空母の鳳翔さん、給糧艦の間宮さん、伊良湖さんが中心になって料理をしているの。……もちろん、味は最高、お代わり自由』
『ほ、ほう、味は最高で、お代わり自由なのか……』
グラーフさん、ちょっと嬉しそう。……そう言えば、船の中でも、イギリスでも、たくさんごはんを食べてた。
『それじゃ、次は最上階、執務室に行くよ、エレベーターに乗って』
最上階……。執務室の他にも、資料室や鎮守府の運営に関するものが置いてある部屋が多い、らしい。
本来なら、この階だけで鎮守府としての運営はできると思う。
『ここ、最上階はお仕事の部屋ばっかりなの。だから、あんまりうるさくしちゃ駄目。提督は、お仕事をすぐに終わらせちゃうから、ここにはあんまりいないかも。……あ、あと、この鎮守府では、自分で報告書を書く必要があるから、そのつもりで』
そう言って、はちさんは机の上の書類を見せる。
『それが、報告書かしら?……書くことが少ないのね。書類を書いたことなんてないから不安だったけど、これくらいなら……』
『ちなみに、提督はドイツ語でも英語でもロシア語でも何でも読めるから、好きに書いて良いって言ってた』
『あら、助かるわ、日本語は、漢字が難しくって……』
ビスマルク姉さんの言う通り、日本語は難しい。書類を書くのは初めてだけど、これなら、何とかなりそう。
『ええと、次は……、居酒屋鳳翔と、甘味処間宮、かしら』
鎮守府の一階、食堂のすぐ近く。日本風な看板と内装の居酒屋鳳翔、その隣は、可愛らしい看板と内装の甘味処間宮がある。……今は、鳳翔さんも間宮さんも、食堂で料理をしているらしい。
『居酒屋鳳翔ではお酒が、甘味処間宮では甘いものが食べられるよ……。でも、高いお酒とか、凝ったスイーツとかは、自分で買ってくるか、提督がくれるチケットが必要なの』
『チケット?』
『そう、……このチケット。MVPになったりするともらえる』
そう言うはちさんの手元にある小さな紙には、提督のサインが書かれている。
『それを使うと、具体的にどう違うんですか?』
『ええと、お酒なら、何万円もする高いのが、お菓子なら、スペシャルパフェとか高級アイスとか、美味しいのがもらえるよ。……提督と間宮さん達が本気で作ったものだから、市販のものとは比べものにならなかったよ……』
へぇ、そんなに……。
『……あ、そ、そろそろお昼だね、食堂に行こう……。今日のメニューは…………』
食堂前のメニューボードを見る。あ、英語訳とドイツ語訳が小さく書いてある……。ええと、メニューは……、ローストビーフ、カリーヴルスト、ザワークラウト、マッシュポテト、茹で野菜、鮭とホタテの和風クリームシチュー、ツヴィーベルズッペ、カスタードプディング……、多い!!
『ああ、ここのメニューは選択制だから。ここに書いてあるものを好きに選んで食べるんだ……。あと、パンと米も選べる』
なるほど、選べるんだ。
『お腹も減ってきたし、早めに食べようか……。あとは部屋に案内するだけだし』
『わ、私達も、良いの?』
『勿論。……今日はライ麦パンがあるみたい。やった!』
昼食後、空き部屋に案内された。……空き部屋と言っても、ふかふかのベッドや、しっかりした家具のある、ちゃんとした部屋だ。
『それじゃあ、鎮守府の案内はこれで終わり。……これからよろしくね、皆んな』
『『『『よろしくお願いします』』』』
声を合わせて返事する。……はちさん、とっても優しくて、良い人。
『……あ、ごめん最後に、一つだけ』
『?、何ですか?はちさん』
『私は、私達は、提督のことが大好き……、愛しているの。この命を捧げてしまって良いと思うくらいに。…………だから、もしも貴女達が提督の邪魔になれば、その時は…………』
……そんな、あり得ない!はちさんの持つ本から、8.8cm FlaK(アハトアハト)の砲身が……!!
『その時は…………、殺すから』
ユー
旅人を、白馬の王子様のように思っている。
ウォースパイト
旅人のことを好ましく思っている。
はっちゃん
[妄信][親愛][隷属]三拍子揃った献身型ヤンデレ。手持ちの本は艤装で、本の中から魚雷や高角砲を取り出し、戦う。
旅人
この後、ビビった海外艦達にまとわりつかれる。