「うっしゃ!黒井鎮守府から逃げだせたぞ!久し振りにソロ旅するか!どうしよっかなー!うーん、たまには風俗に行きたいぞ!となるとあの世界だな!『転移』!!!」
………………
…………
……
「よー、ゼル?次はどこ行く?」
「うーん、次は龍種とか行きたいが……、そんな店あるのか……?」
俺は、友人のエルフのゼルとくっちゃべりつつ、次のサキュバス店への遠征について考える。
俺は人間の冒険者、スタンク。
神秘のダンジョンよりも、女体の神秘を探求する、色んな意味での冒険者である!!
さあ、次はどんなサキュバス店(風俗店)で楽しもうかな!
などと考えていると……。
……「んおっ❤︎あんっ❤︎ほおおっ❤︎んほおおおっ❤︎」
「うおっ、うるせっ?!」
馬鹿でかい喘ぎ声が街中に響いた。
ってかこの喘ぎ声、どこかで……?
ああ、思い出した、あれは……。
「「ヘカトンケイルちゃんだな?!」」
えっ、あの巨人種のヘカトンケイルちゃんをイカせてる男がいるのか?!
となると巨人種の男かな……?それともカンチャルみたいな器用なハーフリングか?でもこのイキっぷりは異常だぞ?
「ゼルさん!」
お、天使のクリムだ。
慌てた様子だな、どうしたんだ?
「どうした、クリム?」
ゼルが尋ねる。
「どうもこうもないですよ!何ですかこの狂気属性の魔力!」
「ん……、あー!これはな……」
ゼルが答えようとした時。
「お前ら!外出ろ!ヘカトンケイルちゃんが触手の塊とエッチしてるぞ!!!」
外から来たハーフリングのカンチャルが叫んだ。
触手の塊に?
となると……。
「あいつか?」
「あいつだろうな」
俺とゼルは察した。
「やっぱりあいつか?」
カンチャルも察した。
そして、人垣を押し退けて、ヘカトンケイルちゃんの店に行くと……。
「あへぇ……❤︎❤︎❤︎」
『いやー、良かったよ、ヘカトンケイルちゃん!』
うわあ……、怪獣大決戦みたいになってるじゃんかよ……。
そして、巨大な、人狼のような、爬虫類のような、樹木のような、翼膜と羽の生えた、触手の塊がうねってベキボキと縮小。
二メートル程の人型になる。
「んお、よう!スタンク、ゼル、カンチャル!」
「「「やっぱりお前か!!!」」」
ヤツだったな……。
「こっちの世界では久し振りじゃねえか、旅人よぉ……」
「お、そうだな」
酒場に戻って飯を食う俺達。
ヘカトンケイルちゃんをイカせまくった変態触手の正体は、俺達の予想通りにこいつだった。
「あ、あの、スタンクさん……、そちらの方は一体……?」
顔を青くしたクリムが聞いてくる。
「こいつか?こいつは旅人のマオ。昔、パーティメンバーだったり、レビュアーズのメンバーだったりした男だ」
「そっ、そうじゃなくって……、それは『何』ですか……?どうして、ヒトの形を保っていられるんですか……?!!」
何、って言われてもなあ……。
「俺は人間だよ」
旅人が答える。
「に、人間な訳ないじゃないですか!反発する属性同士が折り重なって、神の気配までするんですよ?!存在としてあり得ないですよ!!!」
「そんな事言われてもウチ、ポンデライオンやし……」
「わああ?!どこから出したんですかその被り物?!!!」
いつのまにかライオン風の被り物をしていた旅人。旅人はそういうもんだ、諦めろクリム。
「はい、これ、俺が作ったポンデリングね。あとでメイドリーちゃんと店長さんにあげて」
「あ、ありがとうございます……?」
一旦引っ込むクリム。
だが、すぐに戻ってきて……。
「って、いやいや!そうじゃないですよ!貴方は何者なんですか?!」
「旅人だよ」
「そんな旅人がいますかー?!」
「ここにいるぞ!」
「クリム、その辺にしとけ。こいつに論理的なツッコミをするのは時間の無駄だぜ?」
「うぅ……」
俺が言っておいた。
それに続けて。
「そうそう、こいつはよく分からん何かだが、害はないから放っておけ」
ゼルもそう言った。
「まあいいヤツではないけどね」
カンチャルもついでに言った。
「ええと……、害はないんですね?」
「そうだって。基本的に戦闘能力自体はそこまで高くないんだよ、こいつは。勇者がすっ飛んできたら細切れにされて終わりだな」
旅人の強さは……、まあ、大体、下位の龍種くらいか?ちょっとした魔王くらいは強いが、まあ、ギリギリ俺達でも殺せないこともないレベルだ。
「……でもこいつ死なないけどね」
カンチャルがまた余計なことを言った。
「し、死なないんですか?!」
「いや死ぬよ?でも死んだくらいじゃ別に……」
とは旅人の言だが、相変わらず頭おかしいぜ。
死んだくらいならセーフなんだとよ。
意味分からん。
「……死んでも蘇る準魔王クラスの上位種って、それ、とんでもなくヤバいですよね?」
「確かにヤベエな。けどまあ、今のところ誰にも怒られてねーし、平気だろ」
「そんな楽観的な……」
ははは、冒険者なんてそんなもんだよ、クリム。
さて……。
「旅人よぉ、何しに来たんだ?」
「んー?俺のいない間にお前らが色々と楽しんでたらしいからな。俺も楽しみに来たんだよ」
「嫁は良いのか?」
何百人も嫁を侍らせてんのによくもまあ風俗に来たなこいつ。
マジでゲスだな……。
「いや、何回も言ってるけど、あの子達は嫁じゃないよ?勝手に婚姻届出されてただけで」
「うるせーやい、美女に囲まれるモテ男は死ね!」
「まあ俺がモテるのはしょうがないことだから良いだろ?」
うわ、なんかムカつくこと言ってる!
「モテるのになんでサキュバス店行くんだよ?」
「サキュバス店にはサキュバス店の良さがあるんだよなあ……。ほら、うちの子ってみんな人型じゃん?ラミアに巻きつかれたいとか、獣人をモフモフしたいとか……、そう言う欲求があるだろ?!あるんだよ!なあ!!!」
「「「それは分かる」」」
俺とゼルとカンチャルが同意する。
俺も例え嫁さんができても、色んな女の子を楽しみたい欲求は消えないんじゃないかと思う。
いや……、結婚すりゃ嫁さん以外の女は目に映らなくなるのかね?分からねーや。
「あ、それと、これ、ヘカトンケイルちゃんのレビューね」
「おう」
どれどれ……?
『店舗名:性欲の巨人
指名嬢:ヘカトンケイルちゃん
点数:8
まあ、腕が8本あって身体がちょっと大きいだけで、普通の女の子だよね。
ヤッてる最中に手を握ってもらうことが好きだって本人が言うから、腕を8本に増やして手を握ってあげたら喜んでくれたよ。
強めの刺激が好きらしいから、ブラシ触手を生やしてお豆を擦ってあげたら面白い程イッてたね。』
「……いや、腕増やすとか触手を生やすとかお前しかできねーだろーが!!!」
ふざけやがってこの野郎!
「ってか8点?また高評価だなお前は」
俺の手元にある、旅人のレビュー用紙を覗いたゼルが言った。
まあそうだよな、こいつって基本的に高評価しかしねーよな。
「だってヘカトンケイルちゃん可愛いし……」
「まあ、可愛いけどよぉ、お前の言う『可愛い女の子』の範囲が広いんだよ……。エルフ、アンデッド、獣人、ラミア、有翼人……、お前何でも良いんじゃねえのか?」
「何でもは良くないよ?ほら、ゼルが通ってる人間の風俗とか行かないじゃん」
「あー……」
そうだな……。
「けっ、500歳以上の年増エルフにも可愛い可愛い言うアホにあの店の良さが分かるかよ」
ゼルがなんか言ってるが、俺はエルフは何歳でも行けるからなー。
「おいおい、スタンク!こいつはな、獣人並みの嗅覚があって、その上でエルフみたいに魔力を感じられるんだぞ?!つまりは、年増エルフの腐葉土みてーな匂いとマナの腐りっぷりを見て尚、抱いてるんだぞ?!頭おかしいぜこいつ!!」
あー、それを言われるとな。
確かにおかしいわ。
「お前ら、ウサギっているだろ?」
「は?」
「ウサギはよ、人間よりも何倍も耳がいいよな?でも、人の話し声を聞いても平気だよな?人間よりも何倍も耳がいいってことは、何倍も大きな声が聞こえるのに」
「あー……」
つまりは、自分の感知能力はめちゃくちゃ高いが、感知したものが気になるかどうかはまた別の話だぜ!ってことか。
「まあアレだよな、犬とかって、他の犬のウンコの臭いとか嗅ぐもんな!」
「その例えは最低だぞテメーこの野郎!」
「で?」
「今日はお前らについて行ってレビュー書くぞ」
ふーん、そうか。
じゃあ、行くか!
スタンク
剣士。
エルフ
弓使い。
旅人
遊び人。