誤解しないで欲しいから言っておくが、黒井鎮守府に侵入しても即座に抹殺されることはない。
資料室や、俺が封印してる『危険物置き場』や、艦娘の寮に強行突入でもしない限り、問答無用で消されたりはしないのだ。
調子に乗ったバカやスパイなんかは、質疑応答の末に追い出すか……、実験体にするかだ。
俺の知り合いならフリーパスで入れるぞ。
IDカードとかを持ち歩かずとも、顔認証システムなんかが黒井鎮守府のネットワークに存在していて、黒井鎮守府のガードロボットが判別するからな。
四天王の分霊を鎮守府の四隅に置き、霊的な防備も万全だ。
俺の知る限りのトップ層の退魔師が現れても、五分は保たせられる計算だな。
だから、まあ、基本的に誰でも入れる。
流石に、黒井鎮守府の中で麻薬の密売とかやられたら捕まえるが。
ただ、一つ言っておきたいのは、黒井鎮守府は中立中庸の存在であることだ。
黒井鎮守府は利益追求と世界秩序の維持の為にのみ戦う。
深海棲艦との戦いも、世界秩序の維持の為の戦いの一環に過ぎない。
秩序を乱すものは極力排除するが、余計な戦いは避ける。
金で動く組織だが、秩序を乱すものには金を積まれても加担しない。
だがまあ、人が数人死ぬレベルなら、金次第で協力しちゃうかもしれないし、艦娘個人の交友関係はよく分からないんで、その辺は謎。
もう一度言う。
黒井鎮守府は中立中庸、利益追求と世界秩序の維持の為に戦う。
故に。
「蟲師のギンコだ。まず〜、……と言う訳で、この辺の光脈筋は、旅人が管理してるもんで問題はないみたいだ」
「蒼月潮だ。こっちも特に報告なしだぜ。白面の者が封印されたから、そうそう強い妖怪も湧かないさ」
「墨村良守。こっちも報告なし。烏森はもう閉じたんだ、俺もお役御免だ。ライドウさんは?」
「葛葉ライドウだ。こちらも特に大きな問題はない。去年の夏に、関東に『神霊:エロヒム』が召喚されたが、僕が調伏した」
「井河アサギです。対魔忍は前回も報告した通り、身内で反乱があり……」
勝手に会議室を使う『裏』の人々に文句は言わないのだ。
ただ一言言わせて欲しい……。
「なんでうちでやるの????」
会議は他所でやれ!!!
蟲師、獣の槍に選ばれしもの、結界師、デビルサマナー、対魔忍。
対『魔』のスペシャリスト達。
それが、何故か黒井鎮守府に集まる。
なんで????
そして問題は、俺もライドウさんに捕まって、会議室に放り込まれたことだ。
なんで????
????????
俺はとりあえず、懐からシングルモルトウイスキーを取り出して、魔法で氷を作り、ロックでウイスキーをキメた。
酒はいい、心を落ち着かせる。
「……帰ってもらえます????」
「おいおい、俺にばっかり仕事をさせて、自分は酒をかっ喰らおうってか?そりゃないだろ」
ギンコがそう言った。
「ん僕ぅ……、関係ないんでぇ……、帰らせてもらっても……、良いですかねぇ?」
「関係ないってこたあないだろう……。この辺の光脈筋を弄ってんのも黒井鎮守府、ヤタガラスに協力して悪魔を調伏して回っているのも黒井鎮守府、魔界から現れる妖魔を殺して回っているのも黒井鎮守府。おまけに、蟲師やデビルサマナーの道具を売るのも黒井鎮守府だ。あんたほど『裏』に関わっている奴はいねえよ」
ヒー。
「ギンコ、それ以上正論を言うと、俺は駄々をこねるよ?外見年齢28の男が泣きながら床で転げ回る姿を見たいか?」
「お、おう……、見たくないな」
俺は、ウイスキーを一気に呷る。
「あのさあ、黒井鎮守府はね、基本的に営利団体なの!利益があれば誰にでもつくの!」
そう、そうなのだ。
利益があれば、誰にでも味方をするのだ。
「でも、貴方達は、骸佐の反乱側につかなかったわよね?引き抜きの話があった筈よ」
アサギが言った。
「だってあれ、魔族がバックにいるんでしょ?魔族、ロクなことしないから嫌いなのよね、俺。魔族に協力するとか、長期的に見て不利益だものね」
「でも、ヤクザやマフィアには手を貸すのよね?」
「知り合いだしねー。それに、半グレが増えるくらいなら、強いヤクザ者が裏社会を統率する方が何かと楽でしょ?おたくら対魔忍だって、東城会と繋がってるだろ?」
「認めるんだ、君は最早、一般人ではない」
ライドウさんが言った。
俺は、懐からスミノフ、ウォッカを取り出して、瓶ごと呷る。
かーっ!美味か!
「いや、まあね、分かってるよ?俺はもう既に、一般通過旅人ではいられないってことは。だがね、何でうちが物事の中心みたいな話になるのかね?」
「いや、実際、旅人の兄ちゃんはいつも物事の中心にいるじゃねえか」
潮君が言った。
「それに、今一番力を持っている組織は黒井鎮守府だしなあ」
良守君が言った。
確かに、光覇明宗は白面の者との戦いで数を減らし収縮し、裏会もなんやかんやで壊滅した。
ヤタガラスも前政権の事業仕分けによる予算カットで、その力は全盛期の数分の一まで落ち込み、対魔忍も二車骸佐達の反乱によりゴタゴタしている。
蟲師は、自然のバランスを整えることが仕事なので、そう言った裏社会のゴタゴタには巻き込まれないが、それでも立派な異能者であるからして、裏の繋がりからは逃れられない。
けど、うちは一応、表の組織なんだけどな?
まあ……、邪魔な大本営の人間をこっそり消したりしてるけどさ、基本的には表側の組織なんだよ。
「あんまり『裏』の事情に巻き込まれてもなあ。確かに、君らと知り合ったのは、俺がなんとなく面白そうだからついて行っただけだし」
「でも、黒井鎮守府が戦わなかったら、日本は破綻するわよ?」
アサギが言った。
「そーなのよねえ。君らがガンガン仕事投げるから、うちはガンガン仕事引き受けちゃって……。逆に聞くけどさ、なんでそんなに仕事投げてくるの?」
「それは、仕事の出来が良いからよ。金を積めばほぼ百パーセント依頼を達成する上に、敵に加担しない傭兵組織よ?おまけに、戦闘以外にも、諜報や潜入、偵察に技術提供、魔界技術にも通じるって、どんな万能で都合のいい組織か分かる?」
「大体にして何で対魔忍には脳筋しかおらぬのですか????仮にも忍者ですよね????」
「……それは、その」
しどろもどろになるアサギ。
「私が戦闘タイプ寄りの対魔忍だから、私を目指す若い対魔忍はみんな戦闘タイプなの……。お陰で、潜入とか諜報ができるのは九郎隊くらいのもので、仕事がどんどん増えて……」
アサギの目が虚ろだ!
「わ、悪かったよアサギ……。今度仕事手伝いに行くし、デートもしてあげるからさ、ね?」
「ええ……、本当にありがとう……」
アサギ……、ちょっと泣いてるぞ?!そんなに仕事が忙しいのか……。
とにかく、今後も黒井鎮守府はくれぐれもよろしく、って事で解散となった。
ぶっちゃけ、実際に仕事やるのは艦娘だから、俺には殆ど関係ない話なんだが。
蟲師
蟲に対処する人々。
獣の槍に選ばれしもの
妖怪退治をするもの。
結界師
界を管理するもの。
葛葉
悪魔を操り、調伏するもの。
対魔忍
魔に対抗するもの。
旅人
関係ないようである。