旅人提督の世界征服までの道程   作:ハードオン

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短ゾ。

感想数100だってよ、すげぇわ。

高評価と感想、沢山の観覧数でこのssは良い感じのアレがアレしてると思います。

とってもありがたい。


52話 キス島侵攻作戦 中編

キス島。

 

極めて特殊な海域で、水雷戦隊以外を受け付けない特性がある。

 

その特性から、未だに攻略できた鎮守府は存在しないという。

 

……そもそも、多くの鎮守府は、火力と装甲に乏しい水雷戦隊を軽んじる傾向にあるから、当然の話かもしれないが。

 

だが、この黒井鎮守府は違う。

 

「提督、全員、出撃準備が完了した。指揮を頼む」

 

腕には包帯、風もないのにたなびく赤マフラー、腰には鎖、両手に手斧。キス島攻略の水雷戦隊の旗艦、木曾が言う。

 

周りを見回すと、皆んなも準備ができていることが分かる。

 

足回りのセッティングを整えた島風、背中にツインメイス、手元にソードメイスを持つ三日月、落葉を片手に佇む時雨、聖剣を担ぐ夕立、パイルバンカーを優しく撫でる如月……。

 

皆んな、俺の指示を待っている。

 

「うん、じゃ、行こうか」

 

「「「「了解!」」」」

 

さあ、出撃だ。派手に行こう!

 

 

 

 

鎮守府近くの海域から北へ、ずっと北へ。途中、知り合いの改心した深海棲艦達のいる離島へ物資を降ろし、更に北へ。

 

急に現れた、話の通じない深海棲艦共は、うちの艦娘と俺に一瞬でやられる。

 

「トマホォォォク!!ブーメラン!!!」

 

手斧を投げる木曾。凄まじいスピードで飛来する手斧は、並居る深海棲艦の首を刈り取り、木曾の手元に戻る。物理法則もあったもんじゃねえな。……やり方教えたの俺だけど。

 

「お前の脳味噌をグチャグチャに搔き回してやるっぽい!!!」

 

「この病気持ちのネズミめ……!!!」

 

聖剣で深海棲艦の頭をカチ割る夕立。聖剣の腹が真っ赤な血液と灰色の脳漿で彩られ、クリーム色の脳味噌が海上にブチ撒かれる。まるで、その深海棲艦の全てを否定するかのように。

 

時雨もまた、深海棲艦の攻撃に合わせ砲撃。体勢を崩した深海棲艦の土手っ腹に手を突っ込み、はらわたを捏ねる様に撹拌、最後には引き摺り出した。打ち捨てられた内臓は脈動を続け、だがやがて動かなくなる。

 

存分に返り血を浴びながらも、この二人は嗤う。超怖い。……二人に稽古つけたの俺だけど。

 

「そろそろ消えて下さい」

 

「はぁ、嫌ねぇ、返り血が汚くって……」

 

深海棲艦に対して、何度も何度も、執拗にメイスを叩きつける三日月。深海棲艦の、頭が割れ目玉が零れ落ち、胸元が潰れ骨と臓器の混ざり物がはみ出て、股下まで裂けて流れる血も無くなる時、その時漸く手を止める。

 

如月は、三日月と違い、深海棲艦の後ろに大きく回り込み接近、火炎放射器を使って焼き滅ぼす。海の上に存在するはずのない炎は、深海棲艦の肉と骨を良く焼いた。更に急速接近、その勢いのまま深海棲艦にパイルバンカーを放つ。くの字に折れ曲がった深海棲艦が宙に浮く。

 

うわぁ、エグい。……武装渡したの俺だけど。

 

 

 

……大体やったか?いや、まだだな、まだ遠くに何体かいる。こう言う時はアレだ。

 

 

 

「島風ちゃん、よろしくー!」

 

 

 

×××××××××××××××

 

「島風ちゃん、よろしくー!」

 

「はーい!」

 

と、なるべく、元気よく返事。その方が提督が喜んでくれるから。

 

提督の命令、遠くにいる部隊、敵艦隊の殲滅。全部殺す。速く。誰よりも速く。

 

集中しなきゃ。

 

 

 

まずは眼を閉じて、大きく息を吐く。

 

そして、眼を開くと同時に、奥歯を噛み締める。

 

……これは、私なりの集中の合図。例えるなら、徒競走の鉄砲、レーシングカーの青信号、ロケットのゼロカウント。

 

つまり、今、私はスタートを切った。

 

 

 

……すると、世界は。

 

「…………あは、おっそーい!」

 

ひどく、遅くなる。

 

 

 

そして私は、海を駆ける。

 

 

 

跳ねる飛沫、遅い。

 

流れる波、遅い。

 

空を飛ぶ海鳥、遅い。

 

敵の動き、遅い。

 

私の世界では、誰もが「遅い」。

 

私には、島風には、誰も追いつけない。

 

 

 

目の前、狂った深海棲艦。不細工な化け物。私の敵。提督の敵。殲滅対象。

 

「島風、砲雷撃戦、入ります!」

 

 

 

一体目、後ろを向いている。頸椎に蹴り。でも相手は戦艦。硬い。一発じゃ駄目。……四回、同じ場所を蹴ったら千切れた。殺した。

 

二体目、口を開けたまま停止。裂けた口は大きく開いている。口の中は内臓に繋がる弱点なのに、馬鹿みたい。魚雷を差し込み、信管がカチリと鳴ったのを確認して、離脱。殺した。

 

三体目、やっとこちらに気付いたみたい。でも遅い。助走をつけて顔面に貫手。眼孔を貫き、脳を破壊。殺した。

 

四体目、金切り声を上げながら魚雷を撃つ重巡。行動も、魚雷の発射も弾速も全部遅い。全弾回避、臍に向かって貫手。念の為、貫いた穴に魚雷を詰めて、思い切り蹴りつける。殺した。

 

五体目、主砲を撃つ戦艦。砲塔の回転が遅い。砲撃の寸前、主砲の砲身を殴りつけてやる。すると砲弾は、最後の六体目の深海棲艦の胸と肩、頭に向かって飛ぶ。私自身は、五体目に向かって跳躍、踵落とし。脚の艤装の踵の部分は良く研いである。頭を半分にして、殺した。

 

ラスト、六体目、振り返るまでもない。五体目の放った砲弾でバラバラ。上半身が消し飛ぶ。殺した。

 

全部、殺した。

 

命令を完遂。

 

 

 

 

 

ふと、後ろを振り返る。

 

手斧の血を振り払う木曾。遅い。

 

血塗れの髪をたくし上げる時雨と夕立。遅い!

 

武器の手入れをする如月と三日月。遅い!!

 

 

 

……皆んな、遅い。

 

 

 

……時々、怖くなる。姉妹艦も、近しい存在もいない私は、こうして、閉ざされた世界で独りになってしまうのかも、と。

 

私は島風。

 

誰よりも速い。

 

先頭を走るのはただ一人。

 

私だけだ。

 

このまま、私は、独りきりで……。

 

 

 

 

 

「はーい、終了!ありがとね、島風ちゃん!ゴールだよ、ゴール!!」

 

 

 

 

 

…………ああ、そうだ。

 

この人は、提督は、提督だけが、私の世界に入ってこれる。

 

トップを走る私の隣にいてくれる。

 

私の「速さ」についてきてくれる!

 

ひとりぼっちの私の側にいてくれる!!

 

「良く頑張ったな、島風ちゃん!……お前がナンバーワンだ!!」

 

 

 

「私が一番?やっぱり?そうよね!だって速いもん!!」

 

 

 

これからも、ずっと私についてきてね、提督?

 

 

 




木曾
好きなものと好きなものを合わせたら凄いみたいな理論でこうなった。黒井鎮守府最大戦力の一人。今がその時だ。

時雨、夕立
狩人型駆逐艦。

如月、三日月ルプス
駆逐艦(?)。

島風
艦隊最速。別に加速装置は付いてない。集中時はかなり速いが、速度系バフ魔法を使った旅人には追い付かれる。

旅人
それなりに強くなった艦隊を見てニッコリ。

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